第34話 進むべき道は……
クローデリアの攻撃バフが解けた。
リーヴェ「回復は十分だな。攻撃に転じる」
ラソン「一気に畳みかけるぜ。烈風断滅砕」
リジェネ「攻気」
セレーネ「柔旺陣。クローデリアもう1回お願い」
クローデリア「はい。エペ・ルトーアリア」
攻撃バフの効果が重複する。リジェネとセレーネがそれぞれ威力の高いスキルを使う。
リーヴェの詠唱が終わりエルメキア・ランスも魔物に直撃した。マザー・Sの残りHPが残りわずかになる。後少しだ。
演奏が終わったクローデリアに声をかけ、彼女が詠唱に入る。
ラソン「でりゃあっ」
セレーネ「えーい!」
リーヴェ「せいっ」
彼女の詠唱が終わるまで可能な限りHPを削る。さすがのマザー・Sも疲れを感じているらしく、動きがかなり鈍い。クライスとカナフシルトも風を巻き上げて妨害工作を続けている。
クローデリア「お待たせしましたぁ。オルムアクス!!」
マザー・S「フィギャアアァ……」
マザー・サンドロンブリスを無事に撃破した。
クローデリアがLv26になった。スキル「セラス・クラーレ・バラッド」を習得。
アイテム「サンドストーン」を入手した。サンドストーンは、毒状態が確率で自己治癒する効果がある宝石だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 マザー・サンドロンブリス】
種族 虫類 属性 地 全長 約5.0m 体重 約195.0㎏ 弱点 水
ファラ砂漠に古くから生息している大型のミミズ魔物。別名「マザー・サンドワーム」という。
基本的に夜行性で憶病だが、繁殖期になると地表近くにまで上がってきて狂暴化する。身体が大きいのはマザーのみ。サソリなどを主食としているため毒は無効で水に弱い。
砂の中を自由自在に移動し、口部から渦巻く砂嵐を放出する。人や妖精、獲物以外の動物を襲うことは少なく、純粋なマナの塊に反応を示すことがあるが理由は解明されていない。
マザーは長期間の断食が可能で、繁殖期以外で地表に出現するのは稀である。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ達がマザー・サンドロンブリスと戦闘していた時。
首都ラ・パルタの国会議事堂の内部にある演習場。広大な敷地を誇るここでは現在、軍の兵士達が同盟先から入手した武装を訓練していた。武装とは主に、性能の高い暗黒界製の銃器類だ。
演習場からはいくつもの銃声が上がっている。
デリス郷「いかがです? あたくしの国の武器は」
軍官長「ううむ、素晴らしい!! よもやこれ程とは思いませんでしたぞ」
デリス郷「それは良かったですわ。以前お渡しした試作品とは段違いでしょう?」
軍官長「確かに。これならば、我が国の悲願も果たせましょうぞっ」
少し離れた所でデリス郷と軍部を預かる軍官長が会談していた。デリス郷は用意された椅子に足を組んで腰かけ、同じく用意されたお茶をいただいている。
今彼らが持っている物は、暗黒人用に設計された銃器を地上人が使いやすいように調整したものだ。
暗黒界の銃は、簡略化され魔法武器寄りに生産された地上界製よりも扱いが難しい。その分銃としての威力が高く、術式と本体が分けて設計されているので汎用性に優れている。
術式は主に弾丸が持っているもので、本体は発砲に必要なエネルギ―にマナを利用できる機構が、我々の知る銃についている程度である。
術式とは、物に付与するために考案された魔法のことだ。使い捨てではあるが、効果は使用するまで付与を継続しておけるのが特徴だ。
ニクスが使っている弾丸がその例に入る。
彼の使っている弾の、主に魔法弾のほうは術式を用いている物だ。発砲時に都度自身で効果を付与する火薬弾と違い、魔法弾は予め弾の内部に作用する効果が組み込まれていた。だからこそ着弾時などに複数の効果が発揮される。
本体と術式は、どちらも古代文明の技術をもとに改良された形だ。
デリス郷「コボル郷の話では、今回皆さまに提供した銃器は術式付与ツールを、を搭載できるようにしてありますのよ」
軍官庁「おお、それは有難い。我々地上人には、魔法を扱う適性がありませんからな」
デリス郷「喜んでいただけて光栄ですわ」
術式付与ツールは取り外しが可能で、見た目はサイレンサーにそっくりだった。取り外せるようになっているのは、魔法弾の使用も考慮されているからである。
ニクスは別に設けられた訓練場に来ていた。演習場にも行ったが、あそこにいるとデリス郷が煩いのが嫌で移動したのだ。
そのすぐ後、通路を歩いていた時に年若い一般兵に呼び止められる。まだ幼さの残る青年兵に訓練を見て欲しいと頼まれた。ニクスは気が乗らなかったが、まっすぐ慕ってくる彼を無下にあしらうことができなかったである。
――バンッ、バンッ。
ニクスは数人の青年兵達の前で実演して見せる。的の狙った場所へ正確に当てる姿に、周囲から歓声が上がった。
青年兵A「凄い……、ニクスさん流石です!」
ニクス「別に大したことはしていない」
青年兵B「そんなことないすよ。俺にできるかなぁ」
視線を落とした青年兵に、最初は誰でもそう言うものだと声をかけた。練習すればちゃんと当たるようになる、と。青年兵達はすぐに気を取り直して頷く。
ニクスが丁寧に銃の扱い方を教えてやる。構えてみろと指示を出し全員の様子を見ていると、一番奥にいた兵の持つ持つ銃からカチャッと音がした。
ニクス「ん? おい、ソイツを見せてみろ」
青年兵D「? はい、どうぞ」
青年兵から銃を受け取り分解し始める。周囲で様子を伺っていた兵達が驚きの声を上げた。
ニクス「やはり砂か……」
どこから入り込んだのかは知らないが、構えただけで音がするのはおかしいと思ったのだ。暗黒界の銃器は精密機械なので、極小さなゴミでも事故のもとになる。
ニクスはそれほど時間をかけずに分解と整備を済ませた。さすがに手慣れている。
彼の手際にまたもや周囲から歓声が上がった。青年兵としては、武器という以前に珍しい機械に興奮している部分もある。きっと銃でなくても、同じような反応を見せただろう。
ニクスが銃を青年兵に返した。後でちゃんとメンテの仕方も教えておこう。
ニクス「撃ってみろ」
青年兵D「はい」
青年兵が銃を発砲した。うん、大丈夫そうだ。
気になった部分を的確に指示しながら全員の様子を監督する。彼らの練習風景を見ている内に、ふと気になったことを聞いてみることにした。
ニクス「お前達は、どうして兵役に志願したんだ?」
訓練の手を休めてニクスを省みる一同。
青年兵A「はい。僕は故郷にいる家族を守るためです」
青年兵B「オレは純粋に金っすね。それにここだと飯に苦労しないし」
青年兵C「私は、国の為になることを何かしたいと思って志願しやしたっ」
青年兵D「自分は実家に仕送りしたくて志願しました。この国じゃあ、他にいい職がないもんで」
青年兵E「ほ、本当ですよね……どうしてこの国はこんなに貧しいんだろう。あ、ボクは家が軍関係で仕方なく……」
ニクス「そうか……こっちも大変なんだな」
ニクスの言葉に首を傾げる青年兵達。ニクスは話せる範囲で簡単に説明した。
少し思う所があったニクスは、彼らに2つのスキルを伝授する。それは状態異常を回復させる「ラヴィム・スフェラ」と、着弾時に霧を発生させて暗闇と俊敏力を下げる「ネーベル・スフェラ」だ。どちらもダメージを与える物ではないが、生存率を上げるのにはいいだろう。
このスキルを使ううえで必要な特殊薬の調合法も伝えておく。見込みがありそうなら「ディスピアエッセ」を教えてやるのも良さそうだ。
もうしばらく、彼らの訓練に付き合うことにするニクスであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マザー・サンドロンブリスを撃破したリーヴェ達。
勝利の余韻に浸りつつ互いに再会を喜ぶ。特にリジェネは今にも泣きそうな顔でリーヴェに抱き着いた。心配してくれたリジェネを優しく受け止めるリーヴェ。
あまりにも無き続けるので、そっと背を叩いて宥める。
結局その日はここで野宿することになった。
クローデリアはこの先も同行してくれるらしい。食事の場で彼女は、こちらへ来た経緯を話してくれた。そういえば、騒動ですっかり忘れていたのを思い出す。
クローデリア「わたくしの住む精霊界では、今マナが枯渇し始めているのですぅ」
リーヴェ「マナが枯渇している? 精霊人達は大丈夫なのか?」
精霊人はこの惑星に住む人類の中でも特殊で、食物を摂取する食事を必要とはしない。
代わりに周囲に漂うマナを自動的に体内へ吸収して活動している。マナが枯渇れば、必然的に精霊人は餓死する訳だ。これは大事である。
しかし、当人達はあまり気にしていないという。個体によっては万年以上を生きる彼ら故の弊害と言えた。
クローデリア「今はまだ大丈夫ですが、枯渇が気になったわたくしは調べるため旅に出ました。ですが手がかりを見つけることができず、こちらへ参った次第なのです」
ラソン「こっちに原因があるというのか?」
クローデリア「わかりません。こちらでも困ったことが起きている事は知りましたが、関係があるかどうか……」
全員「………………」
場が静まり返る。皆、言葉に詰まっていた。
しかし、リーヴェの言葉が静寂を破る。
リーヴェ「確か、精霊界にはマナを生む樹木があったはずだ。その樹が原因ではないのか?」
クローデリア「もちろん旅に出てすぐ調べましたわ~。ですが弱っている原因が、本体にはないと判明しているのです」
リジェネ「え、どうしてそう言えるんですか」
クローデリアの話では、マナを生む樹木「マナの母木 ニーファバオム」には守り人がいるという。彼女の話では木が病や怪我を負っている訳ではないらしく、原因は他にあると言われた。守り人本人も原因の詳細は知らなかったようだ。
クローデリアは数年前に旅立ち、各地をめぐった末に地上界へと来たのだった。
セレーネ「ねぇ、このままじゃマナが無くなるかもってヤバくない」
ラソン「あったり前だろ。精霊人程じゃなくても、オレ達だって生活にマナは欠かせねーんだ」
リジェネ「そう、ですよね……」
リジェネ(マナに感じる違和感は、枯渇が原因?)
リーヴェ「…………」
また、ヤバい案件が増えてしまった。まったくこの惑星はどうなっているんだ。世界に一体なにが起きたいるのだろう。
なんだろう、知っている気がする。リーヴェは前にも感じた感覚を覚えていた。
リーヴェ「はぁ、とにかく今日はもう休もう」
ラソン「ああ、さすがに疲れたしな」
セレーネ「賛成……あたし、もうクタクタ」
リジェネ「ふあぁぁ……」
クローデリア「では、最初の見張りはわたくしが致しますわ~」
一番年上だという彼女が見張りを名乗り出る。眠気には強いという彼女の言葉に甘えて、リーヴェ達は先に休むことにした。
翌朝、支度を済ませたリーヴェ達は地図を手に相談していた。これから、5つに分かれた道の中から一つを選ばなければならない。
地図を見る限りだと、南の道は首都ラ・パルタ、南西が旅人の街コルナ、南東はすり鉢穴密集地、東はネメア村だ。
東は来た道なので除外し、南東もリーヴェが迷い込んだ場所。北にもアズガルブ方面に続く道があるが今は関係ない。
さて、残る道の内どちらへ進むかを選ぶ必要がある。選択肢は2つ、リーヴェは考えた。
リーヴェ「よし決めた。行き先は……」
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