第18話 城下でのひととき
その日は時刻も午後に差し掛かっていたので、残りの時間を都内で過ごすことにして外へ繰り出した。宿は宮殿の客間に泊めて貰えることになっている。
リーヴェ達はラソンの案内で、賑やかな街並みを眺めながらゆっくりと散策した。
リジェネ「あ、見て下さい。おいしそうな果物売ってますよ」
ラソン「それはオランジアだな。この国の名産だ」
見た目はほぼオレンジである。結構大振りの実で、味も柑橘類の甘みが強いタイプのものだ。
続いてリジェネは反対側に建っている露店に目を向けた。
リジェネ「これ、すっごく綺麗です。姉さんに似合うんじゃないでしょうか?」
リーヴェ「どれ。う~ん、ちょっと派手過ぎないか」
ラソン「そうか? オレも似合うと思うけどな」
リジェネ「ですよねっ」
リジェネがアクセサリーの露店で見つけて進めてきたのは、青と桃色の宝石がはめられた蝶形の金の髪飾りだった。繊細な蝶の細工が非常に雅である。他にも翼形や星形のものも勧めてくるが、リーヴェはどうもこういうものは苦手だ。
別に嫌いという訳ではないし、綺麗だとも思う。だが、なんか照れ臭いというか、恥ずかしいのだ。自分が身に着ける、と想像すると余計にそう思ってしまう。
リーヴェ(でも、妹達には似あいそうだな……)
まだ幼いけれど、こういう感じのものは好きだった気がする。鮮明に覚えているという訳ではないが、家族のことは思い出せる。所々曖昧なのが残念だが。顔の輪郭くらいは、思い出すのに問題はないようだった。
リジェネと話すうちに気づいてきたが、リーヴェの記憶の欠如は主に彼女自身にまつわる部分が特に酷い。そのため、密接にかかわっていたであろう家族の部分が曖昧になってしまっている。生活方面に必要なことや天空界の地理なんかは割と症状が軽微だ。
露天商「お客様、どうなさいますか。とってもお似合いになると思いすよ」
リーヴェ「っ、結構です!」
露天商「あら、もったいない。またいつでも、いらしてくださいねぇ~」
リーヴェは1人でスタスタと歩いて行ってしまう。慌てて後を追うリジェネ達。闇雲に歩いていくリーヴェ。大きな通りを外れ、一途建の店が建ち並ぶエリアへとやってくる。
リジェネ「待ってください姉さん」
ラソン「闇雲に動き回ったら迷うぞ」
リーヴェ「別に闇雲になんて……あれは」
ラソン「あ、おい。待てって――たく」
リーヴェは路地の先にピエスで見たことのある看板を見つけた。剣と盾をモチーフとしてあしらった吊るすタイプの看板。武器商だ。
リーヴェが店の扉を開ける。扉に備え付けられたスズの音が静かな室内に響いた。後に続いてリジェネらも武器商に入店する。
リーヴェ「…………」
主人「いらっしゃい……ん、これは王子。またお忍びか?」
随分と砕けた態度でラソンに接する主人。歳的には国王とさほど変わらなそうだが、こちらの主人のほうがずっと逞しい体つきをしていた。身長も高く、180㎝ちょっとある。
主人の態度に慣れた様子のラソン。どうやらこの国ではお忍び中? の王子には皆普通に接しているらしかった。先ほどのアクセサリー屋も畏まった風ではなかったし、道行く人々も時々会釈をしていく者いるが平然と流している。民にこんな態度を許すほど、彼は城を抜け出しているというのか。
主人「また武器の調整か? それとも新調するかい」
ラソン「いいや、今回は俺じゃねーんだ」
リジェネ「姉さん……」
ラソンらが視線を向けた先にいるリーヴェ。アクセサリーの時とは打って変わって興味津々といったご様子で、その彼女を見たリジェネが女性がこんなんでいいのか、という声を出した。
旅をする以上、武器は大事だ。大事だなものだが、もう少し宝飾類にも興味を示してくれていいのではと思う2人だった。
リーヴェ「ん、この拳銃……なかなか良さそうだな」
リーヴェは手近に見えた拳銃を手に取った。今使っているものよりもワンランク良いものだ。この世界にも武器の性能に良し悪しがある。ゲームでいう所の、自分のレベルに見合った武器というものがあった。
武器の性能、というと語弊があるのでステータスと呼ぼう。武器のステータスというのは、「即死耐性」とかの付与効果をはじめ、武器そのものが持つ攻撃力や知識力などの補正効果、強さだ。これらの違いが、勝敗を分ける時もある。
リーヴェが最初から装備していた剣は割とステータスが高かったのでまだ問題ないが、途中でこしらえた拳銃のほうは別だ。こっちはステータスも低いうえに、地上界製で壊れやすい。あまり多用はしてこなかったが、念のため新調しておきたかった。
主人「ほう、珍しいな。嬢ちゃんは銃を使えるのかい」
リーヴェ「ああ」
主人は店を始めてから今まで、弓やクロスボウを使う客はいたが銃を使う客はいなかったと言う。
当然だ、この地上界では銃より弓のほうが射撃武器として主流だ。あまり使わないから、改良もされてこなかった。第一、銃なんてまともに使える奴が地上界にはほとんどいない。
銃などの機械類は、主に古代の技術である。この惑星での「銃」は、近代兵器ではなく古代文明の遺産なのだった。
リーヴェ(やっぱり、この世界の銃はどれも簡略化されてるな)
不思議とリーヴェにはそれがわかった。天空界で身に着けた知識だろう。天空人は古代の知識にもある程度明るい。すべてを把握しているわけではないが、その点は博識の部類である。
リジェネ「あ、主人この槍いいですね」
主人「おう坊主、ソイツが気に入ったのか」
リジェネは持ち替えたり重さの感覚を計ったりして、振った時の感触や戦闘時のイメージを膨らませる。
一行は主人とも幾らか言葉を交わして武器を選んだ。各々に吟味と適正を見つつ、リーヴェは拳銃をリジェネは槍を新調した。使い古した武器のほうは荷物になるので買い取って貰う。
主人「ありがとうございました。またの来店をお待ちしてるぜ」
リーヴェ達は満足して武器商を後にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード12 イセス王子とカナフシルト】
リーヴェ達が城下に出かけている頃、ヴァンバオール宮殿では。
騎士団の厩舎付近にある広い緑地エリアに、風車エリアから移動してきたカナフシルトがのんびりとくつろいでいた。あくびを吐き、大きく伸びして草の上に寝そべる。ペシペシと軽く地面を尾でたたく。
イセス「あれは、確かリジェネさんの……」
クルイス『キチュチュッ』
イセス「あ、待ってクルイス」
手にスケッチブックを持ったイセスが、白龍に走り寄るクルイスを追いかけた。
クルイスが龍の周囲を元気よく走り回っている間、イセスは興味津々といた面持ちでカナフシルトを様々なアングルから観察する。ちなみにイセスは龍の身体には触れていない。
イセス「わぁ、龍の身体ってこうなっているんですね」
イセス(思っていたより鱗は細かいですし、翼の膜は結構厚いんですね)
蝙蝠みたいな翼なので、もっと薄いのかと思っていた。宮殿に飛んで来たときは遠目だったので、想像と全然違うとわかって驚きを隠せないイセス。
イセス「決めました。今日は貴方にします」
誰に言うでもなく発言し、イセスは少し離れた所に座り持ってきた画材を広げた。昼寝中のカナフシルトを見ながらスケッチを始める。
イセスは絵を描くのが好きで、時間が空いた時はこうやって広い庭に繰り出しスケッチをする。時には、護衛に頼んで城下にも絵を描きに行くことだってあった。10歳の少年とは思えない程イセスは絵が上手く、父や使用人に評価されたこともあるのだ。
じっくりと丁寧に複雑な龍の体躯を模写していく。賞でも取れそうな程よく描けている。
クルイス『キチュチュチュン、キー』
熱心に絵を描いているイセスを他所に、クルイスはくつろぐ龍に体当たりや飛び蹴りを食らわしていた。動く尾先に向かってちょっかいも出す。猫じゃらしと戯れるネコのようだ。
しかし、カナフシルトはまったく気にしていない。相手にするのも面倒なようで完全に放置状態だ。攻撃? しているのに、まったく相手にされていないので思わず啖呵を切ってしまうクルイス。本人的には遊んで欲しいのだが、クライスの時とは違いかなり苦戦していた。
イセス「クルイス、お客様に失礼ですよ。大人しくしなさい」
クルイス『キチュン』
イセス「でも、じゃないです」
クルイス『キチューン、キチュチュ』
イセス「クルイス。あんまり聞きわけのない事を言うなら、今日のおやつは抜きですよ?」
そう言われて急にしおらしくなるクルイス。おやつには勝てなかった。仕方がないので、龍の傍でうずくまり毛づくろいを始める。だが、やがて眠気が襲ってきたのか寝息をたてて眠ってしまった。
カナフシルトの横腹に寄りかかって眠るクルイス。なんだか、ほっこりする光景だ。
イセスはそんな2匹の様子に微笑み、黙々とスケッチを続けた。さり気なくクルイスの姿も絵に加えておく。
――数時間後。
スケッチを終えたイセスが、立ち上がって衣服の汚れを落とす。
イセス「クルイスー、そろそろお暇しましょう」
クルイス『チュチュ?』
イセス「ほら、もうおやつの時間ですよ。行きましょう」
クルイス『キチュチュンッ』
おやつと聞き、急に元気になったクルイスに苦笑を浮かべたイセス。ふたりは仲良く連れ立って宮殿内に戻っていくのだった。
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