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第42話 盗賊団の真実

リーヴェ「ふぅ……」

リーヴェ(なんとか……上手く、いったか)


 リーヴェは大きく息を吐きだし剣を鞘に収めた。全身に酷い倦怠感を感じ、少しでも気を抜くと倒れ込みそうになる。意識的に足へ力を込め、ゆっくりと確かめるように仲間のもとへ歩いて行った。

 全身から力が抜けないように気をつけながら、周囲に感覚の一部を巡らせてみる。

 さすがに今回は、リーヴェにも殆ど経験のないケースだった。まさか、人に憑いているものまで浄化することになるとは思わなかった。上手くできているか不安がある。


 アラビアンサハル内から黒い靄は完全に消え失せ、盗賊達も空気もすっかり正常な状態に戻っていた。彼らを暴走させていたモノが取り除かれているのをしかと感じ取る。

 戻ってきたリーヴェに、安堵の様子を見せる仲間達。疲れ切った顔で、各々の無事を噛みしめ合う。


クルイーク「ん、うぅ……」

ラソン達「っ!!」


 クルイークが小さく身じろぎ、リーヴェ以外のメンバーが収めていた武器に手をかけた。


リーヴェ「皆、大丈夫だ。もう彼は」

ラソン達「えっ」

クルイーク「んん、ここは……俺はいったい。なんだ、おめぇらは!?」


 目覚めたクルイークは眉を歪め、迫力のある顔をしかめて身構える。

 リーヴェは仲間達に武器から手を放すように伝え、少し危なげな足取りで訝しむ男の前に進み出た。正直にいって、怖いと今更ながらに思う。それに弱っている姿を盗賊団の頭目の前に晒す訳にもいかない。

 リーヴェは、見た目には悟られぬよう気丈な態度で声をかけた。


リーヴェ「唐突で混乱しているだろうが、2つほど確認してもいいか」

クルイーク「なんだい兄……いや、嬢ちゃん」


 クルイークは言いかけた時に、目を凝らしてリーヴェの性別を見抜く。パッと見ただけはよく男と間違われるリーヴェだが、見る者が見ればちゃんと見抜ける。

 だが、彼が見抜ける人物だったとは少し予想外だった。意外と話せそうな印象を受ける。ちょっとだけ緊張の糸が緩む。いかん、油断は禁物だ。


リーヴェ「貴方は盗賊団の頭目で相違ないか? 自分達が町の人々にしたことの自覚は」

クルイーク「ん? ちょっと待て。盗賊……俺達は熱砂の牙だぞ」


 だが、と困惑しながらも自身の記憶を必死で手繰るクルイーク。どうも記憶の整合性が曖昧の様子で、完全に思い至るまでに時間がかかっている。これも黒い靄、マナ汚染や負の活力の影響だろうか。

 リーヴェは話を聞いている間も、瞼を何度も開閉させていた。視界が微かにぼやけている。眉間を指で押さえて、白黒する視界を堪えた。

 まだ安心できる状況ではないので、悟られぬようにそっと深呼吸をする。倦怠感は徐々に増す一方だ。


ラソン「熱砂の牙っつうと、町の人々が話してた」


 熱砂の牙については首都に立ち寄らなくても町の人々が噂しているので、リーヴェ達が知っていても不思議はない。カンディテーレに住んでいる人なら、名前くらいは知っている有名人だ。


リジェネ「ど、どういう事ですか。盗賊団が義賊?」

リーヴェ「つまり、彼らは元は義賊で……負の活力で汚染されたマナの影響を受け、暴走した結果が盗賊だったということか」

ラソン「負の活力とか、汚染とかってそんなにヤベーもんなのかよ」

セレーネ「確かに、あたし達も荒っぽくなったりしたけど」


 天空人の2人以外は、いまいちピンと来てなかった。クローデリアでさえ、存在を知っているだけで詳しい訳ではない。この中で、両者の事を一番よく知っているのはリーヴェだけだ。

 リーヴェは再び眉間に浮かんだシワを指でほぐす。


クローデリア「大丈夫ですか?」


 クローデリアがこっそり声をかけてくれる。リーヴェが気丈に振舞う理由を、彼女なりに察しているのだろう。リーヴェは大丈夫だと答える。ラソン達のほうは疲れと情報の錯綜で、リーヴェの様子にまで気が回っていなかった。


 混乱のあまり、上手く意見交換ができていない。特にラソンとセレーネは、何から質問すればいいのかわからなくなっている。

 リーヴェはなんとか纏めなくてはと思うが、疲れすぎていて思考が追いつかない。深呼吸をして声を絞り出す。


リーヴェ「皆、今はまず外の様子を確認しよう」

ラソン「……そうだな。他の連中がどうなったか見に行かねーとな」

リジェネ「はい。行きましょう」

セレーネ「賛成。あたし、もう頭がパンクしそうだもん」

クローデリア「わたくしも異存はありませんわ~」


 全員の同意を得られたことで、改めてクルイークに視線を向ける。


リーヴェ「貴方にも同行してもらうが、構わないか」

クルイーク「ああ、もちろんだ」


 一行はクルイークを伴って外へ向かった。本人の了承を得て、一応拘束はしておく。


 リーヴェのスキル「ルーメン・テンプルム」が解禁された。

 戦闘外のフィールドにある毒ガス系ギミックを、一定時間防ぐ光の結界(聖域)を自身の周囲に張る効果がある。負の活力やマナ汚染を浄化する聖天魔法だ。

 ※このスキルは白翼のプラチナソードを装備時及び、ストーリーイベントでは詠唱せずに効果発揮できる。ストーリーの都合により、スキルの中で唯一効果範囲の設定が特殊。



 リーヴェ達が去った後、ボス部屋だった場所に一人の男が現れた。ずっと影から様子を見ていたシャモである。彼は一行が去って行った方向に視線を向けながら眼鏡のブリッジに指を添えた。

 なんの表情も感じ取れない面持ちで、服の上から首にかけているモノを握る。


シャモ「これは、なかなかに良いモノが見られましたね」

シャモ(やはり、私の目に狂いはなかった)


 シャモが顔はそのままに声だけで笑う。

 もう一度、意味もなく眼鏡に手をやる。


シャモ「では、私もそろそろ行くとしましょう」


 誰に言うでもなく呟き、シャモは頭目の後を追わずに歩き去っっていくのだった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



盗賊団メンバーK「オレ達、今まで何を……」

盗賊団メンバーL「うあああ、本当になんてことをー」

盗賊団メンバーM「え、え、ええー」

盗賊団メンバーD「うん? 記憶はあるのに、上手く思い出せないぞ……」


 屋外に出てみると、アラビアンサハル内は別の意味で騒然としていた。

 地に膝をつき頭を抱える者、憑き物が落ちた顔で呆然と立ち尽くす者、絶えず声を上げている者、今にも泣き崩れそうな者など様子は様々だ。全員自らが犯した悪行をうっすらは覚えているだけに、「穴があったら入りたい」状態でパニックを起こしている。


盗賊団メンバーB「ああ、ボス!」


 全員の視線がリーヴェ達の後ろに立つ男に注がれた。不安と困惑の声が上がっている。

 クルイークの心中も彼らと変わりはなかったが、頭目らしい声音と態度で、けれど若干申し訳なさを残した口調で口を開いた。


クルイーク「静かにっ、男がピーピーといつまでも喚いてるんじゃねぇ!!」

盗賊達「ボスっ」


 皆の口が閉じ、場が一斉に静まり返る。年齢層が異なる男達の視線が一途にクルイークを見据えていた。


ラソン「すげぇ……」

リジェネ「迫力がありますね」

セレーネ「うん」

リーヴェ「…………」

クローデリア「皆さんのお顔が、まるで劇をしているようですぅ」


 静かな空間に響き渡ったクローデリアの声に、全員の視線が反れる。ここでようやくリーヴェ達の姿に気づいたようだ。

 このタイミングでズレた発言をした所為で皆の視線が痛い。一行の心中に、彼女へのツッコミが響く。


クルイーク「とにかく、だ。やっちまった事はどうしようもない……コルナに行くぞ!」

盗賊達「へいっ」


 威勢よく返事を返し、荒い足取りで準備に取り掛かる盗賊達。乱暴に走り回るので、あちこちで小さな砂煙が上がっていた。


盗賊団メンバーC「大変だっ」

クルイーク「どうした」

盗賊団メンバーC「すぐに持ち運べる盗品を取りに行ったら、そしたら……仲間が大勢倒れてるんだよ! 呼びかけても返事しねぇーんだ!!」

クルイーク「なんだと、まさか」


 クルイークがリーヴェ達に鋭い視線を向ける。


ラソン「お、オレ達はとどめを刺してねーよ」

セレーネ「うん、怪我はさせたけど殺してないわ」

リジェネ「信じて下さい。お願いします」

クルイーク「本当かい?」


 クルイークの視線がリーヴェに注がれた。彼の目から見て、リーヴェが集団のリーダーだと感じたのだろう。全員の言い分も聞くが、リーダーであろう人物の意見も確認しなくては気が済まなかった。

 リーヴェは少し間をおいてから重い唇を動かす。


リーヴェ「本当だ……誰1人殺めてはいない。別行動をとった仲間もいなかった」


 互いにまっすぐと視線を合わせ、沈黙を交わした。言い分に嘘がない事を探り合う。

 ――数分後。ずっとここで話していても始まらないと感じ、リーヴェ達はクルイークらと共に西側の鍵部屋が多かった場所を目指す。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【サブエピソード27  姿を消した男】

 慌ただしく動き回る盗賊達。


盗賊団メンバーE「なあ、シャムさんはどこ行ったんだ?」

盗賊団メンバーM「そういや見掛けないっすね」


 一部のメンバー達が、我に返ってみて気づいた事を意見していた。

 いつもだったら、こういう時に一番頼りになるだろう人物の1人だ。現に今まで、統率の難しい連中を上手く纏めてくれていた。ボスの手が届かない所をカバーしていたはずだ。


盗賊団メンバーA「お前ら、早く準備しないとドヤされるぞ!」

盗賊団メンバーE「オマエ、シャムさんを見掛けなかったか」

盗賊団メンバーA「……いないのか?」


 そのまま立ち去ろうとしていた男が足を止める。

 言われて周囲の人々に目を向けるが、確かに彼らしき姿は見当たらない。シャムの容姿は、ボスと同じくらい目立つ。建物の中にいる可能性も考えられるが、他のメンバーに聞いても見ていないという事だった。

 先程もボスの傍に彼の姿はなかったし、いったい何処へ行ってしまったのだろう。


盗賊団メンバーM「変だよなぁ。あの人、僕達が混乱している時は率先して仕切ってくれるのに」

盗賊団メンバーE「ホント、どこ行っちゃったんだろ」

盗賊団メンバーK「おーい、おめぇら倒れてる連中を運ぶの手伝ってくれ~」


 揃って眉間に深いシワを作り話し込んでいた彼らに、遠くから救援を呼びかける声が投げかけられた。思っているよりも負傷者が多くて人手が足りないのだ。ボスも別件で西側に行ってしまったし、現場は大混乱を極めている。

 シャモの行方は気になる所だったが、仲間達の救助を優先し走り去っていくのだった。

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