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第二話「世話焼きウィザード」

「そんなに警戒しなくても、襲ったりしないから」


 立ち上がって身構えた俺に対してウィザードの女はそう言った。確かに敵意は感じない。しかしついさっきの出来事が尾を引いてしまい、人間を見るとどうしても警戒してしまう。

 ただ、彼女が窮地から救ってくれたのは事実だ。俺が魔族だと知られなければ、友好的でいられるかもしれない。


「一人? 仲間はどうしたの?」

「それが、途中ではぐれちゃって。あはは」


 本当のことを言って追及されても困るのでそう答えると、彼女は品定めでもするように俺を見始めた。


「あなた、新規ね。それに…」

「これでも一応Sランクなんだけどな! はは」


 パーティを追放されたので元、ということになるが。

 魔族だということはそう簡単に気づかれることは無いはずだが、じっと見られると居心地が悪い。


「ここに来ている以上、そんなのは当然よ。ダンジョンの中ではあなたは新規。もしまだ外での感覚を引きずっているなら、それは忘れた方が身のためよ」


 そういう意味か。たしかにダンジョンの中にいるのはすべてSランク。その中で今日入ってきた俺が新規と言われるのは当然と言えば当然だった。Aランク時代でもかなり上の立場だったせいでいきなり初心者扱いは少し妙な感じがした。


「そうだな、あはは。それよりさっきはありがとう。おかげで助かった」

「気にしないで。偶然通りかかって見過ごせなかっただけだから」

「そっか。それじゃ、これで」


 駄目だ。いつもならもっとまともに会話ができるのに、今は魔族だとバレないかと気になって仕方がない。時間が経てば落ち着くと思うが、今は誰とも話をする気分にはならなかった。

 そうして背を向けて歩き出そうとした。


「待って。一人で街までたどり着けるの?」

「え、まあ。何とかなると思うよ」

「そっちは方向が違うわ、本当に大丈夫?」


 彼女は胡乱げな目をしながら、短めの髪を耳にかき上げた。


「え、あー! ちょっと寄り道しようと思ってたんだ」

「なら、いいけれど」

 



 再び2階層の洞窟を歩き出したはいいものの、懸念すべき点がいくつかあった。一つはまたモンスターに襲われたとき、切り抜けることができるのか。一つはマッピングスキルで迷うことは無いものの、進む方向は正しいのか。そして最後の一つ、最も大きな懸念。


「なんでついてくるんだよ!」

「? 言いがかりはやめてちょうだい。私も偶然同じ方向に進んでいるだけよ」


 きょとんとした顔で白々しくとぼける名前も知らないウィザードの女が、さっきから俺の後ろをつかず離れずずっとついてくるのだ。


「はは、そっか。って、何回分かれ道を進んだと思ってるんだよ! それも全部偶然ですか!?」

「そうね。偶然よ」


 なんだ、いったい何が目的で彼女はこんなことをしているんだ。


「ほら、気を抜かない。あなたが大声を出すからつられてモンスターがやって来たわ」

「しまった!」


 こんな初歩的なミスをするなんて、俺は何をやってるんだ。


 彼女の言った通り、道の先にある曲がり角から威圧感、一種の神々しさを放つモンスターがこちらを見据えていた。炎を纏った九つの尾を持った神獣、九尾。マンティコアと言い、どう考えても下層の通路を徘徊していいモンスターではない。どちらも普通は領域を守るボスの座にいるようなモンスターたちだ。


「呆けてないで戦って。無理はしなくていいから、しばらく注意を惹いてくれるかしら」

「バカにするな。そのくらいやれるさ…でも」


 いくら俺が戦ったところで九尾にはダメージを与えられない。ジリ貧になるだけだ。分かっていてもやるしかない。そしてその予想はすぐに証明された。

 一撃でも致命傷になりかねない九尾の攻撃は何とか躱すことができる。しかし俺の攻撃は当たったところでかすり傷にもなっていない。


「偶然居合わせた私がいるから、大丈夫よ」


 そう言って詠唱を終えた彼女は、杖を振りかざした。そしてマンティコアがそうだったように、九尾すらあっさりと串刺しにしてしまった。


「あなた、やっぱりアサシンね」


 戦いを終えた彼女は俺にそう言った。俺は黙って頷く。彼女の怪訝そうな口ぶりは、アサシンというクラスがダンジョンにいることへの疑問を持っているように聞こえた。

 少なくとも彼女は俺に悪意を持っているわけでは無い。そう判断して、ここに至った経緯を簡単に説明した。もちろん魔族ということは伏せて。


「要するにあなたは嫌われていて、何も聞かされずダンジョンについて来て捨てられた。こういうことでいいかしら」


「まあ、そうだな。ははは…」


「変な愛想笑いはやめてちょうだい。それで、アサシンというクラスについては、認識は間違ってはいないわ。アサシン、というか斥候職はこのダンジョンにおいて完全に不要。それは事実よ。…普通はSランクに上がるときに開示される情報なのだけれど」


 情報が伏せられているのは冒険者の多くがダンジョンへの挑戦を目指す中で、斥候職が使えないと知られてしまうと外では需要があるのに成り手がいなくなってしまうかららしい。


 俺だって知っていればいくら適性が高くてもアサシンを選択することは無かった。しかし今更知ったところでどうしようもない。

 黙り込んでしまった俺を見かねた彼女は……そういえば名前も聞いていなかった。


「急に黙って悪い。そういえばまだ名前も聞いてなかったよな。俺はシン。シン・バードレス」

「ノキア・ウッドワークよ……バードレスくん」


「シンでいいよ、ノキア」 

「バードレスくん」 

「…あはは、何?」


 ノキアはおせっかいな割にあまりフレンドリーではないようだ。俺としても今はあまり誰かと親しくできるとは思えないので気にしない。


「3層の街まで案内するから、一緒に行きましょう」

「それは、でも。いいのか?」


 いつのまにか距離が近くなっていたノキアの顔がよく見える。薄茶色の髪の毛から覗く金色の瞳が、いたずらっぽく細められていた。思わずドキッとしそうになる。


「ちなみにさっきからあなたが向かっていた先にあるのは、行き止まりよ」

「…よろしくお願いします」

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