エピローグ
朝日に照らされた転移扉の前で、俺は一人佇んでいた。
誰も俺に近づこうとはしない。ここはダンジョンの3階層の街。ここには冒険者しかいない。
行き交う冒険者たちは、俺がいることに気づくと遠巻きにちらちらと眺めるか、眉をひそめて通り過ぎていく。
あまりじろじろ見られると居心地が悪いが、もう仕方ないことだと思っているし、わざわざ隠れるつもりもない。
こんな風に見られるのは俺のクラスがアサシンだからか、それとも種族が魔族だからか、あるいは……。
「何ぼーっとしてんの?」
いつの間にかすぐそばにやって来ていた銀髪の少女が訝しそうな目で俺を覗き込んでいた。
なんだかいつにもまして綺麗な銀色の髪が輝いて見える気がする。
「あはは、おはよう、ハル」
「おはよ」
そっけなくそう返し、ハルはあくびをしながら隣に立った。
ダンジョンの攻略をする準備を整えてやって来たハルは、身の丈ほどもある大盾と槍を背負っている。パラディンだからその装備はなにもおかしくないが、小柄なせいで後ろから見たら盾しか見えないんじゃないだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、俺の視線に気づいたハルが居心地悪そうに身をよじった。
じろじろ見られて嫌なのはハルも同じらしい。
俺は笑ってごまかして視線を外そうとした。するとハルは少し頬を赤らめてこちらを見上げた。
「ど、どう…?」
てっきり怒られるのかと思ったが、ハルは落ち着かない様子でそう言った。
なんとなく微妙な空気が流れる。
ハルは俺の返事をどこか期待したような目で待っているように見える。しかし彼女がどうしてそんな様子なのかが分からない。
少し考えた後、俺は諦めて苦笑した。
「どうって言われても、何のこと?」
「ふーん!!」
「…あはは」
ハルはあからさまに不機嫌な声でそっぽを向いてしまった。
どう、とだけ聞かれても何のことだかさっぱり分からない。聞いても答えてくれないとなるとお手上げだ。
それからしばらく気まずい沈黙が続いた。
行き交っていた冒険者たちもいつの間にか姿を消している。きっとどこのパーティもダンジョン攻略に向かったのだろう。
しんと静まり返った広場の沈黙を破ったのは、こちらに近づいてくる足音だった。
足音の鳴る方へ振り返ると、そこにはゆっくりとこちらへ向かって歩くノキアの姿があった。帽子の下からは碧色の髪がのぞいている。
「あら、早いのね」
「あんたが遅いのよ!」
「あはは…ノキアは相変わらずだね」
悠々とやって来たノキアをハルが怒鳴りつけた。
しかしノキアは不機嫌なハルの様子を見ても、不思議そうに首を傾げるだけであっさりと流した。俺はひとまず苦笑いをしておく。
ハルはそんなノキアを忌々しそうに睨みつけている。その視線は主にノキアの胸に向けられているような気がしなくもない。
ノキアはローブを羽織っているものの、その下は体の線がくっきりと出る服を身に着けているせいで、そのスタイルを殊更に強調することになっている。気を抜くとついつい見てしまうほどに。
同性のハルから見ても、やはり目が行ってしまうものなのだろうか。
ノキアは特に気にした様子もなくハルに近づいた。
「リボン、変えたのね」
ハルはいつも髪にリボンをつけていた。そう言われてみると今日はいつもと違うような気がしなくもない。
俺がそんな些細な違いにすぐ気が付いたノキアに感心していると、ハルは自分の髪をなでながらノキアを見上げた。
「そうだけど、悪い?」
「いいえ、とても似合っているわ」
「ふ、ふん」
突き放すようなハルの言葉を聞いても、ノキアはそれをあっさりと跳ねのけて微笑んだ。それを見たハルはそっぽを向いたものの、こちらも満更でもなさそうな顔をしている。
もしかしてハルはあの時、このことを聞いたのだろうか。
リボン変えたんだけど、どう?
そんなハルの言葉を想像してみる。いや、どうだけじゃ分からないだろ。
しかし二人の様子を見ていると、全然気づかなかったことには少しのばつの悪さを感じてしまう。俺はごまかすように笑いながら二人を見る。
何はともあれ仲間は揃った。
圧倒的な魔法を持つウィザードのノキア。
あらゆる攻撃を耐え抜くパラディンのハル。
そして俺、敵対する冒険者を始末するアサシン。
「それじゃあ、行こうか」
たった3人のパーティだが、全く不安はない。
ハルもノキアも、俺の言葉に当然のように頷いた。
そして俺たちは、ダンジョン攻略に向かって歩き出した。
おわり




