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第28話 歓喜の向こうで……

 遺跡を中心に一筋の波紋が飛ぶ。波紋が通過し、町へ向かっていたアンデット達が動きを止めた。一瞬戸惑ったようにキョロキョロした後、住み慣れた土地に引き返して行く。

 襲撃を逃れ、安堵した人々が一斉に沸き立った。次々と歓喜の声が上がる。その様子を上空からクライスを通して確認するラソン。


リーヴェ「どうだ?」

ラソン「大丈夫だ、アンデット達は引き返してったぜ」


 全員が胸を撫でおろした。リーヴェ達は今、遺跡の入り口に立っている。外の様子を確認するために急いで出てきたのだ。

 リーヴェ達も達成感と安堵から思わず歓声を上げる。リジェネはすっかり腰を抜かして座り込んでいた。


セレーネ「情けないぞぉ、少年」

リジェネ「だって、遺跡の中もオバケばっかりだったんですよ」


 リーヴェとラソンは笑い声をあげる。アンデットの連戦が大分堪えたようだ。もうオバケは懲り懲りだ、と言っているリジェネ。そんなこと言ってるとまた出るかもよ、とセレーネが茶化す。

 リーヴェがセレーネをやんわりと止めた。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  ファントム・ニュクテリス】

 種族 飛行・アンデット 属性 闇 全長 約2.0m 体重 約0.1㎏ 弱点 炎

 ア・ルマ遺跡に飛来した、アンデットを呼び寄せるコウモリに似た幽体魔物。

 戦闘開始時に「ボーンソルダ」を複数体召喚し、実態がほぼないため物理や無属性攻撃には耐性があり闇属性は無効。影に潜む能力を持っており、翼で身体を包みガード状態になることで魔法攻撃を無効化する。そのまま放置すると自然に解除され、闇の全体魔法攻撃+攻撃デバフを使ってくる。

 連続攻撃でガードを解除できるぞ。この魔物も出自に秘密がある。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【サブエピソード18  遺跡での戦利品】


セレーネ「ふっふっふっ……」

ラソン「なぁ、セレーネの奴どうしたんだ」

リジェネ「少し怖いですね」

リーヴェ(あの2人ですら引いてる)


 セレーネは遺跡で入手したアイテムを見てニヤニヤしていた。なんとも下品な顔である。

 遺跡の宝箱は、すべて仕掛けつきだった訳ではなかった。いくつかは諦めざるを得なかったが、それでも収穫はあった。


セレーネ「ふふふ、これは攻撃力の上がる『戦士の腕輪』。そっちは毒を予防できる『蛇石のペンダント』、ん~最高!」

リーヴェ「よく見ただけでわかるな」

セレーネ「当ったり前じゃん。特にこの蛇石なんかキラキラよ!!」

ラソン「お、おう?」


 リーヴェ達は彼女の迫力にタジタジだ。


リジェネ「セレーネさんは鑑定ができるんですか」

セレーネ「別に半分くらい勘だけど……あたし、こういう勘は外したことないんだよね」

ラソン「た、宝の亡者だな」

リーヴェ「ラソン、それは彼女に失礼じゃないか?」


 チラリと様子を見るが、セレーネは気づく気配もなかった。頭の中は宝のことで占められている。遺跡で手に入れた中には回復薬の類も当然あるが、そっちには目もくれていない。

 純粋にキラキラピカピカが好きなのか、特殊な効果がある装備品が好きなのかどっちなんだろう。こっそり意見し合う3人。


 アイツはトレジャーハンターか何かか? だとしたら相当にドジなハンターである。なぜなら彼女は、遺跡で一番仕掛けや宝箱の罠を作動させていたからだ。

 今回は作動させてもいい仕掛けだったが、もしそうでないものだったらと思とゾッとする。


セレーネ「ああっ!」


 驚いた3人がセレーネのほうを振り返った。

 彼女が木の上にいる灰黒色の鳥に向かって叫んでいる。鳥は、この惑星でいう所のカラスだ。名前は「ホワイトコルヴォス」という。全体的に羽の色が薄いからこう呼ばれている。

 そしてホワイトコルヴォスの嘴には金貨1枚が光っていた。どうやら取られてしまったようだ。鳥が羽ばたいて空へ――。


セレーネ「待てゴラッ、あたしの金貨返せー」

リーヴェ「セレーネどこへ行くんだ」

セレーネ「あたしのキラキラー!!」

3人「…………」


 今なんて言った。

 金貨1枚を鬼の形相で追いかけていくセレーネ。なんとなく、先程の疑問は前者な気がするリーヴェ達だった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  装備枠ってどうなってるの?】

 装備枠は、メイン武器、サブ武器、防具、アクセサリーの計4種類。その内アクセサリーは1人3つまで装備でき、靴や手袋、帽子、装飾品はアクセサリーに分類される。戦闘時に装備替えは出来ない。


 武器はメインとサブがあり、槍や大剣などの両手もち武器を装備時はサブは使用できない。サブ枠に装備した武器は、戦闘時に切り替えて使用でき、スキルを用いれば同時に使うことも可。

 両手武器の中でも弓や銃は例外でサブ枠を使える。サブ枠は1人2枠あるが、一部のクラス以外はサブをフルで使う事は少ないだろう。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 その日の夜、無事に里へ戻ったリーヴェ達。

 戻ってすぐ里長のもとに報告し、長から「風狩りの耳飾り」を貰った。このアクセサリーは装備者の通常攻撃に「飛行特攻」を付与するレアものだ。ピアスではなくイヤーカフに似た形状だ。

 風狩りの耳飾りは、空中戦を得意とするリジェネが装備することになった。スキルには効果が発揮されないがないよりはマシだ。

 今後の補給を済ませ、今は宿屋の談話室にいる。


リジェネ「ええー、実は皇帝に会うため旅に出た!?」

セレーネ「うん」


 セレーネが申し訳なさそうに頷いた。

 話があると呼ばれて、ここ談話室に集まった早々に打ち明けられた衝撃の事実だ。地上界で「皇帝」と呼ばれる人物は1人しかいない。


ラソン「皇帝ってことは、アズガルブのへ―リオス13世陛下だよな。なんでまた、そんな大物に会いたいんだよ?」

ラソン(まあ、だいたい想像はつくけどな)


 ラソンはエルピスを見た時からいくつか想像があった。だが、確証を得るためにも是非聞いておかなければならない。


セレーネ「実はあたしのお祖父ちゃんが皇族で、若い頃に菓子職人だったお祖母ちゃんと駆け落ちしたの」


 セレーネの話によると、現皇帝のへ―リオス13世陛下とは「はとこ」の関係にあるという事だった。彼女の苗字は母方のものだ。ラソンはエルピスに獅子の特徴を見つけ、アズガルブの皇族と関係があるのでは勘づいていた。虎の特徴もあるので、彼以外は全然気づかなかったが。

 獅子はアズガルブの皇帝家につき従う妖精なのである。


リーヴェ「セレーネは皇帝に会ってどうしたいんだ?」

セレーネ「別に、会って話したいだけ。……あたしにはもう、他に血の繋がった家族はいないから」

セレーネ(相手は皇帝様だから会う方法もわかんないし、あたしが会いに行ったら迷惑かもしれないけど……)


 血の繋がった家族だって気づいてくれなくていい。ただ会いたい。会って、ちゃんと家族がいたんだなって感じさせて欲しかった。

 両親も、祖父母も早くに失った彼女にとっては、幼い頃から決めていた夢だった。おばさんも家族だけど、それとは違う。

 おばさんがなかなか許してくれなくて、こんなに時間がかかっちゃったけど……。


セレーネ「だけど貴方達についていけば偉業を成し遂げられそうだし……王子様のお付きとして皇帝にも会えるかも。うん、あたしついてる」

リーヴェ「おいおい、セレーネ」


 先までのシリアスな表情が嘘のように明るい調子で言った。国の英雄にでもなって皇帝に会う魂胆だったのか?


リジェネ「でも、普通に素性を明かせばいいのでは」

セレーネ「ダメ―、あたし身分が欲しい訳じゃないもん。余計な波風を立てない方法があるならそっちがいいの!」

ラソン「それでオレが隠れ蓑か。オマエなぁ」

セレーネ「いいじゃん、隠れ蓑になってよぅ」

ラソン「まぁ、いいけどさ」

リーヴェ「会えるといいな」


 リーヴェ達の温かい視線にセレーネは「うん」と答えた。

 その後も雑談をしてから各々休息に入り1日を終える。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 ???の某研究施設、実験場。

 様々な機械が置かれた広い部屋。冷たい床にはコードや資料が散らばり、壁には出入り口や搬入口とは別に牢部屋へ続く扉があった。機械から独特の音が響き、モニタなどがチカチカと光を放つ。部屋全体は電灯に照らされて比較的明るい。


若者「助けてくれー」

女性「いやー、いやよ。ここから出して」

男性「俺達をどうするつもりだっ」

青年「ここから出せー」


 部屋のほぼ中央に設置された鉄檻の中には、地上界の人々が数人入れられていた。捕らわれた人々の年齢層や性別はバラバラだが、若干男性のほうが多い。

 鉄檻の傍には強大な機械が置かれている。機械は奇怪な形をしており、銃器のようなアンテナのような複雑な形をしていた。めちゃくちゃ黒光りしたボディに、青白いラインが電光を走らせている。

 そして機械の照準は鉄檻に向けられていた。


コボル郷「フォッフォッフォ、では始めるとするかの」


 機械のコントロール部に立っていたコボル郷がパネルやレバーを操作する。巨大な機械が動き出した。上部に取り付けられたパラボラ+銃に似た部位が光を集め、檻の人々に向けて黒い光線を放出した。


男性「がああぁ」

女性「ひっ」


 檻の中にいた男性が跡形もなく消失する。どよめく檻の内部。男性がいた場所から黒紫の気体が立ち上っていた。機械がぎこちなく気体を吸引する。

 結果を見たコボル郷は顎に手を当てた。


コボル郷「ふーぬ、どうも安定せんな」


 モニタに表示された情報を確認して唸る。


コボル郷(パワー、照準、波長……どれをとっても不安定じゃな。やはり例の物が必要か)


 唸りながら機械の調整を続けていると、不意に背後の扉から騒がしい声とともに一人の男が入ってきた。相変わらず騒々しい奴だ。すぐに入ってきた人物を察したコボル郷が振り返る。


ホレスト郷「やあ、別働作戦のほうは順調かな」

コボル郷「見ればわかるだろう。またもや失敗じゃ」


 ホレスト郷は奇妙なポーズをとって会話してくる。アホらしい、実に面倒くさい男だ。若干うんざりしながら会話を続けるコボル郷。


コボル郷「そっちはどうなんじゃ。収穫は出来たんじゃろな」

ホレスト郷「もちろんさ。早期解決してしまったけどそれなりには取れたし、先ほど陛下に献上して来たところさ」


 ホレスト郷は別のポーズをとりながら、コボル郷用にとっておいた1個のキューブを差し出す。コボル郷は嬉々としてキューブを受け取った。


コボル郷「おお、これじゃこれじゃ。後でゆっくり堪能するとするかの」

ホレスト郷「んふふふっ、このボクがわざわざ回収に駆けずり回ったんだ。当然だろう」


 一応言っておくが、実際に回収したのは使い魔だ。ホレスト郷は喋るたびにおかしなポーズを決めている。美形なのに、紛れもなく変な人だ。

 コボル郷が大事そうにキューブをしまう。

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