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第一話「魔族追放」

「さてと、シン。じゃあここらでお別れだ」


 数日の準備を終えて、ついにダンジョンへ進入した俺たちは、順調に進んでいた。今のところはよくある洞窟型だ。しかし2層に入り、しばらく進んだところで突然ジョゼから告げられたのは、そんな言葉だった。

 突然こんなところで別れを告げられる意味が分からない。しかしミレイもオルストも、当然のような顔で俺を見ている。


「皆どうしたんだよ、なんで急に、そんなこと」

「急にってことも無いだろうよ」


「え?」

「だってお前弱いじゃん」

「それは……」


「さっき戦った時も攻撃全然効いてなかったよねぇ。弱すぎて完全に無視されてたしー。いくら私でもそんな人を有効活用するのは難すぎるっていうかぁ?」


 何も言い返すことができない。そんなことは俺自身が一番よくわかっている。


「戦闘では確かに役に立てないけど、それでも探知とか、マッピングで…」


 皆だって戦闘以外の所で役に立ってるって言ってくれたじゃないか。そんな思いで途中まで口にした言葉はあっけなく一蹴された。


「あー、それな。ダンジョンの中だと無意味なんだわ」


「気づかなかったか? ここに来るまでの道中、複雑な地形は無かった。罠も、探知が役に立つ場面も不要だった」


 もちろん疑問は感じていた。オルストの言った通り、ここに来るまで俺のスキルが本当に必要になる場面はなかった。でもそれは、いくらSランクしか挑めないダンジョンと言っても、低層だからだとそう思っていた。


「あれあれ? 誰もシン君に話してないのー? これって事前にギルドからちゃーんと説明されてたんだけど」


「あはは……説明って、何の」

「アサシンって、ダンジョンの中では本っっっ当に何の役にも立たないクズ職なんだよーって話」


 そんな話、一度も聞いていない。戦闘だけではなく、それ以外のスキルすら、不要? それなら俺は、何のためにここに来たんだ。


「わり、言い忘れてたわ」

「えー、ひっどーい」


 言いながらミレイがくすくすと笑っている。こんな話をした後で、なんでそんなに笑っていられるんだ。オルストもジョゼも、なんで何も言ってくれなかったんだ。

 今まで一緒に苦楽を共にしてきたはずの仲間たちが、今は全く知らない他人に見えた。


「あ、あはは。そんな大事な話、どうして黙ってたんだよ」

「どうしてって、お前こそ俺たちに隠してることあるんじゃないのか?」


 突然放たれたジョゼのその言葉に、俺は動揺を隠しきれなかった。

 なんで今、そんな話が出てくるんだ。


「隠してる、こと……」


 そんな無意味なおうむ返しをすることしかできない俺に向かって、ジョゼははっきりと言った。


「お前、魔族だろ」


 魔族。かつて人間と争い、敗れた種族。今では人間に紛れひっそりと暮らしているが、魔に穢れている存在として今でも忌み嫌われている。

 そして俺は、人間に紛れて暮らしていた魔族の一人だった。しかしジョゼは俺が魔族だと知らないはず。それどころか俺が魔族だと知っている者はいないはずなのに。


「どうして、それを……」


 人間と魔族で見た目の違いというものはほとんどない。ただし魔族には魔力の放出や場合によっては感情の高ぶりによって、髪の色が変化するという特徴があった。それを防ぐために俺はいつも感情を抑えて、いつでもヘラヘラと笑っていた。もしもの時の為にポンチョのフードもいつもかぶっていた。それなのに。


 とてもごまかせる雰囲気ではなかった。ジョゼは確信を持っている。オルストもミレイも侮蔑を込めた目で俺を見ていた。


「今までずっと仲間のふりして俺たちを騙してきたんだよなあ?」

「違う! 黙ってたことは謝る。でも信じてくれ、俺は本気でっ…」

「よく平気な顔でヘラヘラとしていられたものだな」

「きもちわるっ」


 3人とも、全く聞く耳を持ってはくれなかった。

 そこで俺はようやく気づいた。こいつらは理由はどうあれ、俺を陥れたかっただけなんだ。魔族である俺を。

 この世界の現実を改めて思い知らされた。

 魔族というだけで忌み嫌われ、迫害され、時には殺される。そんな世界だったということを。


「あはは…わかった。俺は…抜ける」

 それしか言いようがない。これ以上ここにいても辛くなるだけだった。力なくうなだれ、返事も待たずに俺は背を向けた。

 しかしその瞬間、背後に殺気を感じた。

 反射的に回避し、俺はそのまま振り返らずにこの場から全力で離れた。



「っち、逃げたか。まあいい、どうせダンジョンに殺される」


 空振った剣を鞘に納めたジョゼがそう吐き捨てると、オルストはため息をついて微笑んだ。


「汚らわしい魔族がいなくなって、やっと気持ちよく呼吸ができる」


「えぇー、結構楽しかったよ? 意味ないのに必死で探知とかしちゃってるし。暗に戦力外だよーって言ってあげてるのに、これからもよろしく! とか言っちゃってさー。ほんとかわいい。ね? ね?」


 ミレイが同意を求めるように二人の顔を交互に見ると、二人も噴き出して笑いあった。

 3人になった賢者の詩は、楽し気な笑いを声を残してダンジョン2層の奥に消えていった。



 くそっ…くそっ! やっとここまで来たのに、どうしてこんなことになったんだ。

 どうして魔族というだけでこんな仕打ちを受けなければいけないんだ。隠していた俺が悪いのか? もし最初から正直に話していればこんなことにはならなかったのか?


「人間はいつも、いつも…っ!」


 答えの出ない自問を繰り返す間も、ここがダンジョンの中という事実は変わらない。ジョゼたちから離れることはできた。その後もしばらくは運よく敵と遭遇することなく魔石の照らす洞窟の中を進むことができた。


 しかしそれももう限界だった。

 俺は今、一匹のモンスターと対峙していた。毛むくじゃらの顔は醜く笑み、人の体ほどもある4本の脚から生える爪は硬い地面をやすやすと削っている。そして長く鋭い棘が無数に生えた尻尾は、楽しそうにゆらゆらと揺れていた。

 人面の獣、マンティコア。危険度S。

 強力なモンスターではあるがSランクパーティならばそれほど苦戦はしない相手だ。しかし。


「くっ…!」


 猛烈な速さで迫る尻尾を躱す。さっきまで俺がいた場所にマンティコアの尻尾がめり込み、地面は砕けて捲れ上がった。

 回避した流れのまま、隙だらけの尻尾に渾身の刃を突き立てた。アサシンの攻撃スキル、ブラッディピアス。相手の攻撃に対してカウンターとして放つことでその威力は3倍になる。


「っ!?」


 アサシンの持つ最大の火力スキルかつ最大の効果のタイミングで放ったその一撃は、マンティコアの強靭な毛に全く歯が立たずに弾かれてしまった。

 その一瞬の隙にマンティコアの前脚が襲う。回避することもできず、両手を交差させて受け身を取ろうと身構えた。


 しかし次に感じたのは、肺から全ての空気が押し出されたような苦しさだった。


 いつの間にか俺は壁に背を預けて倒れていた。マンティコアの前蹴りに耐えられず、そのまま吹き飛ばされて壁に激突したのだ。その衝撃で一瞬意識が飛んでいたらしい。


 一瞬? すぐにハッとした。全身の痛みも忘れてすぐさま立ち上がろうとした瞬間、獣臭い空気にむせ返る。前を見るとすぐ目の前でマンティコアがよだれを垂らしていた。鋭い牙、堅牢な爪、強靭な尻尾。その全てが俺に狙いを定めている。

 ダメだ。今からどう動いても間に合わない。移動系のスキルが豊富なアサシンでも、この状態から逃れることはできない。


「動かないで! クリスタルグレイヴ!」


 どこからか聞こえた言葉と同時に、突然地面から槍のように飛び出してきた無数の結晶が次々とマンティコアの体を串刺しにしていく。串刺しにされたマンティコアは動くこともままならず、全身から血に塗れた結晶を生やし、そのまま呆気なく絶命した。


 俺の攻撃を全く通さなかったマンティコアの体を、こうもやすやすと貫いた結晶に唖然とする。そしてこれを引き起こしたであろう誰かを探した。


 探知できたのは一人。上位の魔法職、おそらくウィザード。

 注意深く探知した方を見る。すると何事もなかったかのようなすまし顔の女が、いかにも魔法使いらしいとんがり帽子を揺らして歩いてきた。


「2階層の雑魚に苦戦するなんて、油断しすぎじゃないかしら」

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