プロローグ
「パーティ名”賢者の詩”、この度Sランクへの昇格が正式に認可されました。おめでとうございまーす!」
受付嬢の軽やかな賞賛がギルドの構内に響いた。
それを耳にした冒険者たちは、あるものは羨望の、またある者は妬みの眼差しを俺たちに向けている。そんな数々の視線を浴びたことが実感となったのか、仲間たちは喜びを抑えることができない様子だった。
「うおおおおおおお!! やったぞおおおお! 俺たちついにここまで来たんだ。お前ら、今日は飲むぞ!!」
パラディンのジョゼが、腕を振り上げて喜びの雄たけびを上げた。きらびやかに輝く鎧に近くにいた新米冒険者が腰を抜かしている。
「もう、ジョゼはすぐそれなんだからぁ。でも、今日は大目に見てあげるっ」
賢者ミレイの甘い声に、男の冒険者たちが熱いまなざしを向けている。実力と美しい容姿を兼ね備えたミレイは、特に男冒険者で知らない者はいない程の人気を誇っていた。
「お前たちなあ…程々にしろよ」
マジックナイトのオルストが髪をかき上げるしぐさに、受付嬢たちが頬を赤らめている。粗野なイメージのある冒険者の中で、オルストのまるで一国の王子のような麗しさは受付嬢たちの心をつかんで離さない。
「オルストが潰れる程度にしといてやるよ」
「ふふっ。オル君お酒弱いもんねーっ」
リーダーであるジョゼに、パーティの要であるミレイがなんだかんだ賛同する。それを見て呆れるオルスト。賢者の詩のいつもの光景だ。そして、その眩しい仲間たちの傍でヘラヘラと笑うアサシン。つまり俺だ。
「シン、どうした? 浮かない顔だな」
「彼も酒好きに辟易しているんだろ」
「いや、そうじゃないんだけど。あはは」
自分ではいつも通り笑っていたつもりだったが、仲間にはそうじゃないことが筒抜けだったらしい。気分のよさそうな顔でジョゼは俺の肩に手をまわした。
「お前、まだ気にしてるのか?」
「あはは、まあ。ちょっとだけな」
無理に取り繕っても仕方がないので正直に答えた。それに対してジョゼはいつもと同じように笑った。
「気にすんなって、お前は斥候役なんだ。戦闘以外でいつもよくやってくれてるよ」
「そうだよー。罠とか敵の場所がすぐわかるのもシン君のおかげでだもんねっ」
「適材適所というものだ」
ミレイとオルストも続いてそう言ってくれる。彼らがこんな風に言ってくれるのに、俺がいつまでも悩んでいるわけにはいかない。こんないい仲間たちに出会えて、本当によかった。
「だからいつも通り笑えよ、シン。ダンジョンでもよろしくな!」
「ダンジョン…ああ、そうだった。皆、これからもよろしく!」
俺たちはついに挑むのだ。Sランクパーティのみが挑戦することのできる、世界に残された最後のダンジョン。
踏破した者はどんな願いでも叶えることができるといわれる、あの場所へ。
つい、ダンジョンがある方向の空を見上げた。その先には4つの十字に輝く星が空に浮かび上がり、その中心を貫くように一本の柱が天高くそびえ立っていた。
あれがダンジョン。あの先で、俺の願いを……
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