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第52話 救援

 リーヴェ達と別れ、湿原の出口に急ぐリジェネとクローデリア。

 走りながらクルイークらの姿を探す。今頼れるのは彼らだけだ。出口が近づくと前方から2つの人影が走っている姿を発見した。互いに姿を見つけて近寄る。


クルイーク「オメーら、ここにいたか……ん? 他の連中はどうした」

リジェネ「あ、クルイークさん。実は、泥が……姉さん達が追い込まれて」

クルイーク「落ち着け。泥の怪物が現れたのか?」

クローデリア「知っているのですか~」


 息を切らしながら手短に情報をやり取りした。袋の中身を取り出して各々に分配し、持ちきれない分は袋に入れたまま仕舞う。

 

クルイーク「いいか、俺達が引き付けながら球で怯ませる。坊主はその隙に合流して連れてこい」

リジェネ「はい」

クルイーク「まだ残りが入っている。坊主が持ってろ」

クローデリア「良いのですかぁ。陽動をなさるのでしたら、お2人が持っていた方がよろしいかと思うのですけれど……」

リジェネ「そうですよ。受け取れません」


 クルイークの言い分は、残りは合流した面子に持たせろ。調子の悪い仲間を連れての移動は何が起こるかわからない、というもの。

 一方でリジェネは、陽動を行う危険が伴う行為の中で手持ちを切らしたら大変。戦力的に見てて最悪戦って隙を作る事はできるかもしれないだ。


 あまり時間をかけていられないと同行していた男が口を挟み、彼が残りも半分に分ければいいだろうと提示して妥協した。こんな所で意地になっていても仕方がない。

 準備を済ませ、改めて救援に向かう。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆


魔物「ガアァァァァ」

ラソン「くっ」


 泥まみれの前肢を剣を盾替わりにして受け止めるラソン。お、重い。ベタベタと泥雫が落ち、剣を伝って頬や肩に付着しては雨で流される。ラソンは目を細めて堪えた。敵を前にして目を瞑る事はできない。


セレーネ「この、どけぇ――!」

魔物「ヴガガッ」

セレーネ「きゃあっ」

ラソン「セレーネ……だあ!」


 ラソンを踏みつけようとする魔物を退かさんと拳を叩きつけるセレーネ。しかし、泥で滑って前のめりに体勢を崩し魔物に弾き飛ばされる。

 それを見たラソンが渾身の力を込め辛うじて抜け出す。セレーネに駆け寄る。


ラソン「大丈夫か、怪我は」

セレーネ「平気。受け身はとったから」

ラソン「リーヴェ、回復を」

リーヴェ「………………」


 いつもの調子で咄嗟に声を投げる。が、リーヴェの現状を思い出して歯を食いしばった。

 まだ、ダメなのか。のっそりとした所作で突進してくる様子をセレーネが指摘。ラソンが魔物を迎え撃つ。

 少しずつ移動を行いながらの攻防が続いた。劣勢だ。攻撃がまったく効いている様子がない。


セレーネ「このままじゃ、リーヴェ! リーヴェお願いっ」


 ラソンに治癒を、とセレーネが呼びかける。持っていた回復薬は全部使ってしまった。MPの補給薬はあるが、自分達が使っても意味はない。

 セレーネが前後の位置変更を繰り返しながら攻撃を行う。


リーヴェ「……兄、上」

セレーネ「えっ、何。なんて言ったの」


 攻撃の合間にいったん後退した際、リーヴェの口から洩れた声を聞く。声が小さくて言葉が聞き取れない。

 ギリギリ絶えていたラソンが、疲労とダメージで限界が近づき足を滑らせた。魔物の大きな体躯がラソンにのしかからんとした瞬間――。


クルイーク「こっちだ化け物っ」

盗賊「くらえ!」


 ――バァン! とクルイークと盗賊が炎照球を投げつけて気を引く。

 魔物の意識がクルイークらに傾き、頭を擡げた所を見計らって下へカナフシルトが滑り込む。首と胸の辺りに身体を潜り込ませてひと息に持ち上げる。龍の背には誰も跨っていない。

 ほんの少し持ち上げただけで、四つん這いの魔物はひっくり返った。その隙に、ラソンが手から零れ落ちていた剣を拾いセレーネのいる所まで下がる。剣を敵に向け直す。


セレーネ「思ったんだけど、カナフシルトにリーヴェを運んで貰えないかな」

ラソン「言われてみれば」

リジェネ「皆さん無事ですか」


 龍を見てセレーネが呟いた。運んで貰うという発想をすっかり失念していた。

 2人で話している所にリジェネとクロ―デリアが走って来る。リジェネが持って来た袋をラソン達に渡す。


ラソン「なあ、リーヴェを龍の背に乗せて行けねーか」

リジェネ「それって2人乗りって事ですよね。……無理ですよ」

セレーネ「どうして!?」

リジェネ「僕が使っている鞍……椅子の事ですけど、あれは1人用です。荷物もあるので、どっちにしても重量オーバーです」


 龍の背は馬以上に滑るので鞍無しで乗るのは危険。しかも、意識が不確かな人物を乗せるのなら二人乗りは確実に必要だ。リジェネの装備や荷物による重量も調整しないと、もう1人を乗せるのはカナフシルトに負担をかけ過ぎてしまう。


 飛行することも考えると、重量面をきちんとしないと飛ぶこと自体が厳しくなるだろう。

 ラソンとセレーネは初めて知った事に驚く。リジェネにとっては珍しい事ではなくても、騎乗する習慣がない2人には未知の情報である。以前は1人乗りについて聞いたから、ラソンも知らなかったのだ。


クローデリア「それよりも早く逃げましょう? お2人が大変そうですぅ」

ラソン「やべっ」

リジェネ「急ぎましょう。姉さんも」


 身体を元に戻した魔物とクルイークらがやりやっているのに気づき、慌てて退避行動に移った。やり取り自体は1分とかかっていないが、これ以上行動が遅れるのは不味い。

 全員で出口側へ走る。タイミングを見計らって花粉球を一斉に投げつけて怯ませた。効果時間を考え、逃げる直前に投げると決めていたのだ。これだけぶち込めばしばらくは動けない、と信じたい。

 一行は全力疾走でその場を離脱するのだった。



リーヴェ「…………」


 ラソン達の話が終わり、座って静聴していたリーヴェは俯き膝を強く握る。


ラソン「……一応言っとくけど、本気で危なかったんだぜ」

リーヴェ「…………」


 返す言葉がない。記憶にないから実感が湧きづらいが、2人の姿を見れば嘘ではない事が想像できる。

 泥で汚れた衣服や装備、手当したばかりの傷、疲労が残る表情などがどれだけ大変だったかを物語っていた。


セレーネ「今回は運がよかったけど、さすがに……ね」

リーヴェ「…………す……」

ラソン「もしもオレ達が気づかなかったら、助けが来なかったらどうなっていたか……リーヴェだってわかるよな?」

リーヴェ「っ……すみません。すみませんでした」


 最悪の事態を想像して身体や声が震える。白い肌が更に白くなる程強く握りしめ、下げた頭が上げられない。瞼をきつく閉じ唇を噛みしめた。

 嫌な想像が驚くほどリアルに脳裏で繰り返し投影される。誰かの死を、不思議なほどはっきりと想像できる。その事実に疑問を抱きつつ、リーヴェは謝罪することしかできなかった。



御者「そろそろ出発しますよ!」

ラソン「はい、わかりました」


 御者にラソンが答え、セレーネがぎこちなくリーヴェを促す。

 待っていてくれたキャラバン隊に同行し移動を再開する。現在地は橋を渡ってすぐの所で、町まで後もう少しの所まで来ていた。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 馬車に揺られ、リーヴェ達は「魔法都市 キルファン」に到着した。キャラバンを利用できるのはここまでだ。リーヴェ達はキャラバンの人々に別れを告げる。


 魔法都市キルファンは、名前の通り「魔法」を使った都市ではなく、「魔法」を研究しつつも様々な工作に利用している都だ。

 地球では「科学」と呼ばれているモノも、この惑星では「魔法」という括りに含まれていた。


 町並み自体はギリシャ風の建物で統一されている。

 ヨーロッパ風だったムートリーフ王国や、アラビアン風のカンディテーレ共和国とはまた違った味わいがあった。○○風というのは、あくまで妥当な例えと言うだけだ。

 黄色や茶色など色とりどりの壁に、芸術的な絵画や彫刻が施され丸い屋根が所々に伺える。壁に装飾があると言っても煩くはなく、きちんと計算された美しさを保っていた。


リーヴェ「…………」

リジェネ「ま、まずは宿を探しましょうか」

クローデリア「そうですねぇ、行きましょう~」

リジェネ「ね、姉さん?」

リーヴェ「あ、ああ。そうだな……」


 道中からずっと静かなリーヴェに変わって、リジェネとクローデリアが先導する。ラソンとセレーネも、少し不自然な明るさで応じた。


貴婦人A「ねぇ、ご存じ? 今ムートリーフ王国で、炎を操る銀髪の騎士が活躍してるって話」

貴婦人B「えぇ、そうなの。それでそれで」

セレーネ「え……銀髪の騎士?」


 歩き出した一行の最後尾にいたセレーネが足を止める。前を歩く仲間達を気にしながらも、貴婦人に駆け寄って話しかけた。


セレーネ「あのぅ、その騎士の話は本当? 何歳くらい?」

貴婦人A「なぁに貴方」

セレーネ「ごめんなさい。ちょっと気になる事があって……教えて貰いないかな?」

貴婦人A「別に宜しくてよ」

貴婦人B「アタシにも早く教えてよっ」


 機嫌を直した貴婦人が話を続ける。

 現在、ムートリーフの各地で炎の槍を操る騎士が目撃されているそうだ。騎士は神出鬼没で、銀髪の美しい殿方だという事で女性の間で噂になっている。

 貴婦人の文友達が、山賊に襲われた際に助けて貰ったと手紙で知らせてきた。手紙には、かなり詳細に出来事や騎士について書かれていたらしい。


貴婦人B「それでお年はいくつくらいなの?」


 美形だという言葉に反応したもう一人の貴婦人が目の色を変えて迫る。

 問われた貴婦人はふふっ、と恥らいの笑みを浮かべた。セレーネも息を飲んで回答を待つ。


貴婦人A「20代くらいの若い殿方だそうよ。飴色の瞳が、とっても魅力的だったんですって」

セレーネ「20代……」

貴婦人B「きゃあぁぁー、素敵素敵! 是非お会いしたいわ~」


 今にも飛び跳ねそう程に恥じらう貴婦人達。手を頬にあて顔を赤らめ、件の殿方を妄想している。

 一方でセレーネは記憶にある情景と向き合っていた。自身の目の前に立った1人の男性の後ろ姿。瞳の色は良く覚えていないが、髪の色は一致している。でも……。


セレーネ「…………」

貴婦人A「どうなさったの? 大丈夫?」

セレーネ「え、ああ大丈夫です。どうもありがとう」

貴婦人A「いいえ」


 セレーネは貴婦人達に挨拶をして別れた。


セレーネ「さすがに歳が合わない、よね」


 会ったのはセレーネが子供の頃だ。記憶にある姿もだいたい20代だし、普通に考えて別人だろう。眉間に深いシワを作って唸る。


リジェネ「セレーネさん、逸れちゃいますよ」

セレーネ「ごめん。今行く」


 セレーネの姿がないのに気づいたリジェネが引き返してきた。慣れない町で逸れるのは怖い。セレーネは考えるのをやめて皆の後を追った。きっと、別の人だ。

 書いてみて、なんか細かい所が怪しいような……。

 多分大丈夫……大丈夫な、はず。

 悩んでいるうちに投稿が遅れてしまいました。ごめんなさい……。

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