第37話 砂漠の情報屋
少年は得意顔で条件を言ってきた。
彼が要求してきたものは「常闇の宝珠」という素材アイテム。これは、霊園に出没する「ボーンマギサ」を倒すと稀にドロップするものだ。
本来は「ヌアビス霊園」に出没する魔物だが、今は砂漠のあちらこちらを徘徊している。ボーンソルダよりは個体数が少ないし、ソルダとセットで出没することが多いのだが。
リジェネと合流するべく、広場に戻ったリーヴェ達は互いの情報を交換する。
リジェネ「なるほど、ちょっと大変そうですね」
リーヴェ「あの後も探しはしたんだが収穫はなかった」
セレーネ「にしてもあのガキんちょ、常闇の宝珠なんて何に使うんだろ」
ラソン「え、スッゲー効果があるとか、高く売れるとかあるんじゃねぇのか?」
セレーネ「ぜーんぜん、持ってるのアンデットだよ? 高く売れないばかりか、呪いの力を秘めた物だし」
え、ヤバくないかソレ。効果を知らないのだろうか? 本当になんで欲しいのかわからない。とはいえ、依頼は依頼なので準備を整えて入手しに行くとしよう。
ラソン「そっちは大丈夫だったか?」
リジェネ「はい。まだ調子は戻りそうにないですが平気そうです」
クライス『キキッ……』
エルピス『グルルル』
カナフ「ピィ~」
リジェネの言葉に嘘がないとばかりに、クライス達が弱弱しく声を上げた。まだ力は出ない様子だが本当に平気そうだ。きちんと休めば、明日には問題なく動けるだろう。
さすがに今日はこれ以上の戦闘は厳しいので、明日「常闇の宝珠」を入手しに行くことにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日、リーヴェ達は明け方近くに起きて砂漠を駆け巡っていた。
アンデット達が砂漠を徘徊するようになってからも、ボーンマギサとの遭遇率はそれほど高くはない。
ラソン「そっちへいたぞ」
リーヴェ「エルメキア・ランス……よし、倒した」
リジェネ「セレーネさんっ」
セレーネ「はあぁぁ! 次っ」
クローデリア「セラス・クラーレ・バラッド」
クローデリアの魔法曲で味方全体のHPが断続的に中回復する。
足元に輝く魔法陣の図柄は、レース調の円の中に6つの星が並んでいる図だ。
リーヴェ達は何度目かの戦闘に勝利した。何十回と戦闘して、ようやく「常闇の宝珠」のドロップに成功する。
ここまでの戦闘で、リーヴェはLv29になった。前のレベルアップで「アーンギル・ピロー」を習得している。
リジェネもLv29になった。スキル「月流閃」を習得。Lv25の時に「幻爪刃」と、龍スキル「テンペスト・スフィア」が解禁されていた。最初の2つは短剣用のスキルだ。
ラソンはLv30になった。スキル「カウンタースラッシュ」を習得。
セレーネはLv30になった。彼女は妖精スキルの「レーベ・イグニス」と「ティグレ・ククデンス」、「空襲槌蓮」を習得。
クローデリアはLv31になった。スキル「アコール・メドレー」を習得していた。
さすがに相当のレベルが上がった。ドロップした金品も相当の額になっている。たまにはこういう面倒な依頼も良いもの、かもしれない。
セレーネ「つっかれた~。もう無理」
リーヴェ「さすがに体力も限界が近いな」
リジェネ「品を渡した後、休憩がしたいですね」
ラソン「同感、休憩してからでも十分時間はあるしな」
リーヴェ達は、苦労して入手した常闇の宝珠を大切にしまってから町に戻った。
少年は以前あった場所とほぼ同じ所にいた。今度は物陰に半ば隠れるような様子はない。こちらに気づいた少年が手を振っている。
リーヴェ「待たせたな、これでいいか」
リーヴェが入手してきたアイテムを渡す。少年は渡された宝珠を几帳面に調べ、コクリと頷く。
少年「確かに間違いないな。約束だ、ついてきなよ」
リーヴェ「よろしく頼む」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
少年に案内された場所は、オアシスの近くにあった。サボテンが三角形を描くように3つ並んでいる。しかし、他にあるのは砂くらいだ。人がいる気配もなければ、目につくような物も見当たない。
リーヴェ(本当にここなのか?)
少年「ちょっと待ってな」
少年が適度な距離を保って待機するように指示した。
少年は3つのサボテンの中央まで歩いていき。中央の砂を素早くかき分けていく。しばらくすると砂の中から扉が出現し、少年が3回扉をノックした。少し遅れて魔物の鳴き声が2度響く。
少年「よし、入れの合図だ」
少年が砂が入らないようにきちんと掃けてから、扉を持ち上げた。ギギッと軋むような音を立てて扉が開く。手を軽く振って、ついてくるようにとリーヴェ達を促し中へと入る。
階段を下りていくと、なかなかに広い空間に到着した。
空間の天井には空気口がある。位置的にサボテンがある辺りだろうか。
リーヴェ「そうか、あのサボテンのひとつは良くできた作り物だったのか」
リジェネ「結構広い所ですね。住居、でしょうか」
青年「その通りだ、客人」
全員「っ!!」
奥の部屋から一人の青年が現れた。意外と若い、20代……10代後半かもしれない。
部屋の設備を見る限り、1人で隠れ住んでいるようだった。訪問時の様子から見ても、なにか事情があるのは間違いないだろう。
青年「まずは自己紹介だな。ボクの名はロッシュ」
リーヴェ達も自己紹介を返す。
リーヴェ「ここに一人で住んでいるのか?」
ロッシュ「ああ、ボクは以前『熱砂の牙』に所属していてね。事情があって、今はここに隠れて住んでいるんだよ」
まあ座りなよ、とロッシュが近くの椅子を勧める。足りない分の椅子は、少年が奥の部屋から持ってきてくれた。ロッシュは隅の台所で湯を沸かしている。
コンロはこの世界でよく使われているマナ結晶を利用したもので、くぼみの中に炎のマナ結晶を砕いて着火して使う。マナ結晶のもつエネルギーに強い鉱石で作られている物だ。
鉱石自体は珍しいものではないので、どの国でも掘り出して利用することができる。採掘量は当然違うが。
ロッシュ「お待たせ、どうぞ」
全員「ありがとう」
ロッシュが入れたてのお茶をくれた。心からの礼を言って受け取る。
そういえば、砂漠を走り回ったので喉がカラカラだ。有難くお茶を飲む。
ロッシュ「それで、キミ達は何が知りたいんだい?」
リーヴェ「今町を騒がせている盗賊団のアジトが、どこにあるかを知りたいんだ」
ロッシュ「盗賊団のアジトね。地図は持っているかな」
ラソン「あるぜ、ほら」
ラソンが荷物から地図を取り出してロッシュに渡した。ロッシュが地図を広げて印をつけてくれる。
彼の話では、盗賊団のアジトがある場所は「アラビアンサハル」というらしかった。そこは昔栄えた都の跡地らしく、アジトはこの中にある。
リジェネ「随分とお詳しいんですね」
ロッシュ「これでも元熱砂の牙だからね。砂漠で起きてる事には詳しいのさ」
少年「へへっ、ロッシュ兄ちゃんの話はいつも面白いんだぜ!」
静観していた少年が楽しそうに笑う。この様子だと、よく遊びに来ているみたいだ。ロッシュが思い出したように、台所の傍にある棚から小さな袋を取り出した。
少年に小袋を差し出す。
少年「わあ、お菓子だ! 兄ちゃん、こんな高価なもん貰っていいの!?」
ロッシュ「もちろん。この前主都に行った時、依頼人から貰ったんだよ」
ボクはいいから妹さんと一緒に食べな、とロッシュが微笑む。少年は一瞬陰りをみせ、けどすぐに笑顔でお礼を言った。
今のこの国では、甘味は希少なごちそうである。
袋に入っているお菓子は宝石のように綺麗で美味しそうだ。食べるがもったいないくらいで、細工も細かく上等そうな品である。動物の形をしていて可愛い、とリーヴェは感じた。
セレーネ「凄い……これをくれた人、どこで買ったんだろ」
少年「なんだよ、やらねーぞっ」
セレーネは菓子を作った職人が気になるようである。
リーヴェ「ロッシュ、情報をありがとうございます」
ロッシュ「このくらいはお安い御用さ。けど、気を付けなよ」
リーヴェ「はい」
ロッシュに情報料を渡す。と言っても大した額ではない。ほんの気持ち程度だ。
外へ出たリーヴェ達は少年に向き直った。改めて礼を言う。
少年はくすぐったそうに笑っていた。ふとサボテンにも目を向けるリーヴェ。注意深く見ると、確かに人工物だ。
セレーネ「ところでさっき渡した物、何に使う気なの? 知ってるかもしれないけど、ソレあんまり持ち歩くのはおススメしないよ」
少年「ふん、そんなの知ってらい。コイツは知り合いが欲しがってるもんだ」
ラソン「ソイツ、随分変わった趣味だな……」
リジェネ「君も苦労しますね」
少年「……まあな」
少年は目をそらして答えた。また暗い顔だ。相談に乗った方がいいんだろうか?
リーヴェが判断に迷っていると、少年は明るく挨拶を知ってさっさと走り去ってしまった。時刻はまだ午前中だ。リーヴェ達は、その足で盗賊団のアジトを目指し歩き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ達と別れた少年は町外れに来ていた。
人気のまったくない場所の物陰に、ひっそりと佇む長身の人影がいる。フード付きの外套を纏ったホレスト郷だ。少年が周囲を気にしながら、ホレスト郷に近づく。
少年「ほら、ちゃんと持って来たぞ」
ホレスト郷「ご苦労さん、ではコレは頂いていくよ」
ホレスト郷は少年から常闇の宝珠を受け取った。呪い用の布にくるんで懐にしまう。
様子を見届けた少年がソワソワと落ち着きをなくす。
少年「言われた通りにしたんだ。早く妹を返せっ」
彼に言われた通り、宝珠も手にいたし盗賊の情報もきちんと伝えたのだ。もう待ってはいられないとばかりに食いつく少年。
ホレスト「ああ、もちろん……ちゃ~んと、会わせてあげるよ」
怪しげに微笑んで、ホレスト郷は荷物の中から不気味な香炉を取り出した。いかにも毒がありそうな色の煙を放つ香炉を少年に向ける。
少年は首を傾げていたが、不思議な力をもつ煙に巻かれて苦しみだした。1分ともたずに、少年の身体は跡形もなく消え去る。助けを呼ぶ隙も、悲鳴を上げる余裕すら少年にはなかった。
不気味な笑い声を漏らしながらホレスト郷は香炉をしまう。
ホレスト郷「あーあ、あっけないもんだね……ほぅら、ちゃんと会えただろう」
ホレスト郷(君のおかげで、ボクの計画は上々だよ)
あの世でね、と少年のいた場所に向かって呟き、どこかへ歩き去っていくのだった。
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