第47話 神樹と御子
夕刻、町まで来た盗賊達を恐る恐る招き入れた人々。
現在彼らは、町長を筆頭に町の人々の前で綺麗に整列して土下座している。リーヴェを除く一行も、クライスの呼びかけで集合し事の成り行きを見守っていた。場所は町で一番広い広場だ。
つけ足しておけば、リーヴェ(精神)はこの場に居合わせている。誰にも見えてはいないが。
少し離れた所に、盗賊達が運んできたこの町の盗品が小さな山を成している。
クルイークらは町の人々に「俺達を裁いてくれ」と懇願していた。当然ながら、町の人々は戸惑っている。
町長「ほ、本当に貴方達の処遇を私達に委ねるというのですか?」
クルイーク「ああ、知ってるだろ。この国にぁ、今罪人を罰する仕組みがない」
かといって自分達で罰を決めることは違うだろうと思う。然るべき措置をとってくれる場所がない以上は、こうする他に思い至らなかった。
ここにいる皆も、自分らが傷つけた人々からの罰なら甘んじて受けるだろう。どういった罰を受けるかわからない不安や恐怖はある。だが、罪悪感を抱えたまま何もされないで居続けるほうが彼らには辛かった。
町長「し、しかし……」
クルイーク「頼む、教えてくれ。俺達はどうしたらいい、どうしたら許して貰える?」
盗賊「お願げぇします。教えてください」
盗賊達が頭を下げたまま、口々に頼み込んだ。
困り果てた町長は、町の皆を集めて相談を始める。いろいろな意見が飛び交いなかなか決まらない中、一人の女性が盗賊の1人にそっと歩み寄る。
以前、アクセサリーを取られてしまった女性だ。彼女の手には戻ってきたアクセサリーが握られている。さすがに介入した方がいいかとリジェネ達が思った矢先の事だった。
女性が近づいて来たことに気づき、僅かに頭を上げて見上げる盗賊。
女性「も、もうこんなことはしないのよね? ちゃんと反省してる?」
盗賊「もちろんだ。あの時は本当に悪かった……この通りだっ」
より一層頭を下げて謝罪する。女性には見えないが、彼の瞼には汗と涙が滲んでいた。頭を下げたまま微動だにしない。
盗賊の様子を探るように見下ろしていた女性が、震えの残る声でそっと言った。
女性「なら、これから私達に態度で示して頂戴。私はそれでいい」
男性「そ、そうだな……正直、俺達も決めきれないし様子でも見るか」
老婆「ああ、もし半端な態度だったら承知しないよっ」
1人が方針を決めたことで、町の人々の気持ちも纏まったようだ。住人達が町長を促す。
町長は頷き返してクルイークの前に歩み寄った。
町長「貴方達のしたことに見合うだけの行為を、これから我々に示してください。貴方達の気持ちが本当なら、私達を納得させられるでしょう」
クルイーク「すまねぇ、恩に着る」
彼らの処罰は、これから町のために出来ることで報いることになった。
クルイークらが、「盗賊」という通り名から脱することができる日を願うばかりである。
リーヴェ(ふぅ、とりあえず決着だな)
リーヴェの心にも安堵が広がった。が、それもつかの間。逆らえない程に強い力で身体を引っ張られ、リーヴェの意識は突如ブラックアウトした。
人々が解散していく中で、身を小さくしたクルイークがリジェネ達に近寄ってくる。普段強気な彼でも居心地が悪そうだ。
クルイーク「いろいろとありがとな……と、あの凛々しい嬢ちゃんはどうした?」
リジェネ「はい、それが」
リジェネはクルイークに、町についてからの出来事を語って聞かせた。
クルイーク「そうか、悪かったな。俺達のために無理させちまって」
リジェネ「いえ、姉さんも『それはいい』と言うかと思います。気にしないで下さい」
ラソン「それよりもさ。リジェネ」
リジェネ「はい」
リジェネは後日、クルイークに詳しい事情を聞きたいと言う。出来たらリーヴェも交えて話がしたいので、少し待って欲しいとも。
クルイークは快く聞き入れてくれた。しばらく町にいるから、用があったら訪ねてきてくれと言い残して去って行った。
リジェネ達もさすがに疲れたので、大人しく宿屋で休むために移動するのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 操作キャラについて】
旅に同行しているパーティ参戦キャラ(バトルに参加する人物)は自操作することができる。
操作キャラを変更することによって、操作キャラの持っている戦闘外スキルがパーティ全体に効果を発揮することが可能。他にも操作キャラによって多少の変化がある。
例に例えるならば、戦闘外スキルの多いニクスの「ディスピアエッセ」だ。本来は彼1人にしか作用しない効果も、操作キャラの状態で使えば移動時のエンカウントを回避することができるぞ。
このように、戦闘外スキルの中には操作キャラの有無で効果に変化が現れる場合がある。
操作キャラの変更は、強制的に実行される場面もあるが基本は任意で変更可能。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ「……ここは、宿みたいだな」
という事は身体に戻れたのか。念のため身体に触れて確かめる。うん、ちゃんと戻れているみたいだ。
次に時刻計を、ベッド脇に置いてある荷物の中から引っ張り出して確認した。日付までは分からないが時刻は朝。
ベッドの上を移動して足を地に下ろし、座った姿勢のまま大きく伸びをする。腕を軽く回したり、折り曲げたりしてみた。不思議なほど倦怠感は消えていて体調も戻っている。頭痛などの気になる症状も感じない。
リーヴェは念入りに身体を解してから、ゆっくりと確かめるように起立した。部屋には誰もいないので、そのまま着替えを済ませてしまう。
着替え終わった頃、扉が開いてリジェネが入室してきた。
リジェネ「ね、姉さん。気が付いたんですか!」
リジェネは驚愕した後、思い出したように扉の影に隠れた。そっと顔を覗かせて「ごめんなさい」と言ってくる。顔が少し赤い。
リーヴェは最初ピンと来ていなかったが、少したってから「ああ」と思い至る。いつものように看病に来たつもりが相手が起きていて、しかも女性の部屋へノックもなしに入ってしまったからだと気づく。恋った反応を見ると、彼も年頃の男子なんだなと感じる。
リーヴェは腰に手を当てた。
リーヴェ「様子を見に来てくれたんだろう。気にしてないから、入ったらどうだ」
リジェネ「それはそれで問題です。ちゃんと気にしてくださいっ」
扉の影から飛び出し反論してくるリジェネの顔は、笑顔と泣き顔がごちゃ混ぜになっていた。
リジェネから倒れてからの事情を聞かされる。リーヴェが倒れたのはちょうど正午を過ぎた辺りで、それから約1日半経っているという事だ。意識が飛んでから1日近く眠っていたのか。
その後、医者に状態を見て貰って問題ないと診断を受ける。ラソン達も知らせを受けてすぐに駆けつけてくれ、リーヴェはセレーネの手料理を美味しく頂いた。皆の優しさが心にしみる。
リーヴェの口から自然と感謝の言葉が飛び出した。
クローデリア「あ、リーヴェさん。こちらを貴方宛てに預かってますぅ」
リーヴェ「鍵、か」
リジェネ「どうしたんですか、コレ」
どこの鍵だろう。柄の部分に羽ペンと本の絵が刻印されていた。
リーヴェは貴重品「どこかの鍵」を手に入れた。
リーヴェが目覚めたことで、これまでの情報を整理することにした一行。仲間達が使っている別室に移動し、各々くつろげる場所へ腰かけ会話に参加する。
まず皆が気になったのは御子と神樹についてだった。
ラソン「リーヴェは、御子の事に関する記憶は戻っているのか?」
リジェネ「…………」
リジェネが息を飲んだ。他の皆も少なからず緊張していた。
リーヴェ「ああ、最近ようやく思い出せた」
ラソン達がリジェネから聞いた事を伝え、それをもとにリーヴェが補足する。
神樹の御子とは前に少し触れた通り、神樹の働きを助けることが主な責務だ。
具体的に何をしているかと言うと、神樹の内部を通過しているマナの流れを管理し汚染を浄化すること。
マナの汚染を浄化するのは、神樹が存在意義ともいうべき働きが汚染されたマナに対しては働かないからである。流れを管理するのはそのままの意味で、神樹に到達したマナが神樹からはみ出さないようにすることだ。
リーヴェは称号「神樹の御子」を獲得した。効果はMPの成長率&闇属性耐性アップ。
神樹の御子は、天空人の中から選ばれる。御子の力自体は先天的なモノだが、御子となるまでは判別が難しい程に弱い。
だが、当代の御子の力が衰えて交代の時が近づくか、当代の御子が死亡した際に次の御子の力が高まり責務を引き継ぐのだ。御子としての活動時期はそれぞれに異なる。
王族以外で御子が排出された場合は、例外的に「マナの翼」が御子に与えられるのだ。
セレーネ「へぇ、御子にも翼があるのね」
ちょっと羨ましいと思うセレーネ。別に御子になりたい訳ではなく、翼があれば自由に空を飛べるという魅力から出た感想だ。
リジェネ「だけど、昔は天空人全員に翼があったんですよ」
ラソン「え、そうなのか。オレはてっきり、王族だけに許された力か何かだと思ってたぜ」
セレーネやクローデリアも彼の言葉に同意した。
今でこそ王族と御子だけの力だが、昔は等しく授けられた神々の贈り物だった。時とともに血と力が薄れて失ってしまっただけである。
クローデリア「まるで、地上界の絵本に出て来る天使みたいですね~」
セレーネ「まさにそうよねっ。夢みたい」
リーヴェ「話を続けてもいいか」
全員が静かになった。耳を傾ける姿勢に促されて話を再開するリーヴェ。
神樹のほうは、惑星の中心にそびえ立つ生命の柱である。
その働きは、正常なマナを惑星の生命力に変換して中心で輝く惑星の心臓へ送り込むことだ。マナが汚染されていると、神樹はマナを生命力に変換することができない。
ラソン「ちょっと待て。神樹が生命力を送り込んでる? その心臓ってまさか」
リーヴェ「20年前に消失したという太陽であり、月だ」
セレーネ「じょ、冗談でしょ」
リジェネ「神樹にそんな働きがあったなんて……」
てっきり、神樹そのものが命を司っているのかと思っていた。
クローデリア「もしかしてですが、精霊界のマナが枯渇している原因とも関係してますか?」
リーヴェ「残念ながら……心臓の輝きが消え、世界の命を育む力そのものが弱まっているからな」
リーヴェは口にしながら、眉間にシワを寄せ瞼を伏せた。




