第24話 森の戦士たち
町中を調査し終えて合流したリーヴェ達。
セレーネ「結局、変なモノなんて無いじゃんっ」
ラソン「少なくともこの町に問題がある感じじゃなかったな」
入れるところは全部探したが、これと言って不審なモノを見つけられなかった。住人に聞いても収穫はなく徒労に終わる。残る可能性は……。
リーヴェ「残るはオーグマの森だな。準備をしてから行ってみよう」
皆の合意も得て、リーヴェ達は町から少し離れた所にある森へ向かう事となった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード15 セレーネの目的】
オーグマの森に行くことになったリーヴェ達。
ラソン「そういや、セレーネはどうしてこの国に来たんだ?」
セレーネ「えっ」
リーヴェ「ラソン、どういう意味だ」
いまいちピンとこないリーヴェとリジェネ。
簡単に自己紹介はしたが、細かい経緯を聞いていなかった。
ラソン「だってセレーネはアズガルブ人だろ。褐色肌はアズガルブ以外の国じゃ、珍しいからな」
リジェネ「確かに、今まで通った町の人に褐色肌の人はいませんでしたね」
彼女が違う国の人かもしれない事は、服装などから薄々感じてはいたがそうだったのか。
ここムートリーフ王国人の肌は黄色みが強い。砂漠方面は赤みが強めだし、オーグラシア人の肌は透明感のある白さが一般的だ。褐色の肌はアズガルブ系の血が混ざっている証拠である。
しかも今は魔物の危険性から、国同士を行き来するほどの大移動をする民はそう多くはいない。護衛をつけても、余程の理由がなければ長距離を移動しようとは思わないのだ。
ましてや今は、アズガルブ人が国境を超える可能性は極めて低い。
セレーネ「うん。実はあたし砂漠育ちなんだけど、生まれはアズガルブなの。本当はアズガルブに行くつもりだったんだ……でも、なんでか国境を越えられなかったんだよね」
本当にどうしてよ、と絶叫するセレーネ。賑やかな人だ。彼女は迷いながらも必死に砂漠を越えたのに、目当ての国に入れずこの町に来たらしかった。で、町に来たら早々にあのアンデット騒動に巻き込まれた。実についていない。
ラソン「なるほどな。あの国は今ちょうど式典の最中で、外部からの交流を断ってるんだよ」
たとえ王族であっても、他国の者を入れらない大事な行事らしかった。
セレーネ「ええぇ、じゃあ何時通れるのよ」
ラソン「年によって違うからな……けど、最低でも1カ月は無理だと思うぜ」
セレーネ「嘘ぉ~」
思わず同情してしまうリーヴェ達。またもやガックリと項垂れる彼女だったが、意外にもすぐに持ち直して「そんじゃ、今後も皆についてっちゃお」なんて言っている。凄い事も出来そう、とも呟く。この明るさは少し羨ましい限りだ。旅をしている割には能天気すぎる気もするが。
先に移動を始めるリーヴェとリジェネに続こうとするセレーネを、ラソンがこっそりと引き留めた。
ラソン「セレーネ。オマエ、なにか大事なこと隠してねーか?」
セレーネ「いきなり何よ」
怪訝そうに首を傾げるセレーネ。ラソンはリーヴェ達に聞こえないよう計らいながら続けた。
ラソン「だってオマエの妖精……」
セレーネ「あ、そっか。ラソンは王子様だもんね……そりゃ知ってるか」
ラソンの言わんとしている事を察したセレーネの表情に陰りがさす。
ラソン「これからも一緒に来るってんなら、必要のない隠し事はしない方がいいぞ。……オレも痛い目見たからな」
セレーネ「うん。ちょっと、考えさせて」
ラソン「わかった。待ってる」
2人もまた、リーヴェ達に遅れないよう歩き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ達がオーグマの森へ向けて出立した後、ハ・グネの町の広場から少し行った路地を歩く人影がいた。フードを目深に被り、全身が外套でよく見えない長身の人物。フードの合間から長い金髪が覗いている。
???「まさかこんな所で珍しい御仁を見掛けるとはね~。けど、今回のボクの任務には含まれていない事だし、お相手できないのは残念だなぁ」
使い魔「デルしゃまぁ、例の物を無事回収し終えましたですぅ」
デル?「よしよし、ちゃんと言いつけを守ったね。偉いぞアメル」
フードの男の傍らに小さなコウモリ形の使い魔が集まってきた。10匹はいる。コウモリと言っても、顔は人に近くフサフサのマフラーをしていて可愛いらしい。マフラーは色違いで、アメルはピンクのマフラーに赤い髪をしている。
他にも赤、青、黄、水色、緑、黄緑、紫、白、朱色のマフラーの子がいた。色が違うおかげで見分けやすい。
男はアメルの頭を優しく撫で撫でした。アメルは気持ちよさそうに行為を受け入れている。他の使い魔達もおねだりしてきた。
使い魔達から手のひらサイズの黒いキューブを受け取り、フードつき外套の内側にしまう。
デル?「さぁ、長居は無用だ。帰るよ、可愛いレディー達」
使い魔達「はぁ~い!」
男がファサッと外套を広げた一瞬に使い魔達が内側に隠れた。男はそのまま、何事もなかったかのように歩き去っていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
森までの道中は、人数も増えたことで安定した移動だったため省く。
リーヴェ達はオーグマの森までやって来た。今までの草地とは違い、視界も狭くて気味の悪い暗さだ。陽が射していれば多少はマシだったかもしれないのが惜しい。森のあちこちから梟に似た鳥の声が響き、本当になにか出てきそうな恐ろしさがあった。
そのためリジェネは、森に入ってからずっとリーヴェの後ろに隠れて移動している。
リジェネ「ひっ、幽霊」
リーヴェ「リジェネ、あれはウサギだ」
リジェネ「え……」
茂みから飛び出した影に驚き、リーヴェにしがみつくリジェネ。リーヴェは苦笑を浮かべながらも、出現したものの正体を教えてやる。リジェネは正体が分かった途端に気の抜けた声をこぼした。
リジェネの反応にセレーネは笑い、ラソンは警戒を解くなと警告する。
リーヴェ(そういえば、リジェネは昔から結構憶病だったな)
少しずつだが、家族に関する記憶の封印は解けてきていた。まだまだ曖昧だらけだがいい調子だ。
しかし、進めども妖しい光とやらは見当たらない。噂はデマだったのだろうか。だが、突然ラソンが足を止めた。うっかりぶつかりそうになる。
リーヴェ「っ、なにかいる」
ラソン「ああ、かなり多いぞ」
セレーネ「でも、襲ってこないね。警戒してるだけ?」
リジェネ「今度こそ幽霊? オバケですか!?」
リーヴェ「あまり刺激するな」
咄嗟にリジェネを黙らせる。が、遅かった。茂みが一気にざわつき、大きな影が複数飛び出す。
リーヴェ達の反射より早く、気が付けば鋭い槍の切っ先が付きつけられていた。ラソンが手に持っていた灯りが落ちる。完全に囲まれている。
戦士A「動くな。ジッと、してろ」
リーヴェ「人?」
戦士B「しゃべるな、他所者っ」
声を荒げた民族風の戦士を最初に喋った戦士が制した。どうやら彼がこの集団のリーダーらしい。皆、大人しく従っている。非常に聞き取りづらい言葉遣いだった。
リーダーの戦士が一歩前に出る。地面に落ちた灯りに、戦士の姿がはっきりと映し出された。
戦士の姿はかなり独特だった。
インディアン、とでもいうような衣装とほぼ半裸の姿。奇怪な模様が皮膚に刻まれている。魔物を模した面をつけ、弓や槍を装備していた。足にはベルトで固定するタイプのサンダルを履いている。戦士の名に相応しい均整の取れた屈強な体躯だ。
身軽な服装の至る所に、木の葉がつけられ森に紛れられるようになっていた。
戦士A「オマエ達、何者。森、荒しに来たか?」
答えろとばかりに槍で催促してくる。
恐る恐るリーヴェが答えた。
リーヴェ「違う。私達は森の異変を調べに来たんだ」
戦士A「イヘン……」
一部を残し、戦士達が円陣を組んで相談する。リーヴェ達の頬を緊張の汗が流れ落ちた。少しでも動けば、やられる。そんな気がしてならない。リーヴェは唾を飲んだ。
戦士達はひと悶着してから、互いに頷きあって再びこちらに向き直った。
戦士A「オマエ達ガこと、長に委ねる。来い」
魔物が出る森なので縛らることは免れたものの、槍を突き付けられた状態で森の奥へと連行されていった。
途中でリーヴェは周囲に目を向ける。すると森の奥、木々の合間から見覚えのある後ろ姿を見つけた。無意識に足を止める。
リーヴェ(あれは……ニクスか)
大きなリュックを背負い、ロングケープを着た黒装束の人物。あの特徴的な格好は、間違いなくニクスだ。どうしてこんな所に。
戦士C「ナニしてる。早く、行け」
リーヴェ「あ、ああ。すまん」
再び足を動かすリーヴェ。この先、自分達はどうなってしまうのだろう……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
オーグマの森、南西。ニクスはこの先にあるラッド橋を目指していた。彼の進行方向にはもう1人いる。
デリス郷「まったく、任務を放棄するなんていいご身分ね」
ニクス「別に放棄などしていない」
デリス郷「あら、相変わらず生意気だとことっ」
デリス郷は腕を組んで足をコツコツと鳴らしている。かなり機嫌が悪い。ニクスは彼女に気づかれないように息を吐いた。肩も若干下がる。
ニクス「デリス郷、例の実験の塩梅はどうなんだ」
デリス郷「別に心配する必要はなくってよ。不満でもあるの」
ニクス「いいや。確認だ」
数歩彼女のほうへ歩いた所で、不意にニクスは背後を見やった。そんな態度のニクスにますます不機嫌になるデリス郷。ニクスは、前から彼女のことはどうも好きになれない。相性が悪いのだろう、自分はどうも彼女を不機嫌にするようだった。
ニクス「………………」
デリス郷「そんなに遺跡が気なるのかしら? 何なら行っても良いのよ」
ニクス「まさか。心配はいらないんだろう……行く必要はない」
ニクスは足元に目を向けた。デリス郷の視線からは、疑わしいものを監視する意図が感じ取れる。今、遺跡に行くことは得策ではない。彼女の信用など、別に欲しくもなかったが今はダメだ。
決心が鈍らないのを確信し、ニクスは視線を上げた。
デリス郷「ところで、いつまでレディーの前で顔を隠している気。失礼でしてよ」
ニクス「はぁ、確かにそうだな……」
ニクスは渋々、顔を覆い隠している布に指をかけるのだった。
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