第140話 会談の準備
未だ兵士の残るハ・グネの町を通過し、数日かけて王都パラムエールまでやってくる。まだ混乱の冷めやらぬ町中を進んで宮殿へ。
宮殿に入ってすぐラソンは別行動をとる。1人で何処かへ歩き去る彼と別れて一度待合室に通された。宮殿内も混乱しているようで、随分長い事待たされる。外部の者に聞かせられない話でもしているのか。
リーヴェ「…………」
セレーネ「おっそ~い!」
リジェネ「随分と時間がかかってますね」
クローデリア「お2人とも、ちゃんと待たなきゃダメですよ~」
セレーネ「わかってるけど、さすがにくたびれて来たわ」
静かなリーヴェとニクスを除き、そろそろ限界を迎えてきた2人が声を上げる。クローデリアに諫められながらも会話して時間を潰す。出されたお茶を頂きながら雑談に花を咲かせる。
その間、リーヴェは一言もしゃべる事はなかった。
数時間待たされた後、ようやく謁見を許されて王の間に案内される。室内に入ると、そこには既にラソンの姿もあった。彼は王の傍らに控えてこちらを伺っている。
玉座に座す国王は参上したリーヴェ達の報告を聞き、預かっていた公国の書状の事も含めて礼を述べた。書状は待たされている間にラソンが渡したのだろう。
そして、問題はこれからだ。
リーヴェ「約束通り兵を引いて下さった事に感謝します。ですが、まだ問題は解決しておりません」
実際、兵を引いたのは間違いない。
完全に王都へ帰還させるには時間がかかるが、大方の戦闘配備は解かれている様子だった。ハ・グネの町にいた兵の様子からこの状況は容易に想像できる。
続けて「どうか話を聞いて欲しい」と願い、国王が更なる発言を許す。
リーヴェは丁重に説明した。内容はカンディテーレ共和国との関係改善と神樹についてである。現在の代表は未だ行方知れずなので、彼が見つかってから交渉の席を設けて欲しいと歎願。この件に関しては他2国の同席も望ましいと告げる。
話を聞き終えた国王は熟考し、臣下らと言葉を交わした後に再び一行へ視線を向けた。
国王「よかろう。我が国はその提案を受け入れる」
リーヴェ「ありがとうございます」
臣下「しかし、会談を開くためには他国との都合を詰めねばなりません」
リーヴェ「はい。我々はこれから帝国へ参りますので、その際に願い出てみる所存です」
国王「うむ、了解した。ならば公国へは私から書面を出しておこう」
道中ラソンが同行する事を考慮し、帝国側の返答を聞き次第連絡を寄越すように指示される。退場を許可されたので会釈をした後に踵を返した。
ラソンがまだ用があるようで別行動をとる中、リーヴェ達は宮殿を出て旅の準備をする。ハ・グネの町では殆ど補給していないので今後のためにも必要な事だ。帝都まで行くには大分距離がある。
準備が終わった頃、宮殿のほうから走ってきたラソンと合流。
ラソン「悪い悪い。いろいろと報告書を提出してたら時間がかかっちまった」
リーヴェ「いや、問題ない。こっちもちょうど終わった所だ」
口上では説明しきれなかった部分を提出して来たのだろう。非常に助かる。
最終確認を済ませて王都を出立しようとした時、聞き慣れない音が響く。機械音のようだ。
リジェネ「何の音ですか?」
ニクス「すまん、俺だ」
すぐに返答が返り、ニクスが通信機を取り出して操作した。彼の個人的な持ち物まで把握していなかった皆が驚く。
しばらくして通信機から聞き慣れた声が聞こえてきた。
アルラート「えっと、繋がってるのかな? こんにちは、アルラートです」
ニクス「大丈夫だ。ちゃんと聞こえてる」
アルラート「よかった」
リジェネ「って、兄さん!? 何故兄さんの声が小さな物体から聞こえてくるんですかっ」
ラソン「わぁ、スゲー。これ、離れた奴と話せる機械か?」
大騒ぎする少年達に通信機越しの声が笑う。
アルラートは首都で議事堂にある予備を貰い、ニクスから使い方を教わったと説明。なるほど、2人で席を外した時の事だな。
もしも彼が通信機を渡していなければ、アルラートの魔法でやり取りする方法かクライスに頼むくらいしかなかっただろう。どちらも手間と時間がかかる。
クライスに頼むのはタイミングを計り辛いし、アルラートの魔法では文字をやり取りする方法だから解読が大変なのだ。通信機とは本当に便利な道具である。
今も興味津々で通信機を凝視している2人に、やり辛さを感じながら通信は続く。
アルラート「現状報告。たった今、代表を発見した」
リーヴェ「本当か」
アルラート「ああ、今行動を共にしてるよ」
彼が代表の声を聞かせてくれた。間違いなくあの時聞いた人物のモノだ。あの時に比べて大分落ち着いている様子で話してくれる。これなら話し合いもできそうだ。
リーヴェはアルラートらに事情を説明した。
リーヴェ「そういう訳なんだ。申し訳ないけど準備だけはしておいてくれ」
アルラート「了解」
手短に返答されて通信が切れる。これで残るは帝国のみだ。
一行は帝国に向けて歩き出した。
王都パラムエールを出て橋を渡った辺りで、一行は魔物の群れを発見する。しかし何か様子がおかしい。よく見れば魔物らの前方に複数の影が見える。
クローデリア「人が襲われてます!」
リーヴェ「助けるぞ」
一行は武器を取り、魔物の群れに襲い掛かった。
油断せずに魔物を倒し、劣勢になった奴らが退散していくのを見送る。引き返してくる様子が何のを確信して武器を収めた。
改めて襲われていた人々に向き直る。それは白衣を着た人々だった。
研究者A「助けて下さりありがとうござます」
研究者B「本当に危ない所を助かりました」
リーヴェ「怪我はないか?」
研究者達「はい」
汗だくになりながらも笑顔で受け答えする研究者達。全員大きな怪我もなくて安心した。
彼らは最近の生態事情を調べに来たという。しかし、普段依頼を受けてくれる人々が全員出払っていた。近年の冒険者の人数も減っているので護衛すら頼む余裕がないらしい。
リーヴェ達は彼らを学術都市ライツェルまで送り届けた。その足で国境門を目指す。
魔物に遭遇しながら開通したばかりの国境門を越え、帝都アトラチスタを再訪した。
王国を先にしてよかった。距離的には若干遠いが、国境門がまた通れるようになったのは最近。帝国を先にしていたら相当の間待たされただろう。
すぐさま宮殿に向かい、皇帝に謁見できないかと申し出る。ちゃんと戻って来ているだろうか。
門番A「お待たせしました。皇帝陛下がお会いになるとの事です」
門番B「ご案内致します。こちらへどうぞ」
リーヴェ「ありがとう」
リジェネ「どうやら無事戻って来てるようですね」
リーヴェ「ああ」
門番の許可を得て宮殿内に入って行く。
今回は待たされる事なく謁見の間に通された。既に帰還していた皇帝と再会を果たす。例の如く対応してから話が始まる。
皇帝「うむ。了解した」
リーヴェ「っ!? よろしいのですか」
思いがけない程に即答だった。もう少し時間がかかるかと予想していたのだが……。
皇帝「事は急を要しておるのだろう。我々とて情報を収集しておらぬ訳ではない」
リーヴェ「はぁ……」
皇帝「先方はもう知っているのか?」
リーヴェ「大まかには伝えています。ただ日程までは……」
皇帝「あいわかった。こちらからも報せを送ろう」
リーヴェ「よろしくお願いします」
驚くくらいすんなりと話が進み、各自で行動し始める。数日間のたがいのやり取りは続いた。各国の要人が集まるには時間がかかる。本国とのやり取りにクライスも忙しそうにしていた。
当然ながら、その間もいろいろな事があって――。まぁ、それは別の機会に話そうか。
数日後、いよいよ4国内での会談が始まる。
リーヴェ達も同席を許された早々たる顔ぶれの集まりだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード67 アニマルパニック①】
これは会談の準備に奔走している最中に起きた出来事。
相棒が忙しくしている最中、それぞれの妖精達は一部を除いて暇を持て余していた。
エルピス『♪~♪』
鼻歌交じりに宮殿の邸内を散策しているエルピス。ずっと妖精石の中にいるのは嫌なので散歩でもしてみる事にしたのだ。もちろん、周囲に人気が少ない場所を選んでいる。
セレーネの心配も気にかけているが、やっぱり構われ過ぎるのは苦手だった。相棒のスキンシップもたまには遠慮したくなる程だ。
彼女もニクスくらい落ち着きがあると嬉しいのだが……。そんな事を思いながらエルピスは歩く。
エルピス『ガルッ?(なんだ)』
前方に見える一角に妖精の集まりが伺える。
面倒ごとなんて大嫌いだが、気のいい彼はちょっと様子を見に行く事にした。妖精は宮殿の人々の相棒だろう。
エルピス『ガル、グルルアッ(おい、どうしたんだ)』
妖精A『ニャァ~ン(君は)』
妖精B『ニギャギャン(見掛けないコだね)』
振り返った妖精達は怪訝な表情を浮かべる。いったい誰だろう、と。
当たり前だ。エルピスは宮殿内を出歩いた事がない。彼らとも初対面である。雄々しい彼の体躯に妖精達は尻込みした。こんな感覚は皇帝の相棒ソルラリオンと対面した時以来だ。彼のお方と同じくらいの貫禄があるぞ。
妖精達(むしろ、こっちのほうが大人っぽい分凄みがある)
全員が揃ってそう感じた。
ソルラリオンは外見こそ成獣だが、年齢は皇帝と同じくらいの筈だ。内面はまだまだ幼い部分がある。一方でエルピスは、見た目も中身も立派な成獣だった。
再度、彼が皆に「どうしたのか」と尋ねる。すると彼らは答えた。
妖精A『ニャアァァ~ン(ちょっと問題が起こったんだ)』
エルピス『グルル?(どんな)』
妖精C『ギャアッ、ニギャーゴ。ナアニャァ! (お前、のんき。一大事だろ)』
妖精D『ナ、ナァーゴ。ナンナナァン、ナァーンゴッ(そ、そうよ。ソルラリオン様が、いないのっ)』
エルピス『ガルッ(なにっ)』
今、何と言ったか。皇帝の相棒が姿を消しただと。妖精石の中にいるのではないのか、と確認するが違うらしい。少し前に宮内をひとりで歩いていたのを目撃した者までいる。
おいおい、ヤバいじゃないか。もしも万が一の事態が起こっていたら……。探さないと、急いで探さなければ。
動揺するばかりでまごついている彼らを叱咤し、エルピスは勢いよく地を蹴った。
宮内を立派な体躯の虎獅子が疾走する。人の目では追えない程の速さで駆け、自身が目撃される危険を回避した。仮に見られても早過ぎて記憶には残るまい。
使用人「うわっ、なんだ!?」
侍女「きゃあ! 風がっ」
妖精達が走り回る宮内は騒然となった。人よりも身体能力が高い彼らが本気で走り回れば、それだけでパニックだ。中にはそそっかしい者もおり、物にぶつかったり倒したり、女性の衣服を巻き上げたりと様々な騒動が発生。
しかし彼らは必死である。探している対象は自分達が使えている人物の相棒。妖精である彼らにとっては王も同然の相手だ。早々に無事を確認しなければならない。
一方でその頃。帝都の各地ではちょっとした歓声が上がっていた。その中心にいるのは、まごう事なき獅子の妖精。そう、ソルラリオンである。
遠巻きに彼の姿を目撃した人々が黄色い悲鳴を上げていた。彼が皇帝の妖精であるのは国民全員が知っている事実。それがお忍びで帝都散策していれば騒ぎにもなる。
ソル『グルル~♪』
猫の如く喉を鳴らして非常にご機嫌だ。軽い足取りで広い区画にまで歩いていき、そこである人物と合流する。
カナフ「ピピィ~」
お帰りと言っている白龍に返事をし、軽やかに背中に乗って手綱を加えた。前からずっと乗って見たかったのだ。
だから、無理を言って乗せて貰い帝都の散策に繰り出した。宮殿ではちょっとした騒動になっているとも知らずに……。乗り手には厳しい筈のカナフシルトも大人しく従っている。ひょっとしたら操縦が上手いのかもしれない。
ソルラリオンは最後にある場所へ連れて行って貰った。帝都を出てすぐの平原、その中で一際光り輝く地点。光木の連なる小さな空間だ。
広々とした所に着地して思う存分に景色を堪能する。こんなのんびりとした時間を過ごすのは久しぶりだった。
ソル『ギャオーンッ! (最高)』
ここまで来たら思いっきり羽を伸ばそうと決めて行動を起こす。
限界ギリギリまで駆け回り、草の上に寝転んで、木々や花を愛でて楽しく過ごした。大騒ぎしている様子は年頃の子供だ。
当然魔物も寄って来たが、彼らの戦闘力はそこそこ高いので問題にはならない。軽く威嚇してやれば勝手に逃げて行く。乗せてきてくれた白龍は基本的に昼寝をしていた。思いっきり性格が出ている。
十分に堪能し、頃合いを見て、行きと同じようにして宮殿に帰る。
その後、帰還したふたりの行く末は言うまでもないだろう。
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