第71話 サリナ戦、決着
セレーネ「助けるって相手は敵よ!?」
リジェネ「それにどうするんですか? ……まさか」
リーヴェ「浄化を試してみるつもりだ」
敵との距離を測りながら、対処法を相談する一行。
まだ大きな動きを見せず呻いているホッヴォ郷。彼女の姿にも変化があり、裾から覗いていた足には鱗。両腕からは短い羽毛が生え、同じく髪や首筋の毛も羽毛に似た形状に変わっていた。目元にもうっすらと鱗模様が浮かび上がっている。
人魚との最も大きな違いは、下半身の尾ヒレだろうか。人魚形態になる水棲人種は変化後に現れる尾ヒレは1つだけ。それに対し、海蛇人種は二股で外見としては足に鱗やヒレがついた感じだった。
クロ―デリア「まぁ、彼女は海蛇人種でしたのねぇ」
顔の模様は今の彼女の状態故だが、大まかな容姿の変化は海蛇人種の本来の姿だ。
ここまでの容姿を見ればわかる通り、海蛇人種は水中で活動しつつも住処自体は岩場といった種族である。そのため、下半身が水棲系でありながら上半身は鳥に似た体毛を持つ人型だった。
まあ、今となっては町を築いて普通の人々と同じように暮らしている。暗黒人全てに言える事だが、あくまで種として生まれたばかりの頃の話だ。
敵の出方を覗うリーヴェ達。リーヴェ以外の面々も、相対する敵の様子が砂漠の時と酷似している事には気づいている。けど、浄化をするという事は。
もたついている間に、状態が安定したらしい敵が奇声を上げて突進してくる。全員が散り散りに回避。
セレーネ「ちょっと、何であんなにピンピンしてるのよ」
確かに大分ダメージを与えたという手ごたえがあった。へばっている様子も見せていたじゃないか。セレーネは思わず不満を漏らしている。
リジェネ「いつの間にか回復している?」
クロ―デリア「どうやら、治癒しただけではないようですわ~」
謎のドーピングでHPが中回復しただけでなく、HPの最大値や防御力、俊敏力が上昇していたのだ。強者を感じさせる気配を放っているだけはあった。
リーヴェの耳に、彼女を助けろと訴えかけてくる声が何度も届く。マナの言葉だけじゃない。
リーヴェ(なぜだろう……彼らを死なせてしまってはいけない気がする)
別に確信がある訳でなかったが、自分の中の何かが確かにそう感じたのだ。
リーヴェ「マナの言葉も気になるし、敵だからと見過ごせない。皆頼む!」
応戦しながら仲間に再度、協力要請した。地下へ来る前に話は聞いていたが、それが今という事なのか?
正直に言って、強化された敵を相手に厳しい内容だが誰だって殺生はしたくない。難しいだけで、不可能ではないのなら試してみる価値はある。
セレーネ「上手くできるか分かんないけど、やるだけやってみるわ」
リジェネ「厳しい戦いになりそうですね」
クロ―デリア「わたくしも負けませんわよぉ」
リーヴェ「ありがとう……援護を任せた」
全員「了解」
やっと全員の気持ちが重なった。ここからが正念場だ。
敵は野生に帰ったような雄たけびを上げながらスキルも使ってくる。戦闘本能が勝っている状態でもスキルは変わらず使えるようだ。ただ、戦闘時の行動はより攻撃的に変化していた。
音波を飛ばす通常攻撃ですらも威力を増している。状態異常の効果も強くなっているような。
リジェネ「ぐっ、また身体に痺れが……」
リーヴェ「リカバリー」
リジェネ「ありがとうございます」
セレーネ「正面からまともに受けちゃダメ。上手く回り込んで!」
リジェネ「はいっ」
クロ―デリアが適宜バフをかけるのに合わせ、敵の背後や側面に回り込む形で攻撃を加えていく。今の状況とメンバーで正面から打ち合うには無理がある。4人にはダメージを抑える手段が少ない。
敵のステータスが大幅に盛られたせいか、こちらのダメージが効いているのか微妙なところだ。効いてるよな?
クロ―デリア「エペ・ルト―アリア」
セレーネ「火十連撃」
リーヴェ「フォトン・ブレット」
リジェネ「乱啄迅」
セレーネ「猛襲連撃衝」
上手く敵の防御を崩し、味方同士の攻撃を繋げていく。自分1人で連撃するのは違った難しさがあった。攻撃が当たるタイミングを微妙にズラして防御態勢を作らせないようにする。
状態異常攻撃に注意を払い、着実にダメージを与え、時間をかけてようやく半分以下まで削っていった。交代でMPの回復も行い攻撃を続ける。
敵の気迫も徐々に弱まってきていた。後少しだ。人々が見守る中、必死の攻防が続き……。
セレーネ「よし、防御を崩した。追撃お願い!」
リーヴェ「任せろ。エトワール・ピラー」
ホッヴォ郷「ああぁぁぁぁっ」
リーヴェ「はぁはぁ、勝った……後は浄化を」
ギリギリの戦いの末、ついにホッヴォ郷を撃破した。リーヴェ達の体力も半分を大きく下回り、かなり危なかった。
リジェネがLv38になった。スキル「サウザンド・トリック」を習得。
クロ―デリアがLv39になった。スキル「ブレス・オブ・ファンタジア」を習得。
地に横たわるホッヴォ郷に警戒しながら近寄る。
気絶している彼女の傍らにリーヴェは膝を折り、そっと手を握って意識を集中させた。白翼のプラチナソードが反応している。
かなりの量を取り込んだ筈だが、体内に感じる負の気配は僅かに少ない。吸収した一部は、戦闘時に見せた力として消化されたようだった。
暗黒人には、負の活力に対する何らかの力が備わっているのかもしれない。でも強化しきれなかった力が彼女を蝕んでいるのが感じ取れる。
リーヴェは更に意識を集中させて浄化を試みた。慎重且つ丁寧に負の影響を取り除いていく。浄化の際、「ごめんなさい」というホッヴォ郷の声を聞いた気がした。
セレーネ「どう、上手くいきそう?」
リーヴェ「…………ふぅ、もう大丈夫だ」
クロ―デリア「本当に彼女は正気に戻ったのでしょうかぁ」
リーヴェ「ああ。もう彼女から嫌な気配は感じない」
リジェネ「確かに、先程までの異様な感じは消えてるみたいですけど」
リーヴェがもう一度力強く頷いた。確信のある様子に全員がほっと胸を撫でおろす。
脅威が鎮まったのを感じ取ったラソンが、人々と一緒に歩み寄ってきた。ラソンの後ろから異形のままの彼女を覗き見て、若者と婦人は小さな悲鳴を上げる。男性が子供達の視界に入らないように動く。
若者「ソイツ、まだ生きてるのか?」
婦人「ええ!? 冗談じゃないわよ。化け物なんか、さっさと始末して頂戴」
セレーネ「ちょっと。子供達の前でなんて事言ってるのよ!」
リーヴェ「そうだ。どんな人でも生きいていい筈だろう!!」
何よりも、彼女を化け物呼ばわりしたことが許せない。見た目が特殊でも、種族が違っても人は人だ。言葉だって通じるし、敵対したとはいえ話だって少しだけした。
必死に戦って浄化までしたのに、殺せなんて言われて黙ってなどいられない。子供の前で物騒な単語を口走らないよう気を使い、リーヴェ達が抗議しようとしたまさにその時――。
クライス『キィー!』
ラソン「っ、クライス」
続いて近づいてくる複数の足音。
騒々しい靴音を響かせ、上からロープが垂れ下がり武装した警官達が降りてくる。通路からも別動隊が走ってきてリーヴェ達をまとめて取り囲んだ。
リーヴェ「なんだ?」
セレーネ「ひっ、あたし達別に悪い事なんてしてな……」
警官A「全員動くな。おい、そこに倒れている奴が被疑者か」
男性「ああ」
警官A「よし、被疑者を確保! 被害者達を保護しろ」
警官達「はい」
警官らは未だ気絶しているホッヴォ郷を取り押さえ、手際よく現場の捜査や保護対象の対応などを行っていく。
リーヴェ達は警官に促されるまま連行されて行くのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 ホッヴォ郷・サリナ】
種族 人型・水棲 属性 水 身長 161.2cm 体重 49.7㎏ 弱点 ‐
暗黒界の王に仕える幹部貴族の1人で、クラスは歌姫。海蛇人種。
種族特性「洞察眼」で有効な状態異常やデバフを見抜き、的確に妨害を行って戦い「石化」を多用してくる。サポート寄りのため、攻撃能力はさほど高くない。
短剣を装備しているがコレはスキル用で、通常攻撃は音波による遠距離範囲攻撃だ。スキルのほうも範囲と射程が広いものが多め。特に男性への妨害能力が高いぞ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
香水の都コロの街中にある警察署にて、一行は個室で事情聴取を受けていた。時刻はそろそろ夜明けになる頃だ。探索、戦闘、事情聴取でいつの間にかこんな時間になっていたのだ。
当然、悪い事はしていないと思うので堂々と正直に答えていく。
警官「ご協力ありがとうございました」
リーヴェ「はい。では失礼します」
一通りの聴取を済ませ、リーヴェは警官に会釈をしてから退出。署内の廊下を歩いて出口へ向かった先、出入り口付近の広間に仲間の姿を見つけた。自分が一番最後だったか。
疲れ切った様子の皆も、リーヴェに気づいて各々に返事をしている。
ラソン「お疲れ」
リジェネ「今日はいろいろあり過ぎて疲れました」
セレーネ「と言っても、もう今日じゃないけどねぇ」
リーヴェ「皆もお疲れ様」
ラソン「おーぅ」
力のない声音。一行は手続きを済ませて警察署を後にし、まっすぐ宿屋を目指した。時期に日が昇る時間帯だが構うものか。どの道明るくはならないのだ、ゆっくり休ませて貰うぞ。
足を引きずるように宿屋へたどり着いたリーヴェ達は、部屋に入るなり寝具に勢いよくダイブするのであった。
その日の夕刻。リーヴェは人の気配を感じた気がして目を覚ます。
寝具の上で身体を起こし、周囲に目を向けて誰もいない事に首を傾げた。気のせい、だったのか?
そんな彼女の背後にひっそりと佇む黒い影が耳元に唇を寄せ囁く。
???「ねぇ、貴女はいつまでイイ子でいる気なの?」
リーヴェ「っ!! 誰だ」
リーヴェは肩をビクつかせて振り返る。しかし誰もいない。幻聴かと思う彼女を他所に、影はまた背後へ回りほくそ笑んだ。聞こえる声は若い女性のモノで、何となく既視感を感じた。
でも、ピンとはこない。自分の中で何かが否定、拒絶している。記憶の端を揺さぶってくる声に不気味さを感じて身体が震えた。無意識に声の主を恐れているのかもしれない。
どこにいるのか気になるのに、見つけたくはない、相対したくはないと願う自分がいた。
???「そう……それでもイイわ。でも、忘れる事なんてできはしない」
――黒の再来はもはや必然。必ず訪れる……逃れる事はできないのだから。




