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第48話 更なる情報

セレーネ「あれ、じゃあ神樹が消えたのは何故? 話の感じだと、御子や心臓には神樹を生み出す力はない気がするんだけど」


 なかなかに鋭い所をついてくるセレーネ。

 そう、御子にも惑星の心臓にも神樹を作り出す力はない。御子は神樹の働きを助ける力、心臓のほうは生命力になったマナを糧に惑星そのものを生かす機能。マナは精霊界にある樹が生み出している事は、以前クローデリアから聞いて知っている。まだ何かが足りていない気がした。


リジェネ「その通りです。神樹は僕達の故郷、天空界にあるセフィロトと呼ばれるマナスポットです」


 マナスポットとは、マナが集中している場所の事である。

 精霊界で生み出されたマナは惑星全体を巡り、天空界へ到達して2つに分かれる。1つは神樹に収束して惑星の生命力となるもの、もう1つは天空界の大地に宿りセフィロトとなって神樹を作り出す光の柱となるものだ。

 セフィロトに関しての情報は、御子と一部の神官達、そして王族だけが知っている。


ラソン「ってことは……神樹が消えたのは天空界が原因という事になるのか?」

リーヴェ「…………」

リジェネ「…………」


 2人はあえて沈黙した。2人の表情や仕草が肯定を示している。

 リーヴェ達とて実際に今、天空界がどうなっているのかを説明できる訳ではない。リーヴェはこちらに来る直前の記憶が全然ないし、リジェネも気がついたら地上界に来ていたと伝えた。リジェネがそっと悟られぬようにリーヴェを見る。が、すぐに反らした。

 少なくとも、天空界にあるセフィロトに何かが起きたのは間違いない。


セレーネ「ね、ねぇ。地上界にセフィロトの代わりになりそうなモノはないの? ほら、ア・ルマ遺跡で見つけた扉とかさ」

ラソン「ああ、リーヴェはあの時セフィロトって言ってたよな」

リーヴェ「あれは扉に記された紋様に対して言っただけで」

リジェネ「僕も、こっちにセフィロトがあるなんて聞いたことないです」


 それに、あの扉をどうやって開けるというのだ。扉かどうかも怪しいというのに。

 クローデリアが首を傾げているのに気づき、簡潔に情報共有も行っておく。クローデリアはあまり口を挟まず静かに話を聞いていた。会話が混雑しないようにと、最小限の口数に留めているようだ。


クローデリア「わかってきたようで、わからない事だらけですねぇ。どうしますか~」

ラソン「どうするって、オーグラシアに行くことは変わんねーだろ」

リーヴェ「当然だ。私達には天空界へ行く手立てがない」


 行く方法を知っているなら、そもそも2人は旅に出ていない。

 翼を使っていられる時間は限られている。リジェネは来てすぐの頃に、カナフシルトで空を突っ切ろうと試みたが無理だった。龍の力を持ってしても、神樹の頂きに至る前に限界が来てしまう。


 リーヴェ達は知りえない事だったが、地上界と天空界の間には「狭間の海」と呼ばれる境界がある。

 この海は2つの世界を隔てる壁であり、広大故に泳いで渡るのは息が続かないため難しい。しかも水には流れがある。リジェネ達は意識のない状態で、且つ落下の速度と衝撃を生かして半ば強引に通過したのだ。

 水だったから死に至る程の大事にはならなかったが、それでもダメージを受けてしばらくは動けなくなった程である。安全に通れる道でもない限りは、狭間の海を通り抜けるのは厳しいだろう。


 具体的な方法が思いつかない以上はこの話はここまでだ。次へ行こう。

 リーヴェ達は負の活力とマナ汚染についての話に移った。各々知っている範囲で確認していく。

 クローデリアの話では、マナの汚染は正常なマナに負の活力が結びつく=融合して起こる現象だという事だ。


ラソン「つまり、負の活力が原因ってことだよな。負の活力って結局何なんだ?」

セレーネ「あたし達が知っている事って言えば、充満している場所に長く居続けるとおかしくなっちゃうってことくらいよね」

クローデリア「申し訳ありません……わたくしもそこら辺は疎くって~」


 ただマナ汚染は、マナが正常な働きをしなくなった状態だという。

 マナは様々なものに強く結びついているので、マナが狂えば引き起こされる影響は計り知れないとか。天変地異がまさにいい例だろう。

 問題は負の活力に関して、クローデリアは詳しく知らないのだ。必然的にリーヴェとリジェネに視線が集まる。浄化という事を知っている2人ならば、おそらく――。

 2人は瞼を伏せて言い辛そうにしている。


リジェネ「ね、姉さん……」

リーヴェ「っ、言うしかないだろう」


 負の活力とは、主に人々の行き過ぎた感情から発生する不思議な力。嫉妬、憤怒、恐怖、憎悪、欲望などが発生原因だが、一般で暮らす中で起こる規模ではそうそう負の活力を生み出すまでには至らない。

 しかしハッキリしている事は、この負の活力を最も多く発生させているのが「地上人」だという事だ。今日に至るまで争いの絶えない歴史を繰り返して来た人々。負の活力がより多く生産されるのは戦争である。


 話をしていると時の、特にリジェネの表情は暗かった。リーヴェも心苦しかったが、リジェネにはまた別の感情があった。

 でもその感情を、ラソンやセレーネを見て鎮めようと努める。


リジェネ(落ち着け……僕だって人のこと言えない)


 悲しそうに顔を伏せたリジェネの肩に、リーヴェはそっと手を置いた。顔を上げたリジェネがぎこちない笑みを浮かべる。

 ラソン達も複雑な感情を抱き黙り込んでしまっていた。適切な言葉が思い浮かばない。長い沈黙が降りる。


セレーネ「ああーもう無理っ。黙ってないで話そうよ!」


 気まずい雰囲気に堪えかねてセレーネが声を上げた。

 たどたどしい調子で会話を再開し情報の確認はお開きとなる。今回知ったことも踏まえ、オーグラシア公国を目指すことにするリーヴェ達だった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 長い話を終え、それぞれで生き抜きをするために部屋を出ていく仲間達。リーヴェも町へ出ようかと扉に向かった時、背後からリジェネに引き留められる。部屋にいるのは2人だけだ。

 リジェネは確認しておきたいことがあると言う。


リジェネ「これからも同じようなことがあったら、浄化の力を使いますか? 今回みたく倒れるかもしれない、もしかしたらもっと酷いことになるかも……それでも姉さんは」


 力を使うのか、とリジェネは尋ねた。

 リーヴェの心は、答えはとうに決まっている。


リーヴェ「当然だ。救えるものがあるのなら、私は迷わず力を使うだろう」

リジェネ「…………」

リーヴェ「リジェネ……」


 真摯な気持ちでリジェネを見つめた。

 リジェネは唇を噛み拳を強く握りしめて考え、やがて力を解いてポーチから呪符を取り出す。


リジェネ「兄さんが作った呪符です。これを白翼のプラチナソードに」

リーヴェ「ん? わかった」


 よくわからないまま、リーヴェは彼が指示する通りに呪符を剣に張った。

 呪符に刻まれた文字が光を放ち、音もなく刃に溶け込んでいく。完全に呪符が見えなくなると、刃がサハルで見せた以上の輝きを放った。光が収まるのを待ってから鞘に仕舞う。

 何が起きたのかをリジェネに問いかける。


リジェネ「今張った呪符は、御子用に特注された武器の機能を強化するものです。浄化の力をより一層助けてくれるでしょう」

リーヴェ「本当だ。以前よりも力を感じる」


 リジェネの話では、力が思うように使えないと聞いた兄が拵えてくれたのだそうだ。

 御子に渡される武器は、浄化の力を助けてくれる機能が備わっている。御子ごとに得意武器が異なるので、代替わりとともに特注される物だ。


 今までは武器に備わっているだけで事足りていたが、リーヴェの不調を気にかけた兄と神官達が共同で組み上げた術式が符には込められていた。本当に使う事になろうとは思っていなかったかもしれないが。

 これで少しは浄化による負担を軽減できることだろう。


 武器「白翼のプラチナソード」の全ステータスが強化された。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 十分な休憩を取ってから、リーヴェ達はクルイークの元を訪れた。熱砂の牙を変貌させた黒い宝石の出所を聞くためだ。


クルイーク「おお来たか。いろいろと迷惑かけちまったな」


 身体はもう平気か、とリーヴェに聞くクルイーク。すっかりもう元気だ、とリーヴェは答えた。

 クルイークに話を聞きたいと切り出す一行に、クルイークは頷いて応じた。順を追って話し始める。


 事の発端は、熱砂の牙の所へ1人の男が訪ねてきたことだった。

 男は「ルシス」と名乗り、牙の活動を支援すべく珍しい宝石や魔導具を売りたいと言ってきたらしい。ルシスなる男の特徴を聞く。

 そいつは真っ白な服にターバンを巻いた30代くらいの優男で、黄褐色の髪にターバンを巻き、黒っぽい瞳に眼鏡をかけていたという。来る度に違っていたが、いずれも大きなカバンを背負っていたとか。


 聞いた限りでは、この国の民と変わりがないように感じた。クルイーク達もその点は不審には思わなかったらしい。しかし彼が持って来た品々は、いかにもな妖しさを放っていた。

 最初の頃はクルイークも警戒していたが、シャモが推薦してきたこともあり次第に警戒が薄れていったのである。何よりも、得られる恩恵が凄まじくて気が付けば酔いしれていた。


リジェネ「可笑しくないですか? 地上界では魔導具はあまり発達していないのでしょう」

ラソン「まあな。生活用品に少しだけ用いられている程度で、基本的は妖精がいるから必要を感じないし」

セレーネ「思ったんだけど、魔導具ってどこなら普通の物なのかな?」

リーヴェ「言われてみればそうだな。クルイーク達が身に着けていたモノは作りもしっかりしていた」


 出来栄えが良いという事は、普段から使っている文明がある事を意味しているのではないか?

 だとすれば、それは何処だろうと考える。


ラソン「天空人や精霊人は魔導具に詳しかったりするか?」

リジェネ「僕達が知っているは知識までです。実際に作ったり、使ったりするのはちょっと」

クローデリア「わたくし達は古代の言語には興味がありますが、機械方面は苦手ですわねぇ。好きになれないというのもありますが、我々が下手に使うと誤作動を起こすと言われてます~」

セレーネ「へぇ、大変ね」


 派手な展開をイメージして同情してしまうセレーネだった。

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