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第十四話「あと二人」

 追跡が得意なのはハンターだけではない。人に限れば、アサシンにも追跡スキルは存在する。

 スキル:レッドサイン。血を付けた相手の位置を、たとえどこにいても常に把握できる魔法。

 ジャックの剣には俺を攻撃した時の血がついていた。たとえ街に戻ったとしても、見失うことは無い。


「チッ、最悪だぜ」

「お前がこの女にかまけてもたもたしていたせいだ。全く…」


 5階層から引き揚げてきたジャックたちは、俺に追跡されていることに気づかないまま街に戻ってきていた。

 流石に街中でスケルトンを連れ回すつもりはないらしく、顔色の悪いノキアと眠ったままのハルはスケルトンの拘束から解放された。


「この女もウィザードだろ? トーマの代わりはこいつにやらせりゃいい。魔法なんざ誰が使っても同じだろ」

「死んでも御免だわ」


 スケルトンから解放されたノキアは、そう言いながら隙を見て飛び出した。

 しかしジャックはその行動を見抜いていたのか、落ち着いたままノキアの腕を掴んだ。


「おっと、おうちに帰るのはまだ早いぜ?」

「…放しなさい! このっ……ぁぐっ」

「うるせえ、黙ってろ! 後で溜まった鬱憤を、そのでけえケツに叩き込んでやるから大人しく寝てな」


 逃げようともがくノキアに苛立ったジャックは、握り込んだ拳を容赦なくノキアの腹に叩き込んだ。ノキアはそのまま力なく倒れ、ジャックに担がれてしまった。


「おい見ろ、聖槍がまた女を攫ってるぞ」

「構うな。今更だ」


 他の冒険者たちが遠巻きにその様子を眺めているが、誰一人として近づこうという者はいない。ダンジョンの冒険者にとってはこの面倒事に自分たちが巻き込まれなければそれでいいのだ。

 なら、俺がここで何をしても外野が手を出してくることは無い。

 街の中では争わないというようなルールがあるのかは知らない。しかし仮にあったとしても俺はもうこの戦いを止めるつもりはなかった。


「なに見てんだぁ!? おいネルソン、さっさと骨どもを片付けろ。目立ってしょうがねえ」

「わかった。リコール」


 ジャックの荒い声に淡々と従ったネクロマンサーが、スキルを使った。

 俺は追跡を続けながら、ずっとタイミングを見計らっていた。奴らの誰かがスキルを使うこの瞬間を。ノキアを担いでいるのはジャック。ハルを担いているのはプリースト。二人を傷つける心配は、無い。

 シャドウステップ。俺は隠蔽状態のままネクロマンサーの背後に回り込んだ。誰も俺が現れたことに気づいていない。


 一撃追放。

 逆手に持った短剣が、何の抵抗もなくネクロマンサーの男の首をなぞり、頭と胴体を切り離した。

 あと、二人。


「ネルソン!? 貴様っ…」


 隠蔽の解除された俺にプリーストが気づいたがもう遅い。プリーストの回復魔法でも蘇生できないことは5階層の時に分かっている。

 俺はそのまま遠巻きに見ている冒険者たちの背後にシャドウステップで飛び、再び身を隠す……つもりだった。


「…っ! ロックオンチェイン!!」

「っ…!」


 しかし驚異的な反応でジャックが俺に向けてスキルを放った。気を失ったままのノキアは放り投げられ、固い地面に転がった。

 俺はジャックのスキルを躱しきれず、魔力の鎖が左の足首に巻き付いた。

 巻き付いた鎖はぐいぐいと引っ張られ、ジャックの方へ徐々に引きずられていく。足を引っ張られるせいで踏ん張りも利かない。


「……よくも好き放題やってくれたな。もう逃がさねえ、お前はここで殺す」


 ジャックの瞳からは油断も驕りも消え去っていた。


「あはは…それはお互い様…っ!!」


 容赦なく振り下ろされた剣を前に飛び込むように回避する。鎖に足をすくわれないようにするには近づくしかない。

 冷や汗が頬を伝った。


 スキル:ロックオンチェイン。この鎖に捕まっている限り、移動や隠蔽といったスキルは発動できなくなる。

 この鎖がある限り、俺は移動が制限されるだけでなく、シャドウステップもハイドロ―も絶影も使用することができなかった。

 当然、条件の厳しい一撃追放もこの状況で使うことはできない。


「ヴェノムクロウ!」

「ぐっ!」


 回避した勢いのまま振りぬいた毒の魔力のこもった刃が、ジャックの腿を切った。

 正面から戦うしかない。

 不幸中の幸いなのは、二人のうち一人はプリーストということだ。直接戦うのが1人なら、可能性はあった。


「ちょろちょろしやがって…ハンティング・ドライヴッ!」


 自己強化スキルを発動したジャックが、猛然と剣を振り下ろす。その斬撃をギリギリで回避し、あまつさえその腕を切りつける。

 攻撃力では圧倒的にジャックが上だが、スピードではこちらが勝っている。そのうえ魔物相手に真価を発揮するハンターと対人特化のアサシンなら、制限があるとはいえ一対一の攻防で後れを取ることは無い。しかし。


「紅き涙、リジェネレーション」


 プリーストの回復スキルによってジャックの傷は見る間に癒されてしまう。当然ジャックは支援スキルも受けている。

 考えが甘かった。全ての攻撃を回避し、少ないダメージと毒を積み重ねていけばいずれ勝てる。他に方法がなかったとはいえ初めはそう思っていた。


「どうした、そろそろ魔力の限界か?」

「はぁ…はぁ…あはは、どうかな」


 しかし現状は逆だった。いくら攻撃しても回復され、いずれ魔力が尽きて動きが鈍った時、俺は負ける。プリーストを狙おうにも、鎖でつながれているせいでジャックから離れることもできない。

 そして、繰り返す攻防によって俺の魔力は限界に近づいていた。


 魔力が尽きればいずれ負ける。

 自分の有利と、この戦いが終わりに近づいていることを悟ったジャックが、かすかに笑みを浮かべているのが見える。


 負けるわけにはいかない。ハルとノキアを助けるために。何より、俺の願いの為に。

 

 限界? 魔力が尽きる?

 違う、俺は今までずっと抑えてきただけだ。

 魔族である自分の、本当の力を。

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