第129話 止められない戦争
敵の数が減った事で大分余裕が出てきた。デバフの種類が増えて戦いやすくなったのも大きいだろう。
しかし、また増援を呼ばれる前に対処しなくてはならない。リーヴェは残る剣士と魔導士の対処をラソンとセレーネに任せ、クロ―デリアを除く残りのメンバーでデリス郷に向かう。
苦戦の現況である彼女を止めなくては話にならないのだ。
リーヴェ「敵は飛行している。ニクス、動きを止めてくれ」
ニクス「了解」
リーヴェ「ニクスの攻撃に合わせて一緒に行くぞ」
リジェネ「任せて下さい」
ニクスが弓を構える。一度に矢を複数持ち、敵の翼に狙いを定めた。
リジェネもタイミングを見て「功気」を使用。
ニクス(ヴォルキル・スフェラ)
デリス郷「キャアァァ――!!」
リーヴェ「今だ。ホーリー・ガンスワード」
リジェネ「雷針槍」
一方でラソン、セレーネ、クロ―デリアは残る取り巻きと対峙していた。
魔法による援護を受けながら連携して攻める。まずは初手から火力の高い魔導士からだ。剣士の妨害を受けながらも上手く追い込んでいく。
クローデリアが適切なタイミングで治癒とバフをかけた。空いた片手間に剣士へ魔法攻撃を行う。
彼らが対峙する敵にもわかりやすい特徴があった。
剣士型の親衛隊員Aは物理攻撃に強くて魔法に弱い。逆に魔導士型の親衛隊員Bは魔法に強くて物理攻撃に弱かった。本当にわかりやすい弱点だ。
しかも剣士のほうは味方のバフで徐々に火力を上げていき、もう一方は最初から火力が高めと来ている。どちらを優先するかは好みがわかれるが、今回は魔導士を選択した。
いくら威力が高くても、詠唱さえ邪魔してしまえば問題ないと思ったからだ。
セレーネ「連蹴乱舞」
ラソン「風刃牙」
セレーネ「突牙」
物理攻撃を中心に連携を組む。交互に攻撃して途切れさせない。反撃の隙を与えずに攻め、親衛隊員Bを撃破。続けて迫ってきている剣士と応戦する。
ここまでくれば勝ったようなものだ。それでも油断せずに立ち向かう。こちらはクローデリアを中心に立ちまわった。その分遅れる治癒は各自道具で対処。
親衛隊員Aもなんとか撃破する。荒い息を整え、気力を振り絞ってリーヴェ達の応援に向かった。
デリス郷と対峙するリーヴェ。体力を半分近くまで削ってきた頃、ラソン達が合流。
敵は男性に対する特攻攻撃も持ち合わせていて、自分1人になった途端多用してくる。この特攻は彼女が稀に召喚する幻影のほうが持っている効果だ。普段使う影人形は闇属性の攻撃や魔法を使ってくる。
影人形と違い、幻影は獣姿をしている場合が多くて形も様々だった。
デリス郷本人はというと、自身が召喚した存在にバフをかける事を中心に戦う。状態異常は殆ど使ってこないが催眠の魔法は使えるらしい。
そしてもう一つ厄介な事が……。
デリス郷「ファントムオーラ」
ラソン「たあっ……て、奴はどこ行った?」
リーヴェ「姿が消えた!? 敵の魔法か」
ニクス「デリス郷は幻惑魔法の名手だと聞いている」
だが、姿は見えずとも消えた訳ではない筈だ、と続けた。一度幻影を引っ込めて姿を消す魔法を使用し、効果継続中に再度召喚する。厄介な戦法であった。
これではどこに潜んでいるかわからない。幻影などが召喚された近辺かと思いきや、必ずしもそうとは限らないようだった。
召喚された幻影や影人形が一行を襲う。
デリス郷(ふふふ、裏切者と小娘が傷つく様は最高だわ!)
嘲笑を浮かべて幻影らを操る。
時間が経過し、デリス郷の魔法が効果を失った。
リジェネ「見えた!」
ニクス「そこだっ」
クローデリア「わたくしも行きます」
チャンスを逃さず、各々の技や魔法で同時攻撃を放つ。しかし奴に慌てる素振りはない。
デリス郷「ファントムミラー」
リジェネ「雷針槍」
ニクス「べトンアロー」
デリス郷「無駄よ。シャドーミラー」
僅かに早く到達した魔法を幻影を生贄にして生成した技で、続けてきた技を影人形を生贄にして生成した魔法で反射。跳ね返された攻撃が当事者達を直撃する。
被弾した3人の悲鳴があがった。
ラソン「皆! クソッ、あんな奥の手を隠し持ってやがったか」
リーヴェ「待ってろ、すぐに治癒をっ」
リーヴェが急いでリザレクションを用意する。詠唱時間を稼ぐためにラソンが飛び出す。セレーネも後に続いた。
デリス郷「まだ幻影は残っていましてよ!」
ラソン「なにっ」
セレーネ「させない。火月閃」
幻影『ガアァァァッ』
ラソン「助かったぜ」
的確に特攻を狙ってくる。ラソンを狙う敵をセレーネが防ぎ、逆は彼が守った。そうやって互いに助け合い全身していく。
敵に一打を浴びせた所でリーヴェの詠唱が終わる。
リーヴェ「リザレクション」
大ダメージを受けていた3人が復活。痛みが引き、再度突撃を行う。
また攻撃を返される事を恐れ、襲い来る幻影や影人形も一緒に叩く。大分時間が経過したのに親衛隊員の増援がなくなっていた。周囲に予備軍が残っていないからだろう。
今が敵を倒す絶好のチャンスだ。対処法を探しながら一斉に畳みかける。
クローデリア「エペ・ルトーアリア」
ラソン「翼閃斬」
ニクス(キールショット)
まず3人がほぼ同時に第一波を浴びせた。敵の体力は後僅か。敵の反撃を受けた仲間にリーヴェが「ヒール」をかけていく。
やや遅れてリジェネとセレーネが飛び出す。
リジェネ「合わせます」
セレーネ「オッケー、行くよ!」
声を掛け合いタイミングを合わせる。そして――。
セレーネ「火十連撃」
リジェネ「地龍槍」
デリス郷「キャアァァァッ」
2人の同時攻撃でデリス郷を撃破した。
経験値が入り、リジェネとセレーネがLv43になる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 デリス郷・アレイシア】
種族 人型・飛行 属性 ‐ 身長 160.2cm 体重 50.0㎏ 弱点 物理
暗黒人の幹部貴族で、クラスは幻影魔操師。悪魔種。
種族特性は「魅香」で、任意の対象(男)を誘惑して増援が入る。武器はなくつけ爪を媒体に様々なスキルを使用。最もたる力は幻影や影人形を召喚して戦わせるという事だ。
物理攻撃にはほぼ無力である反面魔法には強く、影人形を召喚中に使かうスキルには最大HPを上げる類も含まれる。また、影人形らを召喚している間は移動行動をとれない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
砂上に力なく崩れ落ちたデリス郷に浄化を行う。
正気に戻ったのを確認し、治癒を施そうとするが「侮辱するな」と払い避けられる。あ、ちなみに正気かどうかの判断はニクスにして貰った。彼なら彼女の普段を少しは知っているだろう。
座り込んだままの彼女をそのままにして、リーヴェは呆然としているチャンドラッヘに向かった。
リーヴェ「チャンドラッヘ代表、今すぐ兵を引いて下さい」
代表「あ、ああ……わいは、わいはなんで……」
リラ「……っ! うわあぁぁ~ん、痛いよぉ!!」
女性「あ……リ、リラ!」
リラ「ママァ~」
正気に戻った少女の泣き声が辺りに響く。母親が涙を流す少女を優しく抱きしめて宥めた。2人とも酷く震えている。まるで状況がわかっていないという様子だ。
少女はなぜ自分が傷だらけなのか知らない。ある時から記憶が途切れてしまっているからだ。それは他の2人も同じ事で……。
リーヴェ「代表! チャンドラッヘさん聞いてますかっ」
代表「へ、あ……あんさんらは誰、かいな」
セレーネ「今気づいたの。まさか全然覚えてないなんて……」
ようやく一行に目を向けた彼に事の次第を伝える。
やはりチャンドラッヘは記憶の至る所が欠如していた。暗黒人らと関わり持った辺りから記憶が殆どないらしい。戦争状態になっている事実にも衝撃を受けているようだった。
一通り説明した後、改めて彼に降伏するように迫る。チャンドラッヘは動揺のあまり煮え切らない言葉を繰り返す。そこにデリス郷の大きな笑い声が響いた。
デリス郷「もう遅いわ。例の作戦は最終段階に入ってるもの」
ラソン「例の作戦?」
リーヴェ「おい。それはどういう事だ」
デリス郷「さあ? どういう事かしらね。自分で確かめに行ったらどう」
もはや代表1人を元に戻しても意味がない、と嘲笑う。自棄になっているとしか思えない言動だ。それでも最後の最後まで抵抗す気の彼女。
決して作戦の内容だけは明かさないという気概が伝わってくる。ただひとつわかったのは、戦場でただならぬ何かが起こるという事だ。ゆっくり説得している時間もないのだろう、と。
リジェネ「ど、どうしましょう」
リーヴェ「……急いで戦場に向かう。ついて来てくれ」
全員「了解」
デリス郷の言葉にかりたてられ、一行は急いで戦場を目指した。
リーヴェ達が立ち去った後、デリス郷は傷を抑えてフラフラと立ち上がる。
一行が立ち去った先と残された者へ冷めた視線を向けた。順に見回した後、もう一度戦場の方向を凝視する。
デリス郷「バカな子達。今更何ができるというの……」
デリス郷(でも、それはあたくしも同じ)
どうしてあそこまで過激な思想に至ってしまったのか。
確かに自分より若い小娘を見ているとイライラするし、嫌いなモノははっきり嫌いだと思う。異性に対して力を使うのも場合に寄るが躊躇わない。本当に好きな人には絶対使えないけど……。
自分は欲望に忠実なほうであると自覚している。欲しい物は欲しいという。
デリス郷「だけど……こんな事まで、望んでなかったわ……」
戦争なんて嫌。傷つくし汚れるし、戦うのだって面倒くさい。
当初はそう思っていた筈なのに――。
デリス郷(……行かなくては)
デリス郷は戦場のほうへ足を向けた。
親衛隊員A「デリス郷っ」
親衛隊員B「お待ちください! いったいどちらへ」
傷ついた身体で必死に駆け寄る男達。彼らを態度で制し、視線は戦場に向けたまま口を開く。
デリス郷「行く場所なんて決まってるわ。……あそこには、まだあたくしの兵達が残っていますもの」
親衛隊員B「そんな。危険すぎますっ」
デリス郷「危険でも行くのよ。これでも、一応は指揮官だから」
しばしの沈黙。傷つきながらも凛とした佇まいに目を奪われる。
普段どちらかと言えばわがままな彼女だけれど、こういう時は決して部下を見捨てない。ともに戦うかは別としても同じ場所に立つ。
だからこそ、自分達は彼女について来たのだと親衛隊の面々は感じていた。
親衛隊員A「でしたら自分も行きます!」
親衛隊員B「私も御供しますっ」
デリス郷「ダメよ! 貴方達はこのまま撤退するの」
親衛隊員達「そんな。嫌です」
デリス郷の剣幕に負けず、彼らも必死に迫る。しかし彼女はふいっと顔を反らした。苦悩に歪んだ、今にも泣き出しそうな表情を見られないように――。
デリス郷「貴方達はあたくしの部下。だからちゃんと言う事聞きなさい、いいわね?」
唇を噛みしめる彼女に尚も食い下がろうとする親衛隊。なかなか引き下がってくれない彼らに、彼女は全身全霊を込めた声で叱咤する。
デリス郷「いい加減になさい。怪我人なんて、ただの足手まといだと言ってるのよ!」
親衛隊員達「っ!?」
デリス郷「…………」
親衛隊員A「わ、わかりました。お気を、つけて……」
デリス郷「早く行きなさい。それと……」
ついでに彼らもお願い、とチャンドラッヘらを彼らに託す。しおしおと指示に従い、彼女1人を残して砂塵が舞う風の向こうへと去って行く。
姿が完全に見えなくなった頃。大きく深呼吸をして、フラフラと戦場のある方角を目指して歩き出した。




