第44話 呼びあう宝石に導かれて
西側の3階と2階を繋げる階段の付近まで来たニクスは足を止めた。瞬時に身を隠す。五感を研ぎ澄ませて周囲の状況を探る。
盗賊「こっちへ来たはずだ、探せ!」
盗賊「アイツらどこに行きやがった」
盗賊「宝は無事なのか」
ニクスが来た時にはリーヴェ達は立ち去った後らしく、現場は騒然とごった返していた。
かなりの人数がいる。戦いは避けたいが、悠長に隠れている訳にもいかない。けれどすぐに立ち去る可能性があるので、ニクスは身を潜めたまま少しだけ待ってみることにした。
ニクス「…………」
しかし、一向に立ち去る気配がなかった。
見張りが何人か残るのは想像していたが、20人近くがここらを徘徊することは想定していなかった。いくら何でも残り過ぎだろう、侵入者を追う気がないのか、などと思わなくもないが仕方がない。
予定を変更し、レッグホルスターから拳銃を取り出す。コイツは、ニクスが状態異常や妨害工作を行う時によく使う銃だ。素早くサイレンサーを取り付け、弾丸を確認し、適切なポジションに移動後、物陰の隙間から銃口を敵の足元に向ける。
射線上に敵が入らないよう注意を払った。一度でも敵の身体に当たれば、こちらの存在を気づかれてしまう。よく狙いを定める。
ニクス(シュラーフ・ネーベル)
ニクスが拳銃を発砲した。
弾は敵の足元付近に飛んでいき、地面に触れる寸前に弾けて気化した。一定範囲内に霧状の催眠薬が散布される。弾丸本体も気化するようにできているので、何かへ命中しないように打てば弾の跡が残らない。
このスキルは弓でもやれるが、弓だと矢が残ってしまうため今は適切でなないと感じた。
どちらかと言えば霧に似た煙が、範囲内にいた敵全てを確実に眠らせる。ダメージは発生しない。
続けてもう一発、階段付近にも放つ。辺りに十分行き渡ったのを待ち、敵が全員眠ったのを可能な限り確認してから行動を開始した。
ニクス(まずはこの部屋からだ)
階段のすぐ近くにある扉の鍵を速やかに外す。多少の音が出るが使用した催眠薬は戦闘用なので、話声程度の音や軽くぶつかった程度の衝撃ではまず起きない。
室内に入るなり、ニクスは荷物の中からライトブルーの宝石が先端についたペンデュラムを取り出した。
この宝石は「鳴朝石(別名コーリングストーン)」と呼ばれれている暗黒界特産の鉱石である。特徴としてはライトブルーの中に淡い金の輝きが内包されており、対をなす「薔薇貴晶(別名ローズレディー)」が近くにあると反応して光る性質をもつ。
主に恋人や特別親しい間柄の間で人気のある宝石だ。基本的には男性側が鳴朝石を持ち、女性側が薔薇貴晶をもっていることが多い。
ちなみにニクスが持っている鳴朝石は、今回のためにシャンヌから使い魔を通じて調達したものだ。
ニクス「反応なし、か」
物品の収められた箱や袋に鳴朝石を近づけて確認する。
それなりの範囲に薔薇貴晶があれば反応するはずだが。部屋自体も広くはないので、反応しないならばハズレという事だ。
ニクスは近い部屋から道順に確認していく。出る時に鍵をかけるのを忘れない。開けるとき同様にそれほど手間にはならない。ここの鍵は至ってシンプルな作りだった。
ニクス(残るはこの部屋のみか……本当にあるんだろうな)
大きな南京錠がかけられているが関係はなかった。あっさりと扉が開く。
今までで一番広い部屋に入った途端、奇妙な気配とともに鳴朝石が光り輝いた。当たりだ。だが、今しがた感じた気配はなんだ?
部屋の奥から気配を感じた気がして確認に向かうニクス。
ニクス「こいつか……っ!!」
割と大きな箱の中に、見覚えのある黒い石がぎっしりと詰まっていた。ニクスは得心がいった。
おおかた、ベリーニ卿かホレスト郷の仕業だろう。ニクスが知る作戦概要からしても、2人のどちらかしか考えられなかった。
ニクスも薄々感づいてはいたが、作戦内容の一部が意図的に伏せられている。他の者は知っていても、ニクスが知らない事は確実に存在していた。
ニクスが見ている前で、黒い石が変色し次々と砕けていく。部屋内に充満していた黒い靄も消えていった。
ニクス「どういうことだ?」
考えてもわからないと判断したニクスは、目的の物を探すためにペンデュラムに意識を戻す。反応を辿り、中間近い壁際の棚に収められた箱の前まで来た。手袋をしている手で、目的の物を箱の中から探して取り出す。
それはシンプルだが品の良い造形のブローチだった。中央には薔薇貴晶が艶やかに輝いている。
薔薇貴晶はピンク色の本体の中に、薔薇の花弁を散りばめたような紅色の光沢をもつ美しい石だ。
他にも紫や青、黄の色のものが存在するが、薔薇の前に色が入っていないものは最も一般的なピンク色の物をさす。ブローチの宝石はスタンダードな色合いである。
ブローチが傷つかないように用意してきたケースに入れて懐にしまう。
ニクス(今回は運がよかったな)
潜入やブローチの事だけではない。頼みごとを引き受けたのには、ここにあるかもしれない黒い石を破壊する目的もあった。盗賊の噂を聞いた時からもしやと思っていたのだ。
石を破壊するために、運び屋からこの国でしか採れない素材を入手し武器をエンチャントまでしたのである。武器エンチャントとは、装備品に特殊効果や属性を後付けで付与すること。ニクスは職人の知り合いからエンチャントの術を教わっていた。
見取り図はともかく、情報はほんのついでに聞いただけなのだ。
ああなってしまえばもう害はないだろう。むしろ、下手に持ち出せば却って怪しまれる恐れがある。
ニクスは目的のブローチだけを持ち出して部屋を後にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ「ここは……」
リーヴェの意識は、不思議な感覚を覚えながら覚醒した。なんだか、全身がふわふわする。身体は……よし、動く。
リジェネ「姉さん!!」
リーヴェ「えっ」
視線の先には倒れている自分と、心配する仲間達の姿だった。
う、嘘だろ……私は確かにここにいるのに。改めて自分の身体を見ると、なんと透けていた。透けている身体を構成しているのはマナのようだ。
つまり、今リーヴェの意識はマナを通じて仲間達の様子を見ているという事か。試しにリジェネやラソンの眼前に手を晒してみるが、まったく反応を示さない。見えていないようだ。
リーヴェ「神樹の御子はマナへの感受性が特別に高いが、まさかこんなこともできたとは知らなかった」
リーヴェ(もしかしたら、今なら他の場所……天空界の様子を見れるのでは?)
好奇心と純粋な里心が湧いたリーヴェは移動を試みた。
今は半ば浮いているような状態だから、空を飛ぶ時の要領で身体を動かしてみる。しかし、残念なことに移動出来た距離はせいぜい町の中までであった。本体から遠く離れた場所にまでは行けないのだろう。
まあ、そう都合よく行くはずもないか。
リーヴェは移動を諦めて、リジェネ達の様子に意識を向けた。話の内容から、宿屋へ向かうみたいだ。
リーヴェの意識も、仲間達とともに移動することにする。
※リーヴェが一時的に戦闘メンバーから外れました。
彼女が復帰するまでの基本操作キャラクターは「リジェネ」になります。
急ぎつつもリーヴェの身体に、負担をかけないよう気遣いながら宿屋に向かうリジェネ達。
パーティ内で一番力のあるラソンに彼女を背負って貰い、ラソンの大剣はリジェネが預かる。クロ―デリアは少しでも効果があるかもしれないと、絶えず治癒術をかけてくれていた。こういう時、自分にもっとできることがあればとリジェネは歯噛みする。
身長的にはリジェネが背負うほうが最適だろうが彼は軽装でも鎧を着ている。鎧を着たまま人1人を担いで動き回るのは厳しい。時間が惜しい今、鎧をわざわざ脱いでいる暇もなかった。同じ前衛でも、ラソンの方が身軽な格好をしているのである。
セレーネ「あたし、お医者さんを呼んでくるっ」
リジェネ「お願いします」
途中の分かれ道でセレーネが医者を呼びに別行動をとった。
必死に駆け足すること数分、リジェネ達はようやく宿屋に辿り着いた。ここまで来るのに時間がとても長く感じた。
宿の人に事情を手短で話して部屋へ通して貰う。しばらくして、医者を連れてきたセレーネが宿の人に案内されて入室する。
すぐさま診察を始める医者の様子に、リジェネ達邪魔にならないよう一時退室することにした。部屋の外で息を飲んで結果を待つ。宿屋の人の計らいで別室を用意して貰った一行は、リジェネ1人を残して移動した。通路にいても邪魔になるだけだ。
リジェネ「姉さん……やっぱり、あの時止めるべきだった? でも」
小声で呟くリジェネ。姉の身を案じながら、黒玉を前にした時の対応を思い返す。
あの場所はかなり危険な状態だった。最悪ではないにしろ、どうにかしないといけない程に。かといって御子の力は……でも、それを伝えたとしてリーヴェは素直に引き下がっただろうか。
リジェネ(いや、性格的に無理ですよね)
苦しんでいる誰かを放っておける質ではない。記憶も戻りつつある様子も見せていた。リジェネ自身も、御子の力について思慮が抜け落ちていた。
やってしまった、と言う感覚がリジェネの心中に広がっていく。自然と視線が足元へ向いてしまう。
リジェネ「ああ、どうか僕を罰してください。姉さんを助けて」
リジェネは強く祈りを捧げて待ち時間を過ごした。
どれだけ時が経ったのか。必死に祈り続けるリジェネ前で、静かに扉が開いた。出てきた医者にリジェネが飛びつく。
リジェネ「姉さんはっ、姉さんはどうなんですか!!」
医者「まぁ、落ち着いて。君、彼女の弟さんかね?」
リジェネはコクリと頷く。医者はリジェネを連れて、別室に移動した。室内には、不安な面持ちでいるラソン達の姿もある。医者が数泊置いてからゆっくりと口を開いた。
医者の話では、命に別条はないという事だ。ただリーヴェの症状の原因が判明できず、しばらくは安静にして様子を見るようにという事である。医者にとっても初めての事例だったらしい。
何かあればすぐに呼ぶように告げ、医者は帰っていった。リジェネ達は見送る際に手厚く礼を言う。




