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第58話 動揺する心

セレーネ「ごめん……」


 セレーネがしょげるがちらちらと箱を見る。どうやって取るのかわからない、けど諦め切れない。見える場所にあるからこそ未練が湧く。なんであんな所に宝箱があるんだよ、と文句を言いたくなる。

 なかなか宝の誘惑に勝てないセレーネ。見かねたリジェネが助け船を出した。


リジェネ「あんまり自身ないですが方法はあります」

セレーネ「え、本当!?」


 リジェネは頷いて笛を取り出した。あ、なるほど。

 しかし、宝箱と比べたらずっと大きい龍の足で上手く掴めるものなのだろうか。カナフシルトは腕が翼なので、取りに似た構造の足で掴むしかない。一番の心配は力加減だが。

 緊張が滲む面持ちでリジェネは笛を吹いた。低空に降りてきた白龍に細かく合図を送る。龍が合図に従って慎重に小島まで向かい、箱をそっと掴んで運んできた。

 着地する事なく、リジェネに箱を渡して再び上昇していく。若干歪んでしまったが箱は無事だ。


セレーネ「わぁ、凄い。早く開けようよ!」

リーヴェ「落ち着け、まず罠の類が仕掛けられてないか確認しないと」

セレーネ「あはは、そうだよね」

リーヴェ「ニクス、確認してくれ」


 リジェネが箱を地面に置き、ニクスが調べる。幸いにも、鍵や罠は仕掛けられていなかった。

 彼の言葉を聞くや、セレーネが割り込んで箱を開ける。


セレーネ「ええー、そんなぁ」

ラソン「いったい何が入っていると思ってたんだ?」


 宝箱の中身は「回復薬×5」だった。余程凄い物を想像していたのか、セレーネは非常にガッカリしている。


リジェネ「別に役に立つ物だし、いいじゃないですか」

クローデリア「薬はいくらあっても困りませんよ~」

セレーネ「そうだけど……もっとこう、装備品とか宝石とさ」

ラソン「オマエなぁ」


 宝箱1つにどれだけ高望みしてるのか。

 適当な会話をしながら、回復薬をしまい再び歩き出すのだった。



 上流を目指して歩く一行は、遠くから喚き声のような音が聞こえる。


リーヴェ「なんだ?」

リジェネ「君が悪い音でしたね」

ニクス「やはり、この辺りに何かがいるようだな」

ラソン「ニクスが言ってた奴か……」


 音の発生源まではまだ距離がありそうだ。

 一行が強敵の予感を感じていると、目の前からまた大量の魔物が襲い掛かる。シャボンフィッシュ×12が出現した。


セレーネ「うげぇ……さっきよりも多い」

クローデリア「仲が良いわねぇ~」

リーヴェ「皆、構えろ」


 先程と同じ陣形で切り込む。だが、数が多い。まずは――。


リーヴェ「ニクス、数を減らしてくれっ」

ニクス「了解」


 初手でニクスが銃で「レーテル・クラウン」を放つ。

 初期配置で密集している敵4体に、雷の網に変化した弾丸が覆い被さり包み込む。捕らえられた魔物に電撃が走り感電させる。想像がつくだろうが水棲特攻持ちだ。

 弱った4体にラソンの翼閃斬が入り撃破。一連の攻撃を見たリジェネとクローデリアの気迫が最高潮に達する。負けてられない。


リジェネ「うおぉぉぉ――!!」

クローデリア「閃きましたわ~!」


 勢いに任せ、2人のスキルが派生する。

 まずリジェネの「地龍槍」が「三牙裂閃撃(さんがれっせんげき)」に変化。

 槍の石突部分と龍の足を同時に地へ叩きつけ、生じた衝撃で前方の直線3方向に飛ばして攻撃。地面を走る振動が敵にダメージを与えていく。


 続けてクローデリアの「ライトニング・スフェラ」が「スピラ・ケラヴノス」に変化した。

 魔法の派生は、変化直後のみ詠唱が発生しない。術者を起点に、落雷が螺旋を描いて外側へ飛んでいく。このスキルには「打ち落とし」の追加効果もあるが今は関係ない。

 打ち落としとは、種族が飛行の敵に仲間を含め攻撃を当てやすくする効果。敵が上空へ飛び上がるなどの「飛翔」スキルをキャンセルさせる事も可能だ。むろん効果時間が存在する。


セレーネ「え……」


 セレーネが明らかな動揺を見せた。

 その隙を見計らったように、前衛の警戒からすり抜けた2体が迫った。セレーネは反応できない。


リーヴェ「セレーネっ」

セレーネ「ああ……」

リジェネ「姉さん! このーっ」

魔物「!!」


 瞬時にリーヴェが助けに入り怪我を負う。セレーネはますます動揺し、委縮した。

 自分の所為で仲間が……。どうしたらいいのか、咄嗟に思いつかない。助けなきゃ、とは頭でわかっているのに身体がついていかなかった。


 あの後陣形が崩れはしたが、他のメンバーが冷静に対処にしてくれたおかげで戦闘には辛くも勝利する。

 リジェネは派生スキル「三牙裂閃撃」を習得。

 クローデリアが派生スキル「スピラ・ケラヴノス」を習得。



 リーヴェの怪我を心配して集まる仲間達。

 クローデリアが治療にあたっている。


ラソン「リーヴェの状態はっ」

リーヴェ「別に大した怪我じゃない」


 リーヴェがクローデリアに礼を言って立ち上がった。


クローデリア「ふぅ、大事に至らなくて良かったですわぁ」

セレーネ「あ……ごめん、ごめんなさい」

リーヴェ「油断は誰にでもある。次、気を付ければいいさ」


 リーヴェは治癒術で治った腕を動かし、大丈夫だと笑う。それを見たセレーネの表情は更に曇ってしまった。傷は治っても、先程の事実は消えない。


ラソン「本当にヒヤッとしたぜ」

ニクス「まったくだ。勘弁して欲しいものだな」


 命がいくつあっても足りない、と追い打ちをかけるニクス。


セレーネ「っ!!」

リジェネ「あ、セレーネさんっ」


 冷たく言い放ったニクスの言葉に、セレーネは思わず逃げ出してしまった。急いでリジェネが後を追う。リジェネとセレーネがパーティから外れる。

 私達も追うか、とリーヴェが言うが、クローデリアにやんわりと止められた。


クローデリア「今は彼に任せましょう?」

ラソン「そうだな」


 少なくともラソンとニクスは行かないほうが良い。多分、今行っても余計にキツイ言葉を言ってしまうだけだから。ニクスも「反省ができる奴なら、必ず戻ってくるだろう」と思っていた。

 そういう考えもあるだろう。2人の考えをある程度察しはするものの、やっぱりリーヴェには……。


リーヴェ「すまん、やはり心配だ。行ってくる」


 クローデリアに2人の事を任せ、リーヴェはリジェネとセレーネが向かった方向へ走り出す。ラソン、クロ―デリア、ニクスがパーティから外れた。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 河原の端まで逃げてきたセレーネは、木々が数本密集している小さな空間を見つける。傍には雨でできた大きな水溜まりがあり、彼女はその近くに膝を曲げて水面の模様を眺めていた。


セレーネ「…………」

セレーネ(やっちゃったな)


 瞼を伏せ、深いため息をつく。

 リジェネとクロ―デリアの派生スキルを見て、思わず嫌な気持ちを抱いてしまった。2人まで、ズルいと。羨ましかった。


セレーネ「どうして、あたしだけ」


 何も閃かないの? そんな気持ちが渦巻いている。派生スキルを習得していないのは、とうとうセレーネだけになってしまった。

 皆と同じだけ戦ってきた筈だし、鍛錬だって毎日してる。経験不足なんて事はない筈だ。何が足りないというのか。誰か教えて欲しい。


セレーネ「はぁ」

セレーネ(それで、戦闘中に上の空になるのは……不味いよね)


 自分でもわかってはいるんだ。あたしが悪いって。でも――。


セレーネ「あたしだって、覚えたいよ」


 震える声で吐き出された小さな呟き。

 そこにようやく追いついたリジェネが彼女を見つける。同じように全力疾走しても、装備やクラスの影響でセレーネのほうが早い。


 龍に乗れば別だが、リジェネは戦闘以外で龍に乗る事は控えている。仲間達と同じ歩幅で歩きたいから。クラスの違う者と旅をするには、騎乗はいろいろと不便な部分があった。それは、飛行能力を持つリーヴェも同じことだが。

 まあ、さすがに皆が乗り物に乗っている時は騎乗での移動もしたけど。

 リジェネは落ち込む彼女の背中に、何度か躊躇ってから声をかけた。


リジェネ「あ、あのっ……元気、出して下さい」

セレーネ「簡単に言わないで」


 彼女の声から大分堪えているのが伝わってくる。

 簡単じゃないのは、リジェネだってよく知っていた。自分もそうだったから。戦闘で失敗した時の事を思い出しながら、リジェネはそっとセレーネの傍らに近づいて目線を合わせた。

 彼女と同じように水面を見ながら静かに語りかける。

 

リジェネ「簡単に片づけられる気持ちでないのは、想像できます」

セレーネ「…………」

リジェネ「僕も前に、戦闘で大失敗しました」


 リジェネは、あの時の事を掻い摘んで話す。

 失敗の種類は違っても、感じる事に大した違いはないと信じて。どんな失敗でもきっと辛い。

 静かに話を聞くセレーネ。話が終わり、しばしの沈黙。


セレーネ「…………」

リジェネ「もしかしてですが、僕の所為だったりしますか?」

セレーネ「どうして」

リジェネ「セレーネさんが調子を崩したのは、僕が新しい技を使ったすぐ後だった気がして」


 間違ってたらどうしよう、と感じながら言う。

 セレーネは瞼を閉じて思案し、あーあと声を漏らして立ち上がる。本当は手をついて座りたかったが、地面がぐっしょりと濡れているので諦めた。

 彼女に倣って起立した彼に、気づいていたのかと困った声で言う。自分よりも年下の子に心配された挙句、調子を崩した原因まで見抜かれていたなんて。ちょっと情けないかも。


セレーネ「ごめんね。あたし頑張ってみる」

セレーネ(でも……)


 もしも、このまま閃かなかったら。不安は拭えない。

 皆に置いて行かれるのは嫌だ。


リジェネ「僕は新しい技があってもなくても、セレーネさんを頼りにしてます。今までも、これかも」

セレーネ「リジェネ」

リーヴェ「セレーネ、リジェネ!」


 若干迷いながら、リーヴェも2人の姿を無事に発見し駆け寄ってくる。息を切らしてきたリーヴェは、2人の様子に怪訝な表情を見せた。どうやら何かがあったようだ。

 セレーネはほんのちょっとだけ、いつもの調子を取り戻し改めてリーヴェに謝罪した。リジェネのほうにはありがとう、と言う。


セレーネ「さぁ、挽回するわよ」

リーヴェ「良かった。いつものセレーネだ」

セレーネ「えへへ、いつまでも落ち込むのは趣味じゃないの!」

リジェネ「はい、頑張りましょう」


 次は絶対やるぞ、と内心で意気込んで再びパーティに加わる。リジェネとセレーネに合流を果たしたリーヴェは、他の3人が待つ場所へともに引き返すのだった。

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