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外伝16‐7話 的中する予言

リズリット「…………」


 岩場の至る所から突き出した無数の黒い棘に全身を貫かれている。

 膝をついた体勢で全身に傷を負い、傷口からはマナが流出してピクリとも動かない。衣服が所々黒ずんでいるのは棘の所為だろうか。


フランネル「親父ぃーっ!!」


 フランネルは激情に任せて地を蹴った。

 吹き上げる溶岩も、地を走っている炎も構わず駆け寄る。

 凹凸のある足場に足を取られそうになりながら彼の人のもとに辿り着いた。そして己の手が傷つくのも厭わず棘に触れ懸命に取り除く。1本、また1本と。


 棘に触れた手がしゅうしゅうと煙を上げる。同時に嫌な臭いが鼻孔をついた。痛い。焼けるような痛みに似た感覚が体内を貫く。

 宿体越しでもこれ程とは――。よくできた代物なのが災いした。

 同じく駆け寄った皆で協力し、なんとかして刺さっている棘をすべて取り除く。前のめりに倒れ込む身体を肩に手をやって支える。そして、すぐに治療をと動いた時だ。


アナ「ラル、今すぐ離れてっ」

フランネル「へっ? ……いっつ!?」


 不意に強く握られた両腕から青黒い火の手が上がった。どういう事だ。炎や熱に強い筈の自分がダメージを受けているだと。物凄く痛かったぞ。

 慌てて腕を振り払い飛び退る。その際、急いで上着を脱ぎ捨てた。あっと今に上着が塵と化す。


フランネル「ああ、自慢の一張羅がぁ……」


 燃え尽きた上着を残念そうに見つめる。

 そんな彼の傍に一行も集結した。眼前には苦し気に唸り声を漏らすリズリットの姿。浄化の炎に似て非なる青い炎は酷く淀んでいる。

 怪し気に揺らめくそれは、斑模様のようにも見える輝きだった。記憶にある彼の炎のどれとも違う。


リズリット「フ……フラン、ネ、ル。に、げ……ろ」

フランネル「お、親父! まだ意識がっ」

リズリット「う、ぐあぁぁぁっ」


 岩場の隙間から突き出た棘、溶岩の海から噴き上がる異質な力。それらすべてがリズリットの身体に吸い寄せられる。

 暴走を始めた強き浄化の力に惹かれているのか。

 いや、もはやアレは浄化の炎などではない。この地に充満した不浄の気配を取り込み元凶と化してしまっている。


セレーネ「どうして。アレって力が未熟な若者だけじゃなかったの!?」

アルマ「いいや。炎精人種にだけ発症するようだが、未熟の有無は多いと言うだけだろう。例外という可能性もある」

セレーネ「そんなっ。じゃあどうしたらいいのよ」

リーヴェ「マナの気配からして暴走してるようだが……」

フランネル「とにかく浄化しねぇと。でも……くそっ」

リズリット「うぐくぅ……。フラ…………お前、まだ……」

リーヴェ「浄化すればいいのか。なら私がっ」


 リーヴェは今までのように浄化を試みた。

 だが、上手くいかない。力は使っているのに何故だ。此処が記憶の世界だからなのか?


リーヴェ「ダメだ。この世界では上手く力が発揮されないみたいだ」

フランネル「くそ、やっぱ俺様ができねえとダメなのか」


 早く助けてやらないと。あの人のあんな姿は見ていられない。

 けれど、何度青い炎を放っても効果がなかった。未だ真の力を発揮できぬまま。

 苦しむ彼の人。辛うじて人の形を保っているが、他の者らと同様に獣化した火炎の部位が目立つ。

 鳥の尾羽にも似た長い獣の尾。狼や狐の耳っぽいものが髪の合間から除き、両手から青黒い炎を纏いつかせ鋭い爪のようになっている。


 顔や腕など、宿体の至る所がひび割れてマナの本体が覗く。そこが炎の如く吹き出し獣化していた。

 瞳の色も平静時と違う。内包していた輝きの色が前面に出て、右は薄紫、左が空色となり悍ましいくらいにギラついていた。オッドアイなのは変わらない。

 こちらを睨む相貌には紅色と橙色の輝きがそれぞれチラつく。


リズリット「ぐぐぅ……なに、してるのです。早く、理性……がもつ内に……」


 フランエルは激しく首を振る。


フランネル「できない。助けに来たんだ!」

リズリット「無茶を言うな。浄化、できないのなら……友を連れて、に……げろっ」


 理性の限界を迎えたのか、本格的に暴走を始めたらしい彼が向かってくる。

 一行は身構えた。こうなったらやるしかない。多少力づくでも止めるしかないのだ。


フランネル「ぜってぇーに助ける!!」



 強敵「狂暴に呑まれし姫神子」が襲い掛かってきた。

 戦闘開始とともに敵のパッシブスキル「変質した魂」が発動。

 これは種族特性が変化したものだ。効果は永続で水属性への耐性が大幅アップし、スキル攻撃を対象としガードに失敗した敵の全属性耐性を無視できる。

 苦し気で獣にも似た唸り声を上げ攻撃を放つ。炎を軸にした中距離の魔法と炎の爪による斬撃。


フランネル「気をつけろ。親父はいろいろな炎を操る」

リジェネ「いろいろって、炎にそんな種類があるんですか?」

フランネル「まあな。っ、避けろ!」

リジェネ「はっ!?」


 敵の手から放たれた紫色の炎。雄々しく燃え盛り、何処となく荘厳な印象を受ける。

 反応が遅れ、回避しきれずに白龍の翼を掠めてしまう。尋常ではない痛みが走り悲鳴を上げるカナフシルト。ドンッと音を立てて岩場の上に墜落した。

 紫の炎に焼かれた傷口から僅かに煙が上がっている。これはかなり痛そうだ。


フランネル(少し当たったか。ヤベェな、紫の炎は――ッ)


 アレはドラゴンや飛行している相手に対して格別効く。特攻ってヤツだ。

 だが、幸いにも空色の炎は混ざっていない。瞬時に見定めてフランネルは息をつく。空色のが混ざっていたらしばらく飛べなくなっていただろう。アレなら治癒すればすぐ飛べる筈である。


リズリット「――ッ」

フランネル(とどめを刺す気か)

フランネル「させねえ。無限・(インフィニティ)爆裂焔鳥(・スピリットバード)


 距離的に間に合わないと思い中距離から技を放つ。

 彼の周囲に出現した無数の炎の鳥。それを一斉に敵へとぶつける。速度もあり、射撃扱いのため詠唱もいらない。それで且つ中範囲に及ぶ多段攻撃で、確率だが火傷まで付与できるのだ。


アルマ(さすが親子ね。鳥をモチーフにした技がよく似合う)


 敵に向かいながらそう感じた。

 彼の放った炎鳥に阻まれ動きを止めた敵。そこへラソンとアルマが駆けつける。倒れた仲間を守るため必死に攻防を繰り広げた。


リズリット「ググゥ……アアァ……」

フランネル「親父。止めてくれ! 皆を傷つけるなっ」


 炎で援護しながら全身全霊をもって声を贈り続ける。

 その言葉に苦し気にもがくリズリット。どういう訳か、フランネルにだけは近づかない。攻撃を受けたにも関わらずだ。

 なので彼が迫ると距離を取ってしまう。そのために中距離攻撃を中心に戦っていた。


リーヴェ「リジェネ!」

リジェネ「僕は大丈夫です。でもカナフがっ」

リーヴェ「わかってる」


 仲間達の攻防が続く一方で、なんとか負傷者のもとにリーヴェがたどり着いた。

 彼女はすぐさま詠唱体勢に入る。無事に傷を癒し、再び空へと飛び立つ少年にフランネルが先程の炎について忠告した。

 続けて皆にも戦いながら少しずつ情報を伝えていく。


フランネル「いいか。ヤベェのは浄化の炎だけじゃねえ」


 攻撃として一番怖いのは紅色の炎だ。そいつが最も威力がある。

 しかも、敵と化した彼も複数の特殊な炎を混ぜ合わせる技術を持っていた。これも厄介だ。言うが早いか、敵が紅色の炎と緑色の炎を合わせて放つ。


フランネル「言ってる傍から!? ぜってぇ避けろ。食らったら終わりだっ」

セレーネ「ええっ」

リーヴェ「うわっ」

アルマ「そんな急に……ぐあぁぁっ!!」

ラソン「アルマさん! くそっ」


 広域に矢の如く放たれた紅炎。それは想像を絶する威力だった。

 たったの一撃で最前線にいた2人が瀕死寸前まで追いやられる。特に直撃を食らったアルマは全身に火傷を負い倒れたまま動けない。

 どちらも防御はちゃんとしていた。それでもこの有様だ。

 

アナ「あ、あんなに威力が出るんだね」

アナ(姫神子様ってもっと……サポートとかが得意な人だと思ってたよ)

フランネル「ああ怖っ……やっぱおっかねぇわ」


 あまりの火力にすっかり怯んでしまった。

 咄嗟に避けた面々も唖然としている。そんな中、リーヴェは仲間の治癒に奔走した。すぐに気を取り直した4人も援護する。

 すると今度は一瞬躊躇った後、空色の炎をフランネル目掛けて放ってきた。近づく事すら避けていたのに……。


フランネル(アレはっ!? くそ、いよいよこっちの弱点を突いて来たか!)


 あの炎は水のマナを宿している。だから水属性を持っているのだ。おまけに状態異常や弱体化を得意としている炎でもあった。

 アレに当たったらマジでヤバい。フランネルは全力で回避を試みる。アナの援護も借り、間一髪の所で回避に成功した。


フランネル「ふぅ。危なかったぜ」

リズリット「…………ググゥッ」

リジェネ「なんか様子が……」

フランネル「不味い。親父の意識がっ」


 さっきの攻撃で感じていたが、やはり抑制する意識が弱まっているみたいだ。これからますます容赦のない攻撃が飛んでくる。

 そう覚悟して生唾を飲み込む一同。他にはどんな力を持っているんだ。


リーヴェ「大丈夫か?」

ラソン「サンキュ」

アルマ「助かった」


 再度対峙する2人にも敵の殺意が刺さる。

 獣の如きむき出しの本能。あれはもうリズリットではない。完全に暴走してしまっている。身体の殆どが獣化してしまい、面影はオッドアイくらいのものだ。

 それまで中距離攻撃を軸に戦っていた奴が一気に接近。近距離を軸とした戦法に変わる。向かう先にはフランネルとアナの姿が――。


アナ「来た」

フランネル(どうする。避けるか、いやっ)

フランネル「俺様の炎でっ」


 青炎を手に灯し迎え撃つ構えをとった。

 この距離間ではあの技は使えない。それでも構わず拳を突き出す。止まってくれ、という思いを込めて。その思いが僅かに炎に眠る力を目覚めさせた。


フランネル「はあぁぁっ!」

リズリット「――ッ」

フランネル「もういっちょ」


 続けてもう一撃を放つ。瞼を閉じそうになるのを必死に堪えて。

 一発当てる度に胸が痛んだ。棘のようなものが容赦なく心に突き刺さる。攻撃を受けている訳でもないのに凄く苦しい。自然と顔が歪む。目頭が熱くなる。

 だけど泣かない。決して涙など流すものか。此処は戦場、相手が誰であろうと倒すのみ。そう自分に言い聞かせてフランネルは拳を振るい続けた。


アナ「ルーメン・スピリチュア」


 魔法が発動するとともに、見上げるくらいに大きな向日葵が出現。

 発芽から急速に成長したソレは周囲に向けてマナを放出する。魔法で生み出された存在なだけにこんな環境でも元気に花開く。

 移動はせず、己の周囲にいる仲間にマナを分け与える魔華。MPが回復していく。


アナ「よし、今度は運がいい」


 欲しいと思っていたサポートを引き当て小さくガッツポーズする。

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