第74話 天然の学び舎
時は遡り、リーヴェ達が行方不明騒動に巻き込まれたいた頃。ハ・グネの町では、銀髪の青年がヴァックと出会っていた。巡回に出ていたヴァックが、通りすがった青年の落とし物を拾ったのだ。
青年が落としたのは銀色のロケットだった。
ヴァック「コレ落としましたよ」
青年「ん、ああ。ありがとう」
青年が差し出されたロケットを見て、懐に件の物がない事を確認して受け取った。笑みを浮かべて礼を言う。ロケットは鎖が壊れていて落ちたようだ。
ヴァックは向き直った青年を見て、彼の変わった容姿に疑問を抱いた。異国の人なのは間違いないが、纏う雰囲気に少しだけ既視感に似たものを感じる。他の3国の人でもなさそうだ。
ヴァックの様子に気づいた青年が怪訝な表情を作る。
青年「私の顔に何かついているのかな?」
ヴァック「あ、すみません。ちょっと知り合いに雰囲気が似ていたので」
青年「それは……もしかして龍に乗った」
ヴァック「知ってるんですか」
ヴァックは青年の言葉に驚愕した。異世界から来た人だと聞いていたのに、こんな所に知り合いがいるなんて。
本来は警戒すべき所だろう。しかしヴァックは、まったく思い至っている気配がなく青年に笑顔を向けていた。
ヴァック「彼らには本当にお世話になりました。龍を連れているのを見た時は本当ビビりましたけど」
青年「やはり、ここに来ていたんですね」
話題に意識が向いているヴァックに、青年は龍を連れた一行の行方を尋ねる。
何の疑いもなく、オーグラシア公国へ向かったと答えてしまう。なるほど公国のほうへ行ったのか。しかし恰好からして兵士だと思うが、これはまた……。王子と言う単語も漏れている。
青年(ちょっと心配になる人だね)
青年「教えてくれてありがとう。でも、あまり口が軽いようではいけないよ」
ヴァック「ああ!?」
ようやく自身の油断に気づいたらしいヴァックは大声を上げた。青年は苦笑する。
青年「聞いた事は誰にも言わないから、安心して」
ヴァック「本当ですかっ」
青年「もちろん。私としても変な虫がついたら大変、だしね」
ヴァック「変な虫??」
青年「いや、こっちの話だ。気にしないで」
はあ……、と相槌っぽい返事を返えす。
次からはちゃんと気を付けてと青年に言われ、2人は別れを告げて各々の行動に戻った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
王都を目指すリーヴェ達は、何度目かの昼下がりに奇妙な光景を目の当たりにしていた。場所は橋から王都までの中間付近に広がる草原地帯。
ラソン「なぁ、おかしかないか」
セレーネ「何が?」
ラソン「周りを見てみろよ。魔物1匹いないぜ」
リジェネ「魔物だけではありません。動物もです」
周りの様子は朝からずっとこんな調子だった。
魔物に遭遇しない事自体は嬉しいが、姿1つ見当たらないのは逆に恐ろしい。嵐の前の静けさ、と言うのだろうか。もしそうなら、もっと嫌な状況だ。
リーヴェ「…………」
リーヴェは1人、空を眺めていた。風が肌に当たる感触、仲間達の声すらも気にならない程の言い知れぬ感覚。目覚めてからずっと耳元で声が囁いている。
上手く聞き取れないソレが強く響く度、リーヴェの内心をかき乱して不安にさせた。無意識に手足が強張り全身に震えが走って力が入る。
リジェネ「姉さん?」
セレーネ「ちょっと大丈夫なの。疲れた、具合が悪い?」
リーヴェ「え、ああ……いや」
ラソン「おいおい、リーヴェまでおかしくなっちまったのか」
仲間達が心配して何度も呼びかけた。しかし、リーヴェは生返事ばかりを返す。
その時、心ここにあらずといった彼女の脳裏を悲鳴に似たマナの叫びが貫いた。言葉にならない強烈な衝撃を受けたようだ。瞬時に込められた情報を読み取る。
リーヴェ「いけない。皆、伏せろ!」
全員「え!?」
リーヴェが強引に姿勢を低くするよう促した。突然の事に驚く面々は促されるままだ。
膝を折り地に手をついた瞬間、辺り一帯に激しい地震が発生する。咄嗟に頭を庇い揺れが収まるのを待つ。
程なくして地震は鎮まった。戸惑いがちに顔を上げて周囲の様子を覗う。
草原のため特に変わった所はない。しばらく地面に身を寄せたまま様子を見る。第2波の心配はなさそうだ。確かめるようにゆっくりと立ち上がる一行。
リジェネ「収まったようですね……」
セレーネ「はぁ、ビックリしたっ」
クローデリア「唐突の出来事でしたねぇ」
リーヴェ「皆、無事か?」
元の調子に戻ったリーヴェが周囲に目を滑らせた。
ラソン「ちゃんと無事だぜ。それにしてもお前……」
リーヴェ「ん?」
ラソン「ん、じゃねーだろ。何故わかったんだ」
セレーネ「うん、地震が来ることがわかってたみたい」
リーヴェ「ああ、それは……教えてくれたんだ」
マナの声が、とリーヴェは答えた。正確には、マナに乗って運ばれた惑星の意思みたいなものだ。
リーヴェに危機を報せてくれたという訳ではない。これはある種の悲鳴だ。惑星の崩壊が着々と始まっているのかもしれない。
リジェネ「姉さん、本当に大丈夫ですか?」
リーヴェ「あ……すまない。とにかく急がないと」
ラソン「わかった。無理はするなよ」
無理するくらいなら、ちゃんと言ってくれと釘を射す。
魔物が再び現れる前に、一行は王都へ向けて歩き始めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 暗黒人】
暗黒界に住むとされる人々の総称。伝承に語られる異形の姿をした人が殆どで最も種族が多い。
身体の成長が早く1年間で2つ歳をとる。負の活力を吸収することで個体によっては若さを保ち、半永久的に生き続ける事が可能。身体能力が向上するなどの効果が一般的だ。
平均的な寿命は200歳くらいで、4つの人類の中で最も身体能力が高い。個体差はあるが少量であれば負の活力を体内消化できるため、他の人類よりも負への抵抗力が強いとされている。
平常時から人の姿をしているものの角や尻尾があり、中には獣らしい別の姿を持つものもいるいう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード38 日々の学習】
野営時の自由時間、リーヴェは端の方で集まっている3人の様子が気になり声をかけた。3人と言うのは、ラソン、セレーネ、クローデリアだ。リジェネは灯りの傍でペンを片手に書物を開いている。
リーヴェ「3人とも、何をしてるんだ?」
クローデリア「あ、リーヴェさん。今お2人に祖国の音楽や伝承を教えて頂いているのですわ~」
リーヴェ「それは今後の作曲に使うのか」
クローデリア「ええ、こんな機会はなかなかありませんもの~」
確かに世界や文化、種族の異なる面々が勢揃いする機会は珍しいだろう。ましてや今は一緒に旅をしている。話を聞くには絶好の状況だ。
クローデリアは中断していたセレーネの踊りを再会するようお願いした。彼女が自分の知っている範囲で踊りを披露している。村で祭りのときに踊るものらしかった。見事な足さばきだ。
セレーネ「どうかな? あんまり上手く踊れなかったけど」
クローデリア「いいえ、とってもお上手でしたわぁ」
ラソン「そうそう、オレより断然上手いぜ」
リーヴェ「ラソンは踊るのは苦手か」
ラソン「ンまぁ、音楽方面はちょっとな……」
あんまり楽しく話すので、書き物をしていたリジェネも気になって近寄ってくる。
2人が揃ったタイミングを見計らってか、クローデリアはリーヴェ達にも天空界の音楽や伝承を教えて欲しいと頼んだ。リジェネが苦虫を噛み潰したような渋い顔をする。
リジェネ「ええっと、踊りは僕にはちょっと……そちらは姉さんの方に聞いて下さい」
セレーネ「え、リーヴェは踊り得意なの?」
リーヴェ「あ、いやそのっ」
リーヴェの顔がやや赤くなり見るからに戸惑う。クローデリアは嬉しそうに手を合わせる。
クローデリア「まあ、是非教えてくださいなぁ」
リーヴェ「い、いや……それは、ちょっと遠慮させて欲しいというか」
リーヴェの様子に疑問を感じた面々が、リジェネに「本当に踊れるのか」と確認した。リジェネは気合いっぱいの表情で断言する。
リジェネ「もちろんです! 姉さん、儀式でしっかり踊っていたじゃないですか」
リーヴェ「あれは神楽や剣舞だろ!! 神聖な儀式でやるものであって……」
リーヴェ(こんな場所でやれる訳がないじゃないかっ)
それに、儀式ではしっかりやるけど恥ずかしい事に変わりないんだよな。
仲間達は、初めて知った事実に関心する。儀式でする踊りってどんな感じだと問われ、リーヴェは「かなりの重労働」だと答えた。しっくり来ていない様子のラソン達。ああ、そうか。
リーヴェ「儀式で着る衣装、結構重いんだ。姿勢を維持するのにも体力を使うし」
セレーネ「そうなの? 踊りだから疲れはするだろうけど」
ラソン「オレの国でも、神事で着る服は見た目から暑そうだもんなぁ」
リーヴェ「ほう、興味あるな」
リーヴェがラソンの話に興味をそそられ、話が反れそうだったのをクローデリアが慌てて止めた。神聖なものなら仕方ないと諦めつつも、話だけでも聞かせて欲しいと懇願する。
別に話くらいだったら問題ないので、他の皆にも理解して貰えるよう丁寧に解説した。神楽は無理だが、剣舞くらいなら教えても良いかもしれない。あくまで大丈夫な範囲でだが……。
リーヴェ「ところで、勉強はいいのかリジェネ」
リジェネ「うわっ、いけない! ちゃんとやっておかないと兄さん達に叱られる」
リーヴェ「私も、たまには一緒にやるか」
いつか会った時に叱られるのは嫌だ、とリジェネは大騒ぎする。
いつもは1人でこっそりやっているが、互いに教え合いながらやる勉強もいい。ラソンも便乗して、その日は勉強会になった。やっぱり彼もこっそりやっているのだろうな。
セレーネとクローデリアは互いに文化の話などで盛り上がり、各々が知らない事を埋める大切な時間となるのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リーヴェ達はとうとう王都グランデールに辿り着く。道中は何度か雨に降られはしたが、それでも順調な足取りで来ることができた。
魔物との戦闘は地震の事と極力避けていた事で少なく済み、レベルの上がった仲間はいない。
王都グランデールは、空中に張り巡らせた水路が特徴的で華やかな色合いが綺麗な町並みだ。各所に石像が置かれ、水路を制御する青いマナ結晶の玉が柔らかい光を放っている。
大通り以外は狭い路地が多くて入り組んでおり、首都ラ・パルタ以上に迷いそうだ。狭い路地に限って目印になり得る絵の類はまったくない。
町の人々の様子は優雅なもので、ドレス風の衣装を着こんだ女性や紳士服に身を包んだ男性。大通りでも慌ただしく走り回る人は少ない。
セレーネ「やっと着いたぁ~」
リジェネ「わっ、ここでも水が宙に浮いてますよ!」
クローデリア「本当、泳ぎ甲斐がありそうですぅ」
ラソン「はは、今は泳ぐのはなしにしてくれよ。まずは王宮に行かねーと」
リーヴェ「そうだな。王への謁見の申し込みをしてこよう」
一行はまず、リヴィエール王への謁見を申し込むために「アイオラス宮殿」に向かった。
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うーん、サブタイトルを考えるのも楽じゃないですね。
ちょっとズレているかもしれませんが多めに見て下さい。




