第10話 脱出
地下空洞から地上を目指すリーヴェ達。
魔物との遭遇がほとんどないおかげで、サクサクと進むことができ、現在中腹辺りまで来ていた。付け足すならば、ちょうどリーヴェとニクスが出会った辺りの場所だ。
ラソン「嘘だろ……」
リーヴェ「…………」
言葉が浮かばない。
ラソン達が下りてきたという道に通じる通路が見事に塞がっていた。それはもう、豪快に。
ニクス「この人数でどうにかできる規模じゃないな」
リジェネ「そんなぁ~……」
ニクスの冷静な観察と指摘に、リジェネが情けない声をあげた。その場にへたり込む。その姿に、戦闘時の勇ましさは微塵も感じられなかった。ラソンはめげずに岩に触れたり、大きさを測ったりしている。
ラソン「あのさ。ニクス、爆薬とか持ってねーか? どうにかこう、通れそうな隙間とか作れね?」
ニクス「無理だ。俺の持っている手持ちでは、人が通れるような大きさのモノは作れない。仮に作れても、リーヴェ以外は通れんかもしれんぞ」
全員「…………」
互いの装備に目を向けた。確かに装備面だけみても、小さな隙間では通れる気はしない。この中で一番華奢で軽装のリーヴェでもかなりキツイと思う。
ダメか、とうなだれるラソン。わずかな沈黙。
リジェネ「あああっ!! やっぱり閉じ込められてんじゃん。もう、限界……」
ラソン「ちょっと静かにしてくれ。今考えてっから」
リジェネ「でも」
リーヴェ「待て。まだ、道はある」
2人の視線がリーヴェに注目する。
リーヴェは最後の頼みの綱に言葉を投げかけようと、周囲に視線を彷徨わせる。あれ? いない。リーヴェの意図していることを察し、2人もいつの間にか消えていた人影を探した。
ラソン「アイツ、まさか……」
リジェネ「そんな……」
リーヴェ「早まるな2人とも」
2人が言わんとしていることの先が想像できたので制止させる。このままでは辛うじて持っていたラソンまでパニックになってしまう。
なんとかしなければ、とリーヴェが考えている時、暗闇の奥からニクスが戻ってきた。リーヴェは安堵と、少し縋りたい思いでニクスに声をかける。
リーヴェ「ニクス。他に道を知らないだろうか」
ニクスとは地下で知り合った。同じ場所から入った可能性も十分にあるが、もしリーヴェ達とほぼ同時期に坑道に入ったと仮定すれば必然的に侵入口は違うことになる。
いや、むしろ後者の可能性のほうが高い。なぜならば、坑道内に自分たち以外の真新しい足跡がなかったからだ。住人達は地震が頻発するようになってから、坑道には入っていないと実は聞いて知っていた。
リーヴェの問いかけにニクスが頷く。
ニクス「ああ、今確認してきた。魔物の気配もない。通れる」
ラソン「なんだ、オレはてっきり先に言っちまったのかと思ったぜ」
ニクス「こちらの用事に付き合ってくれた恩人を、危険地帯に置き去りにする訳がないだろう」
ニクスは少し不服そうに言った。
リーヴェがなぜ一人で行動したのかと聞けば、錯乱気味の人物を連れて偵察や隠密行動はできない、また二次被害を鑑みて魔物との戦闘を極力避けたかった、という判断らしかった。
幸いニクスはボス戦でのレベルアップで、戦闘時は一定時間敵の攻撃対象にならなくなる、戦闘外ではエンカウントを減らせるスキルを習得していた。そのため、彼一人だったら比較的安全に探索できるのだ。
なんともまあ、便利なスキル構成である。
リジェネ「それじゃあ、出られるんですねっ」
リーヴェ「ニクス、案内してくれ」
ニクス「こっちだ」
閉じ込められたという不安と緊張から少しだけ解放され、リーヴェ達はニクスの案内のもと別ルートを進むこととなった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード08 開かない宝箱】
別ルートを移動中、リジェネが道の隅の少し目立たない所に置かれた宝箱を発見した。
リジェネ「あ、見て下さい。宝箱です!」
さっきまでの不安が嘘のように、宝箱を見ながら瞳を輝かせる。目の前の宝に意識がそれたのだろう。すごく嬉しそうだ。ラソンも、リジェネほどではないが興奮しているようだ。
2人が競って宝箱に駆け寄る。
ラソン「アレ。開かないぞ」
リジェネ「そんなはずは……ん、本当ですね」
そんな馬鹿なと言わんばかりに、ガタガタと宝箱を揺さぶる2人。そんなことをしても開かないものは、開かない。今まで見つけた宝箱には鍵のかかったものがなかった。こういうのもあるのか、とリーヴェが思案しているとニクスが進み出る。
ニクス「どれ、見せてみろ」
2人「えっ」
2人がぽかんとしながら場所を譲った。
ニクスは宝箱を調べ、荷物からいくつかの道具取り出して箱を弄り始める。しばらくしてカチッと音がしたかと思ったら、あっさりと宝箱の蓋が開いた。
どうやらニクスには「鍵開け」のスキルがあるらしい。宝箱の中身は……。
ラソン「ラッキー。装飾品みたいだぜ」
リジェネ「どんな効果があるんですかね」
リーヴェ「町に行った時に鑑定して貰えばいいんじゃないか」
ラソン「そうだな」
全員がニクスにお礼を言った。ニクスは大したことをしていないといった体だ。
リーヴェは「魔避けのお守り」を手に入れた。
リーヴェ「もしかして、だが。ニクス、鍵開け以外にもなにかできたりするのか?」
ニクス「……罠の解除ならば心得がある」
2人「マジでっ」
リジェネとラソンが同時に驚いた。リーヴェも驚きを隠せない。
ニクスは戦闘以外にも役立つスキルを豊富に覚える。中でも「鍵開け」と「罠解除」は初期から習得しているスキルだ。ますます便利な人である。いったいどこで覚えたのやら。
しかし、残念ながら「罠解除」はここでは使わないだろう。
一行はその場を後にして、移動を再開するのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ニクスの先導で歩くこと、数十分。
リジェネ「やっと出られた~」
ラソン「んー、風が気持ちいいなぁ」
リーヴェ「本当にな」
ようやく外に出ることができた。現在地は坑道(西口)である。
今まで狭い坑道内にいた甲斐もあって、ゆるゆると吹く風ですら非常に心地がいい。リーヴェ達3人が脱出の感動と安堵に浸っていると、ニクスが少々遠慮しつつも容赦なく声をかける。
ニクス「俺はここまでだ。世話になった」
リーヴェ「こちらこそ、ありがとう」
ラソン「またどこかで会おうぜ」
リジェネ「お気をつけて」
立ち去っていく後ろ姿にそれぞれの言葉を投げかけると、ニクスが右手を小さく振って答えていた。そのまま振り返ることなく歩いていく。
謎の青年ニクスが戦闘パーティから外れた。
ニクスの姿が完全に見えなくなった頃。上空からこちらに向かってくるカナフシルトの姿が見えた。リジェネの匂いをたどって来たのだろう。リジェネも大きく両手を振って白龍を出迎えた。
泣き崩れるんじゃないかというくらい安心しきった顔立ちだ。リーヴェとラソンも思わず嬉しくなる。
感動の余韻が鎮まった頃、ようやくリーヴェはあることを思い出した。
リーヴェ「そうだ。ラソン、これは君のではないか?」
ラソン「んん。あ、それオレの……」
リーヴェが拾っておいた短剣をラソンに手渡した。ラソンは受け取った短剣を、大事そうに鞘に納めて懐にしまう。ラソンが満面の笑みを浮かべた。
ラソン「ありがとな。コレ、大事な物だったからスゲー嬉しい」
リジェネ「よかったですね」
ラソン「ああ!!」
無事に渡せてよかった。リーヴェも微笑み、だがすぐに真剣な面持ちに変わる。彼に聞きたいことがあるからだ。
リーヴェ「ラソン。君は王族なのか?」
ラソン「え、なんだよ急に」
リーヴェは短剣を拾った時の経緯を話す。場が一気に静まり返った。
ラソンは一瞬ためらい、しかしすぐに2人に向き直る。
ラソン「そうだよ。確かにオレは、このムートリーフ王国の第1王子だ」
リジェネ「やっぱりそうだったんですね」
リーヴェ「リジェネ、知っていたのか」
リジェネ「はい。クライスを見て、もしかしたらとは思っていました」
なんだ、気づいてたのかとラソンが髪をわしゃわしゃと手で乱す仕草をした。気まずいというよりは、照れているという方が近い。
ラソンとしては誰が相手でも1人の人として接したいらしく、お忍び中はあまり自分から王子とは名乗りたくなかったという。結果的に隠すような形になってしまい謝罪するラソンだが、リーヴェとリジェネは謝る必要はないと思ったし、それよりも頭には別の思いが浮かんでいた。
リーヴェとリジェネは互いに視線を合わせ、頷きあう。決心は固まった。
リーヴェ「ラソン。私達のほうも、君に打ち明けなければならないことがある」
ラソン「?……」
リーヴェ達も自分たちの素性をラソンに打ち明けた。翼のことも。ようやく伝えることができたのだ。
それを聞いたラソンは、ぷっと噴き出した。
ラソン「なんだよ。じゃあ、おあいこだったってことかっ」
リジェネ「そう、なりますかね。僕達のほうこそ、黙っていてすみませんでした」
ラソン「別にいいよ。そうか……そういう事だったのか」
その後リーヴェ達も貰い笑いして、しばらくの間思いっきり笑い続けた。
ラソンが称号「勇風の第1王子」を獲得。効果は防御力&精神力アップ。技巧力ダウン(小)。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 強化付与】
この世界には、対象者の能力を底上げしたり、追加効果で補助できる強化付与のスキルが存在する。
最も一般的なのは、攻撃力や防御力を上昇させるものである。他にも属性を付与したり、耐性をつけたりするものも含まれる。
ラソンの「ヴァンガード」や「ウィンガード」、ニクスの「ディスアピアエッセ」も強化付与スキルに分類される。そしてこの効果はスキル内容や、使用したキャラによって重ねがけできる仕様になっており、積み重ねることでより強力な効果を発揮してくれるぞ。ちなみに重ねがけとは別に効果延長もある。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
坑道(西口)や鉱山の街ピエスから大分離れて王都方面へと向かうニクス。
その道中、彼の懐から妙な着信音が響いた。ニクスは物陰に身を寄せて立ち止まり、懐から小型の通信機を取り出した。
通信機を操作して受信にすると、ノイズ交じりの若い女性のか細い声が聞こえてきた。
???「もしもし……ニクス君? あ、あの、聞こえますか」
ニクス「シャンヌか。どうした」
シャンヌ「はぁ~、よ、よかった。無事だったんですね」
通信越しに安堵の息が伝わってくる。相当に心配していた様子だ。
ニクス「そういえば。お前から聞いていた魔物の情報が役に立った。礼を言う」
まあ、リーヴェ達の手前、怪しまれないようにさり気なく伝えるのが非常に難しかったが……。
するとシャンヌと呼ばれた女性は、容易に想像ができるほど恐縮そうな調子で返答した。ニクスの記憶の中でも、彼女はいつもこうだ。
シャンヌ「いいえ。わたしは何も……それで、あの……」
ニクス「そっちで何かあったか」
彼女が言いよどむ時のパターンから、大体の予想がついたニクスはそっと訪ねた。少し方向性を固定してやらないと、彼女はまごついてなかなか言い出せない性分だと知っているからだ。
シャンヌが「はい」と力なく答える。
シャンヌ「実は先ほど、サーちゃんからいつも通り文書が届いたんですけど……内容が酷くって」
ニクス「……とうとう動き出したか」
シャンヌ「は、はい……なんか最近、町の皆さんも、サーちゃんの様子も怖くって……」
ニクス「そうか」
私はどうしたらといった具合のシャンヌに、ニクスは大丈夫だと告げた。まだ間に合う、と。
そう言い聞かせていないと、自分も、彼女もどうにかなってしまいそうだった。2人で背負うには、あまりにも重すぎる。
でも、やらなければならないのだ。自分達が。
今にも泣きじゃくりそうなシャンヌを宥め、折を見てまた顔を出すと告げてからプツッと通信を切った。
あまり長く話すのは危険だ。自分達はすでに疑われているかもしれない。否、おそらく自分は疑われているだろう。心中に締めつけられるものを感じながら、リュックの位置を背負い直して拳に力をこめる。
ニクスは警戒を強めながら、次の目的地に向けて再び歩き出した。
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