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第43話 侵入者と潜入者

 目的地に来たリーヴェ達が見たのは、3階全体と2階の階段付近に倒れる人々とうっすらと残留している煙だった。人は20人くらいはいるだろうし、煙の色は白っぽい。

 煙を見た瞬間から、口元を手や布で押さえながら進むリーヴェ達とクルイーク一行。 

 壁や床には戦闘によって飛び散ったと思われる少量の血痕が残っているが、倒れている人々には掠り傷程度の怪我しか見当たらない。大量出血している風でもなく、最も有力なのは毒物によるものだが……。


盗賊「ぐぅぅ、がぁぁ……」


 ん? どこからか聞こえてくる男の声。声のもとを辿るクルイークは、倒れている人物を確認し気の抜けた声を上げた。


クルイーク「なんでぃ、眠ってるだけじゃねーか」

盗賊団メンバーC「え……」

リジェネ「あ、本当です。この人達、寝てますね」

クローデリア「全員眠っているだけのようですわ~」


 リーヴェも確認するが、確かに眠っているだけだ。寝息がはっきり聞こえるのは、クルイークの傍に倒れている1人だけのようであるが。

 ならば、この残留し漂っている煙は催眠ガスという事だ。


クルイーク「てめぇ、しっかり確認しろやっ」

盗賊団メンバーC「すんませんっ、ボス!」


 実に紛らわしい言い方をしやがって、と叫ぶクルイークと肩を縮める男の様子に苦笑いが浮かぶ。こんな状況を見れば、誰でもビビるだろう。ちょっと注意深く見るだけの行為でも、うっかり忘れてしまう事だってあるものだ。


 クルイークは怒鳴るのは程々にして現状把握に戻った。その前に、クルイークらはリーヴェ達に謝罪を言う。誤解が解けて安心する一行。

 ここには盗品以外にも、貴重な物が保管してあったりする。黒い石がはめられた魔導具の予備も鍵部屋のひとつに保管されていた。

 酷い怪我をしている者はいなかったので、呼んでもゆすっても起きない面々は一時放置して鍵部屋の確認に移る。


クルイーク「ん、僅かにこじ開けられた形跡があるな」

盗賊団メンバーC「マジですか」


 どの鍵穴にもピッキングの後があるのを確認した。本当に僅かなので、注意深く見なければ気づかないくらいだ。現に確認に来たメンバーCは気づかなかった。

 クルイークは扉の鍵を開け、仲間を伴って内部の確認を行う。


 室内の様子は記憶にあるものと変わりがないように感じられた。目立った物品の被害はなく、先の騒動で少々乱れている程度だ。鍵開けの痕跡があったから警戒していたが拍子抜けだ。

 いったい侵入者は何がしたかったのだろうか。

 リーヴェ達も彼らの後に続いて部屋内を改めた。凄い物品の数だ。全部が盗品ではないと事前に聞いてはいたが、相当に物資をため込んでいたと伺える。


ラソン「本当にオレ達以外の侵入者がいたのか?」

リジェネ「とても信じられないですよね」


 襲撃の際も今も、そんな人物には遭遇していないし目撃した記憶もなかった。


セレーネ「お宝の山」


 セレーネの様子が妖しい。が、さすがに盗品かもしれない物に手は出さないと思うので、ここは彼女を信じてリーヴェは黒い宝石の予備がある部屋を開けて貰うことにした。

 場所はラソンが調べた南京錠のかけられていた扉だ。


クローデリア「わ~、ここは特別広いですねぇ」

リーヴェ「黒い石は……」

クルイーク「奥だ。木箱の中に纏めてある」


 リーヴェが注意深く奥の木箱まで歩み寄り、慎重に箱の中身を改めた。爆発などはしないと思うが、用心に越したことはない。

 確かに中身は全部、黒い石だったと思われる残骸の山だった。見事に全部砕けて色も白くなっている。リーヴェの力はきちんとここまで届いていた。禍々しい気配もすっかりと消えている。

 ほんの少し気が緩み座り込んでしまうリーヴェ。


クルイーク「おいおい、大丈夫かい」

リーヴェ「ああ、少し気が抜けただけだ」


 眠気まで襲ってきそうだったので、再び気を引き締めた。まだだ、まだやることが残っている。多分、一度休んだらしばらく動けなくなるだろう。それだけは、今避けなければならない。


盗賊団メンバーG「あれ~、おっかしいなぁ」

クローデリア「何がおかしいんですか?」


 一緒に入ってきた1人が周囲に目を向けながら声を上げた。しきりに視線を動かしている。


盗賊団メンバーG「なぁ、確かこの前スッゲー変わった装飾のブローチを拾っただろ?」

盗賊団メンバーF「ああ、アレか。そいつがどうしたんだ」

盗賊団メンバーG「ソレ、この辺に仕舞ったはずだけどねぇーんだよ。さっきからずっと探してんのに」


 言って一緒に探す男達。そこに他を見てきたリジェネ達がやって来た。

 訝しむ仲間達に軽く事情を説明するクローデリア。


リジェネ「拾ったブローチも盗品なんですか?」

盗賊団メンバーG「どうだろうなぁ、砂漠じゃあ魔物に襲われて逝っちまう奴も珍しくねーし」

盗賊団メンバーF「ここ数年は特にな。キャラバンの運行が厳しくなって、

上のヤバい噂も流れて外へ行こうとした奴もいてよ……そこに魔物の狂暴化だとか、活動の変化とかでな」


 つまり持ち主不明の遺品の可能性もあるのだ。

 この世界では魔物に襲われて品物を失くした場合は、戻ってくるほうが稀である。ましてや魔物にやられて残された物は、拾った者がそのまま貰っても罪には問われない。遺族に渡せればいいだろうが、魔物に襲われるなんて当たり前の世界でソレを行うのは至難の業だ。

 だったら、拾った者が有用に使ってくれたほうが良いのかもしれない。むろん、返せる目途があるのならそれに越したことはないが。


クルイーク「侵入者の目的はブローチだった、ということか」

盗賊団メンバーG「そんなぁ、アレ結構気に入ってたのに……」

盗賊団メンバーF「まあまあ、もしかしたら持ち主の所に帰りたかったのかも知れねーぜ」

クローデリア「ええ!? この世界のブローチは足がついているのですかぁ~」

リジェネ「おそらく持ち主の依頼で取りに来た誰かがいたかもしれない、という意味だと思いますよ」


 状況から見て、だたの泥棒と考えるのは難しい。全ての扉を開ける術を持っているのなら、他の金品に手を出していないのは不自然だ。ブローチをピンポイントで狙ってきたのなら、誰かの依頼で回収に来た可能性が高かった。


 もしくは、個人的にブローチ以外に用がない理由でもあったか。時間がなかったとしても、幾らかを持ち出すことくらいはできたはずである。

 しかし侵入者は、一度開けた扉をわざわざ締め直して立ち去っていた。煙が残留している以外に、侵入者の手がかりになりそうなモノは残されていないようだ。



 アラビアンサハルの入り口前。


クルイーク「悪いな、準備にはもう少しかかりそうでよ」

リーヴェ「それはいいが……本当に先に行っていいのか」


 町の人々に依頼された手前、もしも彼らが来なかったらと不安になる。盗賊団への襲撃は未明から始めたことと、長期戦にはならなかったこともあり日はまだ高い時間帯だ。正午にすらなっていない。

 クルイークは力強くポンと胸の前に拳を作り、はっきりと言い放った。


クルイーク「男に二言はねーよ。必ず、後を追いかける……約束だ」

リーヴェ「わかった、信じてるぞ」

クルイーク「おうよ」


 一行とクルイークは一時の別れを告げる。リーヴェ達はクルイークに見送られてアラビアンサハルを後にするのだった。



 道中は予定よりも安全且つ、早く町まで戻ることができた。クルイーク達に教えて貰ったおかげだ。さすが砂漠各地で活動していただけの事はある。

 ――しかし。


リーヴェ「…………」

リジェネ「姉さん!!」


 コルナの町に着いた途端、限界を迎えたリーヴェが倒れてしまった。リーヴェに駆け寄り身を案じる一行。必死で呼びかけ、回復薬や術をかけても目覚める様子はなかった。とにかく落ち着いて、どこか横になれる場所に移動しなくては。

 ここからだと、病院に行くよりは宿屋のほうが近い。一行は倒れたリーヴェを抱えて急ぎ宿屋を目指した。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 リーヴェ達の襲撃とほぼ同時刻、アラビアンサハルの別区画に潜入する人影が1つ。


ニクス「潜入成功。さて、どこから取り掛かるか」


 ニクスは気配を殺して物陰に身を潜め、首都で運び屋も兼ねている情報屋から入手した見取り図を確認する。

 現在地から一番近いのは東側の建物群か。情報屋の話では、金品や物資を補完する場所は定期的に変更しているという事だ。個人的な事情からここの連中との接触を避けていると言っていたから、彼の記憶にある場所は当てにならない。


ニクス(まったく、面倒なことを頼まれたものだな)


 ニクスはデリス郷の親衛隊から、ある物探しを手伝わされていた。一応事情も聞いていて、その内容が実に仕様もない。

 首都ラ・パルタへの移動中にすり鉢穴の密集区域を通り抜きようとしていた時、デリス郷と親衛隊は運悪くマザー・サンドロンブリスに遭遇したという。


 気まぐれで奴がたまに落とす「サンドストーン」が欲しいと言われ、親衛隊が奮闘している最中にデリス郷はある物を紛失してしまった。しかも失くした物は彼女がとても大事にしていた物だったのだ。デリス郷は激怒。

 かくして親衛隊は、彼女が失くしたある物を探すこととなったのである。


ニクス「はぁ……」


 思わずため息が出てしまう。思いっきり自業自得ではないか。

 なかなか見つからないからと言って、こちらまで巻き込まないで欲しいものだ。まあ、ニクスのクラスはこういった事が得意ではあるが。

 ニクスは頼まれ引き受けた以上は全力を尽くすと決めているので、気を取り直して探索を開始した。



 足音を消して敵との遭遇や戦闘は極力避け、東側からしらみつぶしに探索を行う。人相手に戦うのはいろいろと面倒だ。それでなくても戦闘している時間が惜しい。ニクスには、他に行かねばならない場所があるのだ。

 迅速且つ、丁寧な行動を心掛ける。残ってしまう痕跡は最小限に抑えてサハル内を移動していく。

 どこからか喧騒が聞こえてくる。


ニクス「なんだ……侵入者、正面から攻めてきた?」


 耳を済ませて、喧騒の一部を辛うじて聞き取った。

 なるほど、妙に警備が手薄だと思ったらそちらに集中していたのか。


ニクス(チャンスだな)


 誰だか知らないが、敵の目が侵入者に向いている隙に用を済ませてしまおう。身軽な動きで人目につかぬよう高所と低所を器用に移動するニクス。

 移動中、彼は自分以外の侵入者を遠目から視認した。見覚えのある連中に内心で驚く。


ニクス(まさか、あいつ等だったとはな)


 少しだけ彼らの動きを意識的に観察する。

 あいつ等、敵を殺さない気か。侵入時から気づいていたこの場の状態を考えると、かなり無理がある作戦だな。リーヴェとリジェネ、と言ったか……あの2人にはここの空気は辛いだろうに。

 だが悪いな、今回は囮になって貰う。


 移動を再開しながらニクスは考える。見覚えのない面子がいたな。1人はおそらく精霊人か、こっちに来るなんて物好きなのもいたものだ。

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