外伝1‐2話 不穏な噂
裕福層が多く住む区画に来たリーヴェ達は、近くで遊ぶ子供達から気になる話を聞いた。いや、正確には聞こえただ。
リラ「さいきん、パパの様子がおかしいの」
少女「やっぱり、リラちゃん家もなんだ」
少年B「おらん家もだぜ」
少年A「マオウノシシャって言う、ヘンな人が来てからだよね」
子供達の話には「悪魔」だとか、「世も末」だとかの凄い言葉が飛び交っている。発音が少し違うので聞き取りづらい。
しばらく深刻そうに話していたが、1人が「向こうで、ねっさのキバごっこしようぜ」と言った途端に元気よく走り去ってしまった。
リジェネ「なんだか、妙な話をしてましたね」
リーヴェ「ああ、悪魔とか魔王とか言っていたな」
ラソン「まるで、おとぎ話だよな」
セレーネ「さすがに信じられないよね」
ちょっと現実味が薄かったので、気に留めることはないかもしれない。
リーヴェ達は散策を再開するのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 カンディテーレ共和国】
地上界シュピッツヘイムの南に位置する大国。地と厳格の国。
この国の出身者には犬系の妖精が宿り、国の代表となった者の妖精は「狼」へと進化を遂げる。
シュピッツヘイムにおいて2番目に広大な土地を誇るが、そのほとんどが過酷な砂漠と荒野なため人々の暮らしは決して豊かではない。僅かな緑と美しいオアシスの傍に都や集落を形成して暮らしている。
何世紀にも渡って、勝ち目のない帝国以外の国に争いを仕掛けて来た歴史をもつ。現在の代表はチャンドラッヘ(54歳)という男だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【伝説のシェフ、再び】
首都ラ・パルタのオアシス前。
リーヴェ達は不自然なオブジェを発見した。
クローデリア「見て下さい。綺麗な置物ですね~」
リーヴェ「確かに綺麗だが……これは」
リジェネ「お、大きすぎませんか」
彼女が示す方向に設置されていた大きな蓮の蕾。
作り物なのは間違いないが、いくら何でも大きすぎる。人がすっぽりと入れそうだし、存在を主張するかの如く発光していた。なによりも、この国では決してお目にかかれない種類の花である。
クローデリアがうっかり触れてしまう。すると、効果音とともに蕾が開花した。
中から、見覚えのある人物が登場する。
シェフ「やあ諸君、ごきげんよう。ワタシは料理を極めた男シェフ=ロバートだ」
4人「………………」
クローデリア「あらあら、こんにちわ~シェフさん」
シェフ「Oh、素敵なお嬢さん……ありがとう。では、本題に入ろうか」
クローデリアの反応に涙ぐんだシェフは、依然と同様に食材の調達を依頼してきた。
必要な物は3種類のキノコと、にんじん、ペルナの計5種類だ。依然と同じく依頼されたものをシェフに渡すリーヴェ達。
シェフ「Thanks、ではこれを進呈しよう!」
リーヴェ「ありがとう」
リーヴェは貴重品「レシピ本『スープ』」を手に入れた。
一応言っておくと、料理のレシピはシェフ以外からも入手することができる。いくら彼でも、全ての料理レシピをくれる訳ではないのだ。
再び指を鳴らし、自分が出てきたオブジェの残骸を一瞬で消し去るシェフ。詳細不明の業にクローデリアが拍手を送った。シェフは嬉しそうに調子に乗っている。クローデリアが喜ぶので、帽子から鳩を出したり、指を鳴らして花束を出したりしていた。
見ていると、なるクラスを間違えているんじゃないかと思ってしまう。
シェフ「それでは諸君、さらばだ」
十分に満足したらしいシェフは颯爽と歩き去った。
なんだか、またどこかで会いそうな予感がするリーヴェである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
首都ラ・パルタを散策中、各所でよく耳にする話があった。
青年「最近『熱砂の牙』の活躍を聞かないな」
若者「ああ、ホントどうしちまったんだろう」
また「熱砂の牙」の話だ。
リーヴェ「砂漠の牙というのはなんだろう?」
リジェネ「本当によく聞きますよね」
ネメア村での度々耳にした「熱砂の牙」。話している住人の様子から、かなり慕われているようだった。疑問に思うリーヴェ達4人にセレーネが答える。
セレーネ「熱砂の牙っていうのは、少し前まで各地で噂が流れていた義賊の事よ」
クローデリア「義賊?」
セレーネ「うん。あたしが小さい頃からずっといて、悪徳な金持ちや砂漠のどこかから金銀財宝を入手して貧しい民ばらまいてたの」
ラソン「けど、泥棒だろ」
確かにそうだ。けどセレーネの話では、今の代表が就任した直後は団の解散も噂されていた。国民も、新しい代表の謳い文句から国が変わると期待していたらしい。
だが、すぐに妖しい動きが噂されるようになり「熱砂の牙」が再び活躍し始めたという。ほんの数か月前までの事だが。
リーヴェ「今はどうしてるんだろうな」
セレーネ「知らない。けど、解散したって話は聞かないよ」
一応住人達にも話を聞いてみたが、結局「熱砂の牙」がどうなったかを知る者はいなかった。
ただひとつわかったのは、砂漠のどこかに彼らのアジトがあるという事だけである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード23 小さな抵抗?】
主都の中にあるスラム街にやって来たリーヴェ達。
セレーネ「あの子達、ホントどこ行ったんだろ」
リジェネ「確かにこっちのほうへ行きましたよね」
数分前、リーヴェ達は子供達が巧みに露店から、食料を掻っ攫う現場を目撃したのだ。逃げる彼らを追ってきたはいいもの、動きが身軽で素早いために見失ってしまった。
この辺りの路地はとても入り組んでいて見分けがつかない場所ばかり。おまけに木箱や資材、麻袋などの障害物が多い。あまり手入れされていない所為か砂ぼこりも多かった。
リーヴェ「見つからないな……」
周囲に目を向けるリーヴェ達。
――ヒュッ。リーヴェに向かって小さな物体が飛んでくる。
ラソン「おっと。誰だっ」
少年「お前たちこそ、オレたちに何の用だ!」
飛んで来たものは小石だった。ラソンがキャッチしてくれたので怪我をせずに済む。
小石が飛んで来たに視線を向ける一行。視線を感じ、攻撃が不発したことに腹を立てた少年が姿を現した。大分気が立っている。
少年の年齢はだいたい10歳くらいで、粗末な衣服に薄汚れた顔や腕。
リーヴェ「お前達、店で盗みを働いただろう?」
少年「ヤベッ、お前ら見てたのかよっ」
少年が逃げだした。
セレーネ「ちょっと、待ちなさいよー!!」
リーヴェ「追いかけるぞ」
リーヴェ達は逃げる少年を追いかける。
裏道をフル活用して逃げ回る少年。子供しか通れない狭い道もあり、なかなかに苦戦を強いられる。それでも何とか見失わずに追跡を続けた。
追いかけること十数分。
セレーネ「はぁ、はぁ、やっと追い詰めたわよ」
少年「しつこいなー、カンベンしろよ」
ラソン「な訳いくかよっ」
少年が逃げた先に会ったのは広い廃墟地帯だった。屋根が辛うじて残っている部分もあるが、ほとんどが崩れてしまっている建物ばかりだ。ちらほらと仲間らしき少年少女達が顔をのぞかせている。
ここからでは見えにくいが奥には地下へ降りられる階段もあり、地下が子供達の主な居住スペースになっていた。
クローデリアが少年の前まで進み出て目線を合わせる。
クローデリア「皆さぁん、ドロボウをしてはいけないのですよ~」
子供達「…………」
決して怒鳴りつけはせず、諭すように優しく注意するクローデリア。
少年達も悪い子の自覚があるらしく、悔しそうに項垂れている。本当はやりたくないのだろう。見たところ、子供達は孤児のようだった。大人は1人も見当たらない。
彼らが生きるために必要な食料……どうにかする必要があるだろう。




