第141話 リーヴェの異変
始めに一つ謝罪をします。本当にすみません。
まことに大変勝手ながら、エピソードを一つ入れ忘れていて、一度消去してからの再投稿となります。
【サブエピソード68 クライスの休日】
会談の準備をしている最中、クライスは情報伝達のために奔走していた。そんなある日の事。
クライス『クカァ……』
鳥なのに大あくびをし、翼をバサバサと動かして身体を解す。仕草のひとつひとつがもはや人間のようだった。非常に肩が凝ったと言わんばかりの体で全身を寛げる。
ラソン「クライス、オレこれから用があるから」
クライス『キキキッ』
ラソン「ははは……大丈夫だよ、ついてこなくて。ゆっくり休め」
クライス『キキ』
言われずともそのつもりだ、とクライスは思っていた。今日は何があっても休んでやるぞ。絶対に頼み事なんて聞かないのだ。
出かけるなら遠くに行きすぎるなよ、と言ってラソンが出ていく。やっと静かになった。その所為か急に眠気が襲ってきて船を漕ぐ。窓辺に置かれたふかふかのクッションの上に身体を預け、気がついた時にはもう眠っていた。
このまま静かに眠っていられたら、どんなによかったか。しかし、そう簡単には休めず――。
――ギャアギャア! キキィー!!
唐突に響いた騒音に飛び起きた。せっかくいい気持ちで眠っていたのに。クライスは不機嫌な眼差しで音のしたほうに目を向けた。
睨みつけるように動かした視線の先に移ったのは……。
妖精『ギャ――!!』
サル「キキッ」
兵士「おいおい、お前どうしたんだよ」
行商人「すみませーん。うちの子が」
険悪な雰囲気を漂わせるペットと妖精が騒動を起こしていた。
妖精のパートナーとペットの飼い主が大変な感じになっている。こんな所で派手に喧嘩をするとはけしからん奴らめ。ヒトの休日を、眠りを邪魔する奴らに制裁をっ!!
クライス『キキッ』
クライスはちょっとした腹イセにつむじ風を起こす。風に巻かれた2匹が悲鳴を上げた。
ふっふっふ……いい気味だ。目を回した奴らを見下ろし、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。飼い主達もまた慌てふためていた。そそくさとその場を去って行く。
これで再度眠りを堪能できるだろう。クライスはそっと瞼を閉じた。だが――。
――ガッチャン! バリーンッ!!
今度は廊下のほうから割れ物の音が聞こえた。割と近いぞ。
またもや飛び起きて聞き耳を立てて様子を覗う。風を操り音の回収に努めた。使用人の声が聞こえてくる。
使用人A「申し訳御座いません」
使用人B「まったく何やってるんだよ!」
その後に聞こえる話の内容を聞く限り、後輩の使用人がミスをしたらしいな。本国の宮殿でもたまに聞いた事のあるやり取りだ。気をつけろだの、早く片づけろだのと聞こえてきた。
いつもならイラついたりしないのに、今のクライスは虫の居所が悪かった。腹の内に沸き上がるムカムカをすべて声に乗せる。
クライス『キィーキキッ、キィー!!』
使用人達「うわぁぁぁぁぁっ」
部屋のすぐ近くにいたらしい人々が揃って悲鳴を上げた。魔物にも負けない恐ろしい叫びである。ドタバタと退散する足音が響く。
しばらくして完全に静寂を取り戻した室内。今度こそとクッションに身を鎮める。
クライス『…………ッ』
後少しで眠りにつける、と思った矢先。不意に気配を感じる。素早く身を起こしてその場から退避した。
次の瞬間、クッションのど真ん中に鋭い刃物が突き刺さる。
ちょっと待て、ここは2階だぞ。なんで外から刃物が飛んでくるんだよ、と文句を言いたい。危うく串刺しになる所だった。今日は厄日なんだろうか。
もう限界だ。やってられん。
クライスは安息の地を求めて飛び立つ事にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード69 守護天神話③】
会談の準備に奔走する最中、時間を見つけては読書に耽るリーヴェ。他のメンバーも忙しくしているので今回は1人だ。
以前からちょくちょく読んでいた、「守護天神話」なる書物を開いて読み進めていく。
癒水の守り手は風に属する法師である。
数多の薬と杖を携えし者、知恵の水を用いて試練を課す。
暗黒の血を継ぐ者は触れるべからず。天の使者の姿は暗黒を照らすモノである。知恵の水は対峙する者には苦し。
彼の者に風を用いてはならない。風に触れし時、癒しの裁きを受ける。
討ち果たした時、祈りの者に癒の意思を授け給うだろう。
生還の守り手は水に属する聖者なり。
長き髪の狭間の者、百合とラッパを身に纏い生者に問う。
死に抗う力、持たざる者は挑むべからず。彼の者の宣告は絶対なり。奪われし力を取り戻す力もて。しかし最後は及ばず。
彼の者、水に強し。挑むならば生の力をより強く持つべし。
討ち果たした時、祈りの者に生の力を授け給うだろう。
リーヴェ「ふむふむ」
リーヴェ(相変わらず、天使とは思えない過激っぷりだな)
襲い掛かってくる前提のような内容の数々。意味ありげなのも変わらない。ここに抱えれている天使は、本当に「天使」なのか。どうにも強敵感が強くて「悪魔」のようにすら感じ取れる。
残りのページは僅かだ。この際だから最後まで一気に読んでしまおう。リーヴェは残りのページに目を向けた。
天歌の守り手は地に属する楽師なり。
そびえし巨躯が振るうは、2種の法具より放たれし裁き。
彼の者が奏でる旋律には気をつけよ。聞けば全ての戦意を削ぐであろう。強大なる鉄槌も忘れてはならない。しかし、最も恐れるべきは運命の審判なり。
彼の者、明るき力に目を細めるだろう。だが暗き力は及ばず。
無事に討ち果たせし時、祈りの者に天の意思を授け給うだろう。
先人の民たる我ら、樹の印の先にこれら守護の力を残す。願わくば、この力が祈りし者の助けとならん事を祈るのみだ。
リーヴェ「…………ふぅ」
長かったが無事に読み終えた。肩の力を抜いて疲れを解すように息を吐く。最後まで気の抜けない内容ばかりだった。
本当にいそうな「天使」の話。読者に謎解きを要求しているかの如き暗号じみた文章構成。その所為か何度も読み返して時間がかかってしまった。
でも、本を読む事自体は嫌いじゃない。鬼気迫るような「天使」の存在には目を奪われたが、これはこれで十分に面白かったと思う。
リーヴェ「さて、と。そろそろ、やるべき事をやりに行くか」
気が向いたら、また読み返してみよう。
そう思いながらリーヴェは書物をしまって歩き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
帝国に設けられた会談場に集められた各国の要人達。
一同に顔を合わせた場の空気は重く、また想像を絶する程に騒然としていた。主に同席した臣下らが。
公国臣下「ですから、そちらに全面的な非があると申しているのです!」
共和国臣下「いいえ、我々とて被害者です。すべては異国の者が目論んだ罠」
王国臣下「だが貴国が宣戦布告した事は事実。それ以前にも不審な行動をとっていただろう」
共和国臣下「それは……我々は国のためを思って国交を……」
帝国側「…………」
開始5分とかからず、頭の痛くなる討論が繰り広げられていた。
発言を控えている帝国側と言葉がないリーヴェ達。いや、同席させて貰っているだけなので、必要以上に発言するべきではないが。
いつまで経っても進まない話にリーヴェの思考が揺さぶられていく。
リーヴェ「…………」
共和国臣下「貴国も我々に被害を与えているでしょう。なぜ我らだけが責められねばならんのですかっ」
王国臣下「何をいうか。そもそも……」
話がまったく話が進む気がしない。同じ所をグルグルしている。どの国も自分達の事ばかり。罪の擦りつけ合いにしか聞こえない会話が続く。
リーヴェは沈黙し、顔が苦渋に歪んでいくのを止められなかった。心の底から何かが吹き出しそうだ。
リーヴェ「…………っ」
自分すらも知らないもうひとつの――。
公国臣下「ですから私達はっ」
リーヴェ「……るさい」
リジェネ「えっ」
リジェネだけでなく、近くにいた仲間達も怪訝に視線を向けた。討論をしている人々はまだ気づいていない。
でも、確かに聞こえた。今までとまるで違うリーヴェの声音を。重く刺々しい、それでいて蔑むような響きを帯びた声が――。
帝国臣下「キミ達、いい加減に……」
リーヴェ「煩いぞ! いつだってお前ら人間は愚かだ。恥を知れ!!」
全員「っ!?」
その場にいた全員が絶句した。たった今何が起きたのか理解が追いつかずに硬直する。
突然何をいいだすのか、と全員がリーヴェに注目した。普段の彼女を知っている人々からしたら信じられない光景。あまりよく知らない人らも、さっきまでとまるで違う様子に違和感を覚える。
リーヴェの瞳の奥には、ギラギラと揺らぐ輝きがあった。怪しく、禍々しく揺らめく光が。自分が酷く歪んだ顔を向けている事など当然わからない。
見た事もない彼女の表情に戸惑いを隠せない一同。しかしリーヴェは止まらない。
リーヴェ「くくく……、お前達は滅べばいい。皆消えてしまえばっ」
ラソン「リーヴェ!!」
ラソンがリーヴェの頬を叩く。頬に生じた感覚。痛み。
リーヴェ「はっ、わ、私……は……」
リジェネ「姉さんどうしたんですか。しっかりして下さい」
ラソン「さすがに言い過ぎだぞ」
リーヴェ「あ、ああ……ごめん、なさい」
リーヴェ(なんで、あんな事言ったんだろう)
自分でも自分の行動がわからない。整理がつかないまま、そっと要人達にも謝罪を示す。
もうこれ以上この場にはいられない。そう判断して1人部屋を出て行った。つき添おうとする仲間達に残るよう言って……。
リーヴェが立ち去った後の会談場。
勢いを取り戻した面々が討論を再開する。しかし雲行きが怪しくなっていく。その中にはリーヴェへ不信感を露にする言葉も存在した。個人を何も知らない者からすれば当然の発言だったが――。
リジェネ「いい加減にして下さい!」
全員「はっ」
再び場が静まり返る。異様な程の緊張感に尻込みしつつもリジェネは続ける。
リジェネ「互いに譲れない所があるのはわかります。でも、今は怒ってしまった事を言い合ってる場合ですかっ」
王国臣下「子供が何を言うか」
リジェネ「子供にだってわかりますよ。皆さんは過去の過ちを押しつけ合ってるだけです」
公国臣下「それはだね、つまり……」
リジェネ「何です? またいい訳ですか。さっきからずっと同じ事の繰り返しでちっとも話が進まない」
この中で最も幼い少年の剣幕は凄まじかった。
同じ話を何度も繰り返して何になるのか。確かに事実確認や責任の有無を確認するのも大事だろう。しかし、だからと言って話が進まないのは別問題だ。今はまごついている時ではない。
世界は刻々と滅びへ向かっているかもしれないのだ。暗黒界の動向も、神樹の件も、問題は山済みなのに話しているのは怒ってしまった戦争の後始末。そして過去に引き起こした争いの数々を追及するもの。
まったくもってバカバカしい。
どうして話が過去へと遡って行くのだろう。今話しているのは現在と未来の話の筈だ。
帝国臣下「君は何が言いたいんだね?」
リジェネ「それは……」
一度言葉を詰まらせ、それでもめげずに声を張り上げる。
リジェネ「僕は話したい。御子の事、神樹の事、僕達の……いえ、別の世界の事を皆さんに。でも、そのためには今この時間に戻ってきて欲しいんです」
ラソン「要するに、過去のはなしばっかしてねーで今の話をしようぜって事だな」
セレーネ「そーよ。そのために集まったんだから!」
リジェネ「お願いします。皆さん、ちゃんと現在を見て下さい」
会談場に残された仲間達は、各国の要人達へ必死に訴えるのであった。
皆を残して退出したリーヴェは蓮池まで足を運ぶ。少し頭を冷やしたかったからだ。
リーヴェ「はぁ」
何故あのような事を言ってしまったのだろう。
イラついていたのか。いや、それでもあの言い方はない。完全に失言だ。
リーヴェ(なにか……自分の中で何かが起きている?)
まさかそんな事は。
でも、ここの所夢見は悪いままだし。妙なくらいしっくりとくる光景が頭にチラつく。あれは悪夢だ、現実の筈がない。
けど、何故だろう。この胸騒ぎは。
リーヴェ(私はあの光景を……見た事がある)
リーヴェ「はっ」
そう思った途端、脳裏にある記憶が蘇る。
それはとても……嫌な記憶だった。決して思い出したくなかった記憶。
その後、会談を終えた仲間達と合流して話を聞いた。
リジェネの必死な訴えで何とか軌道修正し、順調に話は進んだという。一時は泥沼にハマる感じだったがよかった。
結果として事態は今後も議論していく事となり、共和国の状況は各国との交易で徐々に修正していく算段になる。元々代表が狙っていた通りに進むだろう。共和国はこれから忙しくなりそうだ。
カンディテーレ共和国は緑や食料に乏しいけど、晶砂や炎照石、霊油などの資源が豊富だ。当然欲しがる所は出てくる。これを使って交易する手がある筈だ。
ラソンが「霊油」に関する情報を提供した。そして、晶砂も含めて王国に売り出して欲しいと。
チャンドラッヘの処遇は国政が軌道に乗るまで保留という形になった。今は選挙をやっている余裕など共和国内にはない。一刻も早く立て直しをしなければならないからだ。
神樹に関わる情報は、各国から集めて研究施設に寄せる手筈となったらしい。頃合いを見て確認しに行こう。
リーヴェ「皆、本当にごめん」
一通りの話を聞き終わった後改めて謝罪した。
言葉からも感じ取れる重い空気が漂い、皆は気まずそうに許してくれる。
ラソン「にしても何であんな事言っちまったんだ?」
セレーネ「それに最近疲れてきてるっぽいわよね」
リーヴェ「それは……」
リジェネ「姉さん、また眠れなかったんですか」
沈黙する彼女に全員の表情が曇った。
セレーネ「よーし。リーヴェ、この後つき合って」
リーヴェ「え?」
セレーネ「レッツゴー」
クローデリア「わたくしもご一緒します~」
問答無用で腕を掴み歩いていく。
リーヴェはただ引きずられるままに連れて行かれるのだった。




