第73話 開示される情報
翌朝、リーヴェ達は警察に面接を求め病院に来ていた。ダメもとで申し出た所、短時間なら許可すると言われたのだ。
見張りの警察官が扉の前に控えている個室に案内され、一行は意識が戻ったばかりのホッヴォ郷と対面する。初めて会った時と比べ、幾らか柔らかい印象を受けた。姿も地上人に近い感じに戻っている。
リーヴェは挨拶をして、自分達の事を覚えているか確認した。彼女は静かに肯定する。彼女の目元が少し腫れているようだ。
リーヴェ「単刀直入に聞くが、貴方達の目的は何なんだ」
ホッヴォ郷「あんまり仲間を売るような真似はしたくないけど……」
ホッヴォ郷は思案し、躊躇いがちに言葉を続けた。
ホッヴォ郷「私もすべてを把握している訳ではないけど、目的は負の活力を大量に収集する事なの」
リーヴェ「負の活力を収集……何のためにそんな事を」
リジェネ「負の活力は危険性のあるモノです。それを集めるなんて普通じゃありません」
リーヴェは顔を向けて頷き、再びホッヴォ郷に視線を向ける。場が静かになるのを待ってから会話を再開した。
ホッヴォ郷「あまり知られていない事だけど、私達は他の世界の人よりも身体の成長が早いのよ」
ラソン「身体の成長が早い? どんな感じにだ」
ホッヴォ郷「簡単に言ってしまえば天空人と逆の発想ね。私達は1年間で2歳、歳をとるわ」
私は24歳だから、生まれたのは12年前になると具体的に教えてくれる。でもそれだけじゃないの、と更に続けた。
ホッヴォ郷「私達は負の活力を一定以上摂取すると寿命が延びる。活力を一定以上取り込み続ければ、半永久的に生きていけるのよ」
暗黒人は、負の活力の摂取量に応じて恩恵を得るという。少量ならば一時的な能力の向上で、コレは戦闘に使う事もある。ただし悪影響を避けるために頻繁に使う事は避けていた。
能力が上がる以上の量を一度に摂取する事で、彼らは半永久的な生命力を得るのである。
セレーネ「でも危険なモノなのよ。吸収なんてして平気なの?」
ホッヴォ郷「私達の身体には、負の活力を消化して自分のエネルギーに変える仕組みが備わっているの」
リジェネ「凄い……まるで浄化みたいですね」
リーヴェ「っ!? だから『均衡を守る者』と言っていたのか」
ホッヴォ郷「何? なんの事?」
眉根を寄せる彼女に、リーヴェは簡単な説明をする。自分が御子と呼ばれ、マナから情報を得られる力があると。
リーヴェは暗黒人の存在がある事で、世界に負の活力が溢れかえらなかったのを知った。いくら御子が浄化していたからと言っても、それはあくまで神樹の周辺に対してだ。どこかで漏れていてもおかしくはない。
御子が見落としていた僅かな負の影響は彼らが日常的に相殺していたのだろう。
ホッヴォ郷「貴方も大変なのね……。私も手伝ってあげたいけど無理そうだわ」
リーヴェ「ありがとう。でも今は自分の事を考えてくれ」
リジェネ「そうですよ。これから大変なんですら」
ホッヴォ郷「ええ、いつかまた会いましょう」
警官「皆さん、そろそろお時間です」
リーヴェ「わかりました」
リーヴェ達は警官に促されて病室を後にした。
病院を出たリーヴェ達は、手頃な場所に移動してホッヴォ郷から聞いた情報を整理する。
クローデリア「あんまり話せませんでしたわね~」
リーヴェ「だが暗黒人について少しは知ることができた」
ラソン「奴らは力を求めて負の活力を集めてるって事か?」
リジェネ「そうだとしたら、いったい何のために……」
彼らた力を求める理由はまだ判明しなかったが、ここから想像できる事が1つあった。
それは今後も暗黒人絡みの事件に遭遇する可能性がある事だ。今回のような戦いは二度とごめんだと思うが、こればかりはどうしようもない。
ともかく、コロでの用事は済んだ。リーヴェ達は早速準備を整えて王都に向けて出立することにする。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
???「彼女は失敗しましたか、まあ十分なモルモットは手にできましたし良いでしょう」
???「問題は小悪魔ちゃんのほうだね」
???「ふむ、そちらの処分はもう少し検討しましょう」
???「保留と言う事かい。なら、ボクは陛下とアルフレド郷に報告しておこうか」
???「今度は寄り道せずにきっちりと頼みますぞ」
――カツカツと靴音が響く。
???「やれやれ……さて、ワタシも最終準備に取り掛かるとしようか」
???(まったく、問題行動の多い連中ばかりで困る……)
香水の都コロを出立した一行は王都グランデールを目指した。
度々魔物と遭遇しながらも、警察が検問を敷いている橋に到着する。
警官「はい、次の方。荷物の検品といくつかの質問にお答えて」
リーヴェ「あの、何かあったんですか?」
警官「ムーナムの宝石強盗が未だに逃走中なのです。捜査にご協力ください」
リジェネ「まだ捕まってなかったんですね……」
ラソン「仕方ねぇ、しっかり見て貰おうぜ」
リーヴェ「ああ」
警官の指示に従って検査を受け、無事に問題なしと判断され「通行許可証」を発行して貰う。往復の事も考え、警察側の仕事を調整するために発行している物だ。
通行許可証は、警察側が持つ調書を照らし合わせる際に用いる品。奥では調書の控え(コピー)を写し書きしている人もいた。大変な作業だな。
一度調べた人を何度も取り調べるのはなかなかに大変である。余程の不審点がない限り、検査を簡略できるようにという処置だ。これを持っていれば、次に通った時にある程度省略することができる。
リーヴェは貴重品「通行許可証」を入手した。
くれぐれも失くさないように、と念を押されて一行は橋を渡る。
セレーネ「何とか無事に渡れたわね」
リーヴェ「彼らも大変だったな」
ラソン「検問を見た時は、渡れねーんじゃと少し焦ったけど」
リジェネ「本当に渡れて良かったです」
クローデリア「さぁ、張り切って行きましょう~」
歩みを勧めながら、検問でのちょっとした騒動に話を膨らませる。騒動と言っても大した事ではない。
警官の取り調べ時に、リジェネがカナフシルトを呼んで一緒に検査を受けた事だ。
セレーネ「警察の人、めっちゃ驚いてたよね」
クローデリア「派手に転んでましたけど、お尻は大丈夫だったかしら~」
ラソン「確かに凄い驚きっぷりだったよな」
リジェネ「も~う、皆さん。僕は凄くヒヤッとしたんですよ!」
カナフ「ピィ~」
リジェネの声に上空の白龍が同感した。当事者からしたら、いろいろと不安になるか。
リーヴェ「こっちでは龍は珍しいんだ。仕方ないだろ」
リジェネ「そうですよ、笑い事じゃないです」
ラソン「でもよ……」
セレーネ「うんうん」
ラソンとセレーネは未だに笑い声をあげている。もう、この2人ときたら。
笑い事ではないのに、思わず笑ってしまう彼らを嗜めながら一行の旅路は続いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード37 憧れの奥義③】
何度目かの特訓をしていたラソン達は行き詰まっていた。
ラソン「全然上手くいかねー」
セレーネ「ホント、やりかった合ってるの?」
ラソン「その筈だけどなぁ」
クルイス『キィ……』
エルピス『ガルルゥ』
タイミングが悪いのか、動きが悪いのか、それとも経験が足りないのか。さすが奥義というだけはある。やっぱり完成系がわからないと難しい。
ラソン「手がかりでもあればな……」
セレーネ「物語には載ってないの」
ラソン「うーん、ないな」
メモ帳を取り出してページをめくる。まさか、メモ帳に物語の内容を要約して書いてあるとは。本体はそこそこ大きな本なので、旅に持って行くには荷物になるからだろう。本体が文庫本くらいの大きさならよかったのにと思う。
それでなくても、魔法の指南書や重要資料らしい本をいくつか持ち歩いているのだ。一冊は軽い紙の束でも、積み重ねれば相当の重量になる。趣味の本までは手が回らない。
幸いラソンにとっては何度も読み返した話で、メモも取ってあるから内容の確認には困らなかった。
物語の内容から得られる情報を、改めて考察しているとクローデリアの声が聞こえて来る。少し離れているから聞き取り辛いが、野営地で曲を披露しているのは明白だ。
自然と耳に入ってくる歌詞に2人は眉を寄せた。ん、コレは。
気になるものを感じ取った2人は一度野営地に戻ることにした。
セレーネ「皆、まだ寝てなかったの」
リジェネ「あ、お帰りなさい。どこへ行ってたんですか?」
ラソン「ああちょっとな」
戻って来た時、歌は中断してしまっている。2人に意識が反れてしまったからだろう。
セレーネ「ねぇ、さっき歌ってたよね」
クローデリア「ええ、2人がまた聞きたいとおっしゃられたので」
ラソン「へぇ、オレ達も聞いていいか」
クローデリア「もちろん。では、最初からでいいのでしょうか?」
リーヴェ「私は構わないぞ」
リジェネ「僕もいいです」
では、とクローデリアは楽杖器を構え曲を奏で始めた。前奏が終わり歌が始まる。
曲は、以前聞いた「勇者の旅路」だ。語り口調が混ざった歌詞の意味は以下の通りである。
ある日、我がもとに旅人訪れる。
闇に堕ち、狂い流離う姫を
止めるべく歩んだ旅路の中で
守り貫く力を求め、旅人は請う。
我に力を!
我ら、精霊の王。旅人に試練を課した。
試練に挑め、さすれば与えんと
旅人は応え、仲間とともに試練を越え行く。
汝に力を、進め! 信ずるままに。
我らの同胞、若き黒の精はともに旅した。
花より生まれし精と、ともに歩む彼らと
黒き精、長い時を共に過ごして思う。
彼らの行く末や如何に。必ずや力になろうと!
旅人の中心、常に輝く男あり。
彼の者の傍らには、風の守護者がつき従う。
男は試練の果て
風と心交わして、風を纏い戦った。
風に愛されし男、精の衣を纏いて舞い踊る。
守るべき者の為に翼を広げ
どこまでも、どこまでも
彼の旅路は続いていく……。
若干表現の差異はあるが、内容はだいたいこんな感じだ。曲調は英雄の冒険らしい、民族的な音の中に力強さを感じさせるもの。
やっぱり、ラソンの知る英雄の物語に近いものを感じる。同一人物を語っている可能性すら考えられる気がした。もしも、そうだとしたら――。
ラソン「ふーん……精霊の試練か」
リーヴェ「どうかしたのか?」
ラソン「ああいや、何でもねぇよ」
確証がない。だが、一応聞いてみないとな。
ラソン「クローデリア、その歌って実際の話か?」
クローデリア「どうでしょう~。長や友人から聞いた話をもとに作ったものですからぁ」
彼らが実際にあった話をしたかどうかはわからない。暇つぶしに作った創造物の可能性だってある。彼女自身、そこまで細かく意識はしていなかった。ただ歌にしたら面白そうだな、と思っただけだ。
クローデリア「あれぇ、でも友人が昔……」
セレーネ「やっぱり何か知ってるの」
クローデリア「いいえ、よく思い出せません」
ガックリと肩を落とす2人。ダメだこりゃ、話にならなそうだ。
けれど、まだ知る方法はある気がする。ラソン達は僅かに希望が見えて来た気がしたのであった。
細かい所がまだ不安ですが、気づき次第修正していきます。
歌については、すみません。著者には曲にするのは難しいです……皆さんの中で曲にしてあげて下さい。大まかな意味・イメージだけを伝えて、皆さんに丸投げすることをお許しください。




