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外伝16‐5話 再会と仲直り

アルマ「だが、未完成の技を実践投与するのは危険だというのは最もだわ」

フランネル「なんだとっ!!」


 耳聡く聞きつけ食って掛かる。掴んでいた手を放し、ずかずかと大股でアルマに歩み寄った。

 間近で相手を見下して目力を強める。全力で睨みつけているのに一切怯まない彼女。逆に疲れてしまったので目に注いでいた力を抜く。そしてふいっと顔を反らし腕を組んだ。

 イライラとした様子で足を鳴らすフランネルを気にしつつ、リジェネがアルマに耳打ちする。


リジェネ「どうして未完成だと思ったんですか?」

アルマ「根拠がある訳じゃない。皆はあの青い炎を見てどう感じたかしら」

リジェネ「えっ、と……そうですね」


 逆に問われ考え込む。青い炎を見て感じた事か。


セレーネ「何ってアレ浄化の炎でしょ」

ラソン「ああ、前に見たもんな」

リーヴェ「いや。確かに見た目はそうなんだが……」

リジェネ「はい。何か違う感じも……足りないみたいな」


 そうだ、あの炎は前の記憶世界で見た浄化の炎。

 暴走と止める力があるという力。とても美しい炎だ。限られた人しか扱えないとも。


アルマ「ええ、確かにそうよ。でも彼のはまだ真の力を発揮できてないんじゃないかしら」

セレーネ「それって見かけだけって事?」

アルマ「おそらくね。あの人の炎はもっと神秘的で優しい祈りを感じたもの」


 そう、いつか見た浄化の青い焔。リズリットの祈りの想い。

 以前の世界で見た守護者のものだってそうだ。彼のものにも異なれど祈りが込められていた。使い手なりの浄化の想いが――。

 だがフランネルの炎からは、ただただ荒々しい心だけが燃えている。見た目だけを真似ただけだ。


アルマ「荒ぶる心では浄化の炎は力を発揮できない。そうでしょう?」

フランネル「…………」


 荒ぶる心で他者を鎮める事はできない。今しがたの小競合いと同じ。

 そう言われ、フランネルは唇を噛んだ。わかっている。わかっているさ。何度も言われた事だ。心を鎮めろ、祈りを込めろと。

 でも結局は戦うための力だろう。なんで戦闘の最中に祈らねばならん。それがどうしても腑に落ちなかった。


アナ「……ラル?」

フランネル「るっせえ! お前なんかに言われる筋合いはねえーよ!!」

アナ「あ……」


 フランネルは勢いよく走り去る。正論を言われた自覚があるだけに嫌だった。

 横をすり抜けていく友をアナは止められない。か細い声が零れただけで、弱々しく伸ばした手は届かず宙を彷徨う。空の右拳を強く握りそっと胸に当てる。


ラソン「追わなくていいのか?」

アナ「う、ん。僕にはなんて言ったらいいかわからないし……」


 微妙な空気が流れた。なんと声をかけたらいいのか。

 このまま此処にいても仕方ないので、一行はアナとともに地の精殿に行く。走り去ったもう1人は気にかかるが今はそっとしておこう。そのほうがいいのかもしれない。

 移動に役立つ便利な魔法や生物がいるおかげで、目的地まではそう時間がかからなかった。



 地の精殿にやってくると、そうそうに姿を見つけた神官が駆け寄ってくる。


神官「ああ、よかった。授業があるのにまたいないから探して」

アナ「ごめんなさい」


 しおらしく謝罪した彼に、神官は僅かに眉を潜めたがすぐに引っ込めて横に目を向けた。


神官「ところでそちらは? それにフランネルの姿もないようですが……」

アナ「あ、うん。彼は後から戻ってくると思う」


 アナが紹介してきたのでリーヴェ達は自己紹介をする。簡単に事情も説明して納得して貰う。

 大まかに理解した神官が一行を中に誘った。大人しくそれに従い、とある一室の前でランパードと出くわす。前回の世界の時よりは落ち着いており、現代の彼とは少しばかり若い雰囲気がある。

 礼儀正しく挨拶を交わして、チラリと端の人物を見やってから歩き去っていく。特別何かを話しす事はなかった。



 夜遅く、フランネルはこっそりと精殿まで帰ってきた。

 時間的にまだ数人は起きているだろう。誰もいないのを確認しながら中に入っていく。

 何故か開いている裏口からそっと入り、自分に割り当てられた部屋まで行き、ベッドの下にしまってある座布団をぴっぱり出した。


 すっかり更けた夜の暗い部屋。

 自分しかいない空間の真ん中に座布団を置き、その上に腰かけて座禅を組む。今晩はひたすら瞑想に勤しむ心積もりだ。とてもじゃないが今日は眠れる気がしない。

 なぁーに、いつも1人の時にやっている事だ。珍しくも難しくもないさ。


フランネル「ふぅ――」


 静かに深呼吸をして瞑想を始める。

 瞼を閉じて精神を鎮めていく。少しずつ心の内に静寂が戻ってきた。


フランネル(明日はあの人が来るからな)


 事前に聞いていた情報が脳裏を過る。とても嬉しいものだ。

 思わずニヤッと顔が崩れ、ハッとなり首を振った。いけねえ、雑念を取り払わないと。

 油断すると脳裏にあの人の姿が浮かぶ。他にもアナの事が大いに頭を悩ませた。だが今は瞑想に集中だ。百面相しそうになる顔を必死に引き締める。

 そうして彼は、瞑想しながらその日の夜を徹した。



 一方その頃、アナはランパードの部屋に呼び出されていた。

 帰った時に目配せで察して折を見て部屋を訪れた次第だ。最初はまず叱られた。でも、この人が自分を呼び出すのはソレだけが理由じゃない。

 ソファーに座って向かい合って話す。その内容は大体いつも通り。


ランパード「アイツはどうだ?」

アナ「はい、普通にいい子ですよ。言われる程問題児じゃないと思います」

ランパード「そうか?」


 アナは静かに頷く。そして静かに思い返して語る。


アナ「確かにあまり口はよくないけど、態度はそんなに乱暴じゃないし楽しいです」

ランパード「…………」

アナ「今日はちょっと喧嘩しちゃったけど。でも、多分わかってるんだと思う」


 だから、何も言えなかった。きっとわかっている事だから。

 それだからアルマって人に言われて声を荒げたんだ。走り去った後の事は知らない。でもきっと戻っては来ると思う。

 その気になれば勝手に帰る事も出来る筈なのだ。自分がいたい場所に。なのに今までそうしなかったのは……。


アナ「帰っても意味がないと彼はわかってる。だから此処に戻ってくる」


 独り言のように発した言葉。ランパードは変わらず耳を傾けていた。


アナ「今頃なんて、きっと座禅してますよ」

ランパード「だろうな。アイツはバカでどうしよもねーが鍛錬だけはサボっちゃいねえ」

アナ「そうですよね。うん」

アナ(今日はちょっと。でも、明日にはちゃんと……)


 アナは心の内である決意を固めていた。

 明日はあの人が炎の鍛錬指導に来る日だ。実はちょっと楽しみだったりする。

 だから喧嘩した翌日でも、きっと朝から機嫌がいいんだろうなと思い苦笑した。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 リーヴェ達は泊めて貰った精殿の一室で目を覚ます。

 各々で身支度をして食事をとるために客室を出た。すると早々に通路の向こう側から慌ただしい音が聞こえてくる。

 音の発生源のほうに目を向けるとフランネルの姿があった。


フランネル「ウギャアァァッ! しまったぁ~、水で顔を洗っちまった」

リーヴェ「な、なんだ?」

フランネル「体温が下がるぅ。お湯お湯、えーっと桶はっ」


 ガラガラガッチャーン、と大騒ぎしながら身支度をしている。


セレーネ「へぇ、炎精人種(フィアネリス)ってお湯は平気なのね」

ラソン「みたいだな」

アナ「まあ、お湯でもギリギリのラインみたいだけどね。その後しっかり乾燥させるんだ」

2人「へぇ~」


 騒ぎに立ち止まった3人の傍にひょっこりとアナが合流。

 一行の隣に立つ彼だが、フランネルには近づきもせず一切声をかけない。遠慮している様子で遠巻きに見ているだけだ。せっかくお泊りしたのに……。


フランネル「アレ、俺様の一張羅は? ぬおぉぉ、洗濯中じゃねーか!!」

アルマ「もう煩いわね。なんの騒ぎよ」

ラソン「あ、アルマさん。えっと……アレです」

フランエル「予備予備。あぁん? なんでねぇんだ?」

アルマ「…………」


 なんだか知らないが、開け放たれた扉から服やら小物やらが飛び出してくる。

 先に行っていたリジェネに呼ばれて一行は背を向けた。背後では聞きつけた神官の叱咤が聞こえている。いつもあんな感じなのかな、と思う彼らだった。


 一行が朝食を終え、アナと一緒に自習しているとリズリットが到着。

 出迎えられている所に勢いよくフランネルが走り寄った。久しぶりの再会にご機嫌な姿は主人に懐く犬の如く。振り乱した尻尾の幻覚が見えるようだ。


リズリット「元気そうだね。いい子にしてた?」

フランネル「はいっ」


 大好きな人に会えて満面の笑みを浮かべる。

 いつもの憎らしい感じではなく、晴れ晴れとして少し可愛げのある笑顔だ。


リズリット「鍛錬はちゃんとしていたかな」

フランネル「もちろん! 毎日欠かさずやってるぜ」

リズリット「そうか。じゃあ、早速成果を見させて貰いましょう」

フランネル「はいっ」


 まるで別人のようだと一行は揃って思った。

 あそこまで従順な態度の彼を見た事がない。素直な敬愛の気持ちが滲み出ている。本当に本気で相手の事が好きなのだと伝わってくるようだ。

 丁重な態度で横をついて歩く。客人がランパードと挨拶している時はちょっと複雑な顔をしていたが、表向きはしっかりと大人しくしていた。


セレーネ「まるで別人みたいね。槍でも降るんじゃない?」

リジェネ「き、聞こえますよ」

セレーネ「でも本当の事でしょ」


 フランネルがチラッとこちらを睨んだ気がする。

 そして、アナと目が合った瞬間に気まずそうに顔をしかめた。


ランパード「まったく、大したやんちゃ坊主ですよ」

リズリット「それはそれは。大変お世話になっております」


 全然指導を受けてくれないとか、悪戯に困っているなどと言われる度に慌てていた。内心では激情が煮え滾っている事だろう。

 挨拶も兼ねた話を程々に切り上げ、2人は一度外に出ていく事になる。

 精殿の敷地内に手頃な広間を見つけて鍛錬を始めた。まずテストをして成果を確認する。だが、やはりというか合格点には至らなかった。


フランネル「くっそぉ~。まだ合格できねえのか」

リズリット「形にはなって来てるよ。後は精神的なものが伴えば大丈夫さ」

フランネル「精神……瞑想は続けてるのに……」


 言いながらまたアナと視線が合い、ふいっと顔毎反らした。

 なんで他の連中と一緒に見に来てるんだよと思う。おかげで集中できないなと感じる。


リズリット「集中力だけじゃない、心の持ちようも重要だよ。お前はどんな祈りを込める?」

フランネル「祈りって言われてもなぁ」


 何度も言うが、祈りなんて戦闘中には必要と思えない。

 戦いの最中で悠長に祈っていたらやられちしまう。そんなのはまっぴら御免だ。

 素直な気持ちを伝えると、リズリットからもっと考えてみるようにと告げられた。1人唸り声をあげるフランネルを残し、彼は近くまで来ていた一行のもとに歩いてくる。


リズリット「初めましてですよね。私はリズリットと申します」

アナ「初めまして。僕はアナって言います」

リーヴェ「私はリーヴェ・ディア・アルンセレフィアです」


 他の皆も順に挨拶していく。全員の名前を聞きひとつ頷いて見せた。


リズリット「名前の感じからすると異国の方なんですね」

セレーネ(いや、見た目からしてそうだと思うけど……)


 まったく気にした風がない。初対面にも関わらず、すんなりと一行の存在を受け入れた。あまり怪しまれないと説明を受けていたが、まさかここまで無警戒だとは――。

 いや、これは気にしないようにしよう。好都合である事に変わりはないのだから。


 一行がリズリットと対話している間、会釈して1人その場を離れたアナは悩む友のもとに向かった。

 地べたに大胆と座っている。小さな唸り声を上げていた彼は、近づいて来た者の気配を察して顔を上げた。傍に立つ人影を座ったままの体勢で見上げる。


フランエル「なんだよ」

アナ「う、うん」


 2人とも言葉が続かず黙り込む。

 まず言わないといけない。いけないのに、なかなか口から出せなかった。何度も繰り返して、数分後にようやくアナが口を開く。


アナ「昨日は……ごめん。喧嘩腰になっちゃって」


 あんな風に言うつもりはなかった。もっと上手い伝え方があった筈だと謝罪する。


フランネル「別に……お、俺様もっ」

アナ「…………」

フランネル「悪かったよ」


 ぼそりと告げた。先に謝られてしまったからちょっと恥ずかしいけど。

 耳を赤くして言葉を声に出し、そしてふいっと顔を反らす。これでも一応考えてみたのだ。別れた後で頭を冷やすついでに。

 確かに危ない賭けだったかもと思った。それだけは認めようと決めていたのだ。


アナ「じゃあ仲直りだね」

フランネル「おう」


 そう言って2人は互いの拳を突き合わせた。漢流の握手だ。

 まだ少しぎこちない表情だが些細な亀裂は無事に解消される。ちょっとした言い争いだったけど、なんとか長引かなくてよかったと思う。

 一緒にいて楽しい友人を失くすのはどちらも嫌だったから――。

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