第39話 アラビアンサハルでの戦い
岩肌がむき出しの山脈を背後に望める都の跡地は、完全に盗賊らの根城と化していた。
壊れた屋根は垂れ幕で補い、あちこちを継ぎはぎつつ物資の入った木箱や酒樽が整頓されて置かれている。比較的に無事な廃墟もあり、屋根のある2階や3階の部屋を収納や寄宿に使っていた。
中央の広場は宴会や集会用のスペースに利用され、大きな焚火や絨毯が設置されている。アラビアンサハルの至る所に篝火が焚かれていた。
盗賊団メンバーG「よーう、戻ったか。どうだったよ」
盗賊団メンバーA「良いところだったのによ、変な連中に邪魔されちまった」
盗賊団メンバーG「俺達に逆らうなんてバカな連中もいたもんだ」
クルイーク「そいつぁ、どんな連中だ?」
2人「ボス!」
一際大きな建物の奥から、盗賊団を束ねる男クルイークが登場した。
顔に傷のある厳つい顔の屈強な男で、無精髭を生やし腰にはサーベルを装備している。砂漠の民なので頭にはターバンを巻き、白いマントを羽織っていた。鮮やかな赤い腰帯が白っぽい衣服によく映える。首元には砂避け用のスカーフ。
男達がクルイークに向き直って背筋を伸ばした。
盗賊団メンバーA「へへい、見るからに旅人って感じの奴らでさ。珍しい白っぽい髪をしてる奴や、大剣を背負ったガキです」
クルイーク「白っぽい髪? そいつもガキか?」
盗賊団メンバーA「へい、旅人は全員若かったすね。白髪のガキも2人いやした」
クルイークは髭を撫でながら思案する。
すると近くで話を聞いていたシャモという名の男が割り込んできた。シャモは普段からクルイークの傍近くに控えている人物である。
シャモ「ルイ、白髪頭なら最近首都で目撃されてます。こっちは男で大人のようでしたが、どうやら魔導士のようだと」
クルイーク「魔導師……」
盗賊団メンバーA「そういや、オレらを襲った白髪の一人が魔法を使ってやした」
シャモ「連中は妖精を連れてましたか?」
聞かれて気づいたメンバーが、妖精を連れていなかったと報告する。クルイークは腕を組み、低い唸り声をあげた。ボスが考えている最中、報告したメンバーは何か忘れているような気がしている。
クルイーク「だとすれば、その2人のガキと男はルシスの奴が言ってた連中かもしれな」
盗賊団メンバーG「ボス、あんな怪しげなヤツの言葉を信じるんですかい」
シャモ「ですが、彼は我々に貴重な宝石と魔道具を売って下さったんですよ。それによって我らの能力が底上げされ、活動が楽になったではないですか」
盗賊団メンバーG「けどよ……」
盗賊団メンバーは、少し不安げな視線をクルイークとシャモに向ける。
クルイーク「とにかく、だ。そいつらが町の連中に頼まれてここへ来る可能性は高い。野郎ども、迎撃の準備を整えろっ!!」
盗賊団「へいっ」
盗賊団の面々は、来る襲撃に整えて慌ただしく動き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
上空からアラビアンサハル内の様子を覗うクライス。雲を上手く利用し、発光する身体をごまかしながら偵察を行う。
アラビアンサハル内の緊迫した空気をひしひしと感じ取れる。完全に臨戦態勢だった。他に気になる点もある。
リーヴェ「どうだ、ラソン」
ラソン「やや視界が悪いが、敵にはこちらの動きが読まれてっるぽいな」
精神を集中させ、クライスと視界を共有しているラソンが問いに答えた。
リジェネ「視界が悪いんですか?」
ラソン「ああ、うっすらと黒い靄のようなもんが視界を邪魔してる」
リーヴェ「靄?」
セレーネ「まさか、毒ガスとか」
クローデリア「でも、それでしたら盗賊の皆さんにも影響が出ているかと……」
確かにそうだ。毒ガスでないとしたら、靄とはなんだろうか。現場上空のクライスが何か感じていないかを確認するリーヴェ。
しかし、クライスも特に異常は感じていないようだった。どっちにしろ敵にこちらの襲撃が読まれているのなら、正面から行っても裏から攻めても同じという事だ。
リーヴェ「問題は敵の数だな。上空から見える範囲で敵はどのくらいいる? 頭目の姿は」
ラソン「……敵の数は、ザッと見て30人くらいかな。頭目らしき奴は……見えるトコにはいねーな」
リーヴェ「そうか……リジェネ、念のために状態異常の解除薬をいくつか買い足して来てくれないか」
リジェネ「わかりました。即行で買って戻ります」
目立たない所まで移動したリジェネが、笛でカナフシルト呼び町まで飛んで行く。
リジェネが帰るのを待ってから、リーヴェ達はアラビアンサハル内に突入した。
盗賊団「敵襲だー。敵さんがお出でなすったぜ」
盗賊団「全員構えろっ、一気にやっちまえ!」
リーヴェ達が突入したことで、アラビアンサハル内は騒然となる。掛け声とともに、次から次へと敵が現れた。
リーヴェ「うぐっ、これは……」
リジェネ「姉、さん……今はっ」
ラソン「どうしたんだ2人とも!?」
サハル内に踏み込んだ途端、リーヴェとリジェネの様子に変化があった。2人とも苦しそうに胸を押さえている。ふらつきそうになる足を堪え、迫りくる敵を睨みつけてリーヴェは気丈に叫んだ。
リーヴェ「だ、大丈夫だ。それよりも目の前の敵を叩くぞ!」
全員「はいっ」
盗賊団メンバー×5が現れた。
戦闘開始直後に、リーヴェとリジェネに原因不明の微量HPダメージが発生。他のメンバーには影響はなかった。視界にうっすらと黒い靄が漂っているのを視認できる。
リーヴェ「この靄、なんだろう。なにか」
何か訴えかけてくるものを心中に感じた。
ラソンの警戒網を突破してきた盗賊の1人がリーヴェに迫る。リーヴェは振りかざされた攻撃を剣で弾き、数歩飛び退ってクレセント・ソニックを放つ。
敵が動きを止めている瞬間を狙って、セレーネが横から蹴りを食らわせた。
クローデリア「‐三つ首の砲門、雷はアギトを開きて大地を駆ける‐ ライトニング・スフェラ!」
盗賊達「ぐあぁぁ」
クローデリアを起点に直線3方向へ電撃のビームが地上を滑った。めちゃくちゃ早いので、素早い盗賊達でも避けきれない。ちなみに雷系は風属性だ。確率でマヒまで付与する、なかなかにエグイ攻撃だった。
続けて「エペ・ルト―・アリア」を使用し、味方全体の攻撃力を底上げする。彼女を狙ってくる敵は、中間地点にいるリーヴェが基本的に防ぎ、手が足りない場合はリジェネとセレーネが遊撃的に対応した。ラソンはひたすら最前線で敵の大半を請け負う。
エルピス『ガルルッ、ガルッ』
セレーネ「火月閃、炎撃拳っ」
エルピスが「レーベ・イグニス」を使う。
低く構えてマナの力を溜め、全身が光り輝くと同時に咆哮を放つ。咆哮は、獅子の形となって直線1一方向の敵に飛んだ。中距離の物理攻撃である。
咆哮による波動を受けて怯んだ敵に、セレーネが連続攻撃を繰り出した。攻撃能力に優れた妖精とのタイミングを合わせた攻撃が絶妙にヒットする。互いの攻撃をうまく組み合わせてスキルでの隙を補い合っていた。
盗賊「くたばれっ」
ラソン「させるかっ、カウンタースラッシュ」
盗賊「ああぁぁ」
盗賊の状態異常攻撃がリジェネに迫り、素早くラソンが間に入って剣で攻撃を弾き返す。
自身の攻撃が跳ね返り、逆にマヒ状態に陥ってしまった盗賊は悲鳴を上げた。う、動けない。そこをリジェネがついて攻撃した。
いつもより動きが鈍いリーヴェとリジェネ。足手まといにならないように必死で応戦する。
仲間達のフォローもあって、何とか最初の盗賊達は戦闘不能にすることができた。言っておくが、戦闘継続ができなくなっただけで殺してはいない。満身創痍で倒れている。
少なくとも後で増援としてくる余力は残っていないだろう。
なぜとどめを刺さないかって? リーヴェが止めたからだ。
とどめを刺そうとした時、リーヴェの中で制止する声が響いたのである。最初の頃はなかった何かがそう告げているのだ。
ラソン「本当にとどめを刺さなくていいのか?」
リーヴェ「ああ、彼らを……殺しては、ダメだ」
リジェネ「姉さん?」
リーヴェの視線が、自然と彼らが身に着けているアクセサリーに向けられていた。以前拾った物と同様に黒い宝石が輝いている。
自分の中で何かが、何かが呼び起こされようとしているのを感じた。一瞬よろっと足元がふらつくリーヴェをラソンが支えた。
ひとまず物陰に隠れるように移動する一行。
ラソン「おいおい、大丈夫なのかよ」
リジェネ「姉さん……」
セレーネ「ちょっとリジェネ、あんたもすっごい顔色が悪いじゃない!」
リジェネ「僕は平気、です。それよりも、姉さんを」
リーヴェに駆け寄ろうとしたリジェネも、フラフラと膝をついてしまう。
明らかに2人だけ様子が変だ。怪訝に思い眉を顰めるラソン達に、周囲の気配を探っていたクローデリアが声を発した。
クローデリア「やっぱり、ここのマナは酷く汚染されているようですわねぇ」
セレーネ「マナの汚染って何なの? あたし達は平気みたいだけど」
クローデリア「マナは負の活力と結びつくと穢れるのですぅ。わたくしも気持ち悪さは感じていますが、お2人は天空人なので特に悪い影響を受けているのですわ~」
彼女の話だと負の活力やマナ汚染は、暗黒人以外の人々には少なからず影響が出るらしい。だが地上人に現れる症状と、天空人に現れる症状はかなりの違いがあるという。
ラソンとセレーネは詳しく聞こうとしたが、話を遮るように敵の足音が聞こえてきた。仕方なく、体調の悪い2人を物陰に隠して3人で応戦する。
戦闘後、辛うじて調子を取り戻した2人がパーティに復帰した。リーヴェとリジェネに促されて、アジトの奥を目指す。
※このフィールドでは、マナの汚染により天空人に限り戦闘開始時に微量のHPダメージを受けます。
また白羽天翔による飛行は、強力な穢れが翼を構成するマナを侵食するため、ダメージとともに強制解除されてしまうので注意しましょう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード26 最近の流行り?】
アジトを襲撃している最中、リーヴェ達は盗賊団全員が身に着けている装飾品が気になっていた。
リジェネ「あの、この国ではあんな禍々しい色の宝石のアクセサリーが流行ってるんですか?」
全員が気にしているのは、アクセサリーそのものではなく黒い宝石のほうだ。内側に禍々しい光が揺れめいていて、見ているだけで呪われそうだ。デザイン自体も結構独特で、いったい何処で入手したんだろう。いずれにしろ趣味がいいとは思えないリーヴェ達だった。
セレーネ「全然、あたしだって初めて見るよ。この国では宝石よりも、炎柱石とか甘味とかのほうが価値が高いの」
ラソン「それに宝石には妖精との相性も関係してくるからな。妖精と相談して身に着ける宝石を決めるくらいだしよ」
地上界では全員が妖精石という宝石を、日頃身に着けているのはご存じだろう。
だからか妖精達は宝石関係には敏感で、自分に合わない物が近くあると気が散って、最悪の場合は体調にも影響されるのだ。人にプレゼントする際も、相手の妖精の好みなども踏まえて選ぶのが基本。
なので、いくら流行でもこれほど多くの人が同じ宝石を身に着けている状況は不自然なのである。考えてみたら、対峙した盗賊達の妖精もどこか様子がおかしかった。
全員が移動を続けながら、疑問について意見を交わし合う。しかしリーヴェだけは違った。
リーヴェ「……あれはダメだ。危険、危険すぎるっ」
唐突に声を荒げたリーヴェに全員の方が跳ねた。驚いてリーヴェに視線を向ける。
リジェネ「ど、どうしたんですか。急に」
クローデリア「彼らの装飾品についてご存じなのですか~?」
リーヴェ「あ、いや。なんでそう思ったんだろう……とにかく、あの石は使ってはいけない……気がする」
リジェネ「………………」
納得がいかないラソン達を他所に、リジェネだけが何かを察している様子で目を細め沈黙していた。視線が下を向いて、辛そうに唇を引き結んでいる。
だが皆の視線はリーヴェに向いているため、リジェネの様子に誰も気づきはしなかった。ラソン達が反論や意見を言って理解しようと努めている。リジェネは両者の会話へ強引に言葉を割り込ませた。
リジェネ「僕は……姉さんの勘を信じます!」
リジェネ(この感じ。きっと姉さんは、御子として感じたんだ)
リーヴェ「リジェネ……」
御子であるリーヴェが、この手の事に敏感で且つ適格な感覚を持っているのをリジェネだけは知っていた。リジェネだけ、というよりは天空人の王族や神官達はだいたい知っているという意味だ。
その彼女が感じた不吉は、今まで外れたことがない。
まっすぐに見つめるリジェネと視線を交わし、リーヴェは少しだけ不安を感じてしまった。自分でも、自分が何故こう感じるのかわからないのに……。リジェネはこの感覚が何かを知っているのか。
リーヴェは一度瞼を閉じて考え、改めて仲間達に向き合った。
リーヴェ「皆、すまない。少なくとも私には、あの黒い石がよくない物にしか思えない」
もう一度、すまないと言うリーヴェ。本当にそれ以上の事は今は分からないのだと、はっきり伝える。
疑問が晴れずにモヤモヤとするが、今は切り替えようとラソンが言ってくれたおかげもあり、更なる追及はされなかった。
リーヴェ達は気になる謎を抱えながら、アジト内の探索を続行するのであった。




