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第70話 狂乱

 リーヴェ達が戦闘している最中。身体が動くようになったラソンは、他の人々が戦闘に巻き込まれないように先導していた。人数は5人前後で、道具を使って状態異常を解除してある。思っていたよりは人数が少ない。

 人々を連れ、妖精石の反応を頼りにクライスの元へたどり着く。そっと労わるように抱き上げ、ありがとう、よく頑張ったと言いながら背を撫でる。クライスは弱弱しく返事をして石の中に戻った。


男性「あの、大丈夫なのかい? 君の妖精」

ラソン「しばらくは動けないが、一応はな」

婦人「ちょっとちょっと、今のうちに逃げられないの」

若者「そ、そうだ。こんな所にいたら俺達まで巻き添えを食っちまう」

ラソン「それは……」


 確かに彼らを安全な場所へ避難させるのは1つの手だ。

 しかし、今のラソンはとても戦える状態ではない。どっちかと言えばクライスがだが、妖精の力を借りられなければできない事も格段に増える。


 如実に表れるのはスキルだろう。属性スキルはもちろんの事、魔法に近い現象を起こす技はほぼ使えないと言っていい。使える技などが制限された状態で、力量が未知数もしくは上の敵相手に戦うのは危険だ。戦闘にも出遅れてしまったし足で纏いにはなりたくない。

 クライスが無理をする可能性の高い場面を、自ら作りに行く訳にもいかなかった。相棒が危機に瀕すれば、妖精は無茶してでも助けようとしてしまうだろう。それは、人々の避難誘導でも言える。


ラソン(万全でない状態のオレに、彼らを安全に送り届けられるか?)

ラソン「………………」


 賛成派と反対派、中立の3勢力に分裂して言い合う人々を他所にラソンは考えていた。ちょっと騒がしいな。

 護衛するにしても、彼らがどの程度自衛ができるのかも定かではない。動ける度合いも知らない人物を、しかも複数連れ歩いて魔物の徘徊する場所を移動するは……やはり無理だ。


若者「何でもいいから早く助けてくれ」

男性「待つんだ。1人で行くのは危険すぎる!」

婦人「ここにいるほうが危険よ」

若者「そうだ、あんなオッカナイ連中がいる所に長いができるかっ」

少女「うわぁぁーーん」

少年「早く逃げようよ~」

ラソン「…………っ」


 考えている端でこうも騒がれては集中できない。というか勝手すぎるぞコイツら。いや、彼らは不安なだけ、落ち着くんだ。でも、もうちょっと静かにして欲しい。

 ラソンがイラっとする自分を静めながら、流れ弾から人々を守り、迷い出た魔物を撃退しつつ思案を続けた。

 子供達はともかく、彼よりもずっと年上の人々の発言と行動が奔放過ぎる。満足に戦えないラソンに護衛されているのに、若者と婦人は今にも飛び出しそうだ。男性が必死に引き留めている。


ラソン(不味いな。騒ぎに気付いて魔物が寄ってくる)

ラソン「皆さん、今は落ち着いて下さい。魔物はオレが何とかしますから別行動は控えて」

若者「なら、早く町へ帰してくれよ!!」

婦人「そうよ。貴方強いんでしょ」

少年「お兄ちゃ~ん、怖いよぉ」

ラソン「大丈夫だ、兄ちゃんが必ず守る。だから、頼むから泣かないでくれ。な?」


 少年がラソンに縋りつく。少女も近くで泣きじゃくるばかりだ。オレだって、できる事ならそうしたいよ。だけど、自分1人でこの人数を先導するのは厳しい。

 ラソンはゆっくり丁寧に説明するが、若者と婦人は錯乱と恐怖で聞く耳を持たなかった。唯一男性がフォローに入ってくれるが何度説明しても効果がない。

 チラッとリーヴェ達に視線を向ける。誰か1人でも、と言う期待を込めたが無理だ。とても頼める状況じゃない。あちらも相当に厳しい状況だった。


ラソン(くそ、下手に救援を求めたら陣形が崩れちまう)

クライス『キキィ……』

ラソン「クライス? え、おい!」

クライス『キキィーッ』


 クライスが再び石から飛び出す。まだダメージが残っていたが、ラソンの置かれている状況に堪えられず助けに入る。

 クライスは相棒に力強い一瞥を向けた後、制止を無視して町のほうへ飛び去って行った。


婦人「ねぇ、あの妖精逃げたわよ」

若者「おいおい冗談じゃねーぞ!」

男性「君達、その辺にして」

婦人「いやよ。家に帰して!」

若者「ああ……もうお終いだぁ」


 尚も言い争う人々に、ラソンの怒りが爆発する。クライスは、ふらつく身体で助けを呼びに行ったんだ。逃げた訳じゃない、オレが不甲斐ないから……それに。


ラソン「いい加減にしろ! 非常事態なんだぞ」

全員「…………」

ラソン「あ……ごめん」


 思わず声を荒げてしまった事に気づき、急に居たたまれなくなった。そんな彼に、男性が歩み寄って肩をぽんっと優しく叩く。

 男性はラソンの肩に手を乗せたまま背後の人々を振り返る。


男性「2人とも、子供に守って貰ってるんだ。我々も落ち着いて行動しよう」


 少なくとも今は、戦える者の指示に従うべきだ。男性は冷静な態度で2人に注意を促す。続いてラソンに、今は君が頼りだと伝えて立ち直らせた。

 気を取り直して、安全に待機できる場所を探して人々を誘導していく。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 リーヴェ達3人は、ホレスト郷のHPを半分近くまで削っていた。嫌らしいタイミングで治癒を繰り返して来るので本当にやっとの思いだ。

 治癒は全体に効果のあるクロ―デリアに任せ、うっかり状態異常にかかってしまった時以外は攻撃に専念するリーヴェ。クロ―デリアも、頻度は低いが攻撃を挟む。


クロ―デリア「アクアスワロー」

ホレスト郷「おおっと……ふぅ、危なかった」

ホレスト郷(いやぁ~、あの精霊人が水精人種で助かったかな)


 特攻ではないと言っても、精霊人の魔法はちょっと遠慮したい。だけど、それよりも厄介なのは。

 ホレスト郷は、暗器を魔力の糸で自在に操り通常攻撃をしてくる。糸はすべての指にはめたリングと繋がっていて、計10本を巧みに駆使していた。


リーヴェ「エルメキア・ランス」

ホレスト郷「わわ、実に嫌な所に撃ってくるねぇ君」

リーヴェ「くっ、また避けられた」


 冷や汗が出るのを隠すホレスト郷。御子の魔法だけには絶対に当たりたくない。彼は寿命が縮む思いで避けまくっていた。


リジェネ「何か……姉さんの時だけ避けかたが凄まじいですね」

クロ―デリア「お顔も怖いですぅ」


 まさに鬼の形相とでも言うべきか。ここまで露骨に避けられると、当たった時のどうなるのかが逆に気になってしまう。何とか当てられないものか。

 リーヴェ達は互いに頷きあい敵を追い込む。何度か外しつつも死角を取れるように動き、タイミングを合わせて魔法を放つ。


 リジェネが囮を務めて、クロ―デリアが支援。2人に意識が向くようにしてからこっそり後ろへ回る。フェイントも用い、試行錯誤を繰り返した。

 そして、何度目かの魔法攻撃で……。


リーヴェ「ここだ。アーンギル・ピロー!」

ホレスト郷「ぎゃあぁぁぁ――」

リジェネ「やった。当たりましたよ」


 アンデット特攻が効いて、敵は大ダメージを負う。

 対人戦、特に暗黒人と戦う際、種族は魔物を区別するものへ置き換える。吸血鬼種の彼は、人型とアンデットの種族を持っている事になるのだ。

 もう1人の彼女は、海蛇人種なので人型と水棲になる。対人相手だと「人型」は絶対に入る種族。


ホレスト郷「ぜぇ、ぜぇ……ちょちょちょっと君達、1人相手に鬼畜過ぎやしないかっ」

リーヴェ「悪いな。手加減できる程の余裕はない」

クロ―デリア「ふふふ~、敵対している相手に鬼畜はないでしょう?」


 息も絶え絶えに話す彼は、浮いているだけでも辛そうだ。

 一気にHPが3分の1にまで減ったホレスト郷は、一行にとって予想外の行動をとってきた。


ホレスト郷「なら、ここは奥の手だね」

リジェネ「何をする気ですか!?」

リーヴェ「皆、気をつけろ」

ホレスト郷「くく……逃げるが勝ちだぁ――!!」


 彼は脱兎のごとく身を翻す。何をしてくるのかと警戒していたリーヴェ達は呆気にとられた。ええー、と叫んでしまいたくなる。

 嘘だろ、まだ戦っている仲間がいるんだぞ。まさか置いていくつもりじゃないだろうな。彼女と撤退を選ぶという事でいいのか。

 しかし、彼のとった行動は至極単純だった。


ホッヴォ郷「ホレスト郷! 何処へ行くつもり」

ホレスト郷「はっはっは、ボクには大事な任務があるのだ。後は頼んだよ」


 矢継ぎ早に叫んで逃走。奥にある魔法陣に向かい、転送と同時に魔法陣を消してしまう。味方の退路を破壊するとか、信じられない光景だった。いやいや、そこまでするのか。


ホッヴォ郷「あんのっ薄情男!!」

セレーネ「仲間を置いて逃げた」

リーヴェ「なんて奴だ」

リジェネ「僕、同情しそうです……」


 離れた所にいるラソンも、「冗談だろ」と言葉を漏らしている。

 1人置き去りにされたホッヴォ郷。追い詰められた彼女は、懐から黒いキューブを取り出して地に叩きつけた。中に圧縮されていた黒い靄が一気に噴き出す。

 咄嗟にリーヴェ達は口元を覆った。毒ガスかもしれない。しかし、この靄は以前にも見たような……そうだ。


リーヴェ(これは、アラビアンサハルに充満していたモノだ)


 だが、圧倒的にこちらの方が濃い。このままでは皆が!!

 リーヴェが剣を握りしめ浄化を試みようと動いた時、黒い靄=負の活力は一点に収束して消えた。ホッヴォ郷が体内に取り込んだのである。


セレーネ「嘘! まるで食べるみたいに吸いこんじゃった」

リジェネ「どうなっちゃんですか?」


 一行の間に動揺が走った。


ホッヴォ郷「フフフフフフ……クハハハッハハ。ぐっ、あああぁぁぁぁ!!」


 その場にいる全員が驚愕する。

 負の活力を吸収し、凶悪なオーラを放ち始めた彼女は……突如として狂い始めたからだ。彼女の中で何かが崩れたかの如く、明らかに様子がおかしい。見るからに彼女の顔から理性の色が消え失せている。

 いったい、彼女の中で何が起きたんだ。でも。


リーヴェ「彼女から感じる気配……これはまるであの時の」

リーヴェ(クルイーク達から感じた嫌な気配と同じだ)


 完全に同じではないが、非常に酷似している。暗黒人も負の影響を受けている?

 とにかく、このままにしておいては危険だ。


リーヴェ「皆! 彼女を助ける為に協力してくれ」


 リーヴェは、未だ動揺している仲間達に向けて声を張り上げた。

 この戦闘、まだ少し続きます。

 疲れるかもしれませんが、どうかお付き合い下さい。

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