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第9話 地震の主

 リーヴェ達は大型の魔物を探し、地下深くを進んでいた。複数の小さな灯りが進路を照らしている。

 言い忘れたが、リーヴェは坑道探索の中で「ブリッツ・クーゲル」から派生したスキル「ブリッツ・トルシュ」を習得した。これは、戦闘外で任意の対象に光を付与して松明代わりにするというもの。

 だが、今はマナの温存を優先しているため使用していない。間違いなく、この先に強敵との戦闘が予想されているからだ。

 強者との接触を警戒しながら、各々マナの回復を図りつつ探索を続ける。


ラソン「まだ先が続いてるな。いったいどこまで深いんだ、この迷路」

リーヴェ「あれから数時間は歩いた気がするが、遭遇するのは小物ばかりか」

リジェネ「本当にこの先にいるんですかね」

リーヴェ「わからないが、進むしかないだろう」


 しばらく進んでいくと、道が5つに分岐した場所に出た。

 先を照らしてみても、暗がりが見えるだけである。


リジェネ「どうします」

ラソン「うーん。当てずっぽうに行くのは、さすがに不味いよな」

ニクス「向こうから音がする……同時に蠢く影も」

ラソン「え、どこだ。全然見えねー」

リジェネ「僕達には見えないし、なにも聞こえないですよね」

リーヴェ「ああ」


 左から2番目の道を示してニクスが呟いた。

 三人は目を凝らすが、やはりなにも見えない。耳を澄ませても同様だ。


ラソン「ニクスの言葉を信じて行ってみるか?」

リーヴェ「……行ってみよう」


 皆の合意のもと、ニクスが示した道へ進路をとる。



 歩くこと十数分が経過。


ラソン「ビンゴだな」


 一人、先行して様子見をしてきたラソンが、戻ってくるなりそう言った。

 現在地は地下迷宮の最深部らしく、今までで一番広くて奥行きのある空洞だ。奥のほうに地下水脈によって作られた水辺が見える。

 その水辺から得体のしれない強大な気配と、ブクブクと泡立つ水面にヒレのついた尾の先端が覗いていた。間違いなく、なにかがいる。

 

 戦闘を仕掛ける前に、もう一度周囲の地形を確認する。

 天井はかなり高い。奥には水辺がある以外は、障害になりそうなものも特になかった。それは同時に、一度仕掛けたら隠れられる場所がないということでもある。


リーヴェ「まず、簡単な役割分担をしておこう。私は仲間の治癒をしつつ、敵が水辺に逃げないように妨害すればいいか?」

ラソン「ああ、頼む。奴の攻撃は俺が引き付けるから、その隙にリジェネとニクスは攻撃してくれ」

ニクス「了解」

リジェネ「任せて」

リーヴェ「後は、状況に応じて各々に判断を任せる。皆よろしく頼む」


 全員が頷いた。

 最後に通路に敵影がないのを確認し、一斉に行動を開始した。

 まずラソンがクライスを召喚して移動を開始。ニクスが唯一影の出来ている入り口付近にいったん身を隠し、リジェネとラソンが十分な位置にたどり着くと同時にリーヴェがブリッツ・クーゲルを放つ。

 戦闘するには薄暗かった空洞内が一気に明るくなった。


魔物『キュキュゥゥゥ!!』


 突然明るくなったことに驚いた大型の魔物「ジャイアント・ヴェルスモール」が出現した。

 姿形はモグラとナマズを掛け合わせたような感じで、全長は約2.5mもある。かなりぽっちゃりしているので、相当の重量がありそうだ。


 ジャイアント・ヴェルスモールのスキル「プチ・アースクウェイク」が発動。

 フィールド全体が激しく揺れた。一瞬足を取られそうになるが、なんとか堪える。揺れが収まると、こちらの攻撃が始まる。


ラソン「こっちだ!」


 まずラソンがヴェルスモールに「翼閃斬」を複数回放とうとした時、ラソンの脳裏にあるイメージが突き抜けた。まさに閃いたという感じだ。自然と身体がそのイメージにそって動く。


ラソン「はぁぁ、翼閃連斬(よくせんれんざん)っ」


 剣を構えて跳躍し、身体を回転。落下に合わせて2回、着地時に1回切り付ける。

 複数回攻撃されたと思い込んだヴェルスモールがラソンに注目した。このタイミングでラソンがヴァンガードを発動。念のため、翼閃斬で追加攻撃を加えた。

 そろそろ、良いだろうか。そう思ったリジェネが飛び出した。


リジェネ「行きます。颯針槍(りゅうしんそう)

ニクス(クロスチェイン)


 リジェネが風を帯びた鋭い突きを放つ。その攻撃に合わせてニクスは特殊弾を発砲。弾丸はリジェネの攻撃に共鳴して風の魔法攻撃に変化した。

 この技は、同時に攻撃した味方の攻撃種に応じて効果が変わる仕組みだ。


 今回は属性技だったので、同属性の魔法攻撃に変化したのだ。もちろん全ての攻撃に対応できるわけではないが、かみ合った時の効果は絶大だ。

 物理と魔法の攻撃が同時にヒットし、ヴェルスモールがよろめく。リジェネの颯針槍はクリティカルが出やすい技だったからか、かなり痛そうだ。


モール『キュィッ』

リジェネ「え、なに……うわぁっ」

ラソン「クライス!」

クライス『キキッ』

ラソン「でりゃぁ」


 槍を引き抜くより早く、ヴェルスモールが身体をなじりリジェネを振り飛ばした。

 クライスが風を起こして着地を助ける。坑道の都合でカナフシルトを連れてきていないからだ。

 その隙に突っ込んで来ようとするヴェルスモールをラソンが防いだ。ついでに攻撃も加えておく。


リーヴェ「エルステヒルフェ」

リジェネ「ありがとう、姉さん」

ニクス「ここだ。ベットキル・スフェラ」


 後方に下がってしまった2人の横をすり抜けて、ニクスがヴェルスモールの横腹に攻撃。キールショットよりも強力な獣特攻でさりげなく大ダメージを与えた。火薬を使った弾は、複数変化の効果を付与できないがその分威力が上がる。

 しかし、残念ながらヴェルスモールにマヒは効かない。ニクスにはわかっていたが、それでも舌打ちをしてしまう。

 一時的に怖気づいたヴェルスモールが水辺に向かった。


リーヴェ「させない。ブリッツ・クーゲル」

モール『キュゥ』


 ヴェルスモール目掛けて放った閃光球が弾ける。ヴェルスモールが身を縮めて目をかばった。

 その隙にリジェネが前線に復帰。ラソンの攻防に加わる。リーヴェがラソンに治癒をかけた。


ラソン「コイツ、見た目以上に硬いぜ」

リジェネ「ラソンさん、腹部です。腹部が少し柔らかいです」

ラソン「よし、同時に攻めるぞ」

リジェネ「はいっ」


 二人の攻撃に合わせ、リーヴェとニクスが的確に援護を行いヴェルスモールをひっくり返す。水揚げされた魚の如く暴れるヴェルスモール。そこに2人の同時攻撃が綺麗に決まった。


ラソン「おっと、危ねっ」

リーヴェ「気をつけろラソン」

ラソン「わかってる」


 体勢を立て直すときのヴェルスモールの前肢に当たりそうになった。モグラが混ざっているだけあって、奴の前肢には鋭く長い爪がある。気を付けなければ。

 今度は地中に逃げようとする。リーヴェは再び妨害を行った。クライスとニクスが彼女を援護した。


 度重なる妨害で頭にきたヴェルスモールは、再び「プチ・アースクウェイク」を発動。しかも、連続で使ってくる。

 さすがに立っていられず、各々膝をつく。動きが止まった一行に、ヴェルスモールは長い尾を勢いよくスイングした。全員が攻撃を受けて吹っ飛ぶ。

 リーヴェは吹っ飛びながらヴェルスモールに拳銃を向ける。


リーヴェ「このっ……セイクリッド・バスター」

モール『キュキュィ、キュキュゥゥゥ!!』


 ん? なんだこの反応は。ブリッツ・クーゲルを食らった時以上に強烈な暴れ方をしている。飛び跳ね、身体を掻きむしり、尾をばたつかせていた。


ニクス「やはりそうか。リーヴェ、光だ! 光の攻撃を使え」

リーヴェ「わかった。‐聖なる光の粒子よ……」


 どういう訳か、直撃を食らったはずのニクスがいち早く立ち直り声を張り上げた。続いてラソンも立ち上がる。リジェネはダメージのせいで少し手こずっているようだ。

 ヴェルスモールがリーヴェの詠唱を妨害するために動き出すが、ラソンが間に割って入り足止めする。少し遅れてリジェネとニクスがラソンに加勢した。


リーヴェ「我が手に集いて邪を貫け‐ エルメキア・ランス!」


 リーヴェが形成された光の巨大な槍を敵目掛けて解き放つ。

 残りHPが少なかったジャイアント・ヴェルスモールは、エルメキア・ランスによる直撃を受け、最後に今までで一番大きな地震を起こした後、勢いよく崩れ落ちた。


 ジャイアント・ヴェルスモールを撃破した。大量の経験値が入る。

 リーヴェがLv12→Lv14になった。

 リジェネがLv13→Lv15になった。スキル「地龍槍(ちりゅうそう)」を習得。

 龍スキル「ソニックエッジ」が解禁された。


 ラソンがLv14→Lv16になった。派生スキル「翼閃連斬」を習得。

 妖精スキル「ハウリング・ヴォイス」を習得。

 ニクスがLv17になった。スキル「ディスアピアエッセ」を習得。



 勝利の余韻に浸る間もなく、上のほうから激しい地響きが聞こえてくる。中には爆発音も混じっていた。地面が再び揺れたが、こちらはすぐに収まった。

 これは、もしかしなくてもー。


ラソン「なぁ、帰り道……残ってると思うか?」

リジェネ「冗談、だよね」

リーヴェ「落ち着け。まだ、そうと決まった訳じゃない」


 リーヴェが騒ぎ出しそうになるリジェネを宥め、皆を促して来た道を引き返した。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【サブエピソード07  対照的な2人】


リジェネ「ああぁ、閉じ込められたっ。どうしよう、ねぇ……僕達どうちゃうの」

リーヴェ「リジェネ、皆ついてるから」


 涙目で取り乱すリジェネの背をそっとリーヴェがさする。

 ラソンとニクスは周囲をくまなく調べながら、通れそうな道を探していた。


ラソン「おいおい、そんな顔すんなって。まだ閉じ込められたと決まってねー、て言われたばっかだろ」

リジェネ「でも、でもですよ! こんな暗くて、魔物もいるかもしれない、食料だってなさそうなこんな場所で怖いじゃないですか……出られないかもしれないってだけでも怖いのに」

ニクス「まだ引き返し始めたばかりだ。今からそんなでは持たないぞ」


 ニクスはよくわからないが、リーヴェもラソンも気丈に明るくふるまっている。リーヴェとて、不安がない訳ではない。だが、リジェネの怯えっぷりも手伝って、自分でも驚くほど落ち着いていた。

 一行はまだ、ジャイアント・ヴェルスモールと戦った空洞からさほど離れた所には到達していない。先ほどの一際大きな地震のおかげか、魔物との遭遇が今のところないのが不幸中の幸いである。

 

 不安による態度の変化は少なからず起きていて、反応はそれぞれに違っていた。

 本音をひたすらぶつけているリジェネに反して、ラソンは今まで以上に明るく、リーヴェは普段よりも口数が少なかった。ただ1人、ニクスはというと。


ニクス「……ここも塞がっているか」


 まったく今まで通りだった。少なくとも、パッと見た感じでは違いが見つけられない。彼の変わらぬ態度に、ラソンが感嘆の息を漏らした。


ラソン「リジェネとは対照的だな」

リーヴェ「だが、この状況では非常に心強いぞ」

ラソン「確かに」

ニクス「…………?」


 ニクスが怪訝? な面持ちでこちらを振り返った。彼が戻ってくる。

 どうかしたのか、と聞かれラソンが返答する。


ラソン「いや、ニクスは落ち着いていてすごいなって話してたんだよ」

ニクス「別に、動揺はしているが……」

リーヴェ「本当にか?」

ニクス「ああ」


 わからん。いったい、どのあたりが動揺しているというんだ。

 それとも、顔を隠している布の下は案外……そうなのか?

 よくよく考えてみると、なんで顔を隠しているんだろうと思いはしたが、彼が言わないのだから聞かない方がいいんだろう。今まで行動してきた限りでは、言ってもいい事、伝いたいことははっきりと伝える性格のように感じられたからだ。


リジェネ「ひゃあっ」

ラソン「いけね。平気か」

リジェネ「……うん」


 優しく声をかけながら、リーヴェとラソンはリジェネに付き添い、その後をニクスが追い、4人は再び歩き始めるのだった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  ジャイアント・ヴェルスモール】

 種族 獣・水棲 属性 地 全長 約2.5m 体重 約100.0㎏ 弱点 光・炎

 ピエス近郊の坑道地下に最近住み着いたモグラとナマズを掛け合わせた外見の大型魔物。

 異常発達したヒゲと、尾を揺れ動かすことによる振動で地震を起こす。他にも鋭い爪と聴覚を持ち、地中深くの水脈付近を好む習性がある。そのため水には強く、乾燥や光に弱い。腹部は柔らかいが、背面の毛は硬いので注意が必要。

 その出自には秘密があるらしく、少なくとも自然に進化・発達した個体ではない。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

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