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第15話 国立資料館

 ラソンと別れたリーヴェは、リジェネと2人で王都の東地区の中心に佇む「国立資料館」に来ていた。時刻は昼前頃。


 重厚なたたずまいの、一見すると美術館と間違いそうな装飾の門構え。幅広の長い階段を上った先に入り口がある。階段の両端や建物の周りを、芸術的な街灯が照らしてくれているため明るい。

 自分たちの記憶にある天空界の図書館は神殿のような外観だったので、この国の資料館は随分と洒落ているなと感じた。両開きの立派な扉を押して中に入っていく。


リジェネ「では姉さん。僕は2階を見てきますね」

リーヴェ「わかった」


 此処に入る前に、なにを調べるかは打ち合わせてある。

 リーヴェはまず1階から調べようと歩き出した。


 建物の内装は落ち着いた赤茶の壁や内装具でほぼ統一されていた。壁際には絵画や白い花瓶、厚みのあるデザインのカーテンはモスグリーン。背の高い本棚の合間には長机の置かれた広い読書スペースが設けられていた。手入れが行き届いているようで机や棚には艶がある。


 また、1階から2階、3階の一部が見える吹き抜けの部分があって、天上はかなり高かった。

 灯りは柔らかい配色の光を放ち、本棚の密集したスペースに行くと紙の落ち着いた匂いがした。ほのかにラベンダーの香りもする。


リーヴェ「う~ん。この国の字は……よかった、読める」


 地図の文字を見た時から薄々感じてはいたが、こういう所の本は年代もバラバラだろうから自信がなかった。だが、大概の本は地図と同じ文字のようで安堵する。

 余程古い、それこそ古文書の類とかでなければ普通に読めそうだ。もしかしたら、天空界と地上界とではそれほど文字の違いはないのかもしれない。


リーヴェ「まずは、この地上界での神樹関連の書物を探さないとな」


 リーヴェは本棚を順に見て回った。集中して背表紙のタイトルを目で追う。

 なかなか目当てのものに行き当たらない。


リーヴェ「ん、これは」


 本棚から1冊の書物を抜き取った。

 タイトルには「天空神樹信教(セフィロトしんきょう) 聖典」と記されていた。なにかの宗教だろうか。装丁のデザインも聖書っぽい。

 リーヴェは分厚いソレを開いて読んでみる。書物には、こう記されていた。



 天より参られし10と1柱の神々、聖なる宝物を用いて混沌たる星々の海に新たなる惑星(ほし)を創り給う。

 星々を渡りし神々は、まず初めに生なる(ぎょく)を創られた。それは輝かしき宝珠である。


 次に第1の神が、宝珠に脈動たる熱を流し入れられた。輝きに陰と陽、もたらされる。

 第2の神は、宝珠を守らんと大地を創られた。大地に内なるもの、外たるものを授けたる。

 第3の神は、外たる大地に海を創られた。内なる虚無に道を創りて、水よ流れよと命ず。

 第4の神は、内なる大地に天を創られた。生なる輝きと結びつきて、内なる世界に満ちよと命ず。

 第5の神は、光の剣を振り下ろしたりて、正と負を分けたる。これを等しく形創りて均衡と成した。


 第6の神は、全ての大地に、輝きより(たま)を、流れの内に霊なる道を築きたる。御魂(みたま)よ、永久(とわ)に廻れと命じた。

 第7の神は、生なる珠より「育みたる力」を抜き取り、大いなる樹木と成して外なる地に植えられた。樹にマナをもたらせと願い給う。


 第8の神は、御力(おんちから)によって雨を降らせ、海と大地を潤し耕された。両者に生命をもたらせと祈られる。

 第9の神は、生命の誕生とともに時を創られた。世界に流れ、生まれし者を等しく愛でよと命ず。

 第10の神は、3つの大地に人類を目覚めさせ、知恵を授けられた。我らを愛で、進化し続けよと願われる。


 最後に首座を務めし1柱の神が、己が御魂の内より分けしマナを用いて、祈りの民を創造された。これを残りし世界に導きいれたる。彼らには祈りの印たる白き翼が授けられた。

 10と1柱の神々、100と余年の間、我らを見守り給う。

 神々が旅立たれし時、自らが携えし宝物に、各々の力の欠片を封じて祈りの民に託された。



リーヴェ「ふぅ……」


 難しい言い回しの内容に、思わず肩が下がってしまう。

 心なしか、書物を持つ両手が重く感じた。非常に肩の凝る造りの文章だ。


リーヴェ(長い……どうやら、この惑星(ほし)の成り立ちについて語られているようだ)


 だが、まだ続きがある。しかし「神樹」とタイトルにある以上、無関係な資料とも思えない。

 リーヴェは長くなりそうなので、読書スペースに移動した。大きく伸びをして気合を入れ直してから、再び書物に目を向ける。

 その様子を上から見下ろすリジェネ。


 書物の続きはかなり長い。重要そうな部分を抜粋し、要約するとこう書かれていた。



 我らが住む大地の遙か天上には、神々の世界が広がっている。

 神々の世界は光り輝く星の海だ。ある時、我らの前に一人の神が降り立たれた。

 神は告げる。天に輝く星々のうち、一際強く輝く10の星々は「セフィロト」であり、古の神々が我らに残し給うた守護の恵みであると。この輝きが続く限り、我らの命は永劫に守られ続けるのだ。


 セフィロトには、神が我らを守りし全ての力。「翼の守護者」が宿っておられるとも。


 神々の世界と通づるものが、ひとつだけ我らにはある。それは「神樹」だ。

 神樹は我らの願いを神々へ届けてくれる聖なる木である。神樹は我々が、神に言葉を伝える唯一の足掛かり。神は、神樹を通して我らの願いを叶えて下さるのだ。

 神樹は、神が我らを潤すために与えて下さった贈り物。「天恵」である。


 天上にまで伸びる神樹の、あちら側の根本には「神樹の化神」様が住んでおられる。

 この神樹の化神様こそ、我らの願いし想いを数多の神々に伝えて下さるお方だ。化神様は我らの全てを見ておられる。故に、我々のことを理解して下さる唯一の神なのだ。

 我らが窮地に立たされ、その恩恵を我らが(しん)に望み祈りし時は、天より真なる御身を現してその御力によって我々を救って下さる。


 故に信じよ。神樹の神と、セフィロトに宿りし聖なる守護者の御力を。

 信じる者こそ、守られ救われる。信じよ、神々が我々に授けし大いなる宝を。信じよ。信じる者こそが、本当の意味で救われるのだ。



 だいたいの解釈はこんな感じだ。この手の内容が永遠と綴られている。

 最初のなりたち云々の(くだり)よりは幾分かマシだが、ここら辺も大分古い言い回しの文章で読みづらかった。


リーヴェ「…………」


 リーヴェは咄嗟に言葉が浮かばない。なんと表現したらいいのだろう。痛々しいというか、怖いというか、形容しがたい内容に思えた。よく言えば、実に宗教らしい。

 リーヴェはため息を吐いた。


 ――地上人て、勝手よね。

リーヴェ「……っ!」


 突然脳裏に再生された声。妖しく禍々しい女の声だった。

 知ってる。思い出せないが、確かにどこかで聞いたことがある声だ。でも、どこで聞いたのか、それがどうしても思い出せない。とても、とても重要なことのように感じるのに。

 額に手を当てて頭を悩ませていると、今度はすぐ隣から声が降ってきた。


リジェネ「その本、ちょっと見せて貰ってもいいですか?」

リーヴェ「え、あ、ああ」


 リーヴェはリジェネに読んでいた書物を差し出す。リジェネは、手に持っていた数冊の書物を机に置いてから書物を受け取った。パラパラと開いて内容を流し読む。

 リジェネの視線が、すごい速度で文字を追っていく。

 数分後、だいたいの内容を読み終えたらしいリジェネが本を閉じた。


リジェネ「都合のいい内容ですね。ホント、地上人は……」

リーヴェ「リジェネ?」


 リーヴェが眉をしかめる。すぐに気づいたリジェネは作り笑顔を浮かべた。


リジェネ「いえ、なんでもありません。この本、まるで僕達に伝わる伝承をもとにしたような内容が含まれてますね」

リーヴェ「そうなのか」

リジェネ「はい。特に最初の『神々が惑星を創られた』という辺りの件は、僕らが先祖から伝承してきたものにそっくりですよ」


 リーヴェは言われて考えた。時間をかけて記憶を手繰る。

 不鮮明な所も多いが、辛うじて引き出せた伝承の内容に類似点を見つけた。確かに先祖から伝わってきたものの中に、11柱の神が世界を創り、また新たな世界へ旅立っていったという内容があった。これはちゃんと思い出せる。

 そこまで思い出せた辺りで、リーヴェはリジェネに視線を戻した。


リーヴェ「そっちはどうだったんだ」

リジェネ「ええ、いくつか見つけましたよ。ただ、あまり目ぼしいものがないように感じましたが」


 リジェネが持ってきた書物をリーヴェに渡す。

 書物のタイトルは、「学術的観点からみた近年の神樹明滅現象」「童話 神樹と天使さま」「新訳 神樹天命論」「守護天神話」「セフィロトの星名鑑」だった。

 若干関係のなさそうなものも混ざっているが、とりあえず「神樹」が内容に含まれているものを持ってきたのだろう。


リーヴェ(()()()()()()?)


 特にリーヴェの意識に引っかかったのは、数十年前の学者が書いたらしい書物だった。そこには、神樹が消失する十数年前から起きていたという現象について語られていた。

 こちらもいくつか抜粋して読む。



 エスパニア歴2022年4月4日。午前10時12分08秒。

 黄と朱の輝きの中に、黒光の筋が一瞬観測される。詳細は不明。


 エスパニア歴2023年4月3日。午後06時06分06秒。

 再び黒い光の筋を観測。こちらもすぐに消失したが、上部へ登って行った模様。詳細、未だ不明。


 エスパニア歴2024年01月28日。正午。

 複数の黒い光の筋を観測。神樹の輝きに僅かな褪せりが見て取れる。昨年より輝きが弱いようだ。


 中略。


 エスパニア歴2030年08月14日。午後9時30分00秒。

 神樹の光、およそ3時間余りの間消失する。その後復帰。この年、各地で魔物の増加が観測された。


 エスパニア歴2031年02月07日。午前8時45分13秒。

 再び神樹の光が消失。およそ2時間30分後に復帰。各地で小規模の災害を観測。


 中略。


 エスパニア歴2035年4月4日。午前03時38分00秒。

 神樹の光弱し。大部分が透けている。同日から昼間に関わらず陽光、微弱。年々弱まってきている。それに伴い、災害の件数が激増。過去の観測記録を上回ると予想される。


 エスパニア歴2036年05月06日。正午。

 神樹、消失。同時刻より陽光および月光、完全に失われる。魔物の生態に変化有り。狂暴化が観測されるようになった。原因は不明。



 現在は、エスパニア歴2056年だ。なので最初の異変が観測されたのは、今から34年前ということになる。正直いって、さっぱり意味がわからない。

 でも不思議なことに、「そうなるのも当然だ」と囁く声がリーヴェの心の中にあるのだった。

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