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第61 話 戦いの後で……

 雨を降らせていた張本人を撃破した一行。プテリュクスオプスの撃破に応じて、出現していたシャボンフィッシュが次々と消えていく。

 先程入手した「水宮の玉」が反応を示し光り輝いていた。

 ふわふわとリーヴェの手から浮遊し、激流の収まらない川に吸い込まれていく。水に玉が入っていった瞬間、蒼く美しい光が川全体を包み込んで流れが鎮まっていった。荒れまくっていた川が嘘のようである。


全員「…………」


 こういう時、どういった反応をしたらいいのだろう。水宮の玉に宿る化蛇の力が、良い方向に働いたとでも言うのか。


セレーネ「何だかよくわかんないけど、進めるようになったわね」

リーヴェ「そうだな。皆、向こう岸に行こう!」


 歩き出そうとし、思い出したようにニクスを顧みる。彼はこの後も一緒に行動してくれるのだろうか。できれば一緒に来てくれると嬉しいのだけれど。

 一行が願望にも似た視線を向けていると――。


ニクス「行く方向が同じだからな……もう少し同行させてくれ」

リジェネ「やった」

ラソン「ここら辺は水棲類の魔物が出そうだから助かるぜ」

クローデリア「うふふ、新しい仲間ですね~」

ニクス「別に仲間になった訳じゃない」


 とにかくよろしく頼むな、とリーヴェの言葉でしめて再び歩き出した。あ、言い忘れる所だったが、同じく入手した武器はクロ―デリアに装備しておく。他にも、装備面をいろいろと調整した。

 経験値を

 目指すは川の向こう側にある「香水の都 コロ」である。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 暗黒界、???の某研究室。

 モニタに映し出された内容を見たコボル郷は声を上げた。


コボル郷「ぬぬ、プテリュクスちゃんの反応が消えた? 誰じゃ、ワタシの邪魔をする奴は」

コボル郷(さすがに3度目となると、何処かで情報が洩れとるのか?)


 コボル郷は引き出しにぎっちりと収めた資料を取り出して確認する。以前回収した実験体消失の報告書だ。

 場所は鉱石の街ピエス地下、実験体名ジャイアント・ヴェルスモール。

 死体は跡形もなく消失していたが、対象がいた痕跡はちゃんと残っている。そして発見された人の足跡や戦闘痕、明らかに人為的に討伐された証拠が揃っていた。コイツは暗黒界に生息している2種の魔物、「暗黒モグラ」と「アースヴェルス」を合成したんだったか。


コボル郷「せっかく地震を頻発させ、地上人の強烈な恐怖を煽らせておったのに」


 続いてもう1つの資料を見るコボル郷。

 実験体名ファントム・ニュクテリス、場所はア・ルマ遺跡内部(最奥)。こちらも同様の痕跡、足跡の一部が以前のものと一致していた。同一人物らによる討伐だと思われる。

 この子も研究室で生まれた可愛い実験体ちゃんだ。同種族の魔物を呼び寄せる、というお茶目な能力を持っている。


コボル郷「ふぬ~、あんなに愛らしい子を殺めるなんぞ許せぬわ!」


 すべては見えない所から地上人を揺さぶり、負の活力を発生させるためにした事だ。我々には、どうしても負の活力が必要なのである。

 コボル郷は室内の隅に置かれた香炉に目をやった。香炉からはホレスト郷から渡されたキューブが入っており、黒い気体を放出している。これこそが負の活力だ。


コボル郷「これさえあれば、我らは……」


 ふはははははっ、と狂気すら感じさせる高笑いをする。黒い気体=負の活力に触れていると気分が良い。深く吸い込むと高揚し、力が溢れて来るのだ。

 だが、急にまた真顔に戻ったコボル郷が机の上に置かれた通信端末に手をやる。操作すると、しばらくして部下の声が聞こえて来た。


部下「モアクコフ様、ご用件は何でしょうか」

コボル郷「ホレスト郷とホッヴォ郷のほうが、どうなっておるか聞いとるかね?」

部下「少々お待ちください……数分前にホッヴォ郷から順調との報告が上がっております」

コボル郷「ほう、あの子はマメでよいのぅ。で?」


 コボル郷の言葉の印象から、もう1人について聞かれている事を察した部下が手早く確認を行う。


部下「ホレスト郷からの新規連絡は御座いません」

コボル郷「はぁ、相変わらずか。まったく奔放で困ったもんじゃ」


 今頃、何処で何をしておるのやら。本当に頼まれたアレを持って来てくれるのだろうか。アレがなければ、この後の作戦にも差し支えるというのに何をモタモタしておるんだ。


コボル郷「そう言えば、銃器類の追加発注のほうはどうなっておる?」

部下「そちらはホッヴォ郷の説得が成功した様子で、順次ハレスティアーノ郷から本体に輸送が行われいるとの報告が」

コボル郷「ほうほう、アルフレド郷は彼女を使ったのか」


 まあ、近しい者相手のほうがハレスティアーノ郷相手には良いだろう。あの子はワタシと同様に優秀な発明家だが、気が小さくて人見知りが激しいからの。

 部下の話では、ハレスティアーノ郷は大分渋っていた様子だったという事だ。誰に似たのか知らないが、作戦に批判的な態度が目立つようになった。最近も1人で何処かに行っていたようだし。

 普段の様子がああでなければ、外出にこれ程疑いを向けることもなかったろう。


コボル郷「とにかく、後はアレだけなのじゃ。ホレスト郷と連絡がつき次第、急ぐよう伝えておけ」

部下「はい、了解致しました」


 そう返答があり通話が切れた。コボル郷もまた、自分の研究に戻る事とする。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  プテリュクスオプス】

 種族 水棲・飛行 属性 水 全長 約4.0m 体重 約18.5㎏ 弱点 射撃・地

 蒼き大河アズゥルードに出現した「化蛇」の姿をした魔物。暗黒界から来た合成魔物だ。

 咆哮によって大雨を降らせ、場合によっては洪水すらも引き起こす。水中と空中のどちらでも活動が可能で基本的には川に住んでいる。炎と水の攻撃は効果が薄い。

 大雨を振らせて炎属性スキルの威力を下げ、且つ水中に潜ってから出て来る瞬間に大波を起こして広域魔法攻撃をしてくるぞ。飛行時は近接攻撃が命中し辛く、落下時は短時間だが行動不能に陥る。

 地上に落ちた際、一時的に地属性の耐性が著しく落ちるのが狙い目だ。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 強敵と戦った場所から来た道を少々戻り、向こう岸に渡るための浮島が集中している道を進む。と言いたい所だが、まずは濡れた服を交わさなければならない。時間帯は午後に差し掛かっているので、川越えは明日になるだろう。


 浮島の道がある場所を確認した後、リーヴェ達は川から少し離れた木陰の傍に野営地を設けた。替えの服に着替えて、濡れたものを焚火で乾かす。空気もまだ湿っているし、またもや陽光が射せばなと思う。

 ニクスだけは何故か皆から離れた位置に自前の野営具を設置している。同行はするが、まだ距離をおきたいのかもしれない。

 準備の最中、川辺を進んでくる人影が見える。あのシルエットは……。


パロン「こんばんは、今日はここでお泊りですか?」


 ドワッフ商会の地精人パロンだ。彼はテールル村に向かう途中で、野営をする場所を探していた。この辺りは野営をするのに最適な場所らしい。


パロン「良ろしければ、ご一緒させて頂けないかな」

リーヴェ「もちろん。皆も良いか?」


 全員から賛同が返ってくる。今晩は賑やかになりそうだ。

 旅の話や雑談を交えながら準備を進めている最中、隣の野営地から甘くていい匂いが漂ってきた。


ラソン「アレ、何かいい匂いがするぞ」

リジェネ「本当ですね」

セレーネ「んーよし、味はこんな所かな。そういえばパロンはどこ行ったの」

リーヴェ「彼ならニクスのほうを手伝ってくると言っていたが」


 戻って来ていないとなると、まだそちらにいるのだろうか。手が空いたリーヴェ達3人は、調理中のセレーネを残してニクスのほうを覗いてみる事にした。セレーネのほうを手伝う必要がもうないのだ。

 クローデリアは乾燥中の服を見たり、いろいろと細かい作業をやっている。細かい作業と言っても個人的な趣味や武器の調整程度のものなので手伝う必要はない。


 ニクスの野営地を覗いてみると、案の定パロンの姿があった。


パロン「あ、皆さん。と、その前に……ニクスさん、出来ました」


 こんな感じですか、とニクスに持っている小鍋の中身を見せる。彼は頷いて出来上がったソレを受け取り、手際よく自分が作っていた生地に乗せていく。

 アウトドア用に若干調理法がアレンジされているが、ニクスが作っているのはアップルパイのようであった。今から見ても美味しそう。

 彼は他にもフルーツティーを自作していた。

 思わずお腹が鳴ってしまうリジェネ。


リーヴェ「美味しそうだもんな」

リジェネ「そうですよね。……ニクスさんも、料理上手なんですね」

ニクス「お前達には世話になったからな」

リジェネ「え、じゃあ僕達にくれるんですか!?」


 歓声を上げるリジェネとラソン。リーヴェははしゃぐ2人の輪に入りはしないが、素直に嬉しいと感じた。甘いものを食べるは久しぶりな気がする。

 ここだけの話、ニクスは菓子やドリンクを作るのが上手い。フードドリンクやソフトドリンク、お酒などの様々なブレントを作るのが趣味だ。地方の菓子を学ぶのもいい。


 暗黒界では食を追及する人が少ないので、より美味しいものを食べるには自分で作るほうが早い。いろいろやっている内に料理の腕が上がり、今では手の込んだ細工までするようになった。

 まあ、リーヴェ達がこの事を知る日が来るのか、今はまだわからないが。

 今回は比較的シンプルなモノに留める。効率と美味しさ重視だ。


セレーネ「もう戻ってこないと思ったら……て、わぁ」


 食事の支度を済ませてきたセレーネも歓声を上げた。料理を運び、全員で輪になって食卓を囲んだ。

 大胆だが深みのあるセレーネの料理も美味しいが、ニクスの繊細で甘美な味はひと口頬張るだけで舞い上がりそうになる。


リーヴェ「いつもと味つけが違うな」

セレーネ「わかっちゃった? 実はパロンから貰った調味料を使ってみたの」

ラソン「へぇ、どんなのだ」


 セレーネが荷物の中から件の調味料を取り出す。見た事のないラベルだ。


パロン「それは家で作ってる物なんですよ」

クローデリア「調味料まで作ってるんですね~」

リーヴェ(クローデリアも知らなかったのか)


 ドワッフ商会と繋がりのある農園で作られた、蝶蜂(チョウバチ)印の瓶に入った調味料。

 独特の甘みと苦みの中に、ほのかに香るスパイスがブレンドされた特注品である。名称は「スコッピ」というらしい。

 蝶蜂とは精霊界にいる生物で、美しい蝶の羽をもつ蜂の事だ。飛翔時に落ちる鱗粉は作物や土の質を上げ、植物が受粉するのには不可欠な虫。作物を育てるために、農園で飼育されている事が多い。採れるハチミツも美味しいぞ。


パロン「もしお気に召しましたら、是非当店をご利用ください!」

ラソン「ははは、ちゃっかりしてるなぁ」

パロン「お得意様にはいろいろサービスしちゃいますよ」

セレーネ「機会があったらね。さぁ、片付けるわよ」


 楽しく食事を終え、後片づけをした後は各々で自由に過ごした。

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