第13話 王都への道
鉱石の街ピエスを出立し、王都パラムエールを目指すリーヴェ達。
川沿いに坑道(西口)の前を横切り、青葉の茂る山々を視界の端に捉えながら風のそよぐ草原を進む。
特にこれといった会話もなく歩いていると、眼前に魔物の姿が飛び出した。
魔物の種類は、ガラーウルフ×4とヘクセプラント×1だ。ヘクセプラントは、ツタ状の尾をバネのように使いポップしている小型の植物だった。
コイツは、もともとこの辺りに生息している魔物である。
魔物の平均レベルも低く、まず負けるような相手ではないのだが。
リジェネ「颯針槍」
ヘクセ「♪(嬉しそう)」
まったく効いていない。困惑するリジェネにウルフ2体が飛びかかる。
不意を突かれ、敵を振り返り、咄嗟に。
リジェネ「カナフ、ソニックエッジ」
ウルフ「ガウッ」
リジェネ「あっ」
カナフ「…………」
龍スキルを指示する瞬間に、ウルフの突進が直撃し、落馬ならぬ落龍してしまった。
騎乗状態ではなくなったことで「ソニックエッジ」の発動が解除された。
カナフシルトは驚いて飛び去ってしまう。龍から落ち、地に伏す体勢になったリジェネにウルフの追撃が迫る。
ラソン「クライスっ、ハウリング・ヴォイスを頼む」
クライス『キィー』
ラソンの声に答え、クライスが高らかに鳴き「ハウリング・ヴォイス」をラソンに付与する。敵1体の攻撃対象をを契約者に釘付けにするスキルだ。だが、突撃してくる敵はもう1匹いる。
ラソン「リーヴェ、フォローを」
リーヴェ「了解」
リーヴェがもう1匹の進行方向に立ちはだかった。ウルフが猛進してくる。
リーヴェとラソンがウルフの突進を受け止めた。
その間にリジェネは立ち上がり「集気」のスキルを使う。
この技は、周囲のマナを自身に取り込みHPを微量治癒させるものだ。回復量はかなり低い。Lv12の時に覚えた技だ。
さて、問題はリーヴェだ。どうする。彼女は敵の攻撃を受け止めながら考えた。
リーヴェは近接スキルをあまり所持していない。普通に攻撃しても、攻撃力が低いので足止めにすらならないだろう。
与ダメージが低すぎて、間を置かずに敵が突っ込んできてしまう。
リーヴェ(くっ……せめて剣と銃、両方を同時に使えたら)
そう感じ剣を片手に拳銃へと触れた時。
まるでその思いに応えるかの如く、なめらかに身体が動いた。
リーヴェ「ホーリー・ガンスワード」
ウルフ「きゅうぅぅん」
拳銃による連射で敵1体の動きを止め、すり抜け様に光の一閃を繰り出した。ウルフが倒れる。
リーヴェは驚き半分、安堵半分の表情になった。でもすぐに気を引き締める。
周囲に目を向けた。
リジェネ「イタッ」
リーヴェ「リジェネっ。これは、毒か」
いったい誰が。いや、それよりもまず状態異常の解除を。
リーヴェが詠唱に入った。
すると、群れの最後尾にいるテトラプラントが奇妙な動きにでた。
ラソン「やべっ、アイツ魔法を」
プラントの標的は詠唱中のリーヴェだ。
リジェネが苦しそうに地を蹴る。
リジェネ「懐迅槍」
リジェネが槍の横薙ぎを食らわせた。運よく気絶が入る。
その隙にリーヴェの詠唱が終わった。
リーヴェ「‐浄化の光よ、その身を蝕む穢れを取り除け‐ リカバリー」
リジェネ「わ、毒が。ありがとう」
リーヴェ「リジェネ、まだ行けるか?」
リジェネ「はいっ」
その時、ラソンの「地味に痛い」といった印象の悲鳴が聞こえた。
いつの間にか気絶が解けたプラントが風の魔法を使っていたのだ。詠唱が早い。
かまいたちの連撃に苦戦するラソン。威力はあまり高くないようだ。
「魔法攻撃を軽減する」という魔除けのお守りのおかげもあり、致命的なダメージにもなっていない。
2人は急いでラソンのフォローに向かった。
その後、残っていたウルフ×2とプラントは、リーヴェの機転もあって事なきを得た。
少しだけ述べるとすれば、ウルフのほうはラソンに任せても大丈夫だった。
問題は後衛のプラントである。これに対しては、リーヴェがリジェネに「破霊斬」を使うよう助言した。
このスキルは、敵1体のマナのオーラを見極めて斬り裂くことでMPを吸収するというものだ。もとからMP最大値が少ない竜騎士にとってはとても重要な技である。
MP残量が残り少なくなったプラントがとった行動は……ひたすら体当たりすることだった。
物理攻撃力が低く、打たれ弱いプラントにとっては致命的な行動である。
ここまでくれば結果は見えていた。
魔物の群れを倒した。
リーヴェはLv15になった。派生スキル「ホーリー・ガンスワード」を取得。
スキル「ヒール」を習得。
戦闘が終わり、ひと息をつく一行。
するとラソンが不機嫌そうな態度でリジェネに詰め寄った。
ラソン「リジェネっ。最初あれはなんだ! 危ねぇじゃんか」
リジェネ「うぅ、ごめんなさい……」
ラソン「オレ、最初に言ったよな。テトラプラントに風攻撃は効かないって」
リジェネ「はい……」
ラソン「調子でも悪かったのか?」
リジェネ「……違います」
ラソン「だったら。戦闘中はもっと周りの声を聞いてくれよ」
ラソンの剣幕はなかなかに怖かったが、その表情はどこか心配げで悲しいというものだった。
リーヴェもその思いには共感できる。2人とも、リジェネに怪我をして欲しくないのだ。
もちろん戦闘である以上は、ある程度の怪我は覚悟しなくてはならないが……それでも回避できるに越したことはない。
リーヴェ(先を越されてしまったな)
彼のほうが言うタイミングが早かった。
リジェネはすっかり顔や肩を落としてしまっている。反省はしているようだ。
きっと自分でもわかっていたのだろう。
それでもあんな行動に出てしまったのは、きっと……。
さすがに2人で責め立てるのは止めておこう。リジェネはちゃんと改善できる子だと信じている。
ラソン「じゃ、次からは気をつけろよ」
リジェネ「はい」
一通り注意をし終えたラソンが周辺警戒に向かった。
リジェネに声をかけようとしたが、1人にして欲しいと言われ、ラソンの方に向かう。
周辺を探っていたラソンは、少し気まずそうだった。
リーヴェ「ラソン」
ラソン「悪い。オマエが言おうとしたの邪魔しちまって」
リーヴェ「いいや。こっちこそ辛い役回りをさせて、すまん」
ラソン「やっぱ、なんか悩んでるんかな。アイツ」
リーヴェ「そうだな……だが、今は待つしかない」
そうだよな、とつぶやくラソンに並んでリーヴェは川の流れを見つめた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
結局その日は、予定していた距離の移動はできず少し早めに野営の準備に入った。まだ少し暗いリジェネの様子に、気を配りつつもそっと見守る2人。
各々に分担を決めて準備をし、食事を済ませると早々にリジェネが風にあたってくると言って出ていった。なぜか、テント脇に置いてあった槍を持って。
ラソン「ありゃ、やるな。多分」
リーヴェ「ん? なにを」
ラソン「あーうん。女にはわかんねー事かもな」
別に「魔物が出るかもしれない」と持って行っただけではないのか?
そう思うリーヴェだった。
そしてラソンも、最もらしい言い訳をして出ていく。リジェネとは別方向にだ。
しかなくリーヴェは火の番をしながら、荷物の中より1冊の書物を取り出した。魔導書である。
彼女もまた、暇なときにこの本を見て復習していた。まだ読めるというだけで、全体の半分も理解できていないのだが。どうやら、レベルなどが上昇するにつれて徐々に理解ができるようになるようだ。
魔法に関しては、戦闘中に閃くのも、きっと以前から知っていてどこかに蓄積されていたからだ。それが、条件を満たしたことではっきりとイメージできるようになる。
そのことが、最近になってわかってきたリーヴェだった。
野営地から少し離れ、リジェネは無我夢中で槍を振り続けていた。そばには休憩中のカナフシルトがこちらを見学している。
リジェネ「やあぁっ」
――ブンッ。
僕はあの時、戦闘中に別のことを考えていた。
目の前の敵を、周囲の仲間を、ちゃんと見ていなかった。
情けない。リジェネはこれでも、向こうで騎士としての訓練を受けた身だ。まだ、新兵も良いところだったけど。
もしもあの時、2人が助けに来なかったら。気づいて貰えなかったら、今頃どうなっていたか。
想像しなくてもわかることだ。
リジェネ「えいっ」
――ブ、ブンッ。
カナフシルトがあくびをした。
そんなことにも気づかないくらい、リジェネは真剣に槍を振っていた。
リジェネ「はぁ、はぁはぁ」
カナフ「……っ」
リジェネ「え、カナフ!?」
――キンッ。
槍と剣がぶつかった。
カナフシルトが長い尾の先を使って振るった剣撃を槍で防いだのだ。龍のくせに、尾で器用に剣を握っている。これは久々に見る――。
リジェネ「カナフ、練習相手になってくれるんですか?」
カナフ「ピイィィィ」
――キンッ。
リジェネ「おわっ、今日は随分と荒々しいですねっ」
カナフ「フゥゥゥ」
リジェネ「そうか。怒ってるんですね……途中から自分を無視したから」
最初の方の不甲斐なさもそうだが、戦闘の途中からカナフシルトの存在を忘れていた。
リジェネ「ごめんなさい。カナフ」
カナフ「フウゥゥゥ」
白龍が「こいよ」と言わんばかりに尾の先の剣を振った。
リジェネは槍を構えて叫ぶ。
リジェネ「お手合わせ、よろしくお願いします!!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード11 憧れの奥義①】
ラソンもまた、野営地からそれほど遠くない場所で自主練に励んでいた。
ラソン「……今だ。クライス来いっ」
クライス『キキィッ』
タイミングを計り、妖精石が空を向くように手を掲げる。
クライスが掛け声に答え、石に向かって急降下を始めた。
ラソン「風精変……」
石に僅かな閃く。しかし――。
ラソン「わああぁぁぁ」
クライス『キッ』
ふたりは派手に吹っ飛び、同時に悲鳴を上げた。失敗だ。
彼らがなにをしようとしているのか……覚えておいでだろうか。これは、ラソンがプリムーラ丘陵でやろうとしていた切り札だ。
ラソンが起き上がり、倒れているクライスを優しく抱える。
ラソン「大丈夫か、クライス」
クライス『キィ~』
少し元気のない返事だったが、なんとか平気そうだ。大きな怪我もしていない。
ラソンはほっと胸を撫でおろした。ぐったりと座り込む。それにしても。
ラソン「また失敗かぁ」
クライス『キッ』
ラソンは座り込んだまま、空を見上げた。
どうしても上手くいかない。いったい、なにが足りないのだろう。
クライスがやりやすいようにモーションを工夫したり、いろいろと変化を加えているのに。
ラソンは幼い頃に見た書物の内容を思い起こした。
数百年前。ムートリーフ王国には「英雄」と呼ばれた騎士がいた。
細かい所は省くが、彼は各地で人々を助け、多くの偉業を成し遂げたのだ。その中でもラソンが強く心惹かれたものがあった。
それは、英雄が会得していたという「契約者と妖精の究極の形」とも言うべき奥義である。
詳しくは書かれていなかったが、契約者と妖精の一体化によってなされるものだということだった。
響きだけを聞いても、幼い少年には十分に興味をそそる内容だったと言える。
ラソン「やっぱり、オレ達には無理なんかな……」
クライス『キキィッ』
クライスがラソンの腕から飛び出した。互いに瞳を見つあう。
ラソン「悪い、今のナシ。もう1回やってみようぜ」
クライス『キィー―』
ふたりは奥義の完成を目指し、再び特訓を開始するのだった。
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