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第十一話「見られている」

「ねえシン、あそこで何か動いてない?」

「あはは、布かな」

「そこ! 今白い影が…」


 5階層に入ってしばらく進んだが、ハルはずっとこの調子だった。今まで何を言っても躱されていたのもあって、ノキアの弱みを見つけてここぞとばかりに付け込んでいた。

 ノキアは流石にいじられすぎて辟易とした顔でため息をついた。


「はあ、いい加減にし……っ!??!?!!」


 しかしその瞬間、突然壁際を歩いていたノキアのすぐ横の壁面から白い眼球がすり抜ける様に現れた。ノキアは声も出せず、全身をこわばらせよろめく。俺は倒れそうになったノキアを支えた。

 ハルはすぐに槍で突き刺したが、白い眼球は再び壁の中に消え、槍は壁面を抉っただけだった。


「ノキア、大丈夫か?」


 まだ動揺したままのノキアは支えになった俺にしがみついてぎこちなく頷いている。


「ちっ、逃がした……だから言ったじゃない。白い影って」

「あ…お、報告は、正確にしてちょ、ちょうだい」

「慌てすぎよ。ここはまだいいけどもっと上層にアンデッドが出たらどうすんの」


 ハルは敵を逃がしたことをそれほど気にした様子もなく武器をしまった。俺も驚きはしたがそれほど気にしていない。

 先ほどの白い眼球は、ホワイトゲイズというアンデッド系の魔物だ。ゲイズは眼を開いた瞬間にしか物理攻撃は効かず、壁も地面もすり抜けて移動するが、直接的な攻撃手段を持たない。代わりに取り逃がすと近くにいるアンデッド系の魔物が集まってくるという厄介な特性を持っていた。


「新手よ。囲まれたくなかったら気合入れてよね」


 ハルが睨んだ先にはゲイズに誘発されて集まってきた魔物たち。冷や汗のにじんだノキアは、息つく暇もなく詠唱を始めた。


「バードレスくん、離れないでね」

「あはは…そういうわけにもいかなそうだ」


 前から現れた魔物はハルが対処しているが、後ろからも別のアンデッドが迫ってきていた。このままだと本当に囲まれてしまう。ノキアが普段通りなら何とかなるかもしれないが、今はこの調子だ。


「…ヴェノムクロウ!」


 俺は後ろから迫ってきた先頭のノーブルマミーに攻撃した。しかし青いミイラ男は多少よろめいただけで殆どダメージは無かった。

 ヴェノムクロウには毒を与える効果もあるが、効いている様子はない。攻撃スキルを使っているのにこれだ。やはり俺が攻撃しても役に立たない。


「ハル、こっちからも来てる。場所を変えよう!」


 俺は自分で戦うことをすぐに諦めた。ハルも状況を見てすぐに退いてきてくれた。


「仕方ないんだから。こっちよ」


 しかしハルに先導されて移動を始めた先でも、次から次へと魔物が現れる。


「あはは…きりがないな」


 まだ追い詰められているとまでは言えないが、アンデッドたちはしつこく追ってくる。その数も徐々に増えている。どこかで反撃しなければいづれ逃げ場がなくなりそうだった。


「ゲイズにしてはいくら何でも多すぎ…シンの出番かも。こいつらはそこの通路で迎え撃つから、シンは後ろの警戒!」

「…わかった」


 俺の出番。それはつまり、この状況が他の冒険者によって意図されたものという可能性があるということだ。俺は気を引き締めて周囲の警戒を続けた。しかし今の所俺たち以外に人の反応は無い。


「あんたもしっかりしてよね!」


 ハルはノキアに喝を入れる様に背中を叩くと踵を返して魔物と対峙した。ノキアは青ざめた顔のまま頷いた。


「ノキア、頼む」

「ええ……!」


 ノキアは白くなって震える手で杖を握りしめた。

 スケルトンにレイスにゾンビ。俺たちに向かって集まってきた様々なアンデッドがさながら百鬼夜行のように押し寄せる。


「デュエルフィールド、フォートレスゲイン、セイクリッドフォース!」


 複数のスキルを同時に発動したハルは、その魔物たちを直線になった通路で押し留めた。正面だけで対処できる状況に持ち込んだことで囲まれる心配は無い。


「はあ…はあ…っ……ブレス・オブ・ドレイク…!」


 ノキアは落ち着いて魔法を繰り返し打ち込んでいく。密集していた魔物たちは目に見えてその数を減らしていった。

 この調子でいけば問題なく倒せる。 ……魔物の方は。

 先ほどから魔物とは反対側に人の反応があった。人数は4人、おそらくパーティ。


 しかし様子を見ているのか近づいては来なかった。向こうから動きを見せないうちは、気づかないふりをして刺激しない方がいい。こちらは魔物の相手で手一杯なのだ。

 やがて、最後の一匹が消滅した。


「これで、終わりね」


 魔物との戦いを終えたハルが突き刺していた槍を引き抜いたところで、注意を促そうと声をかけた。


「ハ…」


「ああ、終わりだ。お見事! 流石は元天剣のお姫様」


 しかし同時に物陰から現れた男の高々な声にかき消された。後ろには仲間らしき冒険者が3人。探知にかかっていた4人組だ。


「その声…チッ。二人ともあたしの後ろに」


 ハルは弛緩しかけた意識を一瞬で切り替えて俺たちの前に出た。俺とノキアはその言葉に従って後ろに退こうとした。


「おっとそれ以上動くなよ、こいつが見えてるだろう?」


 そこで俺はようやく気付いた。自分たちが今置かれている状況が、絶体絶命だということに。

 男が指さした先には、臨界状態になった最上級魔法がそれを体現するように激しく輝いていた。

評価、、、、して@@

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