第128話 接触! デリス郷戦
急ぎアラビアンサハルを出立し、東を目指して進む。
程なくして裏口から逃げてきたらしい一団と遭遇。暗黒人を中心とした小部隊で、その中に地上人が3人。中年男性と女性、そして幼い少女だ。
聞いた話によればチャンドラッヘは中年の男だと言うから、この中で該当する人物は1人しかいない。
リーヴェ「止まれ! ……貴方がチャンドラッヘ代表だな?」
代表「何者や」
リーヴェ「私はリーヴェ。質問に答えてくれないか」
代表「確かに、わいがチャンドラッヘや」
恰幅のいい男性がなまった口調で答えた。護衛兵に囲まれ、背後に女性と子供を庇って立っている。
リーヴェは警戒を解かずに単刀直入に伝えた。
リーヴェ「今すぐ兵を引いて欲しいんだ。これ以上の侵攻は悲劇しか生まない、どうか別の道を模索してください」
代表「ふん、何を言うかと思えば」
???「その通りですわ!!」
セレーネ「だ、誰!?」
彼らの更に後ろから声がかかり、かき分けるようにして前へ進み出る。
歩み出た人物は他でもない、デリス郷だった。周囲の兵らは彼女の私兵らしい。否、親衛隊と言うべきか。腰を利かせた色っぽい仕草で手に持つ扇子を広げる。
デリス郷「また会ったわね。御子さん」
リーヴェ「え、どこかで会ったか?」
申し訳ないが全然覚えがない。
それもその筈、今の彼女は本来の姿をしている。と言っても、変わっているのは翼や尾がある以外は髪や瞳の色くらいだ。大まかな体型や顔の造形に変化はない。衣装も相変わらず派手で大胆である。
彼女の姿を確認し、ニクスが「デリス郷」と声を零す。彼の姿を確かめた彼女が表情を歪めた。
デリス郷「報告には聞いてたけど、ホント生意気な坊やだこと」
デリス郷(しかも、よりにもよって彼を倒した連中に肩入れするなんて!)
ニクス「デリス郷、俺は……」
デリス郷「言い訳は聞きたくないわっ。それとも何? 今からでも寝返る?」
侮蔑のこもった顔で艶っぽく誘う。しかし、ニクスは意に介さず即答した。
ニクス「……いや。俺は力に溺れる皆を止めると決めた」
デリス郷「あたくし達が力に溺れているですって!?」
ニクス「そうだ。強大な力は身を滅ぼす、俺はそんな力はいらない!」
それでなくても、自分達は十分すぎる力を持っている。そう気持ちを込めてニクスは言い放った。
デリス郷「呆れた。そこまで本気だったとはね」
代表「アレイシアはん、お気を確かに」
大仰に頭を抱えて見せる彼女につき添うチャンドラッヘ。女性と少女が傍観する前で彼女に心酔している。傍観する彼女らも周りに兵士らも、誰1人として止める者はいない。
明らかに異常な空気が漂う中で驚くべきことが――。
デリス郷「ああ、ダメ。このままでは立ち直れないわ」
代表「そんなっ」
デリス郷「でも、お願いを聞いて下さったら頑張れるかも」
代表「よっしゃ。何でもやっちゃる、言うてみてくれ」
何かが始まったらしい様子に言葉を失う。
その間にデリス郷が部下から受け取った鞭を彼に渡した。
デリス郷「それでそこにいる女どもを傷つけて頂戴!」
代表「わかった。見ててや」
セレーネ「って、ちょっと!」
リーヴェ「おいっ」
クローデリア「きゃあっ」
手にした鞭でリーヴェらを襲い始める。
驚きはしたが、動きが素人なので難なく回避可能だ。危なげなく回避していく3人。リジェネ達も仲間を守るように行動している。
大して時間もかからずにチャンドラッヘの息が上がった。体力の限界を迎えて力を失う。
デリス郷「やっぱりその子達じゃダメみたいね。……いいわ、こっちにしましょ?」
代表「はいな」
言われるがままに男が身を翻す。向かう先に言るのは女性と少女だ。まさか――。
――ビュンッ、鞭の音が響く。
少女「あっ」
女性「っ……」
リーヴェ「そんな……」
2人が鞭の攻撃を受けて倒れた。感情の失せた顔でされるままになっている。一連の様子を眺め、デリス郷は高笑いしていた。
咄嗟にリーヴェ達が止めに入ろうとするも、周囲の兵らに止められてしまう。
何発か与えた所で満足したように代表を止める。
セレーネ「酷い! その人達は貴方の家族じゃないの?」
リジェネ「それ以前に、あんな小さな子に手を上げるなんて……」
リーヴェ「ああ。信じられない光景だ」
クローデリア「わたくし達が避けたから……彼女達が……」
ラソン「そういう問題じぇねーよ!!」
思い思いに言葉をぶつけた。しかし相手は無感情に見つめるだけ。常軌を逸している。
デリス郷「無駄よ。彼らはあたくしの虜ですもの」
ニクス「やはり貴様の幻惑魔法か」
リーヴェ「だったら彼女を止めればっ」
ニクス「ああ。おそらく正気に戻る」
ラソン「なら話は早いぜ」
一斉に武器を構えた。話を聞く気のない連中には、もはや力づくで挑むしかない。なにより今のチャンドラッヘには何を言っても意味を為さないだろう。
ちゃんと話をするためにも、彼らにかけられた魔法を解除しなければ。
戦闘の意思を感じ取ったデリス郷も武器を構える。周囲の兵士らもそれに習った。
デリス郷「いいわ。相手をしてあ・げ・る」
敵「デリス郷・アレイシア」が出現。
彼女の種族特性「魅香」の効果で親衛隊員×3も参戦。この効果は男性なら自由に指示に従わせられるぞ。ちなみに彼女は武器を装備していない。
現れた親衛隊員Aが剣による攻撃を仕掛ける。
ラソン「させないぜ。ハウリング・ヴィンド」
ラソンが戦闘開始直後に敵の注意を引きつけた。毎回やる訳ではないがいつも通りだ。範囲内にいた前衛2人が彼に向かって行く。
奴らの攻撃を受け流しながら攻撃のチャンスを伺う。
ラソンが敵の攻撃を引きつけている間に、リーヴェとセレーネはデリス郷と対峙した。こちらの攻撃を掻い潜りつつ彼女が影人形を召喚する。
リーヴェ「クレセント・ソニック」
セレーネ「炎撃拳」
デリス郷「ふふ……出でよ、ファントム!」
デリス郷のクラスは幻影魔操師だ。このクラスは媒体を用いて幻影や影人形を召喚して戦う。彼女の媒体はつけ爪。
影人形を召喚した途端に動きを止める。影人形による闇属性の攻撃。動きが止まった今なら、と攻撃を掻い潜り迫るが……。
リーヴェ「ここだっ」
デリス郷「甘いわ」
リーヴェ「ぐっ……」
セレーネ「リーヴェ! このっ」
つけ爪を媒体に生成した魔力の爪で応戦される。その場から動きはしなかったが、真正面か突っ込むのは難しそうだ。
ならばと後方からセレーネが迫る。しかし、親衛隊員Bの魔法攻撃が飛ぶ。攻撃を避けるために離れざるを得ない。魔法攻撃を与えた敵がリジェネの一撃を食らう。攻撃は敵へもろにダメージを与えた。
どうやら親衛隊員らは彼女を守る事を優先するようだ。多少無理な状況でも彼女を守っている。
デリス郷「うふふ……まだまだこれからよ」
一定時間の経過により、デリス郷の特性「魅香」の効果が再び発動。更に親衛隊員が2人追加される。
リジェネ「ふ、増えた!?」
セレーネ「ああ、もう。こっちは全然倒せてないのに卑怯よ」
デリス郷「戦闘に卑怯もありませんわ。やっておしまいっ」
親衛隊員「はっ、仰せのままに!」
敵の増援までもが攻撃に加わった。
厄介だ、このまま敵が増え続ければ手に負えなくなるぞ。
クローデリア「いやぁぁっ」
リーヴェ「不味い。後衛に敵の攻撃がっ」
リーヴェが救援に向かうのを影人形が妨害。そこへセレーネが援護に加わる。強烈な蹴りと拳を叩き込んで敵を怯ませた。
セレーネ「ここはあたしが引き受ける。リーヴェはあっちの援護に回って」
リーヴェ「すまない。頼む」
その場を彼女に任せて全力疾走。向かい来る敵を躱し、回り込んで攻撃。クローデリアも必死に抵抗していた。無事に合流する。
ニクス(この位置からなら、当たる)
デリス郷「きゃあっ! 痛っいわね」
セレーネ「ナイス。せいやぁ――っ」
死角からの狙撃が命中。怯んだ隙をセレーネが狙う。ヒットした手応えから物理攻撃に弱い事を察する。見た目通り術師タイプのようだ。
すかさずセレーネが敵の弱点を報告。しかし、間髪入れずに敵の攻撃が威力を増す。デリス郷が集中攻撃を受けた事で敵全体に攻撃力バフがかかったのだ。効果発動は確率だが、その分上昇効果が強い。
彼女が攻撃を受けた影響か、影人形がいったん引っ込む。
親衛隊員「よくもデリス郷を。死ねぇー!」
ラソン「ヤベェ、押し負ける……」
リジェネ「颯針槍」
親衛隊員「があぁぁぁ」
ラソン「悪い。助かった」
威力が増した攻撃を一度に受け、苦戦を強いれらるが助太刀によって救われる。だが相手はまだ倒せていない。
リジェネ「油断禁物です。とにかく数を減らさないと」
ラソン「わかってる。まずは取り巻き連中を片付けるぞ」
リジェネ「はい」
2人が同じ敵に向かって行く。今回は弱そうな相手から順に叩く心積もりだ。
デリス郷が再び影人形を召喚。直後に召喚した内の1体を吸収して傷の治癒と最大HPを上昇させる。僅かな手数だったとはいえ、相当のダメージを与えた筈なのに容易く癒されてしまう。その所為か、彼女は異様に打たれ強かった。
一方で――。
クローデリア「オルムアクス」
デリス郷「ふんっ」
クローデリアが放った魔法をことごとく防がれてしまう。
リーヴェ「なるほど。魔法は効き辛いのか」
本当に厄介な敵だった。
魔法には強く、定期的に増援を呼ぶ。増援は彼女を守るのを優先するために攻撃を加えづらい。物理攻撃にはほぼ無力と言っていいが、一定のダメージを一度に受けると全体に強力なバフをかけてくる。
発動は確率だが重複するから最悪、敵の戦力がおそろしい事になりかねない。
重複に関しては、その後も何度か攻撃して判明した。明らかに最初の頃より取り巻き衆の攻撃が強くなっているからだ。
ついでに言えば、魔法使いのほうは最初からなかなかの火力だった。バフの効力は剣士程ではなさそうである。
最悪の事態を避けるために、戦闘参加人数を減らしていく。
親衛隊員「がはっ……」
リーヴェ「はぁ、はぁ、倒した。後何人だ?」
リジェネ「3人です。姉さん」
頭上から報告が降ってくる。
倒しても倒しても敵が増えるので、一行には疲れが出始めていた。1人一人は決して強い訳ではないが、こうも数で押されてはたまらない。
増援を呼んでいる当人は未だピンピンしていた。




