第三十一話「消える光と夜明けの光」
膨大な魔力の光がハルとノキアを飲み込もうとしている。
ハルのスキルによってギリギリ耐えているが、長くは持ちそうにない。
しかし俺は待っていたのだ。この時を。
俺とノキアが3階層に戻った時に見たのは、足元を光に捉えられ身動きの取れないでいるハルの姿だった。
「ハル…!」
「あの男は…っ」
相手を見て固唾をのんだノキアは、あの男はステラのメンバーの一人で勇者だと言った。
以前ハルが襲われたのも、ノキアの仲間が殺されたのも、ダンジョンの攻略が停滞しているのも、元をたどればステラが元凶だ。
その一人が今、目の前にいる。
「今回のことも、きっと…」
ノキアは小さく呟き、俯いた。
念のため隠蔽スキルを使っていた俺たちはまだ気づかれていない。
しかし刻一刻とハルに迫る危機を黙って見過ごすわけには行かない。
俺は考える暇も惜しんでノキアを見た。
「ノキア、ハルのことを頼んでいいかな?」
「…」
ノキアは一瞬何か言おうとしたものの、静かに首肯して歩き出した。
俺から離れたことでノキアの隠蔽は無くなったが、周りにいる冒険者でさえ誰もが戦いに夢中で気づくことは無い。戦っているなら尚更だ。
やがてハルの目前に勇者が迫り、剣を振りかぶった。
「…助けて、シンっ!!」
そんなハルの声が聞こえた気がした。
しかしここで俺が飛び出していったところで何の意味もない。今俺のすべきことは、待つことだ。
ノキアの魔法によって、ハルは危機を脱した。
規模が大きすぎて周りにいた冒険者や街の一部まで大変なことになっているが、ハルを助けるためには仕方ない。多分。
このままで終わるなんてことは、流石に無いかな。
そして地の底から這い出してきた勇者が、ついにスキルを使うため詠唱を始めた。
俺は待っていたのだ。この一瞬を。
なぜか魔力が吸われているが、この程度なら何の障害にもならない。
「おおおおおォ! ジャッジメント!!」
勇者が渾身の叫びをあげた。
俺は薄闇を激しく照らす光の柱に目を細めるが、決して勇者から目を逸らすことは無い。
「アクセラレーション」
自分以外のすべてが遅くなったように感じた。
光に飲まれた二人は当然心配だが、俺は今自分に出来ることをする。それが結果的に二人を助けることに繋がる。
「シャドウステップ」
俺は勇者の背後にワープした。
スキルの発動を終えた勇者は余韻に浸るように天を仰いでいた。
勇者は未だに降り注ぎ続ける光の柱を眺め、恍惚とした表情を浮かべている。
「あぁ…皆、ありがとう…………っ!?」
しかし背後に気配を感じ取ったのか、勇者は驚異的な反応で振り返ろうとした。
今の俺から見れば、それさえもゆっくりと緩慢な動きに見える。
その顔を、俺は初めて見た。
俺はこの勇者に恨みどころか、名前すら知らない。それ以外の全部も。
もしノキアの話を聞いていなかったら、あるいはハルが襲われていなかったら、俺は躊躇っただろうか。
いや、きっと同じことをする。
俺がダンジョンを攻略するための障害となった。
ただ、それだけで十分だ。
もう俺は、止まれないんだ。
「一撃追放!!!」
逆手で振り抜いた短剣が勇者の首をなぞった。
「!??!!?」
振り返ろうとしていた勇者は、首だけがその勢いのまま捻じれて刎ね飛んだ。
遅れて振り返った体は、吹き出した血を自ら浴びながらそのまま仰向けに倒れていく。
そして勇者は、宙を舞った首とともに地割れによって出来た崖の暗い裂け目に落ちていった。
勇者の呼び出した光の柱は、その魔力の元を絶たれたことで次第に細くなり、やがて消えていった。
俺はしばらくの間、勇者が落ちていった暗い谷底を呆然と眺めていた。自分でも理由は分からない。
……。
横から差し込んでくる眩しさに、思わず目を細めた。ふとそちらを見ると朝日が昇り始めていた。
なんでダンジョンの中なのに朝日が見られるんだろうか。
そんな何度思ったか分からない疑問が頭に浮かぶと、自分が立ち尽くしていた理由など頭から吹き飛んで行った。
そんなことよりも早くハルとノキアの無事を確かめなければ。
瓦礫の山のすぐそばに出来た深いクレーターは、光の柱によって地面が抉られた結果だ。中心だけ元の地面が残っているせいで、なんだか切り株のように見える。
そこには泥だらけのハルとノキアが居た。二人は背中合わせでその場に座り込んでいる。
二人の無事を確認した俺は、ひとまず安堵してそこへ向かった。
俺の足音に気づいた二人も立ち上がり、こちらに向かってくる。二人とも疲れてた顔で、その足取りは重い。
そしてすぐそばまで近づいた俺たちは足を止め、お互いを見た。
「あはは……なんとか間に合った、かな」
ハルは全身傷だらけで頭からも血が滲んでいるし、ノキアは魔力が底をつきかけているのか足元がふらついていた。
それなのに俺はまだ全然魔力に余裕があるし、傷はノキアとの戦いで負ったものだけだ。
役割上仕方がないとはいえ、なんとなく気まずい。
そんな俺の言葉に、ノキアとハルがきつい口調で二人同時に反応した。
「本当になんとかと言ったところね」
「ホント、遅すぎるっての」
混ざって何を言っているのかよく分からなかったが、二人とも機嫌がよくないのは分かった。
しかし言い終わったハルとノキアは、お互い顔を見合わせて小さく笑っている。
何か言う言葉も見つからなかった俺は、それを見てとりあえず笑うことにした。
いろいろなことがあったが、ひとまずはこれで今夜起きた騒動は終わった。
しかしこれからも俺たちは冒険者から命を狙われることになるだろう。今後はそれがもっと苛烈になってくるかもしれない。
だがどんな奴が襲ってきたとしても、俺はその全てを一撃で打ち倒す。
そして、誰よりも先にダンジョンを踏破する。
よろしくね!




