第32話 各々の苦戦
魔物に攫われただろうリーヴェを探して砂漠を進む一行。
まさかこんな所でヒーラーを失うとは思わなかった。道具も持ち運べる量は限られているし、今の状況では魔物との遭遇はできるだけ避けたいところだが……。
魔物「ボボーン!」
魔物「アイルカクタス」×4とボーンソルダ×2が出現した。
アイルカクタスは顔と手足のある黄緑色のサボテンだ。大きさは約1.3m、結構重いのか歩行時に土煙が上がっていた。このサボテンは水属性をもっている。
ラソン「くっ、こんな時に」
セレーネ「もーう、速攻で倒しちゃお」
リジェネ「はいっ」
3人は意気込んで突撃した。
アイルカクタスは、周囲に棘を飛ばして近づく敵を攻撃してくる。範囲は狭いが地味に痛い攻撃だ。更に厄介なのは、離れると泡を飛ばしてくることだった。ちなみにこの泡は魔法ではない。
ラソン「ああ、間合いが取りずれー」
セレーネ「はあっ、えいやっ」
セレーネがカクタスを殴る。すると棘の影響で微量ダメージを食らってしまった。カクタスに打撃攻撃をするとこうなってしまうのだが、攻撃しない事には始まらないので仕方がない。
リーヴェがいないことで皆焦っていた。回復できる人がいないので早く決着をつけないと、と思っているからだ。
今までだったら、仲間が加わった時にまずやる事をやり忘れている。些細だが陣形も崩れていた。
クロ―デリア「音波動」
わざと掠めるように放たれた大音量の音波が響き渡る。
このスキルはクロ―デリアが初期から使える魔法で、無詠唱且つ直線1方向に波動を飛ばせるものだ。無詠唱なのはマナを音として飛ばしているだけだからだ。
全員が応戦しながらも、クロ―デリアに注目した。
クロ―デリア「皆さん、落ち着いて。わたくしが援護しますわぁ」
クロ―デリアが杖を構えハープの弦に手をかける。
クロ―デリア「行きますわよ~、クラル・カノン」
リジェネ「っ、体力が回復していきます」
クロ―デリアが追走曲を弾き始める。演奏開始と同時に彼女の足元に魔法陣が浮かび上がった。杖についた宝珠が、音楽に合わせて明滅している。
魔法陣の図柄は、黄緑色のラインで描かれた円の中に、四つ葉のクローバーと十字架が重なったデザインだ。魔法陣による魔法は、効力や威力が分散しやすい代わりに効果が即時発動する。
クロ―デリアが演奏する「魔法曲」によって味方全体のHPが断続的に小回復した。1度の回復量は少ないが、効果は演奏モーション中に継続して発揮される。
魔法曲は、効果がある程度持続する魔法だ。演奏モーションがあり、それなりにモーションが長いのには注意が必要である。
セレーネ「よーし、これなら行ける」
ラソン「こっちだ骸骨、ハウリング・ヴォイス」
クライス『キィッ』
セレーネがカクタスに向かっていき、ラソンがボーン2体の注意を引き付ける。射程に入ると同時にセレーネは火十連撃を繰り出す。続けて炎撃拳、連蹴乱舞へと繋げて1体撃破。2体目のカクタスも同じ要領で倒すセレーネ。
リジェネ「セレーネさん、少し抑えて。MPの使い過ぎです」
セレーネ「やっば、一旦下がるね」
リジェネ「カナフ、ソニックエッジ」
カナフ「ピィ」
セレーネを追いかけるカクタス2体に真空の刃が襲い掛かる。動きが止まったところを颯針槍で攻撃。下がったセレーネは道具でMPを補充する。
クローデリア「‐炎よ、球となり爆ぜよ‐ ヴールバル」
魔物「ボーン……」
演奏モーションが終わったクローデリアが詠唱し、杖の先から火球を飛ばした。
彼女がLv3になると覚える威力の低い炎魔法だ。炎と相性の悪い彼女にとっては、唯一覚える貴重な炎魔法である。
知識力が高いので低レベルの魔法でも侮れないダメージだ。
クローデリア「ふふ、やっぱりこっちは効くのね~」
以前追いかけられた時は、水の魔法を使ってしまって痛い目をみた。3人の戦闘を見てこちらに切り替えたのは正解だ。ちょっと感動している。
ラソン「クローデリアっ、ボヤっとすんな。来てるぞ」
クローデリア「えっ! ああ~ん、来ないで~」
意外とタフなカクタス1体がクローデリアを追いかける。
しかし、遅い。クローデリアは移動速度が物凄く遅かった。ラソンがフォローに入ろうとするが、ボーン達に足止めされる。
ラソン「ちっ、リジェネ頼む」
リジェネ「はい」
現状では騎乗中のリジェネが一番早い。リジェネがクローデリアの救援に向かう。
クローデリアは、杖の先からマナの塊を飛ばしながら逃げ惑っている。これは彼女の通常攻撃で魔法扱いだ。だが、無茶苦茶に打っているので塊は当たっていない。
普通に逃げているだけだから、態勢からして当てるのは厳しいだろうが。
その後、思っていたよりも長期戦になってしまったが無事に魔物を撃破した。
リジェネはLv24になった。ラソンはLv25になった。
武器を収めて集合する一行。
ラソン「皆、すまねぇー」
リジェネ「いえ、僕も冷静さを欠いてました」
セレーネ「うん。落ち着かないとって思ってたのに、全然だったよね」
クローデリア「わたくしも、攻撃が効いてつい嬉しくなっちゃってました……」
互いが、互いの状態をちゃんと見れていなかったことに反省する。
きちんと確認をしておくことの大切さを痛感した。ちゃんと確認していれば、クローデリアが治癒をできたことも移動が遅いのも気づけたはずだ。
きちんと反省を済ませ、改めて情報確認を行い移動を再開することにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
――神樹の働きを助ける……それが御子の努め。
――……しないと。このままでは……が。
――どうして。力が……上手く……ができないっ。
真っ暗な意識の中で響く声。これは自分の声だ。
私は御子としてあることをしていた。それは……。
リーヴェ「う、うーん」
リーヴェは目を覚ました。砂に横たわる身体をゆっくりと起こす。
今のは夢? いや違う、気絶してだけだ。服に着いた砂を落とす。少し頭がクラクラするので、リーヴェは頭を押さえながら周囲に視線を向けた。
見渡す限り砂だが、周囲にいくつもすり鉢穴がある。近くに生き物の気配はしない。
リーヴェ「助かった、のか?」
リーヴェ(今の声は……御子の努めとは……)
神樹の働きを助ける? どうやって?
まだ、肝心なところが抜けているようだ。
リーヴェ「ダメだ、思い出せそうにないな。今は合流するのが先決か」
リーヴェは仲間達を探して1人歩き出した。
すり鉢穴の密集したエリアを行くリーヴェ。
リーヴェ「おわっ」
突然足元の砂が崩れてすり鉢穴に入ってしまったリーヴェ。このままでは砂に沈んでしまうが、流れる砂に足を取られて戻れない。だがこの手の穴は2度目だ。以前の時とは違い、少しだけ思考が落ち着いているリーヴェ。
リーヴェは白羽天翔を使ってすり鉢穴を脱出した。
リーヴェ「ふぅ、今回は落ち着いて対処できたな」
リーヴェ(さて、このまま穴のない場所まで行けるか……)
そう思った矢先だった。
リーヴェ「くっ……」
どこからか、渦巻く砂嵐が吹きつけてリーヴェを襲う。
視界を奪い、強烈な強風が飛翔を妨げる。帽子を押さえ踏ん張るがその場に留まることができず、バランスを崩して落下してしまうリーヴェ。
運よく平らな砂地に着地した。低い姿勢のまま安全確認をするが、先ほどの砂嵐は嘘のように消えている。魔物の仕業かとも思ったが、発生源らしき存在は見受けられなかった。
偶然かと思いもう1度飛行を試してみる。だが、またしても同じ渦巻く砂嵐に阻まれ飛んでいられなかった。
リーヴェ「どういうことかはまだわからないが、飛んで移動するのは危険だな」
リーヴェ(この砂漠には何かが潜んでいる。早く、皆と合流しないと)
仕方がない、歩いて進もう。どの道長時間は飛んでいられないし、無暗にHPを失うのは避けた方がいい。確実に進める道があるなら問題はなかった。
リーヴェは陸路で再び歩き出した。
※このすり鉢穴エリアでは、飛行すると原因不明の「渦巻き砂嵐」に襲われてしまいます。落下時には微量なダメージを負うので注意しましょう。
すり鉢穴に落ちた場合は「白羽天翔」で脱出するしかありません。
絶妙な具合に密集したすり鉢穴は避けて歩くだけでも大変だった。歩幅を調節し、歩く速度を工夫して慎重に間を通り抜けていく。
所々の砂が唐突に崩れるので歩きにくい。当然ながら、穴が近くにある所で砂崩れを起こすと飛翔せざるを得ないので大変だった。回復薬や治癒魔法で適度に癒しながら進む。
十分に注意していても、初めてくる場所のために砂崩れを避けるのは難しかった。
リーヴェ(はぁ、空からなら皆を見つけられるかもしれないのに)
リーヴェ「ぼやいていても仕方がない。魔物との戦闘がないだけマシか」
今のところ、魔物とは1度も遭遇していない。
ただ単に運がいいだけかもしれないが、ひょっとしたら魔物もすり鉢穴を避けている可能性があった。
リーヴェは地道に歩きづらい砂上を歩いていく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード21 1人は寂しい?】
皆を探して砂漠を行くリーヴェ。
リーヴェ「……代り映えしないな」
行けども見えてくるのは砂とサボテンばかりだ。魔物の姿もない。
なんとなくリーヴェは、立ち止まり背後を振り向いた。誰もいない。
リーヴェ「………………」
ここのところはずっと賑やかだった移動も今は非常に静かだ。自分の現在位置が砂漠のどの辺りなのかもわからない。
土地勘のない所で独りぼっち……心に小さな隙間風が吹いているような気がしてくる。
リーヴェ(気がつかなかったな……)
リーヴェ「1人で道に迷うって、怖かったんだな」
今回は好きで迷った訳ではないが、相談できる誰かがいないのは怖い。今は大丈夫だが、魔物だってうろついてるかもしれない場所だ。
早く合流したいけど焦りは禁物。ジッとしているべきか。でも、脅威がそばにある可能性のある場所に居続けるのも恐ろしかった。
リーヴェ「……今は進むしかない」
リーヴェは気持ちが折れないように、気合いを入れ再び歩き出すのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 魔法の種類】
この世界の魔法には、詠唱と魔法陣の2種類の発動方法がある。
詠唱は呪文を唱えて発動させる方法で、効果が発揮されるまでに時間がかかる。その分、威力が高く設定されており、主に単体火力に優れている。ほとんどの人々はこちらを用いることが多い。
魔法陣は、図形を描いて発動させる方法で効果が即時に発揮される。図形は魔法によって異なり、図形イメージをマナに反映させるのが難しい。そのため補助機能のついている、魔法クラス特有の道具=杖(宝珠部分)などにイメージを読みませて行うのが一般的だ。剣などにはこれがない。
こちらは即時発動する分、効果が分散しやすく範囲火力に向いている。
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