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第29話 砂漠の集落

ホレスト郷「そうそう、現場付近に妙なネズミがいたよ。もしかしたら例の実験体も()られちゃったかもねぇ」

コボル郷「なんだと、おいっ」

部下「はい。ただいま確認いたします」


 指示を受けた部下が壁際に設置された機器を操作した。


部下「っ、確かに反応が消えています」

コボル郷「うぬぬぬぅ、いったい誰がっ」

ホレスト郷「あーあ、殺られちゃったか。残念だね」


 コボル郷がホレスト郷の胸倉に掴みかかる。


コボル郷「犯人を見たのか? 誰じゃ、答えんか」

ホレスト郷「さあ、遠目だったからよくは知らないな。随分と可愛いコだったと思うけど」

コボル郷「くうぅ、ワタシの可愛い実験体(モルモット)ちゃんをー」


 頭に血が上ったコボル郷は、ホレスト郷の奇妙な言い回しに気づいていない。

 しばらく憤慨していたコボル郷は、一度深呼吸をしてからホレスト郷に兼ねてから依頼していた別件について聞いた。ホレスト郷が長い金髪をファサっと手で払う仕草をする。


ホレスト郷「大丈夫さ、既に目星はついている」


 いや、ようやく目星がついたが正しいだろう。コボル郷は落ち着きのない態度でホレスト郷に指示した。


コボル郷「とにかくっ、例の物が必要なのだ。急いどくれよ」

ホレスト郷「ああ、任せておきたまえ」


 では、と気障に言って部屋を出ていく。背後では「ぬぬ、照準の不具合はこれが原因だったか」とかなんとか言っているコボル郷と部下達の声が響いていた。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 翌日に里を出てハ・グネの町で1泊した後、リーヴェ達はクローロン平原に来ていた。ラッド橋を抜けた方が近道だったが、メンテナンスのため通行止めになっていたからだ。


セレーネ「エルピス行くよっ」

エルピス『ガルルルゥ』


 遭遇した魔物の最後の1体にとどめを刺す。


セレーネ「ふぅ、楽勝快勝イエーイ」

エルピス『ガウゥー』

ラソン「上機嫌だなぁ」

リジェネ「なにか言い事でもあったんでしょうか」


 いや、特にいつも通りの日常のはずだ。こんな平原のど真ん中にレアな物がそうそう落ちている訳もなく、野営時にも特別なことはしていない。町での買い物も最小限に抑えた。

 普段大人しいエルピスまで、戦闘時の高揚が残った調子で一緒に吠えている。犬か狼の遠吠えを見ているようだ。


リーヴェ「今日はふたりとも調子良さそうだな」

セレーネ「うん、なぁんか今日は調子がいいんだよね。それにコレの効果が凄いんだもん」


 セレーネが腕にはめた戦士の腕輪を見せてくる。彼女があんまり強請るので装備を譲ったのだ。つまり、新調した装備の効果を試したくてウズウズしていたということだ。

 ちなみに蛇石のペンダントはラソンが、以前手に入れていた即死耐性の装備品はリーヴェがつけている。


 付け加えておくと、即死のほうは治癒できる奴が倒れたらヤバいのという理由で、誰が装備するか即行で決まったのだった。

 エルピスのほうはというと、どうやら砂漠が近いかららしい。相棒の様子を見たセレーネが一瞬心配そうに顔を歪めた。ん、なんだ今の反応は。


リーヴェ「どうかしたのか」

セレーネ「ううん、何でもないよ。さっ、野営の準備でもしよ」

ラソン「もうそんな時間か……なかなか進まねぇもんだな」

リーヴェ「焦っても仕方ない。慎重に行こう」


 リーヴェ達は頃合いを見て野営の準備に取り掛かった。



 食事の支度をセレーネに任せ、ラソンとリジェネは薪集めからなかなか帰ってこないリーヴェを探した。


リジェネ「姉さーん、どこですかぁ」

ラソン「おーい、リーヴェ」


 日はすっかり暮れている時間帯だ。日が暮れる前に準備を終えようと行動してきたから、いくらなんでも遅すぎる。


ラソン「たく、アイツどこに行ったんだ?」

リジェネ「まさか魔物に襲われてるんじゃ」

ラソン「とにかく急いで探すぞ」

リジェネ「はいっ」


 2人は気持ちに急かされて捜索に当たった。


 しばらくしてリーヴェを見つける。彼女の傍には複数の小さな影がいるようだ。リジェネとラソンが慌てて駆け寄ると、リーヴェの笑い声が聞こえてきた。


リーヴェ「あはは、くすぐったいよ」

動物A「クキュッ」

動物B「キュキュキュッ」

2人「…………」


 唖然とするリジェネとラソン。

 リーヴェは懐いてくる小動物達と楽しく戯れていた。傍には集めた薪が置かれている。

 小動物は非常に可愛い姿をしていて、ウサギに似た長い耳とフサフサの長い尾をもっていた。大きさもウサギくらいで丸みのあるボディ。体毛は栗色やキャラメル色だ。

 普段の様子とは違い、少女のようにはしゃぐリーヴェ。近づいてきた灯りに照らされ2人に気づく。動物の群れが数匹を残して逃げて行った。リーヴェは群れの去っていった方向に視線を向ける。


ラソン「オマエ、なかなか戻ってこないと思ったら」

リーヴェ「……すまん。つい」


 リーヴェは耳まで真っ赤にして照れていた。恥ずかしさのあまり、膝に乗せていた小動物の頭や背中を撫でている。気が動転していても動物を触る手は優しかった。


リジェネ「そういえば、姉さんは動物によく好かれてましたね」


 リジェネの話だと、特に小さな動物に好かれやすいらしい。リーヴェ本人も動物が好きで、王宮で飼っていたペットの小鳥や犬をすごく可愛がっていた。森に出かけた日には、たくさんの動物に囲まれていたなんてこともあったとか。

 動物たちと楽しく遊ぶリーヴェの姿を思い出し、懐かしいな、と思うリジェネだった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  アイテム枠について】

 ゲームにあるように、旅をするうえで入手するアイテムをいくつかの役割で分類して保管している。分類は通常枠、食料、武器、防具、アクセサリー、貴重品の計6種類だ。

 通常枠は主に回復薬のような消耗品全般で食料とは別にしている。武器類もきちんと部位に応じて分けており、貴重品は売却のできないアイテム全般だ。基本的にアイテムは使い捨ての物が多いが、貴重品のように何度も使用することができる物もあるぞ。

 ちなみに「王家のナイフ」は貴重品扱いなので装備する必要はない。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【サブエピソード19  憧れの奥義②】

 皆が寝静まった頃、ラソンはクライスと野営地から少し離れた場所で特訓をしていた。


ラソン「クライス、もう一度だ」

クライス『キキッ』


 腕に乗せたクライスに声をかけながら空へ放つ。

 今度こそ、と念じながらクライスとタイミングを示し合わせる。気持ちを静め、呼吸を整えて、鼓動を数え、クライスの動きを耳を澄ませて感じ取った。体感で風を読み、より強く妖精石に意識を集中させる。


ラソン「よし、今だ」

クラシス『キィー』

ラソン(来いっ)


 クライスが急速降下した。手の甲の妖精石が瞬間的に強い輝きを放つ。

 だが、結果はまたしても失敗だった。以前と同様に派手に吹っ飛ぶ。辛うじて受け身をとるふたり。

 ラソンが拳を地に叩きつける。


ラソン「ちっくしょー!!」

クライス『キキィッ』


 クライスも悔しくて翼をばたつかせていた。めっちゃ荒ぶっている。

 そんなふたりに近づく影があった。


セレーネ「なにやってんのよ。こんな時間に」

ラソン「あ、セレーネ。起こしちまったか」

セレーネ「違うよ。ちょっと風にあたってただけ」


 人影は腕を後ろで組んだセレーネだ。調子が良すぎて眠れなかったらしい。ラソンが気まずそうに指で頬を掻く。


ラソン「特訓してたんだよ……他の奴には内緒な」

セレーネ「別にいいけど、どんな技を練習してたのさ」


 隠すようなことでもないので、セレーネにも特訓の内容と技の完成系イメージを伝えた。静かに話を聞く彼女の興味を引いたようだ。より細かい質問をしてくる。


セレーネ「ねぇねぇ、あたし達も特訓に混ぜてくんないかな?」


 ラソンは思案する。


ラソン「わかった。一緒にやろうぜ」

セレーネ「うん、絶対にモノにしようね!」


 セレーネがエルピスを呼び出して一緒に特訓を再開するのだった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 翌日以降も、魔物と遭遇を繰り返しながら移動を続けるリーヴェ達。砂漠が近づくにつれて少しずつ気温が上がっていく。涼しかった風が徐々に生暖かくなる。

 何日かした頃、ようやく砂漠の入り口が見えてきた。ここに来た時には、全員2ずつレベルが上がっている。新しいスキルは習得していない。


セレーネ「さーて、ここからはあたしに任せて。まずはあたしの故郷に皆を案内するよ」

ラソン「大丈夫か? オマエ森で変な方向に行こうとしてたし、町までの道中も迷ったんだろ?」

リーヴェ「ふ、不安だな」

リジェネ「やっぱり地図を見ていきましょうよ」

セレーネ「大丈夫ダイジョーブ。あたしにまっかせなさーい!」


 不安を隠せないリーヴェ達に、セレーネは全開の笑顔で歩き出す。彼女1人を先に行かせると不味いと感じて急いで後を追う。



 ――数時間後。


セレーネ「あれ、今どの辺?」

リジェネ「セレーネさん、こっちです」

ラソン「どこ行く気だ。おーい」

リーヴェ「悪いが今の目的地はネメア村だ。そっちはアズガルブ」


 地図を持つリーヴェ達の声に苦笑いするセレーネ。

 一行は地図を頼りに、地元人でも迷う特徴のない砂上を歩き続けた。


 そろそろ日が暮れようという時間まで歩いて、なんとか「ネメア村」へとたどり着いたリーヴェ達。村に着いた早々、またもやセレーネが道案内をすると進み出ると――。


エルピス『ガウッ、ガウッ』

ラソン「お、エルピスが案内してくれんのか?」

エルピス『ガルゥゥ』

リジェネ「案内してくれる気みたいですね」

ラソン「よし、行こうぜ」


 妖精石からエルピスが飛び出した。2人がエルピスとともに先を歩いていく。リーヴェは不満顔をしているセレーネの背中をポンッと叩いて促した。


リーヴェ「セレーネの記憶も頼りにしてる。いろいろ教えてくれ」

セレーネ「う、うん。任せてよ」


 待ってよ、と追いかけていくセレーネ。リーヴェも遅れないように急いだ。


 ネメア村は、砂漠の風を防げる頑丈で白い石材を積み上げて作られた四角い建物が特徴的。薄い黄色の垂れ幕を屋根代わりにして、外で作業しやすいようにしてある。

 垂れ幕の下には簡易棚が置かれ、雨水用の器が沢山収納されていた。オアシスもあるが出来るだけ水を溜めておけるようにだ。


 樹木は少ないが、代わりにサボテンがあちこちに植えられている。またどの木も非常に背が高い。見た目はヤシに近かった。

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