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外伝15‐4話 乙女は荒波の如く

 謎の獣「暴走獣 ムゥ」が襲い掛かってきた。

 瞬時に守護者を後方に下がらせ、フェラーノとセレーネが前に出る。そしてクローデリアとアネルセリアが魔法を発動させる体勢に移った。

 なりふり構わず突っ込んでくる獣に前衛の2人が激突。火花をぶつけ合う。


守護者の声「皆さん! どうか、殺さずに止めてあげて下さい」

アネルセリア「面倒だねぇ。でも、やってみるさ」


 セレーネ達も同意を示す。上手くできるかわからないがやってみよう。


クローデリア「皆さん頑張って。エペ・ルトーアリア」

セレーネ「はあっ」

フェラーノ「氷斧刃」


 タイミングよく味方を強化し、間髪入れずに前衛2人が攻撃を仕掛ける。

 アネルセリアは仲間が一歩引いた瞬間を狙い魔法を放つ。彼女の魔法にはお馴染みの「海遊のバルカローレ」や「絆の歌」、「アコール・メドレー」などがあった。しかも曲以外もすべて魔法陣仕様。もちろん、Lv40の今の段階では使えないものも含まれているが……。

 仲間の傷を癒す事はできないが、攻撃力に限っては激し過ぎるくらいの迫力がある。


アネルセリア「氷槍(ひょうそう)のファンファーレ」

謎の獣「グオォォォッ」

アネルセリア「アンコール! それ、もう一丁」

謎の獣「――ッ!」


 生み出された大量の氷の槍が敵を貫く。特に魔法陣のない魔法だが、氷槍を生成時に術者の周囲を無数の波紋が揺らめいた。

 敵に命中後、即座にスキル「アンコール」を使う。これによりMPを通常より多く消費し威力の上がった同じスキルを放つ。


アネルセリア「アクアストリーム!! 坊主、今だっ」

フェラーノ「おう。アイススパイク」


 激しい水流が叩きつけられた後、フェラーノの放った一撃が一瞬で凍りつかせた。

 そこにもう一撃を食らわせ氷を砕く。連撃が決まり、敵に大ダメージを負わせる。悲鳴を上げる獣。セレーネが更なる追撃を行う。

 迫りくる彼女を振り払わんと敵は身体を振り乱す。それを跳躍して回避した。着地するセレーネの横を虎獅子が通過し、爪を立てる。


謎の獣「グガァッ」

エルピス「――ッ!」

セレーネ「エルピス。このっ」


 敵が振り抜いた前肢に弾かれエルピスが吹き飛ぶ。

 セレーネは怒りを露わにして猛然と突撃した。力の限り拳を突き出す。


セレーネ「火十連撃」

謎の獣「――ッ」

アネルセリア「そこだ。行くよ、クローデリア」

クローデリア「はいっ」

2人「海遊のバルカローレ!!」


 同時に始まった合奏。異なる楽器の音が辺りに響き渡る。

 楽し気に遊泳する水の魚達と荒々しい水流の見事な演劇。これは2人の曲に対する解釈が違うからこその合わせ業だ。上手く互いの音色を引き立て合っていた。

 威力が格段に上がった魔法曲の凄まじさ。それもぴったりと音がハマっている。


謎の獣「ガアァァ……」

フェラーノ「よし、ラストスパート行くぜ」

セレーネ「うんっ」

2人「はあぁぁぁっ」


 セレーネとフェラーノも猛攻撃する。

 集中攻撃を食らった獣が大きくよろけた。そろそろ決着がつくか?


フェラーノ「あと一撃頼む!」

アネルセリア「オッケー。援護よろしく」

クローデリア「はい。ソルセルリー・エチュード」

アネルセリア「とっておきの……アクアストリーム!!」


 以前見たものよりも桁違いに強いアクアストリームが炸裂。魔法陣はひし形の中に荒波を巻き上げる海竜の図だ。

 強化の力も相まって、ただの魔法がとんでもない威力の必殺技になった。


謎の獣「ギャアァァァッ……」

アネルセリア「よっしゃぁぁっ! ん~、気っ持ちいい」


 倒れた獣と、ご機嫌で楽器を掻き鳴らすアネルセリア。

 どうにか勝てた。殺さないようにと結構気を遣ったので息が上がっている。ただ1人、アネルセリアだけが今も上機嫌で演奏していた。激しい戦いの後でもかなり元気だ。


フランジュ「気配がしたのはこの辺りよ」

リーヴェ「無事か!?」

ラソン「いったい誰が戦ってんだ」

ランパード「おおっ、いたいた。お前ぇら大丈夫か?」


 決着がついた頃、血相を変えて他の2組もゾロゾロと集まって来た。

 集まってきた彼らは倒れている大きな獣に驚く。動かないソレに警戒しつつ、傍にいた面々の安否確認が優先する。

 合流したフランジュとランパードは獣を見てすぐにムゥだと気づいた。


守護者「さぁて、早速始めましょうか」

リーヴェ「始めるって何を……」


 それまで後方に控えていた守護者が歩み出る。

 彼はクローデリアから先程摘み取った薬草を受け取った。これは魔法の力を高める効果があると言って、手際よく魔法薬を作ってしまう。

 未だ禍々しいオーラを纏った獣。倒れ伏したまま動かないソイツに薬の入った容器を向ける。そしてふぅっと優しく吹きかければ、魔法薬は不思議な力で光の粒となり獣の身体に溶け込んだ。


守護者「もう大丈夫ですから」

ムゥ「クルルル……」


 守護者の手に青い炎が灯る。燃ゆるその光をさっと撒いた。

 幻想的で美しいその炎は、彼の手に操られ獣を包み込む。優しく燃え盛るソレは獣の身体を染めた黒いモノを消していく。むろん、獣の身体は何処も焦げていない。

 青い炎に焼かれ、炎が宿す力を恐れて、獣の身体から僅かに黒いモノが逃げ去る。当然だが誰も気づかない。


セレーネ「わぁ、綺麗」

セレーネ(でも……なんか似てる)


 エルピスが手に入れた炎の力に。

 眼前で燃えるものを見つめぼんやりと呟いた。


リジェネ「獣の身体が燃えていない。不思議な炎ですね」

フランジュ「これは浄化の炎。炎精人種(わたしたち)の中でも選ばれし者だけが扱える才花(さいか)の力」

フランジュ(私の兄と同じ……)


 静かに告げられた言葉。説明した彼女もまっすぐ炎を見つめている。


リジェネ「サイカ?」

フランジュ「才ある者が開花するって意味よ」


 丁寧に教えてくれたフランジュ。

 浄化の炎は暴走を鎮め、不浄なものを滅却してくれるのだと言う。

 その声は少し低く、か細くて。その表情はなんとなく悲し気に見える。寂しそうで、悔し気にも感じられる横顔だった。


 やがて完全に黒いモノが消えた時、今度は桜色の炎を獣に放った。

 同じく獣の身体を焦がす事なく燃え盛る炎。儚げな印象を受けるソレは、柔らかく輝きながら揺らめいている。包み込まれた獣の傷がみるみると癒えていく。


アネルセリア「いやぁ~、浄化の炎って凄いわ。これでムゥも元の優しい精霊に戻った訳だ」

フランジュ「何言ってるの。ムゥは精霊じゃなくて聖獣でしょうがっ」

アネルセリア「ありゃ? そうだっけ」

フランジュ「まったくもう。ちゃんと話を聞いてなかった証拠ね」

アネルセリア「あ、あははっ」


 とぼけ笑いをする彼女に頭痛を覚える。いつもこんな調子で困ったものだ。

 ここはきっちり言ってやろうと顔を上げれば、そこにはもう当人の姿はなかった。音もなく姿を消した友人を探して周囲を見回す。


フランジュ「何処に行ったの。アリー?」

アネルセリア「ひゃっほーう! お~い、いい眺めだぞ」

フランジュ「えっ……上のほうから声がする」


 フランジュは嫌な予感がして上に視線を向ける。

 すると、いつの間にか白龍の足に掴まって空を飛ぶアネルセリアの姿があった。まさか背に乗るではなくぶら下がっているなんて――。そう思い、思わず悲鳴を上げる。


フランジュ「貴女、飛べもしないのになんて危ない乗り方してるの!」

ラソン「……飛んでる事自体はいいのか」

アネルセリア「んん、何か言ったか? いやぁ、一目見た時からやってみたかったんだよねぇ」


 真下でそんな会話をしている時、上空のほうでも不安げに下を見るリジェネがいた。


リジェネ「本当に危ないですよ。せめて足に乗ってくださいっ」

アネルセリア「それじゃつまらないだろ。大丈夫だって」

リジェネ「で、でも……」

フランジュ「コラッ! 降りてきなさい!!」

リジェネ「あの。ああ言ってますし、そろそろ降りますよ」

アネルセリア「たくっ、仕方ないねぇ。ホイサッ」

リジェネ「えっ……うあぁぁっ!」


 変な掛け声が聞こえ、リジェネが下を確かめれば既にスカイダイビングした後である。当然だがパラシュートなんて装備していない。

 アネルセリアは空中で一回転し素早く楽器を構えて音を鳴らす。


 ギィーンッ、と激しい音色が響く。直後、すぐ真下の中空に巨大な水の球体が出現した。

 水しぶきを上げて入水。人魚形態になった状態でまた楽器をつま弾く。球体から管のようなものが伸び、天然のウォータースライダーが完成した。

 楽しそうな歓声を上げて水の中を滑り落ち、終着点の先にいたムゥの弾力性がある柔らかい身体の上に着地する。振動でバウンドする浮遊感に大歓声。


アネルセリア「あっははは! 最高」


 ご機嫌で身体から滑り降り、もう一度楽器を鳴らすと水球が弾け虹を作った。


クローデリア「はわわっ、刺激的ですぅ」

ランパード「セリちゃんは豪快だな。おかげで退屈しないぜ」

フランジュ「貴女ねぇ。誰かが真似したらどう……」

ランパード「もういねぇーぞ?」

フランジュ「えっ」


 今度こそお説教だ、と口を開いた時にはまたいなくなっている。

 次は何処に行ったのだろう。ちょっと瞼を閉じた隙に姿を消した友人を探す。早く見つけださないと、また大変な問題や騒ぎを起こしかねない。

 機嫌がいい時に限って、とぼやくフランジュ。頭に血が上って息が激しく乱れる。


アネルセリア「ぐへへへ……あは、はははっ」


 ツンツンと指で突かれて振り返ると唐突に抱き着かれた。


フランジュ「な、ナニッ!?」

アネルセリア「あはは~。ねぇ、面白い事しよ♪」

フランジュ「なんて顔してるのっ」

ランパード「なんだ? 様子が変だな」

アネルセリア「ンフフッ、どーしたのさ。アレ? そういえば髪の色が……」


 いつ染めたの、と呂律の回りきっていない口調で言う。心なしか顔も赤いような……。

 目に見えて様子がおかしい彼女に2人は戸惑った。ふらふらと抱き着いてくるのを必死で諫める。すると、アネルセリアの懐から何かが落ちた。

 木の実のようだ。ランパードが拾い上げて凝視する。


ランパード「こいつぁ、ウィスクの実だ。果汁も果肉もすげぇ上手いが、食うと酔っ払ったみたいになり幻覚まで見える」


 特に生はヤバいと彼が言った。


フランジュ「まさかコレ食べたの!?」

アネルセリア「えへへっ」

フランジュ「食べたのね。ダメでしょ、拾い食いしちゃあ!」

ニクス「そういう問題か」


 拾い食い以前に、よくわからない物を口に入れるのは不味いだろう。

 それに精霊人は食事をする必要はなかった筈。なのに食べてしまうなんて……。

 いったい何処で拾ってきたのか。まったく面倒ばかり起こしくれる。すぐ大騒ぎする友人には毎度振り回されてばかりだ。


フランジュ「ああ、どうしてこんな……」

守護者「それはきっと一緒が嬉しいからだろうね。2人がいないと時は大人しいから」

ランパード「はぁん、なるほどなぁ」

フランジュ「いい迷惑だわ」

守護者「まあまあ。そう言わないであげて」


 フランジュは再度頭痛を覚えて額を抑えた。


リーヴェ「それでどうやったらこの状態を直せるんだ?」

ランパード「まあ、水を飲ませて安静にしてれば自然と直るさ」

フランジュ「そうね。口にした量にもよるけど死に至る毒ではないわ」

ランパード「毒でもないがな。ただ、ちょいと質の悪い酔っ払いてぇだけだ」

リーヴェ「わかった。水だな」


 リーヴェが水を取りに走る。

 そして戻って来た時、視界に移った惨状に唖然とした。

 ほんの僅かな間だったにも関わらず、酔っ払いを看病していた2人はある意味でボロボロだったのだ。


 特に酷かったのはフランジュの髪である。

 美しい長髪はなんとも言えない珍妙な髪形にされていた。細かく編まれていて、この短時間にやったとは思えない仕上がり。

 ランパードのほうも、かなり暴れられたらしく小さな傷や痣をつけていた。落書きまでされている。気づいた他の仲間達も反応に困る。


ルシフェルス「これは何の祭りだ?」

ラソン「宴会でもしてたのかよ」

セレーネ「嘘。そんな時間経ってないじゃん」

フランジュ「はぁ、もう勘弁して……」

ランパード「早く水を飲ませてくれ」

リーヴェ「あ、ああ」


 それからはバカ騒ぎする彼女が落ち着くまで苦労が続いた。

 騒動が終息する頃には、全員クタクタに疲れ切っていたのは言うまでもない。そうして課外授業は終わったのである。

 一行は森の外で彼らと別れるのであった。アネルセリアが戦闘メンバーから離脱する。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  今は亡き精霊王の若かりし頃】

 名前 フランジュ

 性別  不詳  身長 170.5cm 体重 59.5㎏ 年齢 2961歳

 先代の炎の精霊王だった人物。同期3人の中で一番年上で女性の姿をしている。

 少し年の離れた兄がおり、彼の指導のおかげもあって器用に炎を操る事ができた。学びのために守護者のもとへ通い、その中でアネルセリアやランパードと知り合い親しくなったという。


 名前 アネルセリア(全盛期)

 性別  不詳  身長 179.3cm、体重66.8㎏ 年齢 2958歳

 クローデリアの先代である水の精霊王の若かりし頃。

 フランジュと並んで美女と称される美貌の持ち主。結構な放浪癖があり、この当時は何かとフラついていたらしい。激流の奏者という二つ名を持つくらいのじゃじゃ馬娘。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

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