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第12話 補給、そして……

 ここは???の某研究施設。その1室。

男性「○○○〇〇様、ご報告します。例の実験体の反応が消失致しました」

???「なんとっ」


 それは本当か、と少し年老いた男の声ともに、研究の手を止めた人影が振り返った。音の少ない室内に、回転イスの回る音が響く。ブクブクと泡立つ水音以外に、目立った音がない薄暗い部屋だ。

 彼はいつも、気が散るからと人を遠ざけて研究に没頭し、部屋もわざわざ灯りをつけようとはしなかった。


???「して、原因は掴めておるのか?」

男性「はっ、現在調査部隊を派遣しております。が、進路の確保に若干難儀しており……」

???「言い訳はよろしい。早急に調査を進めなさい」

男性「はっ、畏まりましたっ」


 男性が慌ただしく退出していく。

 人影はくるっとイスの向きを変え、再び研究の手を動かしながら静かに呟いた。


???「しかし、こうも早く反応が消えるとは。偶然とは思えんな……」



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 翌日の午前。鉱石の街ピエス、大通り。


ラソン「んじゃ、ここから手分けして物資の補給だな」

リーヴェ「了解だ。この騒ぎの中では大変だが、可能な限り準備をしよう」

リジェネ「はい。あ、でも困っている人がいたら助けることも忘れないでくださいね」

1人「言われなくても」


 そういって、後回しになっていた補給のために町内各所へ散っていく。

 本日中に旅の補給を済ませ、明日の朝この町を出る予定になっている。出発を明日の朝にしたのは、先の騒動で町中がごった返しているからだ。これでは、補給も手こずる可能性がある。

 旅の準備は大切なので、十分余裕をもって行動したいと相談した結果だった。



 ラソンは武器職人の工房に来ていた。その手にはリーヴェ達から預かった武器類の入った袋がある。

 ちなみに今、リーヴェ達が装備しているのはアンベム村で購入しておいた予備だ。


ラソン「すみませーん。どなたか、いらっしゃいませんか」

職人「おう、どうした坊主」


 ラソンは思わず苦笑いになる。

 どうやらこの体格のいい男性はラソンが王子だとは気づいていないらしい。そりゃ、自分から王子とは言わないが、察しの良い人や情報誌で知っている人もちゃんといる。


 でも、この男性も知っているからこそ、ラソンの性格や人柄に合わせてくれいるのかもしれない。だけど、出来たら「坊主」だけはやめて欲しかった。せめて「お兄さん」と言って欲しい。

 だが、さすがに腹を立てるほどでもないので、気を取り直してラソンは職人の男性に預かってきた武器を見せる。


ラソン「立て込んでるところ申し訳ないんですが、こちらの武器のメンテナンスをお願いできますか?」

職人「んん、どれどれ」

ラソン「どうですか」

職人「こいつはちょっと時間を貰えねぇか。そんなには掛かんねーが……そうだな、2・3時間くらいは欲しい」

ラソン「わかりました。じゃあ、そのくらい経ったら取りに来ます」

職人「ああ、悪いな坊主」

ラソン「いいえ、よろしくお願いします」


 ラソンは職人に軽く頭を下げてその場を後にした。

 さて、時間を潰しがてら町内を回ってみるか。一応、武器商にもよっておきたい。

 ラソンの装備は王都製なので、予備も含めて今は買い替える必要はないが念には念を入れておく。リーヴェ達のこともあるし。よさげな武器あったら、後で言っておけるようにだ。

 それに、地下で入手した装飾品の鑑定もしておきたい。大体想像はつくけど、一応だ。

 ラソンは大きく伸びをして気持ちを切り替え、元気よく歩き出した。



 その頃、リーヴェは薬商にやって来ていた。

 それなりの歴史があると思わせる店内は、先の騒動で少々荒れていた。物が倒れていたり、魔物の侵入で少し汚れていたりといった感じだ。さすがに薬というだけあって、他の商店よりは被害は少ないようだったがそれでも大変そうだ。

 入ってすぐの所に、店長らしき人が作業していた。ふくよかな女主人である。リーヴェは遠慮がちに声をかけた。


リーヴェ「お邪魔します。薬を売って頂きたいのですが……」

女主人「はいはい。あら、ごめんなさい気が付かなくて」

リーヴェ「いえ、あの……なにか、手伝いましょうか?」

女主人「いえいえ、大丈夫ですよ。それで、薬でしたっけ? どんなものをご所望ですか」


 女主人が客の対応の為にレジに移動する。

 リーヴェもその後に続いて必要な薬の種類を伝えた。女主人が無事だった奥の部屋の棚から、薬を持ってきて机上に並べる。確認を求められたので、リーヴェは手にもってそれを確認し「問題ない」と伝えた。

 回復薬を購入する。希望量には少し足りなかったが、今はこんな状況なので仕方がないだろう。


女主人「ごめんなさいね。あんまり沢山は売れなくて」

リーヴェ「いえ、十分助かります。ありがとうございました」


 リーヴェは「お忙しいところを失礼しました」と一言声をかけて薬商を後にした。

 薬を大事にしまい、店を出てほっとひと息吐く。


リーヴェ「ラソンに武器係を分担しておいてよかったな」


 ラソンはこの国の王子だ。彼にそのつもりがなくても、こんな状況だからと本音は言えないかもしれない。そう思って、リジェネと示し合わせて分担を決めたのだ。想定される荷物の総重量を考えての人選でもある。

 気を回し過ぎなのかもしれないが……。


リーヴェ「さてと、私はこれからどうするかな」


 ひとまず町を回りながら、ラソン達と合流しよう。

 そう考えて、リーヴェはゆっくりと歩き出した。



 最後はリジェネだ。彼は水と食料を求めて、食糧倉庫に来ていた。

 大通りの食料品店は、被害が酷くてとても声をかけられる状態ではなかったからだ。とはいえ、ダメもとで聞いてはみたのだが。結局はそれどころではないと言われ、食糧倉庫に行くよう提案された。


リジェネ(少し気が立ってたな……あの店長さん)


 まあ、仕方ないんだけど。ちょっと怖かった。

 今度は怖くない人だと良いな。そう願いつつ、倉庫の管理小屋内に声をかけた。


リジェネ「あの、すみませーん」

小屋内「…………」

リジェネ「もしもーし。誰か、いらっしゃいませんかー」

青年「なんだなんだ、おっ客か」


 少しダルそうな雰囲気の男性が、小屋の奥から頭を掻きながら現れた。

 この忙しい時にいったい誰だ、といった顔をしている。怖い感じではないので、少し安堵。


リジェネ「すみません、お忙しい所を。実は、王都に行くまでの水と食料を少し分けて欲しいのですが」

青年「ああ、そういう事。ちょっと待ってな」

リジェネ「はい」


 そういって青年は奥の部屋でなにやら作業をし、しばらくして鍵と用紙を手に戻って来た。青年が奥の部屋に言っている時に微かに話し声が聞こえていた。青年がを小屋を出て、リジェネを伴い倉庫に向かう。

 倉庫前までたどり着くと、青年が鍵で倉庫の扉を開ける。


青年「言っとくけど、あんまり多くはやれないからな」

リジェネ「もちろんです。よろしくお願いします」


 青年がリジェネから必要な内容を聞いて、リジェネをその場に待たせ中に入っていった。青年の指示通り、倉庫前で待機する。

 10分ほどしてから、青年が水と食料の入った袋を持って倉庫から出てきた。袋は倉庫に常備されていたようだ。手渡す前に用紙を渡し、サインと金銭を要求する。

 リジェネが言われた通りに手続きすると、ようやく水と食料が手渡される。結構、重量があった。自分がこっちを担当して良かったと思う。


青年「大丈夫か。落とさないように気をつけろよ」

リジェネ「はい。ありがとうございました」


 リジェネは心からお礼を言って慎重に歩き出した。



 ――その帰り道。大通りに出るために通った小道の辺りだ。


町人A「ねえねえ、聞いた。隣国の話」

町人B「ええ、聞きましたわ。物騒ですわよね……」

リジェネ「ん、なんだろう」


 なんだか気になって、つい耳を傾けてしまった。

 そしてその内容を理解する。


リジェネ「…………っ」


 その内容に気分が悪くなって、荷物を落とさないよう注意を払いながら足早にその場を後にした。

 歩きながら、それでも、つい考えてしまう。さっき聞いた話の内容を。

 脳裏に、ある情景が浮かび上がった。かつての……姉の後ろ姿を。その姿を見続けて感じてきたことを。


リジェネ(どうして……)


 思い出したくなかった。このまま、忘れていたかった。

 こんなところで、こんな思いを……こんな思いで、彼に接して良いんだろうか。


リジェネ「ダメ……」

リジェネ(考えちゃダメだっ)


 首を振り、感じた思いを強引に振り払おうと努める。

 頭の中ではわかっているんだ。こう思うことは、傲慢だって。だからこそ、強引にでも封印してこの先を進むんだ。


 そうやって苦悩していると、大通りが見えてくる。

 そこには、すでに合流していた2人の姿があった。リジェネは全力で、笑顔を作った。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【サブエピソード10  旅立つ娘】

 リーヴェ達がピエスの復興を手伝っていた頃。

 隣国との国境近くにある砂漠の集落「ネメア村」で1人の娘が旅立とうとしていた。


娘「あー、いい天気。これで陽が射してたら最高なんだけど」

おばさん「本当に行くのかい?」

娘「うん。前からずっと決めてて、準備してきたんだもん」

おばさん「だからって、なにもこんな物騒な時期に旅だたなくてもいいのに」


 娘をずっと見守ってきたおばさんは、どうしても引き留めたいようだった。

 言っておくが、このおばさんは別に娘の血縁者ではない。彼女の両親も祖父母も、みんな彼女が幼い頃に魔物や盗賊にやられて亡くなっていた。この国ではよくある事だ。珍しい事じゃない。

 このおばさんは、いわば育ての親、みたいなものである。

 おばさんが危険だよ、としつこく言ってくる。もう何回目だろう。


娘「こう見えてあたし、もう21よ。いつまでも子ども扱いしすぎっ」

おばさん「だけどアンタ、結構そそっかしいじゃないか」

娘「うっ、確かにそうかもしんないけど。大丈夫、ちゃんと気をつけるから」

おばさん「ホントかねぇ」


 おばさんはその言葉を信じていいものかと不安そうだ。我ながら信用がなさ過ぎる。

 そりゃ、よく物を忘れたり、行く方向を間違えたり、人や物にうっかりぶつかったりしてるけどさ。だけど、そんなの旅に出ちゃえばどうって事ないんじゃないかな。

 そう思う娘の考えを、まるで読んでいるようにおばさんが口を開いた。


おばさん「あんた、今、かなりふざけた事考えてんじゃない? ダメよ、旅を甘く見ちゃ」


 おばさんの視線が痛い。なんとかしないと、と考えた娘は「そうだ」と思い当たる。


娘「おばさん。忘れてない? あたしには頼れる、賢い『エルピス』がついてるんだよ」

おばさん「そうねぇ~、わかったわ。確かに、エルピスがいるなら少しは安心できるし」


 茜色の妖精石がついたチョーカーを示しながら娘はそういった。

 妖精がついているから、で納得されるのもアレだが。とりあえず、おばさんはクリアだ。

 ようやく、安心して旅に出られる。

 

娘「そういう事で。おばさん、今までお世話になりました。行ってきまーす!!」

おばさん「ホントに気をつけてね~」

おばさん(頼んだよ、エルピス。あの娘を守ってやっておくれ)


 大きく右手を振り、ムートリーフ方面に向けて娘は歩き出した。



        ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

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