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第20話 責務を背負う者

 その夜、リーヴェは夢を見た。


リーヴェ(ここは……)


 視界が次第に鮮明になり、ヴァンバオール宮殿とは全く様式の違う宮殿の屋内が見えてくる。サイドの白い壁には、ある紋章が入った紫色のタペストリーが複数垂れ下がっていた。大きな窓からは穏やかに陽光が射している。


 紋章のデザインは、剣と魔導書を携えた天使の周りに10個の星を配置されているというものだ。これはアルンウィア王家の紋章である。つまり今いるのは、天空界の王都にあった宮殿という事になる。

 前方には一人の男性が立ってこちらを見ていた。リーヴェは彼の前に膝を折っている体勢だ。


男性「リーヴェよ。覚悟は決まったか?」

リーヴェ「はい」


 夢を見ているリーヴェの意識とは関係なく自分の声が室内に響く。瞬間、リーヴェはこれが夢だと自覚した。幼い自分の声が過去の出来事であると告げている。では、目の前にいるのは……もしや父上か。


 意識の中のリーヴェは男性を改めて観察した。

 男性は50代半ば程で身長はリジェネと同じくらい。髪は白金色で瞳は深い青。皴のある肌は白い。髭はあまり濃くないが、髪は長めで手には杖を持っていた。首に至極色のストールを巻き、鶯茶色のローブを着ている。

 父王と思しき男性は1度言葉を濁した後、明瞭な低い声でリーヴェに告げた。


父王「では、第1王女リーヴェ・ディア・アルンセレフィアよ」

リーヴェ「はい」

父王「本日この時をもって、そなたを王位継承序列より除外する。今後は『御子』として、この国を支えるのだ」

リーヴェ「陛下の計らいに感謝いたします。本日より私は御子として、陛下と民と世界のために尽くしたく存じます」

父王「頼んだぞ、御子リーヴェよ」

リーヴェ「承知いたしました」


 リーヴェは深く礼をして静かに立ち上がる。半歩下がり敬礼をしてから、身を翻して扉へと向かった。扉の取っ手に手をかける。


父王「すまんな……」

リーヴェ「いえ」


 背後から父王の切なげな呟きが聞こえた。リーヴェは柔らかい声音で返答し扉を開けた。



リーヴェ「っ……」


 リーヴェは勢いよく目が覚めた。少しだけ乱れた呼吸を整えながら上体を起こす。


リーヴェ「み、こ?」


 リアルな夢だった。目覚めた今でもはっきりと思い出せる。鍵が少しだけ緩んだ記憶の扉から、自分が「神樹の御子」だったことを思い出す。リーヴェは10歳の時に御子になった。時間で言えば、70年前のことになるだろう。天空人であるリーヴェやリジェネは10年で1歳分の年を取る。


 しかし、「神樹の御子」とはなんだ? なにをする立場なのだろうか。ダメだ、思い出せない。

 わかったことと言えば、御子が世界のためになにかをする存在だという事だ。だからこそ、王族であった自分は王位継承の資格を諦めざるを得なかったこと。でも惜しくはなかった。家族であることは変わらなかったから。

 ベッドから降りて窓際まで行く。窓ガラスに手を当てた。


リーヴェ「あの声も御子と言っていた。御子とはいったい……」

リーヴェ(リジェネに聞くか? だが)


 果たして教えてくれるだろうか。御子に関してどの程度認知されていたのかは知らないが、少なくとも王族であるリジェネは知っているはずだ。詳しくはなかったとしても。

 なら、何故出会ったときに教えてくれない? なにか理由があるのか。


リーヴェ「いや。あるからこそ言えないんだろうな」


 リーヴェは窓を開けてバルコニーに出た。全身に涼しい風が当たる。


リーヴェ(言えない理由……)


 リジェネが御子のことを知っているとすれば、それはなんだろうか。本人に聞いていいのかもわからない。リーヴェは小さく息を吐いた。

 考えても仕方がない。自分が思い出せばいいことだ。


リーヴェ「早く、思い出さないとな」


 リーヴェはバルコニーの手すりを強く握り込み、遠くをしっかりと見据えて心に誓った。

 翌朝、リーヴェ達は王都パラムエールを出立した。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



ラソン「くそっ、コイツら妙に強くねーか」


 ラソンは向かい来る魔物「ヘルバウルフ」3体の爪や牙を大剣とスキルで防ぐ。彼がウルフを引き付けている隙にリジェネが後方のヘクセプラントまで飛んでいった。


リジェネ「まずはアイツです。カナフ、ソニックエッジ!」

カナフ「ピィーー」


 指示を受けたカナフシルトが両翼を大きく振りかぶる。翼から放たれた5つの真空刃がプラントへ飛んでいき連続で斬り裂いた。無属性の魔法攻撃なのでプラントの耐性では防げない。

 しかし龍スキルは、一度使用するとしばらく使えなくなる。連続発動は出来ないのだ。だが、ピンポイントで狙えるのがいい。


リーヴェ「ラソン下がれ。エルメキア・ランスっ」

ラソン「よっと。やべ、1匹逃れた」

リーヴェ「っ」

リジェネ「はあぁぁぁ」


 詠唱が終わった瞬間にラソンが後退し、前のめりになったウルフ2匹をリーヴェの魔法が貫く。だが辛うじて逃れた1匹が、詠唱後で隙が出たリーヴェに迫った。

 龍に騎乗したリジェネが急降下して突きを放つ。龍の飛行速度が上乗せされクリティカルが出た。ウルフが倒れる。

 同時に3人の間に激しいつむじ風が発生した。カナフシルトが反応して上昇する。


リーヴェ「くっ」

ラソン「くそ、大人しいと思ったらコレかよ」


 3人が咄嗟に受け身をとった。鋭い風が薄皮1枚を斬り裂いていく。

 風が止むとともに素早い影がラソン目掛けて突っ込んでた。大剣で対応する。突っ込んできたのは1メートルもある鷹に似た魔物「エルブホーク」だった。ちなみに風属性である。ホークは執拗にラソンを攻撃し続けた。そのためずっと低空飛行している。

 何度も攻撃を受け止めながらラソンが叫ぶ。


ラソン「コイツは防御力の一番高い奴を狙う。オレが引き付けてるうちに射撃か、素早い技で攻撃してくれ」

2人「了解」


 2人が敵の背後や側面をついて攻撃する。が、勘の鋭いホークは危なげなく躱していく。コイツ、かなり回避率が高いぞ。おまけにかまいたちで仕返ししてくる。一番素早いリーヴェでも接近時に気づかれてしまう。かといって詠唱が入る魔法以外で、まともなダメージを出せるメンバーはいない。

 リーヴェは全員を的確に治癒した。順序は被弾の激しいラソン、次に自分、最後に比較的ダメージが浅かったリジェネだ。風系の攻撃はカナフシルトには躱しやすいようだった。


リーヴェ「セイクリッド・バスター」

ホーク「ピキィー」

リーヴェ(ダメだ。当たりはしても決定打にならない)


 光弾が翼をかすめるが、小さな焦げ目をつけるだけで大したダメージになっていない。後はコイツだけなのに、攻撃がろくに当たらなければ勝てない。なにか弱点は。


リジェネ「姉さん、翼を!」

リーヴェ「……そうかっ」


 リジェネの言葉に翼を凝視し気づく。そう、掠めただけなのに焦げ目がついてるのだ。光属性の攻撃を受けてああなるのならば……もしや。


リジェネ「カナフ、魔物だけを狙える?」

カナフ「ピピィッ」


 リジェネが頷いた。


リジェネ「姉さん、いけます」

リーヴェ「よし」


 リーヴェが剣を治め中に持ち替え地を蹴った。ホークに銃を構えて連射。いくつかは躱されるが構わない。

 ホークの動きが止まったの確認しラソンが距離をとった。

 ラソンも精風刃(せいふうじん)を飛ばして足止めに加勢。ホークには風耐性があって効かないが、攻撃が目的ではないので気にしない。リジェネが背後上空をとった。


リジェネ「炎龍陣(えんりゅうじん)!!」

カナフ「フッ」


 白龍が口から炎のブレスを吐く。吐き出された炎は地面スレスレを走り、上手くホークの翼に命中。若干コントロールが妖しかったが足止めをした甲斐があった。

 翼から勢いよく炎が燃え広がり、ホークは断末魔の悲鳴を上げた。かなり燃えやすいようだ。1分と経たずに燃え尽きる。


 リーヴェ達は魔物の群れを無事に撃破した。

 リジェネはLv16になった。ラソンはLv17になった。



 一行は武器を治める。


リーヴェ「ここの魔物は様子がおかしすぎる」

リジェネ「初めて見る魔物もいましたね」

ラソン「だな。いくらなんでも殺気立ちすぎだろ。今日だけで4度目だぜ?」


 出立から数日後。まだ午前中だというのに4度目の戦闘だった。距離もそれほど進めていない。エンカウント率が高すぎるのだ。数も3~5体前後で襲ってくる。狂暴化はしているが、もとからこの辺りに生息している魔物なので経験値もそれほど多くはない。


 リーヴェ達は現在、ハ・グネの町に向けて移動していた。けれど、先ほども言った通り敵の数が多くて進行は大幅に遅れている。近くまでは来ているが橋すら越えていないのだ。


リーヴェ「少し休憩しよう」


 連戦が続いて疲労している。完全に疲れ切ってしまう前に小休憩を挟んだほうがいい。皆が同意する。

 リーヴェは手近な場所に木陰を見つけた。移動して安全確認をし、皆で木を囲むように腰を落ち着かせる。完全に警戒を解くことはできないが、それぞれが別方向を見て休憩すれば敵の発見はしやすいだろう。


リジェネ「町まで無事にたどり着けるんでしょうか」

ラソン「わかんね。けど、魔物自体は対処できるレベルだ」

リーヴェ「ああ。皆で協力して進めば無事たどり着けるさ」

リジェネ「そうですよね」


 魔物は確実に強くなっているが、ここでは妙に殺気立っていることのほうが問題だった。この先でなにか起きているんだろうか。リーヴェは胸騒ぎを感じた。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  天空人(セルフィーラ)

 天空界ガルセフィアに住む人々の総称。

 身体の成長が遅く、10年で1歳分の年をとり平均寿命は300歳程度。

 マナの扱いに長け、神々の末裔と呼ばれていた。中でも王族の血筋は先祖より受け継いだ白い「マナの翼」をもち、この翼は体内にしまっておける。翼は破損しても時間をかければ基本的には再生が可能。翼をもつ王族は天翼人種(セラフィテス)という別称で呼ばれる。騎乗して戦う習慣あり。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【サブエピソード13  危ないクッキング】

 とある日の野営時。


ラソン「こっちの分担分は終わったし他のフォローに入るか」


 作業を終わらせたラソンは考えた。どこを手伝おう。そういえば今日の食事担当は……リーヴェだ。


ラソン(……ちょっと様子を見に行ってみっか)


 ラソンは少し不安な心中になり、リーヴェが調理しているであろう焚火付近に向かった。


ラソン「…………」

リジェネ「姉さん。鍋が噴きこぼれてますっ」

リーヴェ「え、アチッ」

ラソン「リジェネ……オマエ、今なに切ってんだ?」

リジェネ「へ? キノコですけど」


 キノコなのは見ればわかる。問題はいかにも毒がありそうなヤバい色合いのものだということだ。いったいどこから持ってきたんだ。少なくとも荷物の中には含まれていなかったはずだ。

 そればかりか、リーヴェが作っている料理には明らかに不要なものまで置いてある。


 リーヴェのほうは、食材の下ごしらえに気を取られ過ぎて鍋を放置してしまっていた。慌てて処理にあたっている。手際は悪いが、まだ彼女のほうはマシだ。単純に料理経験が少ないだけだろう。何度か食べたことがあるが味はいいのだ。見た目はともかく。

 問題なのは、リーヴェが食事担当の時に高確率でいるもう1人だった。


ラソン「まさか入れる気じゃねーだろな、ソレ」

リジェネ「そりゃ、料理に入れるためにこうして下ごしらえをしてるんじゃないですか」

ラソン「いや、ソレ毒キノコだから。前にも似たようなの持って来たよな。おまけにそっちのは明らかに使わねーだろ」

リジェネ「でも栄養があるってお店の人が言ってましたよ?」

ラソン「味のバランス考えろよっ」


 ラソンは頭を抱えて必死に止める。まともな食事を死守せねば。シチューに茸はわかるが、何故チョコレートや漬物類、ジャムなどを入れようとするのか。単品で上手いなら、混ぜても美味しいという発想なのかもしれない。

 ちなみにシチューのレシピは、以前に立ち寄った民家の人に教えてもらった。


 実をいうと、この3人の中ではラソンが一番料理ができる。旅をすることが多いおかげなのか手際も良いほうだ。未だ鍋に苦戦しているリーヴェも筋はいいので問題はないだろう。

 だがリジェネは余分なものを入れたり、いつの間にか調達してきたヤバい物をぶっこんでくるので気が気ではないのだ。興味本位で妙な組み合わせを試そうとしてくる。厄介だ。


リーヴェ「リジェネ、残りの具材を持ってきてくれ」

リジェネ「はい。ただいまお持ちします」

ラソン「待ったー」


 ラソンはさらりと自分の処理した食材も持って行こうとするリジェネを追いかけた。今のままでは疲れる。もっと料理の上手な仲間が欲しいと願うラソンであった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

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