第26話 セーブポイント
次のフロアに上がり探索を続けるリーヴェ達。
遺跡内は思っていたより明るくて、床や壁もそれほど脆くなかった。明るいのはマナの結晶が至る所に配置され、周囲のマナに呼応して発光していたからだ。
結晶の色は赤、炎のマナが結晶化したもので風のマナの影響を受けて光っている。さすが風の王国というだけあって緑色の風マナが多いのだ。
炎のマナ結晶だからと言っても熱くはない。強い衝撃を与えると爆発する性質を持ってはいるが、遺跡内の結晶は衝撃による爆発を防ぐ処置が施されていた。これは古代の技術である。
リーヴェ達の足音やカナフシルトの羽音が反響していた。
――カチッ。
リーヴェ「今、音が聞こえなかったか」
リジェネ「セレーネさん、足」
セレーネ「えっ」
全員の視線がセレーネの右足に集中する。正確にはその足元、床が一部へこんでいた。
これって、まさか。身構える一行。
ラソン「……アレ?」
リーヴェ「なにも、起きないな」
セレーネ「はぁ~またやっちゃったのかと思ったよ」
リーヴェ(また?)
前にも似たような経験があるのだろうか。リーヴェは気になりはしたが、特に追及はせず先へ進む。しかし、先程のスイッチは決して無意味ではなかった。
リーヴェ「行き止まりか」
ラソン「けど、隙間風が吹いてるぜ。コレ、扉なんじゃねーかな」
本当だ。灯りでしっかり照らしてみると、確かに奇妙な隙間や段差がある。横にスライドするタイプの扉らしかった。周囲を探してみる。
リーヴェ「これか……」
リーヴェが壁にあった、つなぎ目がくっきりしている長方形の中心を押した。鈍い音を響かせて扉が開く。するとどこからか、別の低い音が響いてきた。目の前の道を進んでいく。
しばらくして小部屋に出た。右側に通路があるのでそちらに行くとまたもや。
――カチッ。目の前の扉が勢いよく閉まった。同時に背後の壁が開き、そこから魔物が出現する。
リジェネ「わあぁ」
セレーネ「きゃあっ」
魔物「クロスファントム」×3と「ボーンソルダ」×3体が出現した。クロスファントムは、布を被った幽霊のような魔物だ。全長は約0.4mで、もちろんアンデットだ。
言い忘れたが、ボーンソルダの大きさは人間の子供くらいで、大人サイズのコールファンテよりは小さい。
リーヴェ達は魔物のバックアタックを食らう羽目になった。
前衛と後衛の位置が乱れた状態で戦闘開始。妖精の召喚や騎乗で対応が遅れる。まともに敵の初撃に対応できるのはリーヴェだけだ。
体勢の不安定なセレーネとリジェネにボーンソルダ達が迫る。リーヴェが拳銃でボーンソルダの動きを封じた。一時的に足止めをしている内に3人が戦闘態勢を整える。
ラソン「はあぁ、精風刃」
セレーネ「あたしも行っくよー」
リーヴェ「これから詠唱に入る。援護してくれ」
2人「了解」
前に出ていたリーヴェが後衛に下がり、ラソンとセレーネが前衛に上がった。リジェネがカナフに乗って敵陣の背後に回る。狙いは、戦闘開始直後から詠唱に入っていたクロスファントムだ。
少し火力を抑えてプレスを浴びせる。勢いよくやると部屋中が火の海になってしまう。ファントムに炎は効果抜群だった。上手く弱点を付けたようだ。直撃を食らったファントム2体が倒れる。
セレーネ「こいつ等、そんなに強くないかも」
ラソン「だからって油断すんなよ」
セレーネ「わかってるって……火月閃っ」
リーヴェ「そこだ。エルメキア・ランス!」
セレーネが攻撃したボーンソルダに、リーヴェが魔法でとどめを刺した。ラソンが相手をしているボーン2体にはリジェネがフォローに入る。
リジェネ「地龍槍」
ボーン「…………っ」
騎乗状態から体勢を傾けて、槍を魔物の足元の地面に突き刺した。槍を通して地にマナを流し地を通って属性を帯びたマナが、見えない圧力となって槍を突き刺した周囲の敵を攻撃する。円形の小範囲に攻撃する地属性攻撃だ。
完全に怯んだボーンにラソンが翼閃連斬を叩き込んで倒した。残った1体も集中攻撃で無事撃破する。
リーヴェ達は魔物の群れを倒した。
リーヴェはLv20になった。リジェネはLv20になった。ラソンがLv21になった。
ラソン「ふぅ、一瞬ヒヤッとしたぜ」
リーヴェ「迂闊だったな」
セレーネ「もう、後ろからなんてタイミング悪すぎ」
リーヴェ達は冷や汗を拭い、気持ちを落ち着けてから開閉が切り替わったもう一方の扉を進む。ここの遺跡は、スイッチで開閉が入れ替わる扉の仕掛けがあちこちにあった。
複雑に入り組んだ通路を右へ左へ行き来しながら探索していく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード17 罠と宝箱】
ア・ルマ遺跡の探索途中、今までの物よりもずっと派手な装飾の宝箱を発見した。リジェネとセレーネが真っ先に反応して近寄る。宝箱を開けようとセレーネが手をかけた。
セレーネ「イタッ」
リジェネ「セレーネさん!? 姉さんっ」
リーヴェがすぐさま「リカバリー」をかける。宝箱に仕掛けられた毒針に触れてしまったのだ。蓋を開けようとすると毒針が出る仕組みになっていた。
ラソン「また厄介なのが来たな」
リーヴェ「今度は仕掛けつきか……宝箱にもいろいろあるんだな」
全員が顔を見合わせる。宝箱をちらちらと見ながら動きが完全に硬直した。
ラソン「どうするよ、コレ」
リジェネ「2度目があったりするんでしょうか?」
リーヴェ「この箱は諦めるか」
セレーネ「ええ、せっかくのお宝なのに!」
セレーネは何とか宝箱の中身が欲しいので、箱ごと壊せないか試したり毒針を防ぐ方法がないかを模索する。だが、毒針の仕掛けを解除しないと開かない造りになっていた。
ニクスがいたらな、とぼやくラソンにリーヴェも同意する。確か彼は、罠も解除できると言っていた。セレーネが「誰?」と言ってきたので簡単に説明するリーヴェ。
リーヴェ「そういえば、この森に来ているようだったが……」
セレーネ「本当! じゃあ、すぐに探して来ようよ」
ラソン「仮に森に来てたとしても、さすがにもう移動してるだろ」
セレーネ「ううぅ」
セレーネが未練がましい視線を宝箱に向けて唸っている。そんなに中身が欲しいのか。仕掛けが施されているくらいだから、それなりに良いものが入っていそうだが。
リーヴェ(さすがに解除できるかも妖しい箱を、命がけで開けるのは避けたいな)
リーヴェ「セレーネ、残念だがこの宝箱は諦めて先を急ごう」
セレーネ「うう~ん……はぁ、了解」
リジェネ「セレーネさん、行きましょう」
意気消沈する彼女を連れて遺跡の探索に戻った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数時間ほどフロア内を彷徨い、ようやく上へ続く階段を発見したリーヴェ達。
階段を上がってすぐは大部屋になっており、その中央には大きな光る魔法陣があった。神秘的な白い光が魔法陣から柔らかく放出されている。
リジェネ「これは結界方陣ですね」
リーヴェ「結界方陣……魔物を寄せつけない安全エリアだな」
リジェネ「はい」
セレーネ「へぇ、便利なモノがあるんだね」
結界方陣、別名セーブポイント。もちろんリーヴェ達にセーブという感覚はない。この上にいる限り、魔物に襲われる心配がない安全なエリアだ。こちらも古代の文明が残した遺物のひとつで、大抵のダンジョンや遺跡などにはほぼ確実にある。
魔法陣は部屋全体に作用しているので、この大部屋からでなければ安全は確保できるだろう。魔法陣は焚火などで消える心配もない点も安心だ。
時間帯も大分良い感じだったので、ここで今晩は野営することにする一行。事態は一刻を争うが、十分な休養を取らなければ危険だ。この後のことも考え態勢を整えておく必要がある。
リーヴェ達は協力して野営の準備を行う。今回の食事はセレーネが作ることになった。
ラソン「うんめぇー」
リーヴェ「セレーネは料理上手だな」
リジェネ「すっごく美味しいですっ」
セレーネ「エヘヘッ、別に大したことじゃないよ」
セレーネはここまで喜んでくれるとは思っていなかったらしい。少し大げさなくらいに照れている。
彼女が作ってくれた食事は、今まで食べた中で一番美味しかった。こだわって作ったことが容易に想像できるほど手が込んでいる。非常に丁寧な出来栄えだ。
ラソンはやっとまともな料理が食えると涙目である。食の凶器を回避できたことに感涙しているようだ。彼は積極的にお代わりを強請っていた。確かにこれは上手い。
ラソン「セレーネ、もう一杯くれ」
セレーネ「そんなに食べて大丈夫なの? まったく、今までどんなの食べてたのさ」
ラソン「頼むから聞かないでくれ。思い出しただけで……うぷっ」
ラソンは、見た目も味も大崩壊している『凶器』を思い出してしまった。
リジェネ「ちょっと、どうして僕を見て不味そうな顔するんですか!」
リーヴェ「あはは……」
今までの食事がヤバかったのは、紛れもなく彼が原因である。頬を膨らませ、不服顔のリジェネ。味覚は普通っぽいのに、なぜ作るものはああなってしまうのか……謎だ。
リーヴェも料理は得意ではないが、ラソンからいろいろと教わって少しは上達してきたと思う。ラソンも料理ができるというだけなので、なかなか上手くはならないのだが。
リーヴェは出された食事をじっくりと見つめた。
綺麗に切られた野菜のスープに、程よい焼き加減のパイ。よく野営用の調理道具で作ったものだと感心する。彼女自身が持ち歩いていた道具も使っていたが、見事だとしか言いようがなかった。
リーヴェは食事を見て決めたことをセレーネに伝えることにした。
リーヴェ「セレーネ、今度私に料理を教えてくれないか?」
セレーネ「んん、リーヴェは料理が苦手なの」
リーヴェ「ああ、今までやったことがなくて」
セレーネ「ふぅん、いいよ。今度一緒にやろっか」
リーヴェ「ありがとう。よろしくお願いします」
セレーネから快い返事を貰えてほっとするリーヴェ。今度一緒に作ってみよう。
ラソンの様子をチラリと見て、強く心に決めた。特に他意はないが、食事はやっぱり大切だと思った。ちゃんと喜んで貰える食事を作れるようになりたいと感じた。
こうして、リーヴェ達は念願の「まともな食事」を手に入れたのだった。




