第35話 旅人の街コルナ
南西へ進み、「旅人の街 コルナ」へとやって来た。
この町もまた、白い石で作られた家屋に緑や黄緑の垂れ幕が屋根を形成している。同じく背の高い木々やサボテンがある他、見慣れない果実の実っている樹木が緑地庭園に数本植わっていた。
大きな通りや町の出入り口付近には、キャラバンの馬車やラクダがいる。住宅地が少なく、町の大半の建物は宿屋や商店、倉庫などの施設ばかりだ。砂漠を旅する者が一時的に留まる土地だからである。
他の町や村に比べて総人口は少ないが、活気は砂漠の町の中で一番あるのではなかろうか。そう思えるほど、ここの人々の態度は逞しかった。
リーヴェ「やっと着いたな」
セレーネ「ここなら、キャラバンを捕まえて移動できるかもしれないよ。当たってみようよ」
ラソン「確かに馬車で移動出来たら有難いけどな」
リジェネ「どうしますか、姉さん」
全員の視線がリーヴェに集まる。
リーヴェは1人1人を順に見返した。表には出さないが、皆かなり疲労している。休憩を挟んでも、やはり徒歩での砂漠移動はかなり厳しいものを感じた。
リーヴェ「キャラバンに同行できないか交渉してみよう」
セレーネ「やったー、決まりね」
クローデリア「助かりますぅ、このままではわたくし溶けて蒸発してしまいますわ~」
リジェネ「いやぁ、さすがにマナの身体が蒸発することはないと思うますが」
言葉の例えだと返すクローデリア。
からげんきに笑って、一行は歩き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シュバルツブルグ城内、玉座の間。
黒い茨をモチーフにした窓枠を背景に玉座が置かれ、グレーの壁に黒いタペストリーが連なっていた。光沢を放つ無機質な床の上に、細長い絨毯が御前まで伸びている。
タペストリーには盾に巻き付く龍に六芒星の合わさった紋章が入っていた。陛下の一族を示す家紋であり、この国の紋章だ。
アルフレド郷「では陛下、私はこれで失礼致します」
陛下「うむ、頼んだぞ」
アルフレド郷「はっ」
カツカツと鎧の音を響かせ、兵らの訓練とその他所用を済ませるべくアルフレド郷は退出した。重い音を立てて重厚な黒い大扉が閉まる。絨毯の敷かれた通路の、階段を確かな足取りで下り、折りきったところで足を止めた。
前方からホレスト郷が歩いてくる。彼もまた足を止め、互いに向かい合って会釈を交わした。
ホレスト郷「やあ、相変わらず精が出るねぇ」
アルフレド郷「貴殿も陛下に謁見か? だが、これから陛下は瞑想に入られる時間だ。後にした方がいい」
誰に対しても態度を変えないアルフレド郷に、ホレスト郷は手で髪を払い少し控えめにポーズを決める。こちらも平常通りだ。
ホレスト郷「心配ご無用だよ。今回は陛下のご使命だから、ね」
アルフレド郷「……そうか。くれぐれも失礼の内容にな」
ホレスト郷「言われずとも」
そう言って両者はすれ違い、各々の目的地に向けて歩いて行った。
歩みを止めず、アルフレド郷は思案する。ここ最近、陛下は彼を呼び出すことが多くなった。なにやら薄気味の悪さを感じる。いったい2人で何を話されているのだろうか。
ルシフェルス陛下とは若い頃からの長い付き合いだが、最近の彼が何を考えているのかわからないことが増えた。時より、彼の執務室から奇妙な声が漏れ聞こえることもある。
アルフレド郷「杞憂であればよいが……」
もしもがあれば、自分が必ず陛下をお守りしようと改めて誓うアルフレド郷であった。
アルフレド郷と別れたホレスト郷は、玉座の間を訪れていた。
ホレスト郷「陛下、ただいま参上仕りました」
陛下「うむ。待ちかねたぞ、ホレスト郷」
ホレスト郷「はい。では、さっそく……」
ホレスト郷が、聞き慣れない特殊な発音のある言葉を発した。とても文字では表せない言葉だ。むろん暗黒界の言葉ではない。陛下の様子が変わる。
陛下「ふふふ……ようやく、ね。首尾、はどう?」
ホレスト郷「順調ですよ、〇△※×Φ様」
ホレスト郷が対峙する相手の名を呼ぶが、こちらも特殊な言語だ。文字での表現が難しい。
陛下「くふふふっ、それで、アレはどんな感じ……か」
ホレスト郷「この間偶然にも見かけましたが、アレはまだダメですね」
陛下「そう、か……急げ、まだ……足りな、い」
ホレスト郷「わかっておりますとも。ただ、今のところはアレが邪魔をする可能性があるので骨が折れそうです」
アレとかソレとか、わざと濁して会話をする2人。人払いはしてあるが念のためだ。とりあえず調子を見れたことに満足したホレスト郷が「陛下」と強調して呼んだ。
途端に陛下の様子が元に戻る。陛下本人は気にも留めていない様子だ。同然だ、と内心で思うホレスト郷。
陛下「とにかく急げ。何れにせよ、まだ足りぬ」
ホレスト郷「はっ、仰せのままに」
敬礼を返し退出するために歩き出すホレスト郷。
心中で「状態は上々だと」感じほくそ笑む。だが、その様を見た者は誰1人いなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード22 破壊神、爆誕】
砂漠を進む道中での事。いつも通り野営の準備を行っていたある日、事件は起きた。
――シュー、ドバーンッ!!
セレーネ「えっ、ナニ!?」
リーヴェ「食事班のほうだ」
テントなどを設置していた2人の手が止まった。
吹雪に似た音と凄まじい爆発音が立て続けに聞こえ、現場に駆け付けるリーヴェとセレーネ。
現場まで行くと、信じられない光景が広がっていた。呆然と立ち尽くしていると、追加の薪を集めに行っていたラソンも駆けつける。
ラソン「今のスゲー音がしたが、大丈夫かっ」
ラソンも目の前に広がる光景を目の当たりにして硬直した。
3人「………………」
口を開けたまま言葉も出ない。脳裏には、なぜこうなったという疑問しか浮かばなかった。
眼前に広がる光景、それはある意味で事件現場だった。鍋の傍で倒れて目を回しているクローデリアと大崩壊している簡易竈。鍋はなぜか黒焦げで、調理台はカチコチに凍り氷柱と化していた。火元付近にも大小さまざまな氷が飛散し、下の砂も真っ黒にすす汚れている。
原形を留めていない物が辺りに散かり、倒れるクローデリアを象るように配置された調理器具。実に絶妙なスレスレ感だ。包丁も含まれているのでかなり危ない。
たっぷり時間をおいて、3人が悲鳴じみた大声を上げた。
セレーネ「ちょっとクローデリア、大丈夫! しっかりしてっ」
ラソン「おいおい、どうやったらこうなるんだよ……」
クローデリア「う~ん……」
リーヴェ「クローデリア、いったい何が起きたんだ」
気が付いたらしい彼女に事情を聞く。
今回の料理当番はクローデリアだった。さすがにリジェネには任せられないからこその人選だったが、かなりのトラブルシェフらしかった。
クローデリアの話では、レシピ通りに料理にとりかかかったものの手順を間違え鍋が激しく炎上してしまったらしい。火事になる前に泊めようと得意の水魔法をかけた結果……最初の爆音のもとが発生したらしかった。
鍋の傍には油が入っていたらしい器の残骸も転がっている。
氷柱のほうは食材に寄ってきた魔物に驚いて、追い払おうと魔法を使ったのが原因だった。自分は爆発に巻き込まれ、爆風で吹っ飛んだ調理器具が上手い具合に砂上へ刺さったという事らしい。
ラソン「うおー、ヤバいのが増えちまったぁ」
セレーネ「もーう、こういう事は大事になる前にちゃんと言ってよ!」
クローデリア「ごめんなさい……」
リーヴェ「そういえば、精霊人は食事をする習慣がないんだったな」
以前あった地精人に聞いていたことを今思い出した。精霊人の習慣に考慮が足りていなかった事を反省するリーヴェ。食事をしないのだから、料理ができるはずもなかったのだ。味覚があるものだから、すっかり抜け落ちていた。
その後、遅れて戻ってきたリジェネも入れて後片付けをするのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
キャラバン隊が密集する場所にやって来たリーヴェ達は手近なところから声をかけていく。
若者「悪いね。今は砂漠を移動する予定はないんだ……」
リーヴェ「そうですか」
手分けをして聞いて回っていた仲間達と合流する。
リーヴェ「どうだった?」
セレーネ「ダーメ、やっぱり最近の魔物が怖くて移動なんてできないって」
ラソン「オレも収穫無し」
リジェネ「僕のほうもダメでした」
リーヴェ「ということは、残るはクロ―デリアだけか」
離れた所にいるクローデリアに期待を向ける一行。しかし、戻ってきた彼女も結果は同じだった。人の行き来が激減し、護衛も雇えない現状ではキャラバンは出せないということだ。
リーヴェ達が護衛を名乗り出ても、子供の集団に見える一行では信用して貰えない。まともに大人として見られる2人も女性のため説得力は薄かった。
ラソン「せめて、オレの背がもう少し高けりゃなぁ……」
リジェネ(多分、問題はそこではないと思いますラソンさん)
地上界での成人年齢は20歳だ。けどそれを抜きにしても、ラソンは小柄と童顔で実年齢よりも幼く見えてしまう。キャラバンの人達を納得させるには弱かった。
仕方なく、今日は宿で休もうと思い歩き出した瞬間。
男性「ああ、盗賊だー」
青年「た、助けて~」
リーヴェ「っ、行ってみよう!」
リーヴェ達は騒ぎのする方向へ走り出した。
町の華とも呼べる、最も幅広い通りで事件は起きていた。
盗賊団A「オラオラ、逃げろ逃げろー」
盗賊団C「へへ、こいつぁ貰っていくぜ」
若商人「か、返せっ」
盗賊団D「おお、ここには金目のモンがたんまりあるぜ」
駆け付けた先で、数人の盗賊団のメンバーがやりたい放題していた。逃げ惑う人や、うずくまり震える人々。至る所で悲鳴が上がっている。
盗賊団B「お、姉ちゃん良いもん持ってんなぁ」
盗賊団F「姉さん可っ愛いね~」
盗賊団E「なあなあ、ワイらと楽しい事せーへん?」
女性「いやあぁぁぁ」
リーヴェ「止めろー!!」
女性が大事そうにしているアクセサリーを奪い、肩に腕を回して下品な笑みとともに難破している盗賊連中。
女性の悲痛な叫びに理性が吹っ飛ぶ。リーヴェ達は激怒して盗賊団に相対した。




