第55話 大事なコト
【想定戦闘】
翌日、リーヴェ達はキルファン周辺の草原に繰り出していた。
魔物の討伐依頼は本当にどこにでもあるモノで、一行は町の人々の要望も踏まえて魔物を討伐している。キルファンまでの道中も含め、リーヴェとラソンとセレーネはLv35、リジェネがLv34、クローデリアはLv36になっていた。その間、スキルもいくつか習得している。
ただ今回は、各々でやっている自主練ではなく全員でやるパーティ戦の練習だ。
リーヴェ「そろそろ、戦闘時の状況を変えてみるか」
ラソン「うーん、そうだな……まず、戦力が分散した状態で戦ってみるか」
この間のように、予期せぬ事態で分断された状態の戦闘を想定して戦ってみる。最初の組み分けはどうするか、と言う話になり迷った。湿原では上手い具合にバラけたけど……。
リジェネ「仲間に、治癒魔法が使える人が居ない状態でやってみてはどうでしょうか」
リーヴェ「となると……リジェネ、ラソン、セレーネの組み合わせか」
セレーネ「そうね。やってみようよ」
ラソン「念のため、リーヴェ達には一定の距離を保って見ていて貰おうぜ」
実戦である以上、完全に別行動をする訳にはいかない。距離が離れすぎるのは不味いし、別々のパーティを組んで同時に練習するのも危険だろう。
一方が戦っている間、もう一方には見守って貰ったほうが良い。
ラソン「じゃ、まずはオレ達からやるな」
リーヴェ「了解だ」
クローデリア「頑張ってください~」
やるぞ、と気合いを入れて魔物を探すことに。
数分後、魔物「ホルンビュッフェル」×3と「ヴォルメデューズ」×2と遭遇した。
ホルンビュッフェルは赤毛の水牛に似た魔物で、前方に向かって伸びる長い2本角が特徴的だ。突進時の突き上げ攻撃が危険なことで知られている。
ヴォルメデューズのほうは空中を浮遊するクラゲ姿の魔物。非常に小型で成人の掌くらいしかなく、透き通るボディは淡く発光している。体色は薄い水色。
早速とばかりに突進してきた魔物にラソンが迎え撃つ。まずは受け止めてみる事にしたが、かなりダメージを受けると予感し回避に切り替えた。
ラソン「コイツは結構強いな」
ラソン(どうする。ハウリング・ヴィンドで敵を一手に引き受けても良いが……)
ハウリング・ヴィンドとは、波紋状に風を薄く飛ばし、その衝撃波で周囲の敵の標的を自分に向けるという技だ。道中のレベルアップで覚えた。
一度に多くの敵を引き付ける事ができるが、果たして今使って大丈夫だろうか。ラソンは迷っていた。引き受けて倒れてしまったら元も子もない。
セレーネ「この、ちょこまかとっ」
魔物「♪♪(余裕)」
リジェネ「セレーネさん、今助けます。……乱啄迅」
後方のヴォルメデキューズを狙ってセレーネが突っ込む。魔法を使う素振りを見せたからだ。けれど、身体の小さい魔物は彼女の攻撃を難なく躱してしまう。
悪戦苦闘するセレーネにリジェネが援護に入った。敵1体に素早い連続突きを放つ。彼が特訓で身に着けた技だ。前のめりな戦闘が続く。
リーヴェ「…………」
クローデリア「頑張れ~ですぅ」
3人の戦闘を離れた所から見守る2人は肝を冷やしていた。外から見ているからわかるが、全体的に前へ出過ぎている。もともと前衛で戦う彼らは、ぐいぐい前に出てしまう癖があった。
普段ならばそれでも全然いいが……今は。
リーヴェ「ダメだ。あまり前に出過ぎては、ああっ」
クローデリア「いけませんっ。ラソンさんのHP(体力)が半分を切って」
今は練習だ。口出ししては意味がない。
誰か、気づいてくれ。
戦闘の結果は散々だった。全員のHPが危うげな状態となり、やむを得ずに逃走を選択。
リジェネ「はぁ……敵と対峙しながら、仲間の状態を確認するって大変なんですね」
セレーネ「もう、あたしが回復して欲しい時に限って薬がないんだもん」
ラソン「そりゃ、手持ちを使っちまったからだろ」
セレーネ「だから手渡したりして欲しかったって言ってるのっ」
ラソン「こっちだって、んな余裕ねぇよ!」
クローデリア「まあまあ、2人とも落ち着いてぇ」
聞いての通り、仲間同士のHP回復が上手くいかなかった訳である。
気がついたら皆がピンチで、最後はもうしっちゃかめっちゃかだった。攻撃に意識が向くあまり、治癒が疎かになったり気づかなかったり。
今までは、リーヴェとクローデリアが適切に対処してくれていた事だ。
また、リジェネはスキル「乱啄迅」を習得。
続いてリーヴェとクローデリアの組み合わせ。基本的に後衛での戦いが得意なメンバーだけになってしまった想定だ。
先ほどと同じ種類の魔物4体と遭遇。水牛とクラゲが各2体ずつだ。
クローデリア「ふっふっふ~、新しく覚えたの行きますわよ~」
彼女が魔法曲「大地のワルツ」を奏で始めた。特にこれと言った魔法陣はないが、周囲のマナの光がパチパチと弾ける。
旋律に合わせて出現する土の棘が下から突き上げ、広範囲の敵をランダムに攻撃していく。威力は中。クローデリアはノリノリだ。
地上を走るホルンビュッフェルのほうは動きを制限されて辛そうだが、ヴォルメデューズのほうにはあまり効いていない。
リーヴェ「ここだっ」
魔物「っ!!」
土の棘の合間を縫って移動し、クラゲのほうに攻撃を仕掛けるリーヴェ。魔物に命中はしたが、背後からホルンビュッフェルが迫る。運よく気づき、ギリギリで躱すが僅かにダメージを受けた。
リーヴェ「危なかった」
直撃していたら、防御面の弱いリーヴェだとひとたまりもない。するとクローデリアから悲鳴が上がる。リーヴェが離れた隙に、態勢を整えたもう1頭に襲われたのだ。
次の詠唱に移る直前を狙われたようである。すぐに詠唱時の防衛に回るリーヴェ。治癒は詠唱のいらない彼女に任せた。
リーヴェ「くっ」
クローデリア「詠唱に集中できないですぅ」
リーヴェ(攻撃を受ければこっちが持たない。回避すれば仲間に向かう可能性がある)
遭遇する数にもよるが、圧倒的に手が足りない。クローデリアは詠唱する度に追い回され、リーヴェもフォローに入るが間に合わない。
リーヴェのステータスやスキルは、防衛をする戦い方にはあまり向いていなかった。引き付けて回避していられる内は良いが、うっかり攻撃を食らってしまったら全滅も有りうる。
妨害する事ができるスキルもブリッツクーゲルくらいだ。回避率を上げるものや、ダメージを軽減できるスキルはない。
クローデリアも状態異常はかけられても、デバフ系はあまり使えない事に気づく。おまけに2人とも、どちらかと言えば撃たれ弱いほうだった。
前衛って、ちゃんといないと困るんだな。ただ1つ幸いしたのは、敵が使ってきた魔法が水属性のみだったことである。
魔物「♪(詠唱完了)」
リーヴェ「しまった。クローデリアっ」
クローデリア「だ~いじょうぶ、だいじょ~ぶ♪」
魔物「???(困惑)」
ヴォルメデューズが放った水の魔法がクローデリアに直撃。
だが、ダメージを受けながらも彼女のMPが何故か回復した。HPダメージも気になる程ではない。
リジェネ「そういえば……水の魔法は使われているマナを吸収できるって言ってましたね」
セレーネ「ああ、砂漠でいろいろ確認した時に聞いたような……」
ラソン「こういう事だったんだな」
そう、クローデリアの種族特性「水辺の人魚」の効果のひとつ。自身が常時水属性&水耐性をもち、水属性の魔法攻撃を受けるとMPが回復するのだ。常時水属性というのは、通常攻撃が水属性になるという事である。
実はもうひとつ効果があるが、こちらは追々話す事としよう。
結局、この戦闘も逃走する羽目になった。
戦闘から離脱した一行は揃ってため息を漏らす。実際にやってみると相当キツイものがあった。
リーヴェ「これは、一度町に帰って反省だな……」
ラソン「そうだな」
リジェネ「では、今日はこのくらいにして戻りましょう」
まだ午後に入ったばかりだが仕方がない。戦闘でアイテムも随分と使ってしまった。
その後2日程は同じように午前中いっぱいを使って想定戦闘を行い、天候や他の組み合わせなど思いつく限りの事を試すことになる。午後はキルファンで反省会をし、リーヴェはスコルの元へ通い、他のメンバーも各々で自主練をして過ごす。
天候や地質に関しては、クローデリアやスコルに手伝って貰ったのだ。最も規模は小さいが。
魔物とは勝ったり逃げたりを繰り返した。
この際にリーヴェは装備品の効果も手伝ってLv37になり、他の仲間もLv1ずつ上がったのである。リジェネはスキル「乱啄迅」を習得。
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【タルシス辞典 属性による有利不利】
スキルに含まれる技や魔法には、属性が含まれているものが存在する。属性は炎、水、風、地、光、闇があり、技と魔法で打ち合った際に発生する有利不利があるぞ。
炎は風に強くて水に弱い。風は地に強く炎に弱い。地は水に強くて風に弱い。水は炎に強く地に弱いだ。光と闇は相互に効果がある。
ただし、魔物においては上記の有利不利が絶対ではない。それは、魔物は生息地や自身の持つ能力などの要素による影響を受けるからだ。地属性の魔物だからといって風に弱いとは限らない。砂漠の環境によって風に強かったり、水に弱かったりするのだ。
種族によって弱点を突くこともできるので、魔物ごとに観察が必要である。
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【サブエピソード30 守護天神話①】
ある日、リーヴェは守護天神話というタイトルの書物を読んでいた。
ラソン「あ、それオレが貸した奴だな」
リジェネ「僕も先が気になってたんです」
2人と一緒に仲良く書物を読む事にした。セレーネ達も傍で聞き耳を立てている。
守護天神話の冒頭には、まずこう書かれていた。
セフィロトに宿りし守護の力。化身を支えし、聖なる者。
光り輝く翼をもち、神々の残した御力の欠片を振るう。彼らは創世の神々の残り香なり。
リーヴェ「今思えば、なんでセフィロトの事が載ってるんだ?」
リジェネ「確かに謎ですよね。天空神樹信教の聖典も、ですが」
ラソン「ははっ、まるでリーヴェ達の世界から来た奴が書いたみてーだな」
2人「…………」
洒落にならない。本当にありそうな話だ。
そう考えると、ますます先が気になってしまう。リーヴェは再び書物に目を戻した。
炎座の守り手は炎に属する剣士である。
彼の者の剣に宿りし炎は、全てを焼き尽くす要の力。
36対の翼をもつ長身の使者、その力受けるならば加護をもってコレを制するなり。さもなくば、業火に焼かれて消えるだろう。
対するならば水を、決して離れてはならない。彼の者の炎、己が剣域には及ばず。
彼の者を討ち果たした時、祈りし者に炎の意思を授け給だろう。
リジェネ「やっぱり、実際にいそうな表現ですね」
ラソン「いやー、現実の存在だったらオレは嫌だなぁ。こんな奴、戦いたくねーよ」
リーヴェ「だが、意味ありげなのは間違いない」
もしもリーヴェ達が、我々のような知識や感覚を持っていたなら思っただろう。――攻略本みたいだな、と。
文章はまだまだ続いている。パラパラと捲ってみると、守護天神話に書かれているのは「天使」についての記述が記されたモノのようだ。結構細かく書かれている。
それに、表紙に描かれた絵も気になる所だ。
ラソン「これってセフィロトの模様、なんだよな」
リーヴェ「ああ、よく似ている」
リジェネ「ますます怪しいですよ」
表紙には一面いっぱいに、以前ア・ルマ遺跡で見た刻印そっくりの絵が描かれている。いったい、この書物の著者は何者なのだろうか。
まだまだ続きが気になる所だったが、いろいろとやる事があるのでこの日はここまでにした。




