第7話 服屋
店を後にする。
お会計は言われた通り無料だったので、お言葉に甘えて御馳走になった。
それと、店員から赤髪の女性から物を預かっていると、紙袋を渡された。
赤髪の女性は女剣士の事だろう。
紙袋を開けると金貨が五枚と、謝罪の文が書かれた紙が入っていた。
要約すれば、連れのエリックが無礼を働いたこと。俺達のお会計を支払えなかったから、現金にしたこと。
最後にメリア·シャナベーラと名前が綴られていた。
察するに女剣士の名前だ。
とはいえ、奢るつもりで店に来たのに、金を払わずに済んでしまった。
これでは店に来た意味がない。
なので、代わりとしてユリハに何か買ってあげようと思う。
「ユリハ、何か欲しい物はないか?」
「いえ、私は特に」
「さっきは色々あって、奢れなかっただろ。その代わりだ」
そう言うのだが、ユリハは遠慮しているのか気が向かないようだ。
「ですが、私は満足していますし……」
「せっかく来たんだ。このまま帰るのは勿体無いだろ。ユリハには色々と世話になった。その礼をさせてくれ」
何とかして説得を試みる。
借りた恩は返す、それが俺の生き方だ。
伝わったのか根負けしたのか分からないが、ユリハはそっと笑みを浮かべる。
「ミクズ様……。でしたら、服が欲しいです」
「そうか。じゃあ、買いにいくとするか」
服を買うことに決まり、さっそく服屋へ談笑を交えて歩いていく。
純白のワンピースを靡かせて、ユリハは俺に期待の眼差しを向ける。
たぶん、褒めて欲しいのだろう。
「ミクズ様、どうでしょうか?」
「似合っているぞ」
すると、ユリハは分かりやすく照れて、口元がゆるむ。
「ありがとうございます!」
だが、ラインのはっきりした胸と綺麗な生足には、目のやり場に困る。
俺だって年頃の男だ。ユリハを異性として意識してしまう事だってある。
コホンと咳払いをし、気を紛らわす。
「他には欲しい服とかないのか? 遠慮、せずに言ってくれ」
「……でしたら、ミクズ様が選んでくださいませんか?」
そう言われても、俺にはオシャレのセンスなんて皆無だ。
期待に答えられるか分からない。
……けれど、他ならぬユリハからの頼みだ。断るわけにはいかない。
「別に構わないが、俺のセンスが合うかどうか分からないぞ」
「はい。ミクズ様に選んでもらう事に意味があるのです!」
ユリハはやや大袈裟気味に強調して言った。
活気の溢れた目からはその熱意が伝わってくる。
それから服を選びに入ったのだが、なかなか決まらずに一時間程、悩みに悩んでようやくお会計へと向かう。
「お買い上げありがとうございます」
服の入った小麦色の紙袋を片手に、町を歩く。
俺が選んだのは、袖が透けている白い上着と、長めの黒いスカートだ。
ここだけの話、スカートを長くしたのは目のやり場に困らないようにするためだ。
ちなみに、選ぶのに少なくとも一時間は悩んだだろう。
隣では、それを着て晴れ晴れとした顔でユリハが歩いている。
「本当にそれで良かったのか?」
「はい!」
「ならいいが」
ユリハは満足ならそれに越したことはない。
余談だが、着ている服は長年愛用していたため、きつくなっていた。
そこで、新しく服を買おうとしたところ、ユリハに任せてくださいと言われ、選んでもらった。
それで、今こうして着ている。
茶色いジャケットに白いシャツ。そしてジーパンだ。
前の服と比べると、暖かくて心地よい。
サイズもピッタリだ。
選んでくれたユリハに感謝しないとな。
フゥーとわずかに冷たい風が吹く。
今の季節は秋で、最近寒くなってきている。
冬が近付いてきているという証拠だ。
ユリハに連れられ、デザート専門の屋台に来ていた。
カップに入った雪のようなスイーツ? を渡され、スプーンで口に運ぶ。
すると、キーンと頭が痛む。
「どうですか? お味は」
「頭がキンキンするが、甘くて美味しいな。これがスイーツという奴か」
噛まなくても、口の中でとろけてしまう。
美味しくてついつい、口にしてしまう。
夢中になって食べていると、ユリハがハッと俺の方を見て、ポケットから白いハンカチを取り出す。
「ミクズ様、失礼します。お口にアイスが付いていますので」
そう言い、ユリハは口回りに付いたアイスを、丁寧にハンカチで拭き取る。
まるで姉が弟の世話をするような感じだ。ユリハはそう思っているのだろうか。
その際、ユリハとの顔が近付き、ドキドキしてしまう。
俺は意識しないよう、目を反らして礼を言う。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ユリハは微笑んで言葉を返した。
俺の反応が初々しかったからだろうか。
それから、町を歩いていると、やけに視線を感じる気がする。
「気のせいと思うが、俺達、目立ってないか?」
「いえ、気のせいではありません。おそらく噂が広まったのだと思います」
「噂?」
ユリハは何か知っているようだが、俺には何の事だかさっぱり分からない。
そんな時、後ろから馴染みある声に名前を呼ばれる。
「ミクズ、だよね?」