第24.5話 サブイベント回収02
【風祭り】
農村アンベム、風車の建ち並ぶ広大なエリア。
本日は豊作を祈る風祭り。村の人々が妖精を肩や腕に乗せて勢揃いしていた。妖精達による大演武があるからだ。大演武と言ってもいくつか部門があり、一番の目玉は村の翼自慢が集まって行われる障害物レースである。
リジェネ「賑やかですね」
ラソン「まあな。この村じゃ数少ない大イベントだし」
村人A「これはこれは殿下。どうです、是非参加していきませんか」
ラソン「え、オレは別に」
村人A「殿下が参加してくれると祭りも盛り上がりますからっ」
ラソンは強引に村人に連れて行かれてしまった。
リーヴェ達が唖然としていると、今度は別の村人がリジェネのもとに走り寄ってくる。
村人B「キミキミ、いや~ホント良い所に」
リジェネ「え、僕ですか」
人違いではと問うリジェネ。
村人B「いんや君だよ。確か龍に乗ってた人だろ?」
リジェネ「カナフシルトのことですか」
村人B「へぇ、そんな名前なのか。カッコいいなぁ」
村人は上機嫌でリジェネまで連れて行ってしまった。1人取り残されるリーヴェ。どうしよう。
リーヴェ「ま、きっと大丈夫だろうし見物でもしてるか」
リーヴェは祭り見物をするために歩き出した。
しばらくして空に盛大な花火が打ちあがる。レース開始の合図だ。大勢の人々が風車エリアに殺到していた。リーヴェも人込みをかき分けて見やすい場所からレースの模様を見物することにする。
実況者「皆々さま、大変長らくお待たせ致しました。間もなく本日の目玉、妖精障害物レースの幕上げです」
観客「おおー」
リーヴェ「凄いな」
リーヴェ(ラソンは……いた)
ラソンは横並びする選手達の真ん中あたりにいた。腕に乗るクライスは気合満々だ。実況者が選手の紹介をしていく。村の猛者達は老若男女さまざまで15人ほどいる。
ルール説明が終わると、実況者が競技用のホイッスルを取り出し――吹いた。妖精が一斉にスタートする。
序盤の展開はクライスが好調だった。
コースは風車の間を進み、仕掛けられた風のバルーンに当たらないように飛ぶエリアだ。この風のバルーンに捕まると、洗濯機のように回転されとても飛んではいられなくなる。ちなみにこの仕掛けは村の仕掛け人達が作っていた。
ラソン(クライス、右だ。次は左っ)
クライス『キッ』
ラソンは連携を使って視覚を共有しつつ的確に指示を出す。クライスは見事な反射神経でバルーンを避けていった。無事エリア突破だ。2・3羽の選手が脱落する。
続いてやって来た中盤エリアは、かなり苦戦を強いられていた。クライスをはじめ多くの妖精達がペースを落としている。仕掛けはネバネバの網が張り巡らされた前半エリアと、縦横からランダム吹きつける強風の後半エリアだ。
ラソン(うお、あっぶねー。クライス、ペースを抑えて確実に避けろ)
クライス『キキィ』
多少遅れてもしっかりと仕掛けを突破していく。息ぴったりだ。
この中盤コースで全体の3分の1ほどが脱落していった。仕掛けにハマった者もいれば、集中力を切らして足並みが乱れてしまった者もいる。
いよいよレース終盤。最後の障害物は、なんとリジェネとカナフシルトだった。
リーヴェ「リジェネ……なんであんな所に」
リジェネ「カナフ来ましたよ。ちゃんと加減して下さいね」
カナフ「ピィー」
カナフシルトが首を折り曲げ真上に向けてブレスを吐く。リジェネはその炎を、マナを薄く纏わせた槍の先で綺麗に輪を作り分散させた。炎の輪が下から上へ縦横無尽に飛散していく。
あんなこともできたのか、とリーヴェは感心した。実に器用だ。
ブレスのクールタイム中は「ソニックエッジ」で妨害をする。次々と脱落していく選手達。実況も観客の歓声も白熱していった。
ラソン「んなのアリかよっ」
クライス『キーキキッ』
思わず愚痴をこぼすラソン。クライスは翼を折り畳んで炎の輪を潜り、真空の刃は身体を回転させて躱した。なんとか龍の猛攻を突破してゴールに向かっていく。
ゴール手前、残ったのはクライスと鷹の妖精だけだった。2羽ともトップスピードでゴールを目指す。ほんの僅かな差で勝者となったのは――。
実況者「本日の優勝者は……鷹精のベルフレスだぁ」
観客「うおー」
周囲から盛大な拍手と喝采が上がった。優勝したコンビが勝鬨をあげる。
歓声が冷めやらぬ会場の隅で合流するリーヴェ達。ラソンとクライスはぐったりとしていた。
ラソン「ああ、疲れたぁ」
リーヴェ「惜しかったな」
リジェネ「でも、準優勝おめでとうございます」
ラソン「サンキュ。クライスは不満みたいだけど嬉しいよ」
クライス『キキッククル』
すっかりそっぽを向いてしまったクライス。これは今晩荒れそうだ、と直感したラソンである。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【激レア! レインボー・ピエスドールバロン】
セレーネの加入後、リーヴェ達は再び「鉱石の街 ピエス」を訪れた。
王都からの救援も到着し、復興は順調に進んでいるようだ。少しずつ以前の活気が戻りつつある。ここの住人達はなかなかに逞しく、余程酷い場所以外はだいたい元通りになっていた。
襲ってきた魔物が比較的に小型だったのも救いだったのだろう。主だった建物は壁が汚れる程度で済んでいたはずだ。
町人A「なぁなぁ知ってるか? 例の魔物の噂」
町人B「もちろん知ってるさ。アイツのことだろ」
ラソン「なんだ」
リーヴェ「気になるな。聞いてみよう」
路地の端で雑談している町人達の話に興味を惹かれ話しかける。
リーヴェ「その話、詳しく聞かせて貰えないか?」
町人A「君達もヤツ目当てで来たクチかい」
リーヴェ「…………」
セレーネ「結局、例の魔物って話題になる程なの」
町人A「ああ、もちろん。ヤツの為に集まってくる戦士もいるくらいだからな」
町人が周囲を示す。確かに以前来たときよりも、外部から来たらしい戦士の人数が多かった。皆妙にやる気に満ちている。まさか、これが例の魔物のせいなのか……凄いな。
リーヴェ「で、その魔物はなにが凄いんだ。まさか町を襲ったりは」
町人B「いやいや、アイツに脅威になる程の戦闘力はないさ。下手したらオレでも倒せるかもな」
町人A「ああ確かに。けど、それじゃあアレは入手できないよなぁ」
セレーネ「アレって?」
町人B「アイツはな、地属性の攻撃で倒すと超レアなアイテムを落とすんだよ」
超レア、という言葉を聞いたセレーネの目に輝きが灯る。顔色がみるみると変わった。レアという言葉に惹かれなくはないが、果たして自分達に必要な物なんだろうか。
詳しく聞いてみると、魔物の名称は「レインボー・ピエスドールバロン」と言った。コイツはムートリーフ国内でごく稀に出没する希少な個体で、特定の属性で撃破すると「虹色のコイン」を低確率でドロップするらしい。おまけに経験値や金銭を大量にくれるのだとか。
外見は名前の通り七色の風船の姿をしていて、大きさは1mくらいあり浮遊している。討伐難易度が高いが、こちらは本体の強さというよりはむしろ遭遇確率の低さによるものだろう。
ついでに言うと、「虹色のコイン」は加工するとすっごい装備品ができるらしい。このコインでしか作れない物もある。
リーヴェ「凄い魔物だな」
セレーネ「ねぇねぇ、あたし達も探してみない」
ラソン「まあ、コインには興味をそそられるな」
リジェネ「ですよね。虹色なんでしょ」
リーヴェ「おいおい、お前達な……」
揃いもそろってお宝に目がない連中だ。3人の妙な意気込みに押されるリーヴェ。
かくして、リーヴェ達は激レア魔物を求めて、奴が目撃されたというプリムーラ丘陵に向かった。
――数時間後。広大な丘陵を歩き回って、ようやく件の魔物と遭遇を果たした一行。戦闘はすでに始まっている。
ラソン「待ちやがれ~」
バロン「♪♪(こっちだよぉ)」
でっかい風船の魔物を追いかけるラソン。必死の形相がちょっと怖い。
魔物が逃げる方向に素早くセレーネが待ち伏せした。
セレーネ「逃がさないわよ。えいやっ」
バロン「♪(当たらんよ~)」
セレーネ「くぅ、なんか馬鹿にされてる気がするー」
リーヴェ「…………」
見るからに遊ばれている。バロンは非常に楽しそうだが、追いかける3人は大変そうだった。まったくこちらの攻撃が当たっていない。
カレコレ10分くらい追いかけまわしているが、攻撃はノーヒットだ。回避率の高い魔物だな。予測のできない動きに翻弄されまくるリーヴェ達。
やがてラソンが痺れを切らし――。
ラソン「ええい、こうなったら。クライス、風で奴を追いこめっ」
リーヴェ「待てラソン!」
ラソン「へ?」
クライス『キキッ』
――ブワワンッ、フュー……。
風で巻き取ろうとしたが、風が形を整える間に一部が魔物に触れてしまう。途端に軽いバロンの本体は、空の遥か彼方に弾かれて飛んで行ってしまった。3人の絶叫が響き渡る。
リーヴェ達には見えないが、飛び去るレインボー・ピエスドールバロンはのんきに「バイバイ」をしていた。
リーヴェ(これは、無理そうだな)
ラソン「…………」
リジェネ「嘘だ、あんなに頑張ったのに」
セレーネ「あああ、あたしのお宝ぁ~!!」
空を見上げて激しく落胆するセレーネ。
リーヴェは途方に暮れる3人を見つめて苦笑するのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 レインボー・ピエスドールバロン】
種族 飛行 属性 ‐ 全長 約1.0m 体重 約0.6㎏ 弱点 地
ムートリーフ王国の各所に、ごく稀で出没する七色の風船の姿をした魔物。
出現場所や出没タイミングなどが毎度違っていて、遭遇する確率が低いことで討伐難易度が高め。倒すと大量の経験値や金銭が貰え、低確率で「虹色のコイン」を落とすことで有名だ。
予測しずらい動きで回避率が高いうえに、特定の属性で撃破しないとコインをドロップしないばかりか、水と光の属性は無効化してしまう。
また、危なくなるとすぐに逃げ出してしまう厄介さも持っているぞ。本体は弱い。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【悩める図鑑コレクター】
王都パラムーエール、国立資料館。3階の隅にある読書スペースに、激しい所作で悩む変な男がいた。見たところ学生のようだ。
あんまりにも凄い悩みっぷりだったので声をかけてみるリーヴェ。
リーヴェ「なにをそんなに悩んでいるんだ?」
学生「ん、なんだいこの大変な時に」
学生が伏せていた顔を上げてこちらを向いた。彼はこちらの全身を流し見て、リーヴェの装備品を見るやガバっと立ち上がる。間近まで迫り、手を握ってくる。
学生「君達、旅人だよね。頼む、僕を手伝ってくれないか」
リーヴェ「話は聞く。だから離れてくれ」
学生「ああ、悪い。このチャンスを逃したら不味いと思って、つい」
握っていた手を放して静かに離れる。学生はリーヴェが女だとは気づいていないらしい。気づいていたら、別の意味で問題だが。
学生は適切な距離をとってから少し遠慮がちに話し始めた。
リーヴェ「それで頼みとは」
学生「うん。君達、採集や収集、観察に興味はないかい?」
リーヴェ「…………」
リーヴェは怪訝な表情になる。突然何を言い出すんだ、この男。
反応が予想通りだったみたいで、学生は気にせず話を続けた。
学生「実は学術サークルで必要な資料が不足していてね。自力で集めようにも膨大なうえ、近頃はいろいろと物騒だろ? だから作業が進まないんだよ」
リーヴェ「手伝うというのは資料集めという事か」
学生が頷く。リーヴェが必要な資料の詳細を尋ねると、これがまた大変な量だった。必要な資料というのは、魔物図鑑、アイテム図鑑、武器・武具図鑑、各地の名所図鑑である。しかも最新のものが欲しいらしく、1から集め直している最中だという。
学生はアイテム図鑑や名所図鑑はまだ少しは集められたというが、魔物と武器図鑑は特に難儀していた。まあ、見るからに戦えなさそうだし無理もないが。
なぜ武器もと思うかもしれないが、ダンジョンなどでしか入手できない物もあるからだ。魔物を倒すことで手にできる物や、ドロップ品の加工によって入手するという物ある。これは戦える者にしか手にできないレアものだ。
ただ、なぜ彼1人にこれだけの量が割り当てられたのかは謎だが。
リーヴェ「ふむ、わかった。協力しよう」
学生「ありがとう。じゃあ、君達にこの予備を渡しておこう」
リーヴェは貴重品「魔物図鑑」、「アイテム図鑑」、「武器・武具図鑑」、「名所図鑑」を手に入れた。
資料を集めてから、またここに来てみよう。
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