第46話 それぞれの行動
気分転換も兼ねて町へ繰り出したリーヴェ(精神)は、まず宿屋を出て行った仲間達の様子を見に行くことにした。皆はどこにいるだろうか。
周囲に気を配りつつ、町の中を歩き回る。いや、別に歩かなくても移動はできるが身体が勝手にやってしまうのだ。
一番最初に見つけたのはセレーネとエルピスだった。彼女達は市場で食料の吟味をしている。
店の外観やスーパーと言うよりも八百屋や屋台に近く、垂れ幕で屋根にして店先に品物を陳列していた。もちろん屋内に陳列された商品もあり、セレーネはちょうど中間あたりで小さな小瓶をいくつも手に持っている。
エルピスは人の往来を邪魔しない距離で、セレーネの買い物を傍観していた。珍しい姿の妖精に近所の子供達が歓声を上げている。近寄ってくる子供達に控えめに吠えながら、一定の距離感を保って相手をしていた。
しつこく構われるのは苦手だが適度に遊ぶのは大好きだ。気持ちのいい場所を撫でられたりして、甘えた声を発している。
リーヴェは歩み寄ってふたりの様子を覗う。
セレーネ「うーん、病み上がりに刺激の強いモノはダメよね。かといって味がしなさ過ぎるのもどうかと思うし」
どうやら手に持っている小瓶は調味料のようだ。
セレーネ「ねぇ、エルピスどの味が良いと思う?」
エルピス『ガルルゥ……』
セレーネ「あ、ちゃんと答えてよ。もう、子供達とすっかり楽しんじゃって」
セレーネはエルピスに意見を求めたが軽く流されてしまった。
エルピスのほうは「コイツ、買い物長いんだよな」と言いたげだ。エルピスは、ただ防犯と荷物持ちを手伝うために外へ出ているだけである。彼としては早く用を済ませてしまいたい。
相棒がまったく当てにならないことにムッと唇を歪めながら食材の厳選に戻る。
セレーネ「宿の人に頼んでも良いけど、やっぱり手作りしたいのよねぇ」
呟きを漏らし、じっくりと時間をかけて選んだ物を購入する。セレーネが小袋をもって店から出て来る。
セレーネ「よーし、次の店よ! リーヴェが目を覚ましたら、あたしの料理食べて貰うんだから張り切っていくわよ!」
エルピス『ガルッ』
セレーネ「まったく、急に元気になっちゃって。調子いいんだから」
セレーネが元気よく拳を振り上げる。
リーヴェ「ありがとう、セレーネ」
セレーネ「え、ナニ?」
リーヴェ「っ!!」
セレーネがリーヴェのほうを振り向いた。
リーヴェはビクリと硬直し、セレーネはキョロキョロと首を回す。
セレーネ「アレ、今誰かあたしの事呼ばなかった?」
エルピス『ガルルル、ガウッ』
セレーネ「おっかしいな~。確かに呼ばれた気がしたんだけど」
どうも納得がいかないと言った風に首を傾げながらも、エルピスが先へ行ってしまうので急いで後を追いかけて行った。
リーヴェも他の2人を探して移動を始める。
続いて見つけたのはラソンだった。
彼は町の町長に事情説明をするため長の邸宅を訪問している。
町長「なるほど、そうでしたか。実に信じられないことですが」
ラソン「けど事実です。オレ達はこの目で見てきました」
町長の男は、盗賊団が熱砂の牙だったことにとても驚いていた。今までの活躍を知っているが故であろう。
この町の町長は非常に穏やかな人柄で、義賊と言う熱砂の牙にも寛容な感情を抱いている。長という立場から行為全てを受け入れられる訳ではないが、皆が想いを寄せる意味も理解はしていた。
町長自身も被害を受けたことはなく、子供の頃に憧れたヒーローのような彼らの活躍を楽しみにしていた節もある。
邸宅の質素な内装を見る限りでも、この国の現状が厳しいことが伝わってきた。町長と言えど、それほど裕福ではないらしい。
町長「彼らも人である以上、道を踏み外すことはある。ですが、それにしたって彼らに起きた事は普通ではないように思えますね」
ラソン「はい。彼らが根城にしていた場所は異常な有様でした」
怪しげな靄が立ち込め、戦闘に入るや理性を失う盗賊達。靄を発生させていた謎の黒玉。
何にせよ、もう一度詳しく話を聞いておく必要があった。
町長「とにかく、彼らが来た際は警戒だけに留めるよう皆には伝えておきます。……彼らが暴挙に走らない限りは、に限りますが」
ラソン「お心遣い、感謝します」
正直にいって、ラソンが言っても皆信じないのだ。町長の口から伝えて貰えるのは有難い。
ラソンは丁寧に頭を下げて町長邸を後にした。
ラソン「ふぅ、町長が話の出来る人で良かったよ」
緊張が一気に解れて息が漏れてしまう。だが、まだ解決したわけではないと気を引き締め直して次の行動へ歩き出した。と言っても、開いた残りの時間をどうするかはこれから決めるのだが。
リーヴェ「ラソンにも世話になりっぱなしだな」
本来は自分が行かなければならなかっただろう。
彼には戦闘でも、それ以外でもずっと助けられている気がする。自分も頑張らにとな、とラソンの背中を見て感じるのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ達より遅れて、アラビアンサハルを出立したクルイークの一団は砂漠を進んでいた。
可能な限り安全且つ最短距離を進む。総勢約50人の大所帯で砂漠を行くのは目立って危険なので、動きやすいよう10人程度の隊に分かれて町の手前で合流する予定だ。
持ち運べるギリギリの盗品が入った袋を担いだ仲間を中央に砂上を歩く。この調子ならば夕刻には町に着けるだろう。
盗賊団メンバーA「ボ、ボス。本当に行くんですかい?」
クルイーク「なんだ、今更怖気づいたのか」
盗賊団メンバーA「そ、そりゃ……」
どんな目に会わされるかわからない場所に行くのは怖い。罪悪感があるからこそ、いざその時が来た寸前に決意が鈍ってしまう。
記憶に残っている自分のしでかした所業を、自分自身がまだ信じられていないのだ。
クルイーク「この国は今上がいかれてる。罪状を裁ける体制がねぇ以上、俺達が自分から頭を下げに行くしかねーだろう」
盗賊団メンバーB「でも許して貰えなかったら……」
クルイーク「バカ野郎っ。許して貰えるように態度で示しに行くんだよ」
だからこそ、リーヴェ達を先に行かせたのだ。向こうに話をする機会を与えて貰わなければ意味がない。魔物が徘徊する町の外で許しを請い続けるのは命の危険が大きすぎる。拘束されても、町の中へ入れて貰えれば最低限の安全は確保できるのだ。
それに、せっかく信じて先に戻ってくれたリーヴェ達を裏切るなど義賊だったプライドに傷がつく。
遠目に町が望める場所まで来たクルイークらは、いったん足を止めて別動隊の合流を待った。陽が大分西に傾いてきた時刻にようやく全員が集合を果たす。
クルイークは集まった仲間達の不安げな顔を眺め、高らかに声をかけた。
クルイーク「いいか、どんなに時間がかかろうとも誠心誠意の謝罪を崩しちゃならねぇ。再び、歩き出すために!」
盗賊達「そうだ。再び、歩き出すためにっ」
全員の決意を確かめ、クルイークは仲間達を先導して町へ急いだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クローデリアはオアシスの傍にいた。やわやわと流れる風に、彼女の長い髪がなびく。
マナの光を反射し揺らめく水面を眺め、ちょっと残念そうに微笑んだ。
クローデリア「こんなに暑いのに、遊泳が禁止だなんて残念ですわ~」
オアシスの水は貴重なため遊泳は出来ず、水浴びをする際は容器などに移し替えてから行うのが決まり。それでなくても動物が使ったりするので少なからず汚れる。
砂漠での濾過作業は他でやるよりも大変な事で、苦労故に不注意で水を汚そうものなら大事になる。日の射さない現在はまだいくらかマシだが。
水辺を歩きながら涼んでいると、前方で子供達が集まっているのを見つけた。子供達の中央に何か白いモノがチラつく。
少女A「この子可愛い。抱っこ」
少年B「あ、ズルい」
少女B「あたしにも抱かせて」
少年A「コイツ、なんて言う生き物だ?」
少女C「ワタシ、知ってるよ。ウサギって言うの」
でも、こんなに真っ白いのは初めてとか、砂漠には普通いないよね、とか言っている。注目の的となっている白ウサギのほうは、非常に迷惑そう……というよりもかなり怯えていた。
クローデリア「あらあら、たいへ~ん」
クローデリアが急いでウサギを助けに走る。子供達の輪に割り込み、ウサギが嫌がっているからそっとしてあげてとお願いする。子供達は遊び足りないと言った体だ。
しかし、ウサギの気持ちを考えてみてとクローデリアが諭す。動物に無理させてはいけない、などとやんわり注意して子供達を諦めさせた。
少し時間がかかったが、子供達は各々にウサギへ謝罪して去って行く。
子供達が十分に去るのを確認してから、クローデリアは身を縮めて震えるウサギへ視線を移した。怖がらせないように膝を折り、出来るだけ優しく声をかける。
クローデリア「もう大丈夫ですよ~。獣亜人種のお嬢さん」
ウサギ「………………」
クローデリア「そうだ、良かったらわたくしの演奏を聞いて行って下さいな」
すっかり怯え切ってしまっているウサギの傍らに座り、彼女はリラックス効果のある曲を奏で始めた。少しでも恐怖が和らぎ、心穏やかになれるように祈りながら音を紡いでいく。
やがてウサギの耳がピクピクと反応を示すようになる。
リーヴェ(ようやく見つけた)
音を辿ってリーヴェ(精神)がクローデリアの姿を発見した。彼女の傍らには見慣れない女性の姿が見える。
人と変わらない身体にウサギの耳と尾が生えた20代くらいの女性だ。レンズの大きな丸眼鏡をかけ、ウェーブのかかったセミロングの髪は純白色。ふわふわのファーがついた手袋や衣服も白を基調としていて、所々に桜色の装飾と上品なリボン飾りがついている。
ほぼ後ろ姿のためリーヴェからは見えないが、瞳の色はルビーピンクだ。僅かに露出している肌も含め、全体的に白い人だった。
変わった容姿の人だな、とリーヴェは感想を抱いた。あの耳や尾は飾りだろうか、微かに動いているようにも見えるが……。
女性「とっても素敵な曲ですね。心が落ちつきます」
クローデリア「良かった。少しは元気になれましたか?」
女性「は、はい。……あ、申し遅れました。わ、わたし、シャンヌと言います」
クローデリア「わたくしはクローデリアですぅ。シャンヌさんは、こちらへご旅行ですか~」
何やら話しているが、リーヴェには上手く聞き取れない。妙に近寄りがたいのだ。
シャンヌは自信なさげに口を開いた。必要以上に辺りを気にしている。
シャンヌ「い、いえ……こちらに来ている友人が心配で。思い切って来てみたのですが、や、やはり外は恐ろしい事ばかりです」
1人で来るんじゃなかった、と心中で呟くシャンヌ。
さっきも沢山の人に囲まれて、物凄く恐ろしい思いをしてしまった。自分に向けられている視線が怖くて身体が動かず、本当にどうしようかと思ったのだ。
幼い頃から危険には敏感だったのに、どうして囲まれてしまったのだろう。元から人が怖いと感じるほうだった。けど、時々様子を見に来てくれる幼馴染が、また危険かもしれない所に行っているのが気になって仕方がない。
それに今回は、どうしてもやっておきたいことがあった。ここにいるという情報を掴んで来たのだ。
ちょうどいい、この人に聞いてみよう。今まで会った人の中では優しそうだ。
シャンヌ「あ、あの。この町に天空人の方がいらっしゃると聞いたのですが、ご、ご存じありませんか?」
クローデリア「ええ、わたくしの友人だと思いますわ。ですが今は……」
とても会える状態ではないとクローデリアは伝えた。リーヴェもリジェネも、客人を相手にする余裕はない。
シャンヌは項垂れ、思案した後にカバンの中から小さな光る物を取り出した。
シャンヌ「で、では。こちらをその方に渡して下さいませんか。出来たら、御子と言う人に渡して下さるように伝えて下さい」
クローデリア「? わかりましたわ。確かにお預かりしますぅ」
リーヴェ「なんだろう」
さすがに気になってゆっくり近づいてみるリーヴェ。2人の元まで行く頃には、シャンヌが深々と頭を下げて去って行くところだった。シャンヌは落ち着きのない様子で歩いていく。ある程度行った所で再びウサギに変身したのは言うまでもない。
立ち去っていく彼女の様子に気を取られている内に、クローデリアは渡された物を仕舞ってしまった。結局何だったのだろうか。
クローデリアの元を目指してクライスが飛んでいく。




