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第40話 チカラの予感

 リーヴェ達が盗賊団と戦っている最中、暗黒界にあるシュバルツブルグの城内では。

 以前は気づかなかった黒い靄が、うっすらと城内を漂っている。主な発生源は、ホレスト郷らが収集してきた黒いキューブだ。キューブの中に圧縮されて入っている何かを、専用の器具を用いることで気化させている。

 お香を嗜むかの如く、放出されている気体を気にする者は城内には1人もいない。


 王族だけが出入りを許可されている封儀(ふうぎ)の間にて、ルシフェルス陛下は不気味な笑みを浮かべていた。本来は常に輝いている魔法陣だが、現在は図形だけが刻印された床でしかない。

 封儀の間とは「暗黒界の王族があるモノを封印していて、その封印を遠隔で操作するための場所」である。


 ルシフェルス陛下の傍らには、地上界の様子が映し出された不思議な水の入った器が設置されていた。これは「水鏡(みずかがみ)」と呼ばれる魔導具で、遠くの出来事や風景を覗き見ることができる便利なものだ。


陛下「ふははは、良いぞ。もっとだ、もっと苦しめ、御子よ」

 ――地上人は素晴らしい。もっと力を、負の活力をもたらせ。


 陛下の内面に響く不明瞭な声。陛下の声とも違うし、一字一句において声のトーンが違う不自然さがある。


陛下「足りぬ、まだ足りぬぞ。我らが永劫の力を得るには、今のままでは足りな過ぎる」

 ――そうよ、もっと求めなさい。貴方達の望みを叶えられるのは我のみ。


 天を仰ぐように両腕を広げ、高笑いする巨躯の男。1人で愉悦に浸る姿は、実に奇妙な光景でしかない。

 

陛下「……本当に、ヒトとは愚かなモノよ」


 最後の一言は、彼の声と謎の声が交じり合った感じで封儀の間内に響いた。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 アラビアンサハルでの戦いは続いていた。

 リーヴェ達は迫りくる盗賊らを倒して進みながら、靄の発生源と頭目の姿を探す。手当たり次第に部屋の扉を開けて中を確かめるも、出会うのは下っ端連中だけだ。戦闘になる度にダメージを受けるリーヴェとリジェネのHPには常に気を使う。

 幸いなのは、遭遇する敵が力任せに攻めてくることだろうか。盗賊と聞いて、もっと小賢しい手を使ってくるのかと想像していたので少し拍子抜けだ。


ラソン「こいつ等、妙に力に自身があるみたいな動きで来るな」

セレーネ「うん。もっと不意打ちとかしてくるのかな、と警戒してたんだけどね」

クローデリア「あの黒い石から放出されている力に、酔っているようにも見えますわ~」

リジェネ「はい、あの黒い石が彼らの能力を引き上げている気がします」

リーヴェ「…………」


 最初の敵もそうだったが、奥へ進むほど敵の様子が明らかに違ってくる。半分、狂気状態に陥っている気がしてならない。

 半分と思ったのは、ただ通常攻撃を繰り出すだけなくスキルも多少は使ってくるからだ。戦闘時の連中の様子は、とても正気の沙汰とは感じなかった。自分や仲間が傷つこうが物怖じすることなく襲ってくる。少しくらい動揺を見せてもいいはずなのに。防御もほぼほぼしてこない。



 探索を続けてい行く内に、仲間達にも変化が現れた。


セレーネ「ああもうっ、ここ広すぎ! 敵ウザすぎ……もう全部焼き払った方がよくない?」

リジェネ「せ、セレーネさん!?」

ラソン「がぁ~、なんか知らねーけど無性にイライラして来たぞ。セレーネも、煩いんだよっ」

クローデリア「ラソンさんまで……」


 ラソンとセレーネの思考が、徐々に過激になっていくのを言葉の節々から感じた。溜まっていたモノが一気に噴き出したかの如く声を荒げる2人。

 数十分前までは平常通りだったのに、今ではこのありさまだ。2人の言葉が次第にエスカレートしていく。

 戦闘中は荒っぽくなるところがあっても、平時はいったてまともな2人の変化に戸惑いを隠せないリジェネとクローデリア。このままではいけない気がする。


リーヴェ「2人とも落ち着いてくれっ」


 リーヴェは見ていられるに2人へ駆け寄った。そっと彼らの肩に触れる。

 途端にリーヴェの手から暖かい光が溢れ、2人を包み込んでスゥと内に吸い込まれた。ラソンとセレーネの様子が元に戻り、きょとんと顔を見合わせている。


ラソン「あれ、オレどうして……」

セレーネ「あたしも、なんか急に気持ちが落ち着いてきちゃった」


 さっきまで何て事を口走っていたのだろう、と戸惑うするセレーネ。ラソンの方も、何故イライラしていたのかわからない様子だった。

 一連の展開を見ていたクローデリアも訳が分からないといった体で、リジェネはそっと俯いていた。表情はよく見えない。リーヴェは己の掌を見つめ、瞳を揺らしている。


リーヴェ(今のは……)


 思考を巡らすまでもなく、彼女の脳裏に閃くものがあった。少しだけ、自分が成さねばならないことが分かった気がする。

 ほんの一瞬だが、リーヴェ達のいる周囲だけ黒い靄が消えていた。


リーヴェ「2人とも行けるか?」

ラソン「もちろん。悪かったな」

セレーネ「ううん、あたしこそ……どうかしてた」


 互いに謝罪する2人。気持ちが変な方向に高ぶっていた時の記憶はあるらしい。

 突入直後に聞いたクローデリアの話の意味がわかった。自分自身の感情に呑まれないよう、今まで以上に気を引き締めなければと肝に銘ずる。


リーヴェ「リジェネとクローデリアのほうは平気か」

クローデリア「はい、まだ大丈夫ですわ~」

リジェネ「……僕も行けます」


 互いに現在の状態を確認してから探索を再開。慎重に進みながら、各々で記憶した地図を意見を交わして照らし合わせる。1人1人の記憶が曖昧でも、全員で声を出しながら整理すれば迷わず進めるだろう。

 そっちは通った、向こうは行き止まり、等々と意見し合う。


 幾つ目かの部屋に入った時、目立つように置かれた宝箱を発見。あからさまに罠だと感じつつも誘惑に負け近寄ってしまうセレーネ。リーヴェ達が止めに入るが時すでに遅し、宝箱の前まで来た瞬間だった。

 3方向の壁の一部が綺麗に倒れ砂煙を上げる。穴が開いた場所から盗賊団×8が出現した。

 

ラソン「げげっ、やっぱり罠じゃないか」

リジェネ「セレーネさん、少しくらい堪えて下さいよー」

セレーネ「ごめ~ん、いつもの癖でつい」

リーヴェ「来るぞ!」


 狭い部屋の中での戦闘が始まる。

 屋内での戦闘は初めてではなかったが、このアジト内は障害物が多すぎて戦いづらい。特に大剣と槍を使うラソンとリジェネは動きが制限されてしまう。

 ここにはいないカナフシルトは、外で敵を少しでも引きつけて貰っている。


ラソン「部屋の広さに対して人数が多すぎる。戦いづれぇ」

リーヴェ「セレーネ、クローデリア、ここは私達メインで戦おう」

セレーネ「オッケー」

クローデリア「了解ですわ~。皆さん、詠唱の時間を稼いでください」

全員「わかった」


 比較的動きやすいメンバーを攻撃役にして陣営を組む。

 最小限の動きでクローデリアの援護を行う2人と、反撃態勢での攻撃をメインに戦うセレーネ。あまり動き回っては思わぬ隙を作りかねない。

 激しく動き回ることを避け、向かってくる敵を返り討ちにしていく。


クローデリア「アクアスワロー」

リーヴェ「セイクリッド・バスター」

セレーネ「はあぁぁっ」

エルピス『ガウッ』


 エルピスは後脚で蹴りを繰り出して応戦するが、クライスのほうは大分苦戦している。彼の技はどれも風を起きるので、近くにある物を巻き上げてしまうからだ。飛散する物で視界を奪われてはたまらない。


クローデリア「アウラーダ・ララバイ」


 クロ―デリアが曲に合わせて魔法陣から現れた梟の精霊が、精霊言語で子守歌を歌い始めた。

 翼を広げた梟と波紋を組み合わせた図形が、術者の周囲を回っている。魔法陣は、必ずしも足元に現れるものではない。

 小範囲内の敵を確実に眠らせる効果がある魔法曲だ。

 

ラソン「サンキュな。今のうちに数を減らすぜ」


 全員がラソンの言葉に応じ、増援が来る前にスパートをかける。

 この戦闘でリーヴェとリジェネのレベルが1ずつ上がった。



 戦闘終了後、武器を収めた一行が再び探索に戻ろうとするのをリジェネが止めた。


リジェネ「さすがに今回はきつかったので、ここでは装備を変えても良いですか」

リーヴェ「わかった。ラソンの方はどうする」

ラソン「オレはいいや。使い慣れた武器のほうが安心できるし」

セレーネ「見張りは任せて。エルピス」

エルピス『ガルッ』


 敵の増援が来ないかを仲間が見張っている間に、見つかりにくい所へ移動して装備替えをする。

 さすがに今の戦闘は厳しかった。今後も同じ展開が待っているかもしれないので、予備として買っておいた短剣を身に着けたリジェネ。


 しまった槍が邪魔にならないのを確認して、お待たせしましたとリジェネが合流。両手武器は同時装備ができないのでそこだけは不便だ。戦闘中に装備の変更ができないのが初めて気になるとは、思いもしなかったリーヴェ達である。

 頭目の姿も、靄の発生源も未だ発見ならず。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 一方で、屋内を右往左往する盗賊達の間では幾つもの怒声が飛び交っていた。


盗賊団メンバーH「おい、どうして小数のガキどもに手こずるんだっ」

盗賊団メンバーI「相手はたかだか4・5人だろ? 負けるはずがねぇ」

盗賊団メンバーJ「そうだ。俺らは魔導具とやらで、強化されんじゃなかったのかよ」


 戦闘に参加してない連中は、まだ言葉を交わす程度の理性はあるようだ。とはいえ、かなり冷静さを欠いている。連中は本当に、迎撃準備を整えていたのだろうか。


シャモ「皆さん、落ち着きなさい。君、魔法を使える者がもう1人いるようですが?」

盗賊団メンバーA「すんません、忘れてやした」


 シャモは頭を下げる男を見下し、持っていた鞭で軽く頬を引っぱたいた。男が短い悲鳴を上げる。


シャモ「貴方達も、早く敵を仕留めに行きなさい。グズグズするなっ」

盗賊達「へ、へへいっ!!」


 その場にいた全員が一斉に震え上がり、顔を引きつらせたまま慌ただしく走り去っていった。

 一気に静まり返った屋内に1人残ったシャモは、窓からアジト内を移動してるリーヴェ達を見やった。遠目でもわかるほどよく映えるアイスブルーの髪や、国籍が違うと一目でわかる服装の集団を目で追う。

 シャモは口端を上げ、どこか怖い笑みを浮かべている。窓から入り込む風で彼の髪が揺れ、知的そうな眼鏡がマナの光を僅かに反射していた。


シャモ「あれが噂の……ふふふ、面白くなってきたではありませんか」

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