第8話 復縁を持ち掛けられた
振り向いた先には、手を後ろに組んで笑顔を作ったシャロの姿があった。
突然の事に俺は絶句してしまう。
ユリハは一瞬、動揺していたが直ぐに落ち着きを取り戻し、目に角を立ててシャロを敵視している。
そんな事はお構いなしに、シャロは話を切り出す。
「久しぶり、かな? ……って、朝会ったばかりだよね」
「……そうだが、俺に何の用だ?」
「もう、堅苦しいな。けど、そういう所もカッコいいと思うよ」
シャロはわざとらしく、ほくそ笑む。
適当におだて上げれば良いとでも思っているのだろうか。
大抵、シャロが俺を褒める時には裏がある。
それによく自分が浮気して、捨てた相手の前に出てこれるなと、シャロのメンタルには呆れるほかない。
「世辞はいい。用件はなんだ?」
「はいはい、せっかちなんだから。……聞いたよ、凶暴熊を倒したんだってね。凄いじゃん、見直しちゃったよ! おまけに、英雄様になっちゃって将来安泰だね」
シャロの思惑が嫌という程伝わる。
有名になった俺に取り入ろうかと。あわよくば玉の輿に乗らんと。
ここでようやく噂とはこの事だったのかと、察した。
畳み掛けるかのように、シャロはギュっと俺の手を握って上目遣いをする。
「それでさ、本当はミクズの事が好きだったの。けど、アランに無理やり婚約させられちゃって。でも、まだ今からでもやり直せると思うんだ。ねぇ、ミクズ、私と一緒にやり直さな……」
「断る」
即座に断った。
当たり前だ。誰がこんな軽い女とやり直そうなんて思うものか。
けれど、シャロは諦めずにアタックを続ける。
何としてでも俺の気を引かせようと、より一層、スキンシップと媚びが増していく。
「えぇ~、そんな事言わないでさ。もしかして、ミクズへの愛が嘘だと思うの? なら、証明してあげるよ、こんなの特別だよ」
甘く囁くと、シャロは頬を赤く染めて俺の手を胸に押し当てる。
俺が欲に支配される事を狙っている訳か。
色仕掛けのつもりだろうが、俺には効かない。
何故なら、シャロに対して恋愛感情を持っていないからだ。
シャロとは幼い頃から一緒だったため、兄妹のような関係だと思っている。なので欲情する訳がない。
耐えかねたユリハが間に割って入って、これ以上は許さないと俺からシャロを遠ざける。
「ふざけないでください! 知っているんですよ、あなたがミクズ様を弄んでいた事を……!」
「えぇ~、何の事かな? というか君って、ミクズにとって何なの?」
シャロは目をピクつかせて、しらばっくれる。
また、口は笑っているが目はそうでもなかった。
そして、狙いを変えてユリハを潰しにかかった。
それにより、シャロの問いにユリハは戸惑ってしまう。
「私はミクズ様の……その…………」
「何々~、聞こえないんだけど」
シャロは言い返せないことを良いことに、煽るように言った。
ユリハは俺が従者と認めていないから、主従の関係だと言えないでいるのだろう。
これに関しては俺に非がある。
困っているユリハを放っておけず、勝手の良いことを言う。
「俺の従者だ」
「ミクズ様っ……!」
ユリハはえっと驚いた顔をして、声を漏らした。
庇うためとは言え、俺の口から従者だという言葉が出たことに対して。
すると、シャロはそれがどうしたといった感じで、不適な笑みを浮かべる。
「へぇ~そんなんだ。けど、従者なら関係ないよね。なら、私が貰っちゃおうかな。なんなら、愛人でもいいよ~」
「あなたという人は……っ!」
ユリハはため息混じりに声を荒げた。