第九話「パーティ結成! 2人+1人」
「何か食べる?」
座るや否や言いながら、食べ終えてそのままになっていた皿を豪快に押しのけていく。とてもお姫様がやることとは思えない。そしてそれを見た給仕のスライムたちは慌ててやって来て、皿が地面に落ちる前に必死に拾っている。なんだか申し訳ない。
ハルクライアはそんなスライムたちを労わるどころか料理を注文して急かしている。お姫様の嫌な一面を見てしまったかも知れない。というか……
「何で見えてるの? あはは」
ハルクライアに声をかけたことでハイドロウは解除されたが、今この瞬間までは発動していたはずだ。それなのにハルクライアは初めから俺に気づいていたように見えた。
「おい、お姫様が話しかけてるぞ。あいつ何者だ?」
「見たことないな。というか、いつからあそこにいた?」
一応、周りのテーブルに座っている冒険者たちには効果があったようだ。しかし気が付けばハルクライアに向けられていた注目の視線がこちらにも向けられてしまっている。
「本気で気づかれたくなかったら絶影も併用したら? そんなことより、どうなの?」
そんなこと、で済まされてしまった。なぜか俺よりアサシンのスキルに詳しいハルクライアの助言は、後でスキルを確認しておこう。
それより今はハルクライアの質問に答えるほうが先だ。
「ぜひお願いします。あはは、正直言うと困ってたんだ」
「決まりね。素直な男はす…いいと思うわ!」
ハルクライアは頬を染めながら途中で言い直した。
まさかこんなにもあっさりパーティを組んでくれる相手が見つかるとは思わなかった。しかもハルクライアの強さは疑いの余地がない。願ったりかなったりの申し出だった。
「あはは、でもどうして俺なんかと?」
「そんなの…ふ、ふんっ。別にいいでしょ! アサシンのあんたはどうせ一人だろうし、あたしも一人だったから仕方なくよ。仕方なく」
ぷいっと顔を逸らしたハルクライアは、そのまま横目でこちらに手を差し出した。俺はその手を握り返した。
「…よろしくたのむわ」
「あはは、こちらこそ」
*
パーティを結成した俺たちは4階層の扉の前に集まっていた。
なので当然俺はノキアに声をかけて一緒に来てもらったのだが……ハルクライアはすこぶる不機嫌だった。
「で、何? その女!」
「彼女はノキアって言って、パーティは組んでないんだけど、いつも偶然俺を助けてくれるっていうか、あはは」
「意味わかんないんだけど」
ノキアとの関係性は自分で言いながらもよくわからないのだから、ハルクライアからもそんな当然の答えしか返ってこない。それを収めるべくノキアが口を開いた。
「気にしないで」
「するわよ!」
「あら、どうして? 私が偶然彼と居合わせると、なにか不都合でもあるのかしら」
「それは…ふんっ。まあいいわ。好きにすれば」
ノキアにあっさり言い含められたハルクライアは、それ以上の追及はせず引き下がった。今回はハルクライアから引き下がったが、ジョゼたちとの件と言い、彼女は結構人とぶつかりやすい性格をしているようだ。
先導して扉に向かうハルクライアの後ろを歩きながら、ノキアがこちらを見て目を細めた。
「思いのほか大物が釣れたわね」
「あはは、なんでそんな言い方なんだ」
大物な事には間違いないが、人聞きの悪い言い方をするノキアに苦笑する。
そんな会話をしていて遅れた俺たちを、振り返ったハルクライアが不機嫌そうな顔で急かした。
「何してんの。早く行きましょ。目標は今日中に6階層なんだからね!」
*
「4階層なんて楽勝よ」
そう言ってハルクライアは飛び出した。
ハルクライアが加わり、再び4階層にやって来た俺たちを最初に出迎えたのは、無数の首を持つ魔物、ヒュドラだった。
宣言通り、ハルクライアは危なげなく全てのヒュドラの首を捌いていく。ハルクライアはヒュドラの激しい攻撃を意に介さず、それに対してヒュドラはハルクライアが剣を振るたびにその首を一つ、また一つと減らしていった。
「一人で捌き切るなんて、さすがね」
そして俺とノキアは、前に出てたった一人で戦うハルクライアの姿をただ見ていた。
これでいいのか? いや、ダメだろう。しかし対人特化型アサシンの俺にできることがあるだろうか。必要分だけ解放した、ヴェノムクロウなどの攻撃スキルを試してみてもいいが、おそらく効果は無いだろう。ヒュドラに毒は効かない。
「えっと、あはは。俺たちも何かした方が…」
「あなたの役割は周囲の警戒でしょ。忘れたの?」
ノキアは…手を貸すつもりはないようで、樹に背中を預けて眺めている。そして俺はノキアの言う通り、事前に魔物との戦闘には参加せず、他の冒険者からの妨害を警戒することが仕事だった。重要な役目ということは分かっているが、見ているだけというのはどうも落ち着かない。
やがてしびれを切らせたハルクライアがノキアに向かって叫んだ。
「ちょっと!! あんたウィザードでしょ? さっさと攻撃してよ!」
「部外者の私を頭数に入れられると困るのだけど」
ハルクライアの要請に、あくまでノキアは冷静な返事を返した。俺の言えたことではないが、そんなこと言わずに助けてほしい。ハルクライアがいくら戦っても、ヒュドラの首は切られたそばから新しく生えてくる。このままでは埒が明かない。
「俺からも頼めないかな?」
「はぁ、わかったわ」
しかたなさそうに詠唱を始めたノキアの魔法により、ヒュドラとの攻防はすぐに決着がついた。一撃で全ての首を焼き尽くされたヒュドラは、それ以上再生することなく倒れた。
しかしハルクライアの怒りはまだ消火していなかった。戦いを終えたハルクライアはノキアに掴みかからん勢いで詰め寄っていた。
「何でさっさとやんなかったのよ?」
「偶然居合わせた私にそんな期待をしないでちょうだい」
「はぁあ!? な・に・が、偶然よ!」
しかしノキアはノキアでどこ吹く風で、取り合うつもりはない様子だ。それがまたハルクライアの神経を逆なでしている。
まずい。この二人の相性は最悪かもしれない。
「あはは、二人とも一回落ち着いて」
「私は落ち着いているわ」
「悪いのはこいつよ。絶対に」
これで仲違いされたりしたら一番困るのは多分俺だ。なんとか仲裁しなければ。
ノキアには彼女の厚意でここまで付き合ってもらっているので、平頼みするしかない。ただ、彼女が世話焼きで頼まれたら断れない性格なのはこれまで見てきてなんとなくわかっていた。頼んだら何とかなる。
「ノキア、一緒に来てくれただけでも有難いんだけど、今回だけでもいいから一緒に戦ってくれないか?」
「…今回だけよ」
ノキアの方はこれでよし。悪いとは思うがもう少しだけ付き合ってもらおう。
「ハルクライアは…」
「何よ。シンはそいつの肩を持つの?」
正直言ってハルクライアに関しては、あまりよくわからない。どうしようか。
「あはは、やっぱり強いな。ヒュドラ相手に一人で突っ込んだときは心配したけど、余計だったかな」
「なによ。急にほめちゃったりして」
褒められて嫌な気分にはならないだろうという安直な発想だったが、どうにか引っ込みはついたようだ。
「あと、ハルよ。ハルクライアって、長いでしょ」
「ええと、ハル?」
「ふふん」
本人がそういうならこれからはハルと呼ぶことにしよう。二人とも何とか落ち着いてくれたし、これで一件落着。
「別に呼び方なんて、呼ぶ相手の勝手ではないかしら」
「あんたには関係ないでしょ!」
他の冒険者の警戒よりも、今はこちらの方が問題かもしれない。
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